保秘力は重要な無形資産である-中山譲治氏「私の履歴書」を読んで
すでにお話したとおり、私は6月27日の定時株主総会の終了時をもって大東建託の社外取締役を退任いたします。10年間、取締役を務めましたが(いろいろと厳しい局面もありましたが)本当に面白かった!!(^^)!です。27日は諸事情ございまして(?)、大東建託の総会に出席することができないため、毎年恒例の「株主様から社外役員への質問」にも他の社外役員の方に回答いただく、ということになりそうです(社外役員の皆様、どうかよろしくお願いいたします)。
その10年のうちの6年間、社外取締役をご一緒した庄田隆さん(第一三共元社長兼CEO)の後任の社長さんが、現在「私の履歴書」で登場しておられる中山譲治氏であり、庄田さんも先週から今週にかけて「履歴書」に登場。命運を賭けたインド・ランバクシー社の買収直後に同社品質不正問題が発覚し、米国での医薬品販売の道が完全に閉ざされてやむなく売却に至るまでの経緯は壮絶です。今の第一三共の世界戦略再挑戦は、この品質不正問題に逃げずに真正面から向き合って解決したことが教訓となっているのでしょうね。
ところで、最近は(対外的には)株主との対話を促すための非財務情報を含めた情報開示が促され、また(対内的には)重要情報の共有体制を含めた内部統制が促されているなかで、「何を秘密として保持するか」「誰と秘密を共有するか」といった「感覚」は、経営陣にとって必須のスキル(資質?)だと痛感します。よく企業不正の原因分析で「なぜもっと早く社外役員と情報を共有しなかったのか?組織ぐるみの隠ぺいではないのか?」などと仮説を立てるのですが、そういったことを究明するたびに、この「秘密共有」に関する組織風土や経営者の資質への関心が強まっております。「不都合な真実は社外役員の人たちに知られたくなかった」といった単純な動機ではないのですよね。
巷間、いろいろと議論されているガバナンス改革への対応は経営企画部や外部委託しているコンサルティング会社と相談することになりますが、そもそも会社の命運を賭けた意思決定は「本当に相談できるヒト」としか協議できない。上記第一三共の事案では、それは①中山氏がインドで培った人材ネットワーク(この人との個別交渉に賭ける)、②ランバクシーの役員に入ってもらっていた(日本の著名な)M&Aコンサルタントの方との信頼関係、③ランバクシー社内の役員(インドの高名な財界人ら)と当該M&Aコンサルタントの方との信頼関係の3つが「最後までステークホルダーの利益を守りながら売却を成功させる」という結果を出す大きな要因になっています。
説明責任を果たす、真実を語るということが経営者の誠実性を語るうえで重要な要素であることは間違いありません。しかし、ここぞという場面で他者との信頼関係に基づいて「秘密を守る」ということも誠実性の重要な要素ではないかと。私のように器の小さい人間は、ともすれば「俺って、あのエライ人と秘密を共有しているんだよね。まあ、弁護士だから人前では言えないけど、( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」みたいな言動で自分を大きくみせたいという衝動にかられます。「関西人らしい人間味がある」と言ってしまえばそれまでですが、到底、これでは経営者は務まりませんね( ´艸`)。
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