空港施設社の社長再任否決-なぜ大株主は反対票を投じたのか?
今年の6月総会において(自分の関わった総会以外で)一番驚いたのは29日に開催された空港施設社(東証プライム)の株主総会です。既報のとおり、代表取締役社長N氏のみが反対多数で再任否決(取締役に選任されなかった)とのこと。日経ニュースによると大株主であるANAも(N社長の出身母体である)JALもN氏の取締役再任に反対票を投じた(第3位株主である日本政策投資銀行は賛成票を投じた)そうで、こちらのTBSニュースで総会に参加された一般株主のご発言のとおり「いったい何が起きたのか?」というのが本音でしょう。
大株主であるANA社、JAL社いずれも反対票を投じたことの理由(JAL社については投票結果についても非開示)は述べていませんが、ふつうに考えれば(上記TBSニュースで八田先生が語っているとおり)国交省人事不当介入事件が大きく影響しているように推測されます。これも推測ですが、日本の航空業界においては国交省出身の方が多数再就職しており(たとえばこちらの2009年の「天下りリスト」)、ANAもJALも国交省とは人事面でも良好な信頼関係を維持したい、しかるに空港施設社の前社長さんが国交省不当人事介入問題の解決を主導していたことから、なんとか元の関係に戻したいということではないかと。もちろん私の邪推かもしれませんが、上記八田先生が委員長を務めた(国交省人事介入問題に関する)検証結果報告書では、次の社長さんとして国交省関係者に戻すことについて事前にJALとANAが了承していたとの前社長さんの証言なども記載されていることから、やはり疑惑は否めません。
しかしこの疑惑が真実であるとすれば、もはや上場会社のガバナンスとしてはあり得ないです。国家公務員法違反という「ブラック」もしくは「グレーゾーン」のリスクについて、同社は低減するのか、転嫁するのか、回避するのか、あるいは素直に受容するのか。指名委員会制度も取締役会の監督機能も、監査役制度による適法性監査もすべて機能していないということになり、もはや非公開化を検討すべきではないでしょうか。人事で監督官庁出身者を厚遇しなければ事業が成り立たない(許認可が得られない)とすれば、そのようなビジネスモデル自体が法令違反(国家公務員法違反)の上に成り立っていることになり、到底上場会社としてのコンプライアンスは認められないように思われます。
もちろん会社法上、株主に「どのような理由で議決権を行使したのか」といった説明義務はありません。しかしANAもJALも人事不当介入問題が発覚した際、朝日新聞にも、調査委員会にも「上場会社の人事に介入することなどありえない。人事は空港施設社で判断すべきこと」と回答して国交省OBからの人事案を事前に了承していたとの疑惑を否定していました。それほど否定していた両社が、ではなぜ空港施設社の人事、しかも社長候補者のみ反対票を投じたのか(これは人事への明らかな介入ではないのか)という、誰でもが抱く素朴な疑問には回答すべきではないでしょうか。どのような理由で社長人事について賛否を決定したのか、その判断は株主の自由ではありますが、総会で重要事項を審議すべき情報に大株主と一般株主との間に著しい非対称性(情報格差)があるとすれば、もはや上場会社としての体は成さないと考えます。この決議結果は会社としては前日までにはわかっていたと思いますが、会社がその決議結果を一般株主に説明すらできない状況にあったとすればなおさらと思います。