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2023年8月31日 (木)

BM事案-損保ジャパンは「組織ぐるみの不正」と言われてもしかたないかも・・・

よく「バッドニュース ファースト」と言われ、コンプライアンス経営を実現するためには、現場から経営トップに悪い情報が迅速に届く体制作りが必要との解説を見かけます。しかしバッドニュースを伝えても、経営トップがこれを握りつぶしてしまうともはやブラック企業の仲間入りです。8月30日21時現在の共同通信の特報ですが、

中古車販売大手ビッグモーター(東京)による自動車保険の不正請求問題で、損害保険ジャパンの白川儀一社長がビッグモーターとの取引再開を協議した昨年7月の役員会議の数日前に、不正を否定したビッグモーターの自主調査結果は同社に都合よく改ざんされたものだと部下から報告を受けていたことが30日、分かった。

とのこと。ちなみに「都合よく改ざんされた」という内容は、ビッグモーターの自主調査結果は当初「工場長による不正の指示があった」というものでしたが、その後「ヒューマンエラー」と書き換えられたことを示しています。これまでのニュースでは損保ジャパンの社長さんが不正請求の可能性を認識しつつ・・・とされていましたが(おそらくこちらのニュースなどのトーンからでしょう)(*_*;、もはや不正請求の事実を認識しながら取引を再開した、と断定できそうなニュース内容です。←追記:31日午前1時現在、上記共同通信が伝える事実について他のメディアは追随していませんが、共同通信さんはいったいどこから情報を入手したのでしょうかね?

上記役員会議(取締役会なのか経営会議なのかはわかりませんが)では、社長が取引の再開を促していた、ということなのでもし上記共同通信のニュースが事実だとすれば損保ジャパンさんはかなりヤバいことになりそうです。社長さんはこの事実をお認めになるのでしょうか、それとも不注意にも誤解をしていた、との釈明をされるのでしょうか。ただ、BM社との取引再開によって停止時よりも損保ジャパンさんの売上が10%ほど伸びていたそうなので(こちらの産経ニュース参照)、取引再開はかなり切実な経営問題だったことは間違いなさそうです。

おそらく(損保ジャパンさんの親会社である)SOMPOホールディングスさんは事情を知らなかったものと推測しますが、損保ジャパンさんとしては組織ぐるみ、もしくは経営者関与の不正隠しが行われていたと言われてもしかたないのでは(役員会議に出席されていた社長さん以外の役員の皆様も、結局は取引再開に賛同されていたようですし)。いや、一番おそろしいのは監督官庁に対して故意に虚偽報告を行っていた場合です。これは大問題に発展しそうな予感がします。

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2023年8月30日 (水)

ジャニーズ事務所問題-「ビジネスと人権」に対する日本企業の本気度はいかに?

みなさま、すでにご承知のとおり、株式会社ジャニーズ事務所の設置した外部専門家による再発防止特別チームの調査報告書が公表されました。委員会としての同事務所のガバナンス改善要望や社長辞任要請などへの関心もあるかもしれませんが、ともかく創業者による加害行為が事実として認定されただけでなく、これを隠ぺいした人がいること、見て見ぬふりをした人がいることが報告された以上、「もはや過去のこと」として済まされない(つまり現存する法人の問題として捉える)のでありまして、今後の日本企業の対応に(国連を含め、世界から)注目が集まることになりそうです。日本企業にはサステナビリティ経営に向けた本気度があるのか、単なるウォッシングなのか、世界から試される事態となるわけであり、とても「興味本位」で語ることができる問題ではありません。

放送事業者、通信事業者は、今後ジャニーズ事務所による営利目的事業に関与して収益を上げ続けるのか、それとも関係を解消するのか、かりに今後も継続的に関与するとして、その放送・通信番組に対してスポンサーはつくのか(広告代理店は、どのような正当な理由によって媒介事業を行うのか)。いま「ビジネスと人権」に対して世界的に厳しい目が向けられている中で、日本の企業がどのような対応に出るのか、その様子を現在進行形で検証することになります。おそらく今後の「ビジネスと人権」に対する日本企業の経営判断の先例ともなりうると思います。

JT子会社がロシアで事業を継続して収益を上げていることについて、私個人としてはJT社の反論にはそれなりの理屈が立つと考えていたところ、(思いがけず)さきごろウクライナ政府から「戦争支援企業」として指定を受ける事態となりました。本件については企業の危機管理の視点からみると、日本の企業社会における「オトシドコロ」が世界で通用するのかどうか(うーーん、個人的には通用しないような気がします。ホント、海外のNPO・NGO団体の圧力は-保有している資産が桁違いなので-スゴイです・・・)。上記報告書では「ガバナンスの改善」が提案されていますが、ガバナンス云々で終わらないような気もいたします。いかがでしょうか。

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2023年8月24日 (木)

伊藤忠・ファミマTOB事案の功労?-買収提案時における社外取締役(特別委員会)の本気度が高まる

カメラ用レンズ大手の東証プライム会社において、監査役と社外取締役が中心となり、不正な経費流用の疑惑によって社長及び常務取締役を退任に追い込んだ事例が報じられています。真相解明のためには会社に一切忖度しないことで有名な(?)法律事務所を中心とした調査委員会を設置する等、絵に描いたような立派な危機対応ですね。おそらく調査報告書は公表されるでしょうから、また一連の経緯について勉強させていただきたく。

さて、企業の有事における社外取締役の対応については「高い報酬をもらっていながら一体何をしているんだ?ただのお飾りではないのか?」と揶揄されることが多いのですが、上記事案と同様、社外取締役が活躍している事例がTOBの場面でも見受けられるようになりました。

伊藤忠がこの8月に公表した上場子会社・持分法会社に対する公開買付、すなわち伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)および大建工業に対する公開買付のプロセス(特別委員会と伊藤忠の交渉過程)が大変興味深いです。いずれも特別委員会のメンバーは買収対象会社の社外取締役の方々が中心ですね。ちなみに伊藤忠→CTCのリリースはこちら、伊藤忠→大建工業のリリースはこちらです。いずれも長文なので、私もざっとしか読めておりませんが、概要は以下のとおりです(事実に誤りがありましたら訂正させていただきます)。

CTCについては、伊藤忠からの提案価格(ファミマTOBのケースと同じく特別委員会算定書のDCFレンジを下回る水準)を、特別委員会は再三にわたり拒絶。伊藤忠は「これ以上引き上げは困難」(7月31日)とした4200円から、翌日(8月1日)一転して4325円に引き上げており、これはCTCの過去最高値株価に合わせた形です。その翌日(8月2日)公開買付発表に至っています。ちなみにこちらの東洋経済の記事が伊藤忠側の価格交渉の苦悩を物語っています(記事からの引用-最高財務責任者(CFO)は「安いかどうかは別として、適正な価格で買えたと思っている」と言葉を濁した-)。

また、大建工業事案では、伊藤忠の当初提案価格2450円(プレミアム5%程度)を、大建工業の特別委員会は「当該価格では交渉開始が困難」と一蹴。その後も再三に亘って伊藤忠の提案価格を拒否し続けています。さらに伊藤忠からの協議提案をも拒絶(ファミマ裁判で直接協議での伊藤忠からの影響があったことを念頭に警戒したのではないかと思われます)の末、特別委員会は逆に「東証の要請する」PBR一倍(3200円程度)を目安に3200円を逆提案。これを拒否する伊藤忠にMoMと3000円を逆提案し、最終的には伊藤忠がそれをまるまる飲む形で合意。結局プレミアム率30%程度、PBR1倍近く、DCFのレンジにも収まるということになりました。

いやいや驚きです。いずれのケースも、社外取締役が「特別委員会が合理的な根拠なく当初交渉方針を撤回した」とされた伊藤忠・ファミマTOB価格東京地裁決定を意識し、創意工夫しながら適切なTOB価格を模索したことが各プレスリリースから推測されます。上記2例はいずれもファミマTOB事案の東京地裁決定の後に実質交渉が開始されていますので、間違いなくファミマTOBの裁判所の判断が影響しており、特別委員会の構成員である買収対象会社の社外取締役が善管注意義務を意識して行動したものと思われます。

今年4月、こちらのエントリーにて「もっとファミマTOB決定は話題になってもいいのでは?」と書きましたし、こちらのエントリーでは、ぜひ全国の社外取締役の皆様に、当決定を有事における行動規範として参考にしていただきたいとお勧めいたしました。ファミマTOBの事案は高裁にて抗告審が係属中ですが、実務はすでに(保守的かもしれませんが)地裁の判断が浸透しつつある、ということではないでしょうか。やはり伊藤忠・ファミマTOB裁判の影響力は大きかったといえるでしょう。また、特別委員会の構成員として少数株主保護のために「体を張って」尽力された社外取締役の皆様、そして特別委員会のアドバイザーを務めた法律事務所の方々に拍手を送りたい。

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2023年8月21日 (月)

経営者必読!-朝日新聞WEB連載「記憶喪失になった病院」

今年3月30日に「企業の危機管理にも役立つ『情報セキュリティ調査報告書』」なるエントリーにて、大阪急性期・総合医療センターで発生したサイバー攻撃事件に関する第三者委員会報告書を取り上げました(とても秀逸な報告書であり、ご一読をお勧め)。いくつかの私の講演では、この報告書を題材にして、役員の皆様に有事・平時のITガバナンスについて検討していただいております。

さて本日(8月21日)、朝日新聞は、大阪急性期・総合医療センターの協力を得て、このサイバー攻撃の被害に直面した病院職員や関係者ら、のべ二十数人に対して新たなインタビューを行ったそうで、有料版ではありますが、朝日新聞WEBにて「記憶喪失になった病院(修羅場となった48時間)」なるタイトルで配信を開始しています。本日は第1回「大病院を『修羅場』に変えたサイバー攻撃 異変はひそかに忍び寄った」ということで、IT専門家が病院に到着するところからノンフィクションの事件が始まるというもの。

通常診療が2カ月以上停止してしまうに至った病院の緊急事態に関する初動対応等は、一般の企業における情報セキュリティ問題としても他人事ではありません。コロナ禍において、事業者の情報セキュリティ事案に関わってきましたが、うまくいった企業もそうでない企業も、なかなか有事にどう対応したか、という点は守秘義務が厳しいこともあって、私も口外することはできません。そのような性質の事案について、関係者のインタビューが記事化されるというのはたいへん貴重な機会です。もし朝日新聞の有料版をご覧いただける方でしたら、ぜひとも全10回の連載について自社のBCPに参考にされてはいかがでしょうか、とくに事業の予算配分に責任を持つCEO、CFOの皆様にはご感想をお聞かせいただきたく。

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2023年8月18日 (金)

ガバナンス改革は「敗者のゲーム」である(と思う)

1692271607441_512 このお盆休みに「敗者のゲーム」を読みました(「敗者のゲーム(原著第8版)」チャールズ・エリス著 日本経済新聞出版 税別2,000円)。初版が1985年ということで、世界で読まれている(投資家向けの)ロングセラーであり、最近の改訂版を読まれた方も多いのではないでしょうか。個人投資家の資産形成方針に一石を投じたこの本の内容を論評する能力はありませんが、これを読んでおりまして日本のガバナンス改革にも通じるところがあるなぁと感じた次第です。

そもそも「攻めのガバナンス」と言われるところを上場会社が実践したとしても、その効果を業績に結び付けることができるのは(私の勝手な想像ですが)3900社中の30社から50社くらいではないかと。つまり「攻めのガバナンス(健全なリスクテイクによって稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス)」に求められるところ(たとえば人的資本-ダイバーシティや社外取締役が過半数を占める任意の指名報酬委員会の活用等)は「ガバナンスのプロが活躍する世界」であり、市場でこれを実践できるプロ経営者、プロ社外取締役と評価できる人は(今の日本で)ほんのわずかしか存在しない、ということです。ガバナンスの素人にとっては、どう頑張っても(仕組みを整えることはできても)実践の効果を業績に結び付けることはできない。

3900社のうちのほとんどの上場会社はガバナンスについての「素人集団」です。そうであるならば、同業他社に勝つためには「いかにして凡ミスをなくすか」「いかにして失点を防ぐか」ということにガバナンスの活躍領域を設けたほうが得策であり、そこにガバナンス改革を実践する意味を見出すべきです。トッププロが集うテニストーナメントでは、見る者を魅了するスピードと技によって勝敗が決まりますが、町のテニス大会ではできるだけミスをしない、できるだけサーブをネットにかけないということで勝敗が決するという「敗者のゲーム」の理屈はガバナンス改革にもあてはまるように思います。

攻めのガバナンスの「好事例集」などが経産省や金融庁から公表されます。しかし、好事例集をマネしたからといってガバナンス改革が業績に結び付くような「甘い幻想」は抱かないほうがいいですね。そのガバナンスが機能しうる土壌(組織風土)は組織によって千差万別です。いくら好事例をマネできても組織風土はマネできません(当然ですが)。それよりも好事例集には掲載できないこと、たとえば平時からの知財管理によって営業秘密の侵害を最小限度に抑えることができた(不正競争防止法上の保護要件をきちんと整備できたので知財戦略において同業他社に勝てた)とか、愚直にJ-SOXを運用していたことで会計不正発生時に「ミニ第三者委員会」による調査で済むほどに調査範囲が限定された(その結果、期日どおりに監査人から無限定適正意見をもらえた)といった実践効果を積み重ねるほうが、最終的には無形資産の形成につながるのではないでしょうか。

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2023年8月10日 (木)

中部電力、カルテル課徴金事案について役員を提訴せず

6月8日のエントリー「電力カルテル事案への株主提訴請求-さあ、どうする監査担当役員?」でも記載しておりましたが、中部電力の株主の皆様が同社監査役に対して「カルテル事案が発生したことについて役員に損害賠償させろ(賠償を求める裁判を提起せよ)」といった要求を出していた件について、中部電力社は「提訴しない」という判断に至ったそうです(中部電力社のリリースはこちらです)。

中部電力社は275億円の課徴金処分に対して、すぐに「処分は不当」として取消訴訟を提起しているので、この公取委と闘う姿勢と、今回の監査役全員の判断(歴代役員20人について、カルテルへの関与や黙認等の過失を根拠付ける事実は認められない)との間には矛盾はないように思います。ただ、取締役らに関与や黙認がなかったことと、取締役らがカルテルもしくはカルテルのおそれのある行動を認識するための内部統制の構築責任とはやや論点が異なるものと思われますので、株主代表訴訟においては役員関与の有無だけでなく、このあたりも重要な争点になるのではないかと推測します。

また、2015年の住友電工事件でも話題になりましたが、公正取引委員会が保持している文書について、株主側からの文書提出命令が(株主代表訴訟とは別の申立事件として)認められましたよね。たしか文書提出命令が出された直後に多額の賠償金による和解が成立していた記憶があります。今回も関西電力社や九州電力社はリニエンシー(自主申告制度)を利用して課徴金の免除や減額を得ていますので、たとえば中部電力社の株主代表訴訟において、株主に有利な証拠が公取委の保持する資料から得られるのかどうか、という点にも興味が湧いてきます(すでに公取委と中部電力社との行政訴訟において証拠として提出されているものもあるかもしれませんが・・・)。

なお、中部電力社の監査役は、会社を代表して(代表取締役に代わって)提訴判断を行うわけですから、株主利益の最大化のために提訴判断を行います。しかも提訴請求、株主代表訴訟(責任追及訴訟)は少数株主保護のためではなく、個人株主でも行使できる制度です。提訴請求に対して、監査役は外部の法律事務所の意見を聴いて「善管注意義務はない」と判断することになりますが、そもそも外部の法律事務所との意見交換を記したメモについては文書提出命令の対象になるのでしょうかね?

といいますのは、先日の伊藤忠・ファミマTOB事案において、ファミマ側の特別委員会の議事録(法務アドバイザーとのやりとり)は文書提出命令の対象となり、少数株主側への開示対象となりました(こちらの伊藤歩さんの東洋経済記事参照)。単純な「内部作成文書」とばかり私は思っていましたが。。。このあたり、私もよく監査役(監査委員、監査等委員)の支援業務を担当することがあるので気を付けているところでして、提訴請求への判断自体が善管注意義務に違反しないように配慮する必要があるかも、と考えているところです。きちんと残しておかないと直接のクライアントさんから提訴されるリスクがありますが、あまり詳細に残しているとその背後の実質的な依頼者(株主)の方から提訴されるリスクがありますので、どうしたものかと(しかも公取委相手の取消訴訟は、現実的にはほとんど勝ち目がない、ということでして、いろいろと配慮すべき事項がありそうです)。

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2023年8月 9日 (水)

日大アメフト部員薬物事件の記者会見を閲覧して感じたこと(追記あり)

(8月8日15:05追記あり)

8月8日に開催されました日大アメフト部員薬物事件に関する理事長、学長、副学長による記者会見をすべて閲覧いたしました(YOUTUBEで2時間15分全編閲覧)。すでに各メディアで報じられているとおり、私も昨年10月から12月にかけての某部員による薬物使用の自己申告事案、そして本件(逮捕事件)に関する7月6日から警察へ報告した18日までの「空白の12日間」に関心を持ちました。とくに気になった点は以下のとおりですが、やはり日大のガバナンスにかなり問題があると思います。

昨年10月から12月にかけての某部員による自己申告事案ですが、本件(逮捕案件)を取り仕切っておられる副学長さんすら、今年の7月まで(つまり本件調査が始まるまで)知らなかった、とのこと。昨年の自主申告案件について、現場を取り仕切る部長さんクラスの方々で警察相談を含めて対応しておられたのは良いとしても、なぜ副学長、学長、理事長まで報告が上がっていなかったのか?自己申告事案の証拠がなくなっており、警察が立件できないのは良いとしても、自己申告があった時点でその薬物の入手経路を調べたり、学内外の共犯関係者の有無を調べたりはしなかったのでしょうか?(うーーん、これはかなりナゾです)そもそも学生の闇バイトと薬物使用は大学が反社会的勢力と癒着するリスクを高めることは間違いないはず。もはや教学ではなく日大の経営問題なので、理事長と情報を共有していないというのはかなりマズイ。

副学長さんの回答によると昨年12月の警察による(アメフト部員に対する)薬物講演会は、11月下旬の某部員による自己申告とは無関係とのこと。ということは厳重注意という処分で自己申告事案は一件落着ということになります。しかし、そもそも自己申告の端緒となったのは、昨年10月29日のアメフト部員保護者会で「学生寮内で大麻を使用していないか、調査せよ」との依頼を受けて寮生活をしている30名ほどの部員へのヒアリングを行ったことにあります。だとすれば、少なくとも自己申告者が存在したこと、警察での立件には至らなかったこと、厳重注意処分を行ったこと程度は、その時点で保護者会に説明をすべきでしょう。そうでなければ、保護者会がなんらかの(薬物使用疑惑に関する)情報を取得している(または、今後も取得しうる)可能性は高いので、さらなる内部告発が行われ(現にそのような告発があったと推測されます)、「隠ぺいしていた」と指摘されるリスクが高まることは当然です。この時点で日大関係者はリスク管理を誤ったように思えます。

「空白の12日間」に何が起きていたのか・・・という点は、副学長さんが回答しておられたように捜査との関係上なかなか話ができないというのは理解できます。ただ、7月18日に警察へ回収物を持参するきっかけは「理事長のところに父兄会と名乗る人物から手紙が届き、理事長から説明を求められたから」「もうそろそろ中間報告的なことを警察にしなければならないと思ったから」と副学長が回答しておられました。では、父兄会と名乗る人物から理事長に手紙が届いていなかったら、いつまで警察に報告しないつもりだったのか。今年の6月まで、警察にはアメフト部員による薬物使用の疑惑に関する情報提供が何度か届いていたようですが、これは日大が保護者会にわかるように経過を説明してこなかったからではないかと。自主的に調査を行い、自主的に不正行為を公表する姿勢がなければ、何度でも情報提供は繰り返されていたと思います。

先ほども申し上げた通り、警察が大学生の薬物使用と闇バイトに目を光らせているのは、反社会的勢力と組織との癒着の防止(犯罪収益移転防止法や暴排条例に基づく)が大きな目的です。大学はゲートキーパーとして、大学と反社会的勢力との関係断絶に向けた対応をとらなければブランドの毀損は免れないと思います。日大にはリスクマネジメントとしての初動対応にやや問題があったのではないかと思いますし、これもガバナンスの機能不全と言えそうです。

(追記)以上のとおり書いておりましたところ、時事通信ニュースは警察幹部の話として「警視庁として、学長や副学長の説明にあったような対応はしていない。相談は日大OBの警視庁職員が個人的に受けたもの。自首するように、などと勧めるわけがない」とのこと。これはたいへん!!このニュースが真実なら相当やばい状況ですよね。日大どうする?こういった一連の経過をみると、やはりプロの危機管理コンサルタントの役割はとても重要であることを痛感します(いつも仕事をご一緒する〇〇〇のみなさん、ありがとうございます!)

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2023年8月 7日 (月)

国連人権理事会ステートメントを読んで関西万博について考えたこと

すでに皆様ご承知のとおり、ジャニーズ元経営者によるセクハラ被害事件について、国連人権理事会(ビジネスと人権に関する作業部会)の中間報告(作業部会ステートメント)の内容が報じられています(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。ただ、正式なステートメントを読んでみたところ、もちろんジャニーズ事務所問題にも触れていますが、これは関西万博の開催についてもかなり影響を持つ文書と受け止めました。ビジネスと人権に関心のある方は、ぜひご一読ください。

建設・物流業界における残業規制(労働時間規制)に関する2024年問題をコンプライアンス経営としてクリアするためには、少なくとも「人権DD(デューデリジェンス)の方針説明、実践、実践報告」と「人権救済の措置(たとえば改正公益通報者保護法に準拠した公益通報対応体制の構築や国際人権救済窓口の周知徹底、裁判外における労働者の人権救済機関の設置)」が元請業者にとっての大前提となるはず。このような対策が不十分なまま(日本の)労働者の人権侵害が発生した場合には、建設事業者以上に、パビリオン建設を委託した海外諸国の担当機関がOECD諸国やNGO団体から多くの批判を受けることが予想されます。しかも第三次、第四次下請事業者で発生した場合でも大きな問題として捉えられる可能性がありそうです。

組織不祥事が発生する原因として「納期のプレッシャー」がよく挙げられますが、まさに日本全体で「納期は守られねばならない」という空気(プレッシャー)が漂うなか、「納期よりも労働者の人権が大切だ」「命輝く未来、というスローガンのもとで、万博開催にあたっては人権よりも大切なものはない」という正論を開催時期の判断に結び付けにくい雰囲気が次第に大きくなっています。それでも国や地方自治体、万博協会等が「開催時期を延ばすことなく、期限どおりにパビリオンを完成させること」を至上命題とするのであれば、上記のとおりの国際的なルールを遵守することと、人権侵害が発生した場合の責任の所在を明確にしておくことが、関係者の理解を得るためにも不可欠と考えます。

「今までも、これでなんとかやり遂げてきた」という日本の過去における成功体験があることは否定しません。しかし過去の成功は多くの日本人・外国人労働者による献身的かつ自己犠牲的な労力によるもの。今回、少なくともこの理屈は海外諸国には通用しないでしょう。なお、上記ステートメントは中間報告であり、最終報告書は2024年6月に国連に提出されるそうです。最終報告においては、すでにパビリオン建設に向かって事業が走り出した頃なので、(ジャニーズ事務所問題と同様に)ぜひ個別の案件へのコメントを掲載してほしいと思います。

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2023年8月 1日 (火)

BM事案-損保ジャパンの調査委員会には社外窓口は設置されないのだろうか

ビッグモーター社の保険金不正請求問題において「馴れ合い」疑惑を持たれている損保ジャパンさんですが、7月26日に「ビッグモーター社による自動車保険金の不正請求への当社の対応を検証することを目的とし、社外弁護士のみによる社外調査委員会を設置」します、とのリリースがありました。さらに、28日にはBM社との保険代理店契約の解消、損害賠償請求の準備に取り掛かることもリリースされました。当社としては「馴れ合い」疑惑を自力で解消するために動き出したと言えそうです。

詐欺罪で刑事告訴や民事賠償請求となれば、第三者によって「損保ジャパンは本当に騙されたのか・・・」という点が厳密に審査されることになります。したがって、裁判の上では相当の覚悟をもってBM社と向き合うことになると思いますが、ひとつ疑問に感じているのが「誰が社外調査委員会の委員なのか」という点が明らかにされていない点です。社外の弁護士が構成員ということですが、設置目的が「不正請求への当社の対応を検証する」とありますので、公明正大な調査であれば委員名を公表すべきではないでしょうか。

昨年11月から今年3月まで私が委員長を務めたアイアールジャパン社の第三者委員会は「マッチポンプ疑惑」の解明が主たる目的でした。損保ジャパンさんと同様、対象会社の利益相反行為の適正性を調査するものなので、社外の顧客や取引先からの情報提供も不可欠と考え、内部通報窓口とは別に、委員会独自の社外通報窓口を設置して、会社のHPからリリースしました(実際、社外からの情報提供があり、真摯に調査をして、報告書を作成しました)。損保ジャパンの関係者がどれほどBM社の不正を認識していたのか・・という点を検証の目的とするのであれば、損保ジャパン内部だけでなくBM社の社員も含めて社外関係者からも(独立した調査委員会に)有力な情報が届く可能性がありますし、そこまで情報提供を求めた上での検証結果を示すことが現在の損保ジャパンには必要ではないかと考えます。

そのためには、まず調査委員会のメンバーが誰であり、どこに情報提供先があるのか、明らかにする必要があります。もう少し先になって通報窓口が設置されるのかもしれませんが「客観性、透明性を確保した調査をします」と公表されているのであれば、社外関係者からの情報提供を促す仕組みを検討する必要がありそうですね。

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