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2023年8月10日 (木)

中部電力、カルテル課徴金事案について役員を提訴せず

6月8日のエントリー「電力カルテル事案への株主提訴請求-さあ、どうする監査担当役員?」でも記載しておりましたが、中部電力の株主の皆様が同社監査役に対して「カルテル事案が発生したことについて役員に損害賠償させろ(賠償を求める裁判を提起せよ)」といった要求を出していた件について、中部電力社は「提訴しない」という判断に至ったそうです(中部電力社のリリースはこちらです)。

中部電力社は275億円の課徴金処分に対して、すぐに「処分は不当」として取消訴訟を提起しているので、この公取委と闘う姿勢と、今回の監査役全員の判断(歴代役員20人について、カルテルへの関与や黙認等の過失を根拠付ける事実は認められない)との間には矛盾はないように思います。ただ、取締役らに関与や黙認がなかったことと、取締役らがカルテルもしくはカルテルのおそれのある行動を認識するための内部統制の構築責任とはやや論点が異なるものと思われますので、株主代表訴訟においては役員関与の有無だけでなく、このあたりも重要な争点になるのではないかと推測します。

また、2015年の住友電工事件でも話題になりましたが、公正取引委員会が保持している文書について、株主側からの文書提出命令が(株主代表訴訟とは別の申立事件として)認められましたよね。たしか文書提出命令が出された直後に多額の賠償金による和解が成立していた記憶があります。今回も関西電力社や九州電力社はリニエンシー(自主申告制度)を利用して課徴金の免除や減額を得ていますので、たとえば中部電力社の株主代表訴訟において、株主に有利な証拠が公取委の保持する資料から得られるのかどうか、という点にも興味が湧いてきます(すでに公取委と中部電力社との行政訴訟において証拠として提出されているものもあるかもしれませんが・・・)。

なお、中部電力社の監査役は、会社を代表して(代表取締役に代わって)提訴判断を行うわけですから、株主利益の最大化のために提訴判断を行います。しかも提訴請求、株主代表訴訟(責任追及訴訟)は少数株主保護のためではなく、個人株主でも行使できる制度です。提訴請求に対して、監査役は外部の法律事務所の意見を聴いて「善管注意義務はない」と判断することになりますが、そもそも外部の法律事務所との意見交換を記したメモについては文書提出命令の対象になるのでしょうかね?

といいますのは、先日の伊藤忠・ファミマTOB事案において、ファミマ側の特別委員会の議事録(法務アドバイザーとのやりとり)は文書提出命令の対象となり、少数株主側への開示対象となりました(こちらの伊藤歩さんの東洋経済記事参照)。単純な「内部作成文書」とばかり私は思っていましたが。。。このあたり、私もよく監査役(監査委員、監査等委員)の支援業務を担当することがあるので気を付けているところでして、提訴請求への判断自体が善管注意義務に違反しないように配慮する必要があるかも、と考えているところです。きちんと残しておかないと直接のクライアントさんから提訴されるリスクがありますが、あまり詳細に残しているとその背後の実質的な依頼者(株主)の方から提訴されるリスクがありますので、どうしたものかと(しかも公取委相手の取消訴訟は、現実的にはほとんど勝ち目がない、ということでして、いろいろと配慮すべき事項がありそうです)。

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