« BM事案-損保ジャパンの調査委員会には社外窓口は設置されないのだろうか | トップページ | 日大アメフト部員薬物事件の記者会見を閲覧して感じたこと(追記あり) »

2023年8月 7日 (月)

国連人権理事会ステートメントを読んで関西万博について考えたこと

すでに皆様ご承知のとおり、ジャニーズ元経営者によるセクハラ被害事件について、国連人権理事会(ビジネスと人権に関する作業部会)の中間報告(作業部会ステートメント)の内容が報じられています(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。ただ、正式なステートメントを読んでみたところ、もちろんジャニーズ事務所問題にも触れていますが、これは関西万博の開催についてもかなり影響を持つ文書と受け止めました。ビジネスと人権に関心のある方は、ぜひご一読ください。

建設・物流業界における残業規制(労働時間規制)に関する2024年問題をコンプライアンス経営としてクリアするためには、少なくとも「人権DD(デューデリジェンス)の方針説明、実践、実践報告」と「人権救済の措置(たとえば改正公益通報者保護法に準拠した公益通報対応体制の構築や国際人権救済窓口の周知徹底、裁判外における労働者の人権救済機関の設置)」が元請業者にとっての大前提となるはず。このような対策が不十分なまま(日本の)労働者の人権侵害が発生した場合には、建設事業者以上に、パビリオン建設を委託した海外諸国の担当機関がOECD諸国やNGO団体から多くの批判を受けることが予想されます。しかも第三次、第四次下請事業者で発生した場合でも大きな問題として捉えられる可能性がありそうです。

組織不祥事が発生する原因として「納期のプレッシャー」がよく挙げられますが、まさに日本全体で「納期は守られねばならない」という空気(プレッシャー)が漂うなか、「納期よりも労働者の人権が大切だ」「命輝く未来、というスローガンのもとで、万博開催にあたっては人権よりも大切なものはない」という正論を開催時期の判断に結び付けにくい雰囲気が次第に大きくなっています。それでも国や地方自治体、万博協会等が「開催時期を延ばすことなく、期限どおりにパビリオンを完成させること」を至上命題とするのであれば、上記のとおりの国際的なルールを遵守することと、人権侵害が発生した場合の責任の所在を明確にしておくことが、関係者の理解を得るためにも不可欠と考えます。

「今までも、これでなんとかやり遂げてきた」という日本の過去における成功体験があることは否定しません。しかし過去の成功は多くの日本人・外国人労働者による献身的かつ自己犠牲的な労力によるもの。今回、少なくともこの理屈は海外諸国には通用しないでしょう。なお、上記ステートメントは中間報告であり、最終報告書は2024年6月に国連に提出されるそうです。最終報告においては、すでにパビリオン建設に向かって事業が走り出した頃なので、(ジャニーズ事務所問題と同様に)ぜひ個別の案件へのコメントを掲載してほしいと思います。

|

« BM事案-損保ジャパンの調査委員会には社外窓口は設置されないのだろうか | トップページ | 日大アメフト部員薬物事件の記者会見を閲覧して感じたこと(追記あり) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« BM事案-損保ジャパンの調査委員会には社外窓口は設置されないのだろうか | トップページ | 日大アメフト部員薬物事件の記者会見を閲覧して感じたこと(追記あり) »