最近の監査役員に関する話題(備忘録程度ですが・・・)
ブログを更新する時間があれば書こうと思っておりました話題をいくつか備忘録として書き留めておきます。どれも関心のあるテーマです。2013年に始まったコーポレートガバナンス改革の流れの中で、「監査」と「監督」の境界線があいまいになり、機関投資家も「監督」には興味があるのに「監査」には興味を示しません(常勤の監査役員を置く日本企業においては、資本コストの判断やサステナビリティ経営への本気度を評価するにあたっては「監督」よりも「監査」のほうが可視化できるのに-つまり効率的に評価できるのに-、そこに気づかない投資家が多いのは残念です)。いかにして「監査役員の監査環境を構築していくか」という問題は切実です。
1 常勤監査役の解任のための臨時株主総会の開催
東証スタンダードに上場する某社において、常勤監査役解任議案を付議案件とする臨時株主総会の開催に関するお知らせがリリースされております(5月9日付け)。ふつうは経営陣と意見が合わない監査役さんは「一身上の都合により辞任」という方向で退任されるケースが多いと思いますが、これは常勤監査役さんが辞任はできないという意思をお持ちなのでしょうか。招集通知に添付される参考書類には解任の対象とされる監査役の意見や他の社外監査役さんの意見が表明される機会がありますので、そちらに関心が向きますね。なお、以前当ブログでもとりあげた某監査役の方(株主提案で監査役解任議案が出された)は、みずからホームページを立ち上げて解任理由への反論を株主向けに開示しておられました。
ところで会社側が解任理由で述べておられるような事情があるとすると、そもそも「常勤性」は解消しないのでしょうか。監査役3名の決議によって「常勤監査役」を解職できますので(ともかく別の監査役さんを常勤に選定する)、そちらのほうはなぜしないのでしょうか。
2 粉飾決算で上場会社に「株価下落」分の賠償責任認容(堺支部)
5月16日付け朝日新聞ニュースによりますと、上場前から(中国子会社にて)粉飾が行われていた某上場会社(東証プライム)に対して、一般株主が粉飾発覚によって株価が下落したことによる損害の賠償を求めていた訴訟で、大阪地裁堺支部は一部会社の賠償責任を認めた、とのこと。なお、監査法人や主幹事証券会社の責任は認めなかったようですが、これを不服として株主側は控訴する意向のようです。
本案件は内部通報への対応が問題とされた案件でもあり、また2019年に詳細な調査委員会報告書が公表されていることから、私も当時報告書を読んだのですが、「監査役(監査役会)は何をしていたのか・・・」という点が報告書からはよくわかりませんでした。監査法人や主幹事証券会社の責任が否定されたことと、当時の監査役会(現在は監査等委員会設置会社)の行動との関連性はどうなのか・・・そのあたりはぜひとも判決文を確認しておきたいところです(おそらく法律雑誌に掲載されるでしょう)。
3 会計監査人による非保証業務の同時提供に関する監査役会・監査等委員会の取扱い
公認会計士の倫理規則の改訂により、非保証業務の同時提供に関する独立性が強化されたことはご承知のとおりですが、監査人が非保証業務を提供するにあたっては(監査法人からの事前説明を経て)個別承認もしくは包括承認という形で監査役会が同意をする実務が始まりました。私が支援している会社では、監査役員間で真摯に協議を行い、「原則、同時提供は禁止。ただし、同時提供が必要である理由および監査役が(監査法人による)同時提供によって監査人の独立性を阻害することがないと確信できる合理的な理由がある場合にかぎり、例外的に同時提供ができる」という取扱い要領を作り、監査法人側の了解を得ました。また、経営陣にも「監査人から同時提供の申出があったとしても、まずは非保証業務は別の監査法人を探すように」と伝えました。
会計監査人の利益相反問題への対処ということで、監査の結果および方法の相当性を審査する監査役員にとっては重大問題です。ただ、これを重大問題と意識しておられる監査役、監査等委員の方が意外と少ないのではないでしょうか。
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コメント
常勤監査役解任、5/9付ではないでしょうか?
そうだとすると3/28に新たに就任したばかり、一か月しか経っていない感じですね……
具体的な内容が気になるところです。
投稿: 紡 | 2023年5月19日 (金) 07時48分
紡さん、ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。これまで同社の内部監査部門に長く勤めておられた方だけに、なぜ短期間で解任議案が出される事態となったのか、とても気になりますね。
投稿: toshi | 2023年5月19日 (金) 09時39分
機関投資家が「監査」側に関心を示さないのは、いまだ多数を占める日本の監査役制度への理解の浅さもあるような気がしています。
また、監査役(特に社内)が「監査」と「監督」の違いをどこまで理解しているのか疑問に感じることがこれまで何度かありました。内部から監査役になった方は社内での実務経験が豊富な方々で、その経歴が影響してか、誤解を恐れずにいえば業務執行に介入するような、監査/監督の境界線を自ら曖昧にするような言動も少なくないように感じます。
(これまで東証一部/プライム企業3社の株式実務を経験しての、個人感想です)
監査役自らが、監査と監督の境界線を今一度明確にし、いい意味で存在感を示すことが、監査の実効性をさらに高め、機関投資家の関心を引くことに資するのではないかと思う次第です。
投稿: てふ | 2023年5月19日 (金) 09時41分
てふさん、ご意見ありがとうございます。いやいや、まったく同感です!神田秀樹先生の名著「会社法入門」でも、「業務監査制度のゆくえ」(第3版109頁)で監査と監督のあいまいさが述べられていますが、ここを個別会社で明確にしていくのが監査役(取締役監査等委員)の重要な仕事だと思うのです。これによって当該会社における監査役としての存在意義が明確になるのではないか・・・と思っているところです。そのことが機関投資家の関心を引くことになればなによりですね。
投稿: toshi | 2023年5月19日 (金) 12時07分
監査役解任の株主総会の件、招集通知が公開されていた(6/15)ことに気づいたので読んできました。
監査に対する温度感が合わない状態であったのかな、という雰囲気は感じるところですが、なんというか一足飛びに進めようとしている感があるようにも思えてうーんという気持ちです。
ご本人が監査役就任の4か月前まで内部通報を担当されていたということで、そこでご本人に対する内部通報事例がなくてもそれは威圧的言動がなかった傍証にするにはちょっとなあ、という感想も持ちました。
投稿: 紡 | 2023年6月22日 (木) 19時30分