「不正のダイヤモンド」理論を活用した島津製作所子会社不正・調査報告書
少し前の話になりますが、2023年2月10日、島津製作所は、同社子会社の島津メディカルシステムズで行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表しました。(2023年2月10日付け「外部調査委員会報告書」)。この週末、当該調査報告書をようやく拝読いたしましたが、なかなか興味深い内容でした。
新聞等でも報じられていた同社の代表的な不正は「熊本県内の5つの医療機関に納入したX線装置の保守点検の際に、電力供給回路に不正に外付けタイマーを取り付け、これを作動させることで、一定期間経過後に意図的にエラーを発生させてX線装置が故障であるかのように装い、保守(補修)部品の交換を有償で行っていた」という、たいへん重大な不正行為です。本件は2017年に最初の内部通報がありましたが、担当執行役員(F前執行役員)の不十分な対応のためにその後も不正が継続し、2022年の内部通報でようやく親会社による社内調査が開始された、という経緯があります。
ここで問題となっている「F前執行役員」の行動については、ぜひ多くの上場会社の役員さんに知ってもらいたいです。不正を知った役員としては、これをそのまま取締役会や親会社に報告してしまうと大事(おおごと)になってしまう、私が現場に忠告して、将来的に不正を止めさせることでなんとかしよう(つまり過去の不正はうやむやにしてしまう)・・・と思うことも多いのではないでしょうか。しかし、そのような対応が現場社員をさらに不幸にしてしまう(さらなる悪質な不正に手を染めることになる)という結果を招来させます。その教訓を本報告書は明らかにしています。
また、本調査報告書では、不正の原因分析として「不正のトライアングル」ではなく「不正のダイヤモンド」を活用している点に特徴があります。私も2018年のJICPAジャーナルの論稿で述べたところですが、「トライアングル」では不正の真因究明(およびこれに基づく再発防止策提言)には不十分な場合があります。本調査報告書では「動機」「機会」「正当化事由」のほかに「実行可能性」のテーマを取り上げて、不正の発生要因を検討している点はとても説得力があります。不正調査に関わる専門家にとっては研修材料になりそうですね(ちなみに「不正のダイヤモンド」理論については、こちらの田中教授のご論稿が参考になりますが、具体的な不正事案に適用された例はあまりなかったかもしれません)。
なお、私がもっとも問題だと考えている「F前執行役員の報告懈怠と中途半端な自助努力がもたらした二次不祥事(証拠の隠ぺい)疑惑」については、どのような再発防止が考えられるのでしょうか。このあたりの原因究明が上記調査報告書の中で深堀りされていればおもしろかったように思いました(なかなか証跡が残らない不正行為だったために、このあたりは「疑惑」のままとせざるを得ず、さらなるツッコミが難しかったのかもしれません)。将来に向けた不正防止が奏功したとしても、過去の不正への清算を抜きにして「2017年の内部通報者」は納得するでしょうか。このあたりは「組織ぐるみの不正」と世間から指摘されてもいたしかたないようにも考えられます。
| 固定リンク
コメント
実行可能性は機会に含んでおいたほうが端的でわかりよいのではないかと考えます。
投稿: JFK | 2023年5月15日 (月) 19時30分