« 内部統制の重要性をあらためて痛感する大成建設・ビル建直し事案 | トップページ | 「不正のダイヤモンド」理論を活用した島津製作所子会社不正・調査報告書 »

2023年4月 7日 (金)

全国の社外取締役(候補者含む)のためにも黒塗り公開を希望-ファミマTOB価格決定事件一審決定の内容

4月3日に「もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案」なるエントリーをアップしておりましたところ、本事案の複数の関係者の方から「講学上の目的であること、当職限りとすることを条件に(つまり、当職が関係当事者への支援をしないということを約束して)」株式買取価格決定申立事件の決定文(黒塗り版)の写しを頂戴いたしました(どうもありがとうございます!<(_ _)>)。

当事者のうちの1社であるRMBキャピタルさんのリリース(時事通信より)からも東京地裁決定の概要は読み取れますが、なにぶん100頁程度の決定文でありまして中身が濃い。まだざっと拝見しただけですが、あの関西スーパー統合差止仮処分事件の神戸地裁決定を読んだとき以来(いや、それ以上かも)の興味深い内容です(東京地裁第8民事部合議ですね)。現役の社外取締役として、これは心して職務を全うしなければと、身の引き締まる思いをあらためて実感しております。

マスキングが多いので若干読みにくいのですが、当時のファミリーマートの社外取締役で構成された特別委員会が、なぜ伊藤忠によるTOBに賛同意見(ただし価格については非推奨意見)を形成するに至ったのか、その経緯が時系列に沿って(20回以上開催された特別委員会を克明に記述して)明らかにされています。各時点において、財務アドバイザーや法務アドバイザーがどのような意見を述べたのか、という点も詳細に記載されており「私も同じ意見を言うだろうな」とか「なるほど、それは説得力があるなぁ(悔しいけど、私は気づかなかった)」とか「それって、社外取締役の確証バイアスを助長する結果にならないか」とか、いろいろつぶやきながら読んでおります。

また、地裁は特別委員会がその役割を果たしていなかったと結論付けて、あらためて裁判所の裁量で公正な価格を判断するとして、詳細に検討のうえTOB価格(2300円)よりも300円高い2600円が公正な価格だと判断しています。

既報のとおり本件は東京高裁に抗告中であり、公正な価格に関する裁判所の最終結論が出ていません。しかし、日本を代表する財務アドバイザー、法務アドバイザー(東京の大手法律事務所等)の意見を聴きつつ、特別委員会が悩みながら(苦しみながら?)意見形成を行った過程は、最終的に公正な価格がどのように決着したとしても、社外取締役の有事対応にとって参考になる内容です。

プロの企業価値算定のプロセス及び結論がたくさん出てくる決定文なので、マスキング処理が必要であることは理解できますし、やむを得ないところかと。ただ、ガバナンス改革によって社外取締役が急増している時代であり、また事業再編に向けたM&A事案が増えている中で、資本市場関係者の予見可能性を高めて、M&Aにまつわる紛争コスト(関係者のレピュテーションリスクも含む)を低減するためにも、なんとか公開はできないものでしょうかね?法律雑誌に掲載される価値は高いと思うのですが・・・(;´・ω・)

今後、当ブログでは(公開されない場合には本事案の関係者の皆様にご迷惑がかからない範囲で)一般論として「このようなケースでは①委員に就任した社外取締役、②特別委員会の答申をもとに取締役会で意見を求められた社外取締役は、どのように振舞えば法的責任を問われないか」という形でご紹介できればと思っております(なお、決定文の中で、某法務アドバイザー(著名な法律事務所)の方が「TOB価格が結論として公正な価格ではないとしても、そこから取締役個人の善管注意義務違反が認められるかどうかは別問題である」とおっしゃっておられますが、その意見は私もまったく同感でございます)。

|

« 内部統制の重要性をあらためて痛感する大成建設・ビル建直し事案 | トップページ | 「不正のダイヤモンド」理論を活用した島津製作所子会社不正・調査報告書 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 内部統制の重要性をあらためて痛感する大成建設・ビル建直し事案 | トップページ | 「不正のダイヤモンド」理論を活用した島津製作所子会社不正・調査報告書 »