第三者委員会-根本原因の解明と企業の「深い闇」
いつもお世話になっている八田進二先生(青山学院大学名誉教授、大原大学院大学教授)から、またまた書籍を頂戴しました。佐藤優氏「国難のインテリジェンス」にて、佐藤氏と八田先生が対談をされていたのですね。「『禊(みそぎ)』のツールとなった第三者委員会再考」と題する対談であります。日本の組織力学を冷徹にみつめる佐藤優氏が、八田先生の「第三者委員会制度に向けた疑念(懐疑心?)」に関心を寄せておられ、八田先生の前著「第三者委員会の欺瞞」を拝読したときと同様、私にとっては耳の痛い内容であります。この対談集の中で、私個人としては菊澤研宗氏(慶應義塾大学教授)との「人間は合理的に行動して失敗する」というテーマの対談録もたいへん興味深いところでして、ぜひおすすめの一冊です。
さて、第三者委員会だけでなく、会社から依頼を受けて社内不正の調査を行う中でも、不祥事発生の根本原因とか、真因というものを深く探求することが求められます。なにゆえに社員がやむにやまれず不正に手を染めたのか、その原因をいわゆる「不正のトライアングル」にしたがって解明すると、なかなかキレイに整理できることが多いです。しかし、そのような社員の不正がなぜ長年続いてきたのか、疑惑を知りつつ、なぜ同僚は黙認していたのか、部下から報告を受けたにもかかわらず、なぜ経営陣は徹底した監査をしなかったのか、といった構造的な欠陥については真相究明が深堀りされないままで調査が終わってしまうこともよくあります。
ここで調査委員として「根本原因の解明」に全力を注ぎますと、よくぶつかるのが当該企業が抱える「深い闇」ですね。この「深い闇」に手を突っ込んでここに光を当てようとすると、いろんなところから(今まで経験したこともないような)圧力がかかる。あるときは社長から、あるときは海外親会社のCEOから、あるときはOBから、あるときは監督官庁から、またあるときは取引先から、さらにあるときは従業員組合や特約店組合から・・・。不祥事解明は、別の企業の不正発覚に飛び火したり、日銭を稼ぐ事業部門の日ごろの取引に悪影響を及ぼしたり、国の不作為責任が問われる材料を提供することになったり、社内の人事政策に重大な変更を生じさせたり、その圧力の理由は仮説の域を超えないけれども、次第に判明してきます。
本当は深堀りして、構造的な問題について確信といえるまで証拠をそろえて公表したい(開示したい)と思うのですが、通常はステークホルダーへの説明責任を果たすために調査に与えられた時間は2~3ヶ月でして(フォレンジック部隊をそのまま事件に繋ぎとめておけるのも、費用的にみても3ヶ月が限度かと)、疑惑のままでギリギリのところで手じまいをして妥協せざるを得ない場合が多いのではないでしょうか。私個人としては、ここに「第三者委員会の限界」があるように感じています。ただ、それで本当に良いのか・・・悩むこともありますね。企業にはここまでビジネスを発展させてきた背景に、かならず「触れることができない(望ましくない)深い闇」を持っているはずです。社会で問題視される不正・不祥事はこのような深い闇と何らかの関係をもって社内に潜んでいたのであり、これを晒して「にっちもさっちもいかない状態」にしてしまうのが第三者委員会の役割かと言われると、逡巡してしまうのですね。
「再発防止策の提言」など、調査委員は偉そうに語るわけですが、実はこのような「深い闇」を断ち切らなければ不正・不祥事は(形を変えて)再発することは間違いないですね(笑)。いや、このように考えていること自体が「第三者委員会の深い闇」だったりします。第三者委員会の委員等を本気でやってみるとおわかりになると思いますが「本当に難しい仕事だなあ」と、上記八田先生と佐藤氏との対談を読みながら黙考しておりました。
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