ジャニーズ事務所問題-各放送局の声明は海外動画配信事業者に通用するだろうか?
金融庁の企業会計審議会(内部統制部会)の委員としては、改訂「Q&A」が公表されましたので、そちらへの意見を書きたいところですが、これはまた別の機会として、8月30日にジャニーズ事務所問題-「ビジネスと人権」に対する日本企業の本気度はいかに?、なるエントリーを書きましたが、本日はその続編です。その後、株式会社ジャニーズ事務所のHPで公表されている調査報告書(公表版)を読みましたが、報告書の52頁以下において、
ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる
と「メディアの沈黙」について指摘があります。そしてこの「マスメディアからの批判を受けることがない」理由として、その前の部分で
テレビ局をはじめとするマスメディア側としても、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道すると、ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧から、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられる
との評価が示されています。つまり「マスコミの報道不作為が性被害少年の数を拡大させてしまった可能性が高い」とあるので、テレビ局を含むマスコミの声明では「性暴力は絶対に許されない」「今後のジャニーズ事務所の動向を見守る」としていますが、なぜ性加害を助長するような不作為に至ったのか、今後はそのような不作為を二度と起こさないためにどのような体制を構築するのか、(声明だけで終わることなく)その検証作業が必要ではないでしょうか。
これは単に素朴なコンプライアンス経営の視点から、というわけではなく、テレビ局等の「ビジネスと人権」に関連するリスクマネジメントの視点からの問題提起です。とりわけ民放テレビ局は各局ともスポンサー収益だけでは事業を継続することは困難になりつつあり、今後はネットフリックスやアマゾン、ディズニー等との共同制作、つまり通信事業におけるコンテンツ収入によって事業を継続させることが不可欠なはず。ということは、今後エンターテインメント番組を海外事業者と共同制作するにあたり、ジャニーズ事務所のタレントを使うことについてどのように説明をするのでしょうか。海外諸国からみれば(言葉は厳しいですが)児童虐待(人権侵害)を容認する団体と捉えられてしまいます。
事業上のリスクマネジメントの一環として、大手メディアは海外の巨大事業者がどのようにジャニーズ事務所問題を取り上げるのか、そこに注視することが求められるように思います。海外動画配信事業者は、おそらく相当厳しい姿勢で当該問題に対処することが予想されます。
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コメント
この事件ですが、不思議な点が2点あります。
1)警察は何故動かないのか?
2)企業トップで性犯罪を行っていた本人が亡くなったとはいえ、犯罪行為に対して黙認もしくは隠蔽を行っていた企業が属するタレントを使い続けるのは、コンプライアンス的に問題ないのでしょうか?
マスコミに多くを求めていませんが、利益優先の姿勢を示す報道各社が、今後あらゆる犯罪に対して正論を述べたとしても、正直興ざめしてしまいます。
「お前が言うな!」と。
投稿: unknown1 | 2023年9月 6日 (水) 17時00分