会社法上の「大会社」は監査役会設置会社にすべきではないか
前回のエントリー「東証・不祥事予防のプリンシプルとビッグモーター事案への対応」を7月18日にアップしましたが、同日、ビッグモーター社は調査報告書を公表したため、ずいぶんとマスコミの報道も増えました。取締役会設置会社であるにもかかわらず、取締役会が開催されていた形跡はなく、取締役による3か月に1回以上の業務報告義務も果たされていないというのは、かなり驚きました。BM社は会社法上の「大会社」ではありますが、公開会社ではないので監査役会設置会社ではありません。したがって、監査役さんを含めていわゆる「社外役員」を置く必要はないわけですね。BM社の親会社(資産管理会社)のオーナーでもあるBM社の社長さんに絶大な権力が集中しているため、資産管理会社やBM社の監査役さん方も、内部統制監査まで役割を果たすことはできなかったものと思います(ただし会計監査人はいらっしゃるようですから、会社法監査において取締役会の議事録など閲覧しないで大丈夫だったのだろうか・・・という疑問は少々湧きますね)。
BM社の自動車修理部門でどのような不適切行為が行われていたのか、という点は、すでに多くのメディアが伝えているので特にここで申し上げることはございません。ただ、これだけ社会的に大きな影響力を持つ大会社に監査役会を置く必要がない、という会社法上の建付けは、そろそろ改正したほうが良いのではないでしょうか。せめて会社法上の「大会社」に該当する規模の会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)であれば、たとえ公開会社ではなくても監査役会の設置を義務付けるべきであり、そうなるとBM社の場合には社外監査役を2名以上置く必要があります。そうであれば、取締役会の開催や内部統制の基本方針の決議・運用、業務執行取締役による執行報告等が最低限行われるはずですから、BM社としても、もっと早い時点で自浄作用を発揮することができたと考えられます(わずか売上の2%を上げる部門の不祥事だったので知らなかった、という抗弁もたたないはず)。
ところで公開会社以外の大会社にも監査役会を設置すべき、となりますと実際、日本にどれくらいの大会社が存在するのか気になります。現在、監査役会の設置義務がない「会社法上の大会社」はどれくらいの数なのでしょうか?上場会社や有価証券報告書提出会社(金商法上の開示義務のある会社)は4200社くらい、それ以外の「ほぼ公開会社ではないといえる大会社」は推計10,000社程度ということのようですから(たとえばこちらの経産省資料の数値を参考にしています)、日本全国で1万社くらいの大会社を新たに監査役会設置会社とすべき、ということになります。会社法上の「大会社」の規模ですから、外部から社外役員を招へいしたとしても、そのコストくらいは賄えるのではないでしょうか。エンフォースメントとしても、「100万円以下の過料」程度の緩めとなるかもしれませんが、違法状態の放置によって実際に不祥事が発生した場合、社長をはじめ役員に損害賠償責任が認められやすくなる環境を整えることで義務履行の実効性を担保すればよいと考えます。資本金とは異なり「負債200億円以上」という要件は、事業活動においてかなり流動的ですが、一度でも200億円を超えた場合には少なくとも翌年度より4年程度は監査役会を設置しなければならない、といったルールで対応すべきではないかと。
そもそも「大会社」に設置義務のある会計監査人すら設置されていない会社が多い中での法改正にどこまで実効性があるのか、という疑問はありますが、国民による被害回復が困難な事態だけは避けなければならないはず(今回のような事案で10月から施行される改正消費者裁判手続特例法の適用があればよいのですが「支配性」の要件該当性を認めることはハードルが高いと思われます)。最近は社外取締役さんばかりに関心が向けられていますが、「守りのガバナンス」の主役となる社外監査役さんにも少しは光が当てられるような会社法改正にも期待いたします。
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コメント
普通、会計監査では取締役会の議事録提出、要求されますよ。
投稿: Ken | 2023年8月 2日 (水) 14時23分
会社法上の大会社に会計監査人の設置が義務付けられるのは債権者保護のためですから、一応財務状態に問題がないとされる件の会社は機能しなくてもいいということなんでしょうね。調査報告書において会計監査人が何をやっていたか全く言及されていないのは気になりましたが。
かつて岡山のバイオ企業が破綻したときに、会計監査人を設置していないことが問題となりましたね。
投稿: unknown1 | 2023年8月 5日 (土) 09時15分