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2023年8月18日 (金)

ガバナンス改革は「敗者のゲーム」である(と思う)

1692271607441_512 このお盆休みに「敗者のゲーム」を読みました(「敗者のゲーム(原著第8版)」チャールズ・エリス著 日本経済新聞出版 税別2,000円)。初版が1985年ということで、世界で読まれている(投資家向けの)ロングセラーであり、最近の改訂版を読まれた方も多いのではないでしょうか。個人投資家の資産形成方針に一石を投じたこの本の内容を論評する能力はありませんが、これを読んでおりまして日本のガバナンス改革にも通じるところがあるなぁと感じた次第です。

そもそも「攻めのガバナンス」と言われるところを上場会社が実践したとしても、その効果を業績に結び付けることができるのは(私の勝手な想像ですが)3900社中の30社から50社くらいではないかと。つまり「攻めのガバナンス(健全なリスクテイクによって稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス)」に求められるところ(たとえば人的資本-ダイバーシティや社外取締役が過半数を占める任意の指名報酬委員会の活用等)は「ガバナンスのプロが活躍する世界」であり、市場でこれを実践できるプロ経営者、プロ社外取締役と評価できる人は(今の日本で)ほんのわずかしか存在しない、ということです。ガバナンスの素人にとっては、どう頑張っても(仕組みを整えることはできても)実践の効果を業績に結び付けることはできない。

3900社のうちのほとんどの上場会社はガバナンスについての「素人集団」です。そうであるならば、同業他社に勝つためには「いかにして凡ミスをなくすか」「いかにして失点を防ぐか」ということにガバナンスの活躍領域を設けたほうが得策であり、そこにガバナンス改革を実践する意味を見出すべきです。トッププロが集うテニストーナメントでは、見る者を魅了するスピードと技によって勝敗が決まりますが、町のテニス大会ではできるだけミスをしない、できるだけサーブをネットにかけないということで勝敗が決するという「敗者のゲーム」の理屈はガバナンス改革にもあてはまるように思います。

攻めのガバナンスの「好事例集」などが経産省や金融庁から公表されます。しかし、好事例集をマネしたからといってガバナンス改革が業績に結び付くような「甘い幻想」は抱かないほうがいいですね。そのガバナンスが機能しうる土壌(組織風土)は組織によって千差万別です。いくら好事例をマネできても組織風土はマネできません(当然ですが)。それよりも好事例集には掲載できないこと、たとえば平時からの知財管理によって営業秘密の侵害を最小限度に抑えることができた(不正競争防止法上の保護要件をきちんと整備できたので知財戦略において同業他社に勝てた)とか、愚直にJ-SOXを運用していたことで会計不正発生時に「ミニ第三者委員会」による調査で済むほどに調査範囲が限定された(その結果、期日どおりに監査人から無限定適正意見をもらえた)といった実践効果を積み重ねるほうが、最終的には無形資産の形成につながるのではないでしょうか。

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