電力カルテル事案への株主提訴請求-さあ、どうする監査担当役員?
6月7日、日経、朝日が報じるところでは、大手電力4社(中部・関西・九州・中国)が事業者向けの電力供給でカルテルを結んでいた問題で、4社の株主が本日記者会見を開いたそうです。各社株主は、それぞれの監査担当役員に当時の取締役らを会社法423条に基づいて提訴するよう求めました(基本的には損害賠償請求訴訟の提起を求めるようです)。また、各社の監査担当役員が提訴しなければ、8月にも株主代表訴訟を起こす、とのこと。
この問題は、今年3月、公正取引委員会によって4社が顧客獲得を制限するカルテルを結んだと認定したことで大きく報じられることになりました。その結果として、中部電力・九州電力・中国電力の3社には、過去最高の総額1010億円の課徴金納付命令が出されています。すでに報じられているとおり、関西電力はリーニエンシーの適用事例として調査開始前に違反を申告しましたので、行政処分を免れています(たしか課徴金が課されている九州電力についても、公取委の調査に協力したとして課徴金の減額は認められていたかと)。←unknown1さんのご指摘を受けて修正いたしました。
ところで価格カルテルについて公取委の課徴金が課された事例の株主代表訴訟といいますと、昨年3月28日の東京地裁判決があり(世紀東急工業事件-控訴審係属中)、当時の経営トップを含む4名にそれぞれ15億から17億円の賠償責任が認められています。会社法423条責任(役員の会社に対する善管注意義務違反)の根拠としては、会社を名宛人とする独禁法の違反を主導したこと又はこれを黙認していたことが(内部統制構築義務を持ち出すまでもなく)「役員の法令遵守義務違反に該当する」というもの。とりわけ公取委の課徴金についてとくに争わずに会社として自認していることについては「取締役の善管注意義務違反と会社の損害との相当因果関係あり」と判断する根拠とされています。
このほかにも平成25年以降、会社の罰金や課徴金(による会社の損害)と取締役の善管注意義務違反の事実との相当因果関係を認めた裁判例がいくつか出されていますが、このような裁判例が出ている状況において、株主から提訴請求を受けた監査担当役員(監査役、取締役監査等委員、取締役監査委員)の皆様は、どう対応するのでしょうか。株主の要求に応えるのであれば、社長を含む経営陣(元経営陣)と対決する覚悟が必要ですし、また経営陣には問題なし、と判断すれば、今度は監査担当役員自身が株主(最近は海外ファンドも積極的です)から賠償責任を問われる可能性が出てきます。まさに「前門の虎、後門の狼」状態。監査担当役員の覚悟が求められる有事です。
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コメント
お世話になっております。本質的な所ではありませんが、他の会社(中部電力の件では、2020年に小売電気事業を分社化した中部電力ミライズ、九州電力の件では、子会社である小売電気事業者の九電みらいエナジーも違反事業者として名前が上がっています)のうち、課徴金減免制度の適用を受けているのは、九州電力のみ(九電みらいエナジーも申請はしたものの、課徴金算定の基礎となる売上額が存在しなかったため対象とはされなかった)であった筈です。https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_02.pdf
投稿: unknown1 | 2023年6月 8日 (木) 08時05分
ご指摘ありがとうございます。私も公取委のサイトで確認いたしました。本文は修正いたしました。
投稿: toshi | 2023年6月 8日 (木) 09時36分
最近の流れを見ると、提訴請求は仕方ないですし、カルテルを役員が軽視していた、と言われそうですね。特に、電力会社は常にその可能性があったわけですし。
こうした時期こそ、原則に帰って事実確認の確認、つまり徹底調査かなと思います。
第三者委員会ではなく、監査担当役員が調査委員会を外部に委託することが適切で、最も監査担当役員が責任追及を受けない(逆に、きちんと調査しないと監査担当役員の責任が・・・)ことだと思います。
投稿: Kazu | 2023年6月 8日 (木) 11時06分
Kazuさん、コメントありがとうございます。いわゆる「責任調査(判定)委員会による事実認定と、当該事実に基づく法的評価」でしょうね。そうなると、関電の金品受領問題等に関する委員会の件が思い出されますね。詳細は書きませんが、最高裁まで争われた論点がありますので、監査担当役員も委託を受けた委員も、立場をよく弁える必要がありそうです。
投稿: toshi | 2023年6月 8日 (木) 11時20分