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2023年9月29日 (金)

ジャニーズ事務所問題-若年女性の「ジャニーズ離れ」加速(元NHK解説委員寄稿)

9月28日の夕刊フジWEB版「若年女性の〝ジャニーズ離れ〟加速、視聴率から読み解く 頼みの綱のタレント人気、NHK【ザ少年倶楽部】が大幅減」を読みました。元NHK解説委員でメディアアナリストの鈴木祐司氏が分析したものだそうです。いやいや驚きました。「タレントに罪はない」というフレーズがよく聞こえてくるので、少なくとも現時点のジャニーズ・タレントが出演している番組の視聴率は(応援の意味を込めて)上がっているのかと思っておりましたが、現実には多くの番組で視聴率を下げているのですね。とくに若年女性への影響が大きいようです。ジャニーズのタレントは海外でもファンが多いので、今後は海外ファンの動向についても調査が行われるかもしれません。

こうなるとタレントのイメージ回復のためにはジャニーズ事務所、メディアともに早期の抜本的な改革が必要です。メディアにおいては、昨日のNHK会長会見、本日のテレビ東京の声明にあるように、①現時点での番組出演を継続するものの、今後は新たなジャニーズ事務所タレントは起用しない、②ジャニーズ事務所の調査委員会報告を受けての自社検証はするが、第三者委員会による調査はしない、という方向で「横並び」することが予想されます。一方、ジャニーズ事務所の改革については(中間報告的ではあるが)10月2日の会見待ち、ということでしょうか。スポンサー企業、メディアともに、この10月2日の「ジャニーズ事務所改革」の報告内容を今後検討する、ということになろうかと。

私個人の意見としましては、上記①は妥当な判断ではありますが、②については各テレビ局(とりわけ在京の民放キー局)に「有事意識」が乏しいと思います。つまり、このような視聴率分析が出て「これはたいへんだ」と思っておられるかもしれませんが、いま、抜本的な対応をしなければ将来的にはもっとテレビ局の経営に影響を及ぼす状況が到来すると考えるからです。といいますのも、すでに以前のエントリーで申し上げているとおり、テレビ各局は、今後海外の巨大通信事業者と共同制作が必要になる、つまりテレビ局の持続的成長のためには放送と通信の融合が不可欠だからです。今回のジャニーズ事務所問題で徹底的な検証をしておかなければ「人権侵害を許容する日本の放送局とは共同制作の事業はできない」との世界的な評価を受けるはずです(これはエライことやと思います)。おそらく海外の事業者によるスポンサー契約もとれないでしょう。

コンプライアンス経営はよく「守りの経営」と言われますが、とんでもない。上記のとおり「攻めの経営」に必須のマネジメントであります。だからこそ、コンプライアンス担当役員、CSR担当役員に任せておけばよい、というものではなく、まさに社外役員を含めた経営トップの「攻めの判断」としてコンプライアンス経営重視の姿勢が必要となります(いや、必要とされる時代になった、と言ったほうがいいかもしれません)。

また、各局は「故ジャニー喜多川氏による性加害の事実が最高裁で認定された2004年当時は、男性性被害による人権問題への認識が甘かった」という弁明を繰り返していますが、これではジャニーズ事務所が設置した調査委員会報告への回答にはなっていません。同報告は、故ジャニー喜多川氏が2004年以降も(2019年頃まで)性加害を繰り返していたと報告しています。したがって、問題を取り上げなかっただけでなく、そのような事実を認識しながらタレントを使い続けてきたこと(つまり2004年以降、2019年に至るまでジャニーズ事務所の収益に貢献してきたこと)が、喜多川氏の性加害継続を助長した、その結果、性被害を受けた被害者を拡大させた、と指摘しています。これに真摯にメディアが向き合うとすれば、なぜ性加害を認識しながら使い続けてきたのか、テレビ局と番組制作会社と再委託事業者との具体的なやりとりにジャニーズ事務所による圧力や忖度はなかったのか、という点の第三者による検証が不可欠だと考えます。これはテレビ局も(「加害者」とまでは申しませんが)「加害者と同視しうる存在」と調査委員会から評価された以上、テレビ局の責務ではないでしょうか。

「あまりにもジャニーズ事務所に忖度しなかった調査委員会」と評されるほど、8月の調査委員会報告書の内容は厳しいものでした。あの報告書をみて、テレビ局も「うちも第三者委員会を設置したら、あれほどのことを書かれるのか」と恐怖を感じたのかもしれません。しかし16年前の「あるある大事典」事件の際、関西テレビは純粋な第三者委員会を設置して厳しい事実認定を示され、さらに67分に及ぶ検証番組を制作して世間の批判にさらされました。有事意識があればテレビ局も(番組制作、編成の独立性を超えて)抜本的な対応はとれると思います。しかし本当の「有事」になってからでは遅すぎます。いまこそ、日本のテレビ局が世界の巨大通信事業者との協働に向けた基盤作りのために、さらには日本のエンターテインメントが海外進出する際の足かせを排除するために、毅然とした対応をとるべき時期ではないでしょうか。世界に向けて「人権方針」を掲げているのであれば、その看板に嘘はないことを行動で示さなければならないと考えます。

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2023年9月25日 (月)

大阪・関西万博と一連の東京五輪汚職・談合事案

最近はガバナンス関連で注目すべき事案が多すぎて、何をブログで書けばよいのか迷うところです(個人的には日大アメフト部員薬物問題がもっとも関心が高いですね)。

さて、前も書きましたが、私は大阪・関西万博推進派ですが、いまの状況をみると東京五輪汚職・談合事案を想起させます。東京五輪では組織委員会の関係者と大手広告代理店の幹部の方々の刑事事件に発展したことは皆様もご承知のとおりですが、なぜ東京オリパラに汚点を残してしまったのか・・・と考えてみますと、やはり「絶対に成功させなければならない」という国家的機運に由来する関係者の使命感、そこに関係する諸団体の責任の曖昧さ、実務を仕切る人たちの行動の聖域化(「餅は餅屋」による丸投げに基づくブラックボックス化)、事前規制よりも事後規制の対応重視というところで不正リスクをあらかじめ特定できなかったことが問題だったと考えます。

このたびの大阪・関西万博の準備状況をみますと、東京五輪の様子とよく似ています(まだ汚職・談合事案の刑事裁判は続いています)。さらに大阪・関西万博では、大手広告代理店の力が発揮できる領域が限定的であること、「ビジネスと人権」に関連する責任がパビリオン建設を発注する諸外国にも及ぶことから、東京五輪のとき以上に不正リスクは高まるはずです。この点、事前規制的な発想で対処しなければ、日本は海外諸国にも後日、多大な不正リスクの顕在化を招くことにもなりかねず、とりわけ汚職、談合、人権侵害はあらかじめ徹底的に予防する体制をとる必要があると思います。これはまさに「日本の威信をかけて」検討すべき課題ではないでしょうか。

どんなに「成功させなければならない」という機運が高まったとしても、不正リスクを堂々と責任者に主張し、リスクマネジメントを実行させるだけの人物が現れなければ、東京五輪以上に大きな不正リスクの顕在化を招くことになるような気がいたします。

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2023年9月19日 (火)

地銀の「なんちゃってダイバーシティ」は金商法違反?

ジャニーズ事務所問題については多くのグローバル企業を巻き込んでたいへんな状況になっていますね。今朝の日経(法財務)では、「ビジネスと人権」に詳しい専門家の皆様の意見が三者三様で、たいへん参考になりました。まだまだ現在進行形で事態が進みますので注視していきたいと思います。さて、本日は別のお話ですが、9月18日の東京新聞WEBニュースの記事「地方銀行に『水増し』が横行? 『職員3人に2人以上が管理職』にして女性管理職比率が増 各行に聞いた」を読みました。いやいや、金融機関に特有の問題では済ますことができない、ちょっと笑えない内容です。

サステナビリティ開示の一環として「女性管理職比率」が有価証券報告書に記載されるようになり、これに伴い多くの地銀で25%前後の数値が開示されています。しかし、課長代理や調査役を「管理監督者」として含めているため、部下のいない管理職や社員の半分が管理職になってしまったというお話。厚労省の基準とはかなり乖離していますし、「金融機関の管理監督者の範囲」に関する行政通達105号の運用では「管理監督者は二桁台(%)にはならないはず」とされているので、実態と開示との齟齬が生じていると言われてもしかたないと思います。

非財務情報の開示内容については、内容自体で虚偽記載の責任を問うものではない、と(たしか)金融庁の見解が示されていたように記憶しておりますが(間違っていたら訂正いたします)、しかし女性管理職比率については定量的に同業他社と比較することが可能ですから、やはり虚偽記載の問題が生じるようにも思えますが、いかがなものでしょうか。たしかに「厚労省判断を満たさない場合でも、自主的に実態をみて判断してもよい」とのことですが、さすがに常識では考えられないですよね。

上場会社の無形資産(たとえば人的資本)を適切に開示しようとの制度趣旨は理解できますが、それが新たな不正リスクを招くというのはなんとも。。。さらにこの「管理監督者」の評価ミスは労働法違反リスク(時間規制、賃金規制)にも発展しかねず、金商法違反リスクでは済まないように思います(この「管理監督者の範囲」問題は、いまだ最高裁判決も出ておらず、労働法においてはグレーゾーンの領域です)。諸々の不正リスクがある以上、企業としては少なくとも厚労省の判断基準にだけはしたがっておいて、たとえ目標には達していなくても正直な開示を心がけるべきでしょう。

 

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2023年9月14日 (木)

ジャニーズ事務所問題-さすが欧米企業の対応だと思います(P&G、アフラックの人権リスクへの対応)

花王の元法務担当執行役員(現 KADOKAWA社外取締役)の杉山さんからコメントを頂戴しました(ご無沙汰しております)。

今日の朝日新聞Webの記事です(記事はこちらです)。このPG社長は、欧米の倫理対応の一つの見識、すなわち逃げるのではなくステークホルダーとして監視していく、を代表していると思いますが、山口さんの意見を是非お聞きしたく。

私はこの記事で示されているP&G社長さんの見解、およびさきほど報じられていましたアフラック生命保険の見解については前向きに捉えています。前のエントリーで述べたことを再掲しますが、

私は企業によって判断が分かれることはサステナビリティ開示にとっては良いことだと思っていますが、単純に横並びで他社の様子をうかがって、世間の空気に従うようではもはやどんなに立派なESG開示情報を並べていても、投資家やステークホルダーからは「自社の利益のためには噓八百並べても平気な企業」と冷静に評価されるだけに終わってしまうと思います。

日本企業の場合、自社の対応を検討するにあたっては、①自社の人権方針、②ビジネスと人権の指導原則(Ⅱ第3項)、③(上場、非上場にかかわらず)東証・不祥事予防のプリンシプル(原則6 サプライチェーンを展望した責任感)を尊重すべきと考えています。そのうえでジャニーズ事務所との契約を解消すべきか、継続すべきであればどのような行動をとるべきかを自身で考えて開示すべきです。私自身は逃げるのも、逃げずに取引先ガバナンスに積極的に関与するのも、これらの人権ルールへの遵守を真摯に検討したうえでの決断であれば説明責任は果たせると思います。ここ数日で、「新たな契約は締結しない」という方向で「契約解消ドミノ」になっていますが、私からしますと(本当に人権ルールへの対応を検討したのだろうか・・・と懐疑的になっておりまして)やや残念な気持ちです。もちろん、ジャニーズ事務所の性加害問題自体、本当にこれで事実関係は明らかになったのかどうか、まだまだ新事実が出てくるのではないか・・・という懸念もあり、そのあたりで対応を決めかねている企業もあるかもしれませんが。

P&Gの場合、契約を継続したうえで自社の行動指針に沿った対応を積極的にジャニーズ事務所に要望し、その変革に関与するわけですから、真剣に検討したうえでの判断ではないでしょうか。ただ、変革に関与するとしても、ジャニーズ事務所のビジネスモデルはきわめて複雑ですし、ガバナンス再構築にはプロ級のスキルが求められると思いますので投入できるリソースが必要かと。また、アフラックについても、事務所との契約は解消しつつもタレント個人との契約を締結する(ことを検討中)ということも、(個人的にはエンターテインメント業界の慣行からすれば、事務所に所属しつつ個人契約を結ぶというのはきわめて困難な部分があるとは思いますが)ひとつの判断と考えます。いずれも世間から批判を浴びるリスクはあるのですが、風向きもなかった最初に「契約更新は見送る」と開示した東京海上日動、JALと同様、人権リスクから逃げない姿勢は尊敬すべき態度と考えます。宝飾のカルティエは、広告タレントに直接辞退勧告を行ったと報じられており、これもなかなか日本企業ではできないかなぁと感じています。

ただ、ステークホルダーの逃げない姿勢を当のジャニーズ事務所が歓迎するかどうかは別の問題ですね。ステークホルダーの意見を尊重する姿勢があるならば、もっと根本的な改革姿勢をジャニーズ事務所が示しているようにも思います。番組出演料を1年間中抜きしないという見解が事務所から出されましたが、それでは出演に要する経費はどうするのか、そもそも出演料は誰が決めるのか、出演の可否もタレントが決めるのか等、検討すべき課題は多いわけで、その課題解決の方法次第では「それは将来の事務所収益へのコストにすぎないのでは」と言われてもしかたないように思われます。まだまだジャニーズ事務所問題は今後も急展開があるかもしれませんので、「ビジネスと人権」の視点から注目をしたいところです。

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日大アメフト部員薬物事件は個人の問題では済まないようで・・・

本日(9月14日)は神戸ポートピアホテルで日本監査役協会のスタッフ全国会議が開催されますね。近くの甲子園球場で「アレ」の真っ最中に懇親会が開催されるとは、まさに絶妙のタイミングですね。(以下本題)

さて、ビッグモーター保険金不適切請求事案、ジャニーズ創業者性加害事案があまりにもインパクトが強いために、やや報道のトーンが下がっている日大アメフト部員薬物事案でありますが、ちょっと驚きのニュースが報じられています。FNNプライムオンラインの記事によると、

日大アメフト部員による違法薬物事件をめぐり、きのう学内で評議員会が開かれ、林真理子理事長らから、これまでの経緯や調査の進捗状況について報告された。関係者によると、この評議員会で、逮捕された男子部員の他にも、現時点で9人の現役部員について、警視庁から任意聴取などの依頼を受けていたことが報告され、違法薬物に関与した可能性がないか調べていることが新たにわかった。

とのこと。また、読売新聞ニュースによると、

日本大学アメリカンフットボール部の寮で大麻と覚醒剤が見つかった事件で、日大が、今月15日の調査報告書の提出期限を延長するよう文部科学省に申し入れたことが分かった。第三者委員会による徹底的な調査を行う時間が必要だと判断した。文科省も容認する方向だ。

と報じられています。大学にとって文科省への説明は最重要課題だと思いますが、第三者委員会による調査にかなり時間がかかるようですね。

8月9日のエントリー「日大アメフト部員薬物事件の記者会見を閲覧して感じたこと」でも私の違和感として「なぜ自己申告がなされた時点で共犯関係についてヒアリングをしたり、自ら調べなかったのだろうか」と書きましたが、「やっぱり」という感じであります。実際のところは当然調べていたものと推測します(当時、ここへの疑問として記者から質問が出なかったのはなぜでしょうか?)。ということは、共犯者が存在する(もしくは同様の犯行に及んだ仲間が複数存在する)ことについては隠していたのではないか、という疑問が(素直に)生じます。日大はこれからどう説明をするのでしょうか。

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2023年9月13日 (水)

ビッグモーター事案-損保ジャパンの親会社責任を認めるのは難しいのでは?

昨日(9月11日)の朝日新聞有料版記事「調査報告書の書き換え、損保ジャパンの出向者関与 BMの部長指示で」を読みましたが、ここに書かれた記事の内容が真実であるとすれば、損保ジャパンのガバナンス、コンプライアンス意識にはかなり深刻な問題がありますね。先日の記者会見でも損保ジャパンの親会社であるSOMPOホールディングスCEOの方に対して「どう責任を果たすつもりか」との質問が飛んでいましたが、なるほど親会社経営陣の責任問題にも発展しそうな気配も感じられます。

実は先日の会見の前後に、いくつかのメディアから取材の申し込みがありましたが、いずれも「親会社であるSOMPOホールディングスの経営トップの責任はあると思いますか、その根拠は?」というものでした。私は社外調査報告書も出ていない状況では、どのような根拠で親会社経営者の責任が発生するのか不明であり、現状では回答できない、と申し上げました(おそらく記者の皆様は責任が認められる、なぜなら・・・といった回答を期待されていたと思います)。

もちろん金融庁への報告内容や社外調査委員会報告書の内容が判明すれば意見も変わるかもしれませんが、私は親会社であるSOMPOホールディングスの経営陣の経営責任を問うことは(よほどの隠れた事情が認められないかぎり)難しいのではないかと考えています。

Sonpogroup02

上図は2018年6月8日の日経朝刊記事をもとに、私個人で要旨をまとめたものです。記事のテーマは買収した海外子会社への統治については大手損保の間で三者三様である、ということを報じたものです。ただ、この各社方針は海外のみならず、国内事業会社への統治方針にも通じるものではないでしょうか。SOMPOホールディングスは、現経営トップの方がコメントされているのですが、スピード感を重視して、経営判断はグループ会社に極力移譲すべきと述べておられます(逆に東京海上日動は中央集権的な意思決定を重視しておられるようです)。つまり、この図表でもおわかりのとおり、グループガバナンスの構築については、親会社の広範な裁量権が認められる領域であり、損保ジャパンとSONPOホールディングスとの関係でも、経営判断のスピード重視、重要な意思決定権の移譲、ということで対応されていたのではないかと。

たしかにSONPOホールディングスの経営トップの方も、社外取締役として損保ジャパンの役員会(取締役会)には出席されていたと思いますが、このたびビッグモーターとの取引再開を決めた「役員会議」は取締役会ではなく、一部の有力役員が集まった会議体のようなので、損保ジャパンのトップの方は、むしろ親会社に(意図的に)情報が届かない状況を作出したうえで決断をされた可能性が高いように思います。ちなみに記者会見の際、SONPOホールディングスのCEOの方は「ビッグモーターの前社長とは面識がなく、一度も会ったこともない」と断言されていました。

これは、いわゆる「(内部統制の限界としての)内部統制の無視、無効化」の典型例であって、親会社がどんなに企業集団内部統制を立派に構築していたとしても限界があると思います。事の重大性からみれば、親会社の責任を追及したい気持ちもわかるのですが、経営責任を問うにしてもなんらかの親会社経営陣に帰責性が認められる必要があります。帰責性を前提とした親会社トップの経営責任を考えるにあたっては、SONPOグループ全体における経営方針に基づく内部統制の在り方や損保ジャパンによる内部統制の無効化の状況なども精査することが必要と考えております。ただ、ひとつSONPOホールディングスに要望したいことは社外調査委員会報告書については公表版を開示していただきたい、ということです。

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2023年9月11日 (月)

ジャニーズ事務所問題-サントリー、日本生命、日産もタレント広告使用を見送りへ(ビジネスと人権の視点)

(9月12日13時20分追記あり)(9月12日16時追記あり)

中古車大手の上場会社ネクステージ社も、社長さんが辞任された、とのこと(ネクステージ社は第三者委員会は設置せずにどう危機管理をされるのでしょうか?)。いろいろとブログで書きたい事件がありますが、やはりジャニーズ事務所問題を取り上げます。8月30日のこちらのエントリー以来、当ブログでは企業のESG経営の一環である「ビジネスと人権」への対応に焦点を当てて、ジャニーズ事務所問題を取り扱ってきました。そして東京海上日動社の「ジャニーズ事務所とは新たな契約はしない」旨の宣言以降、多くの企業から宣言が出されています。予想どおり、各社の対応は分かれていますね。

サステナビリティ開示が求められる中で、自社のESG方針に則って「ジャニーズ事務所とのタレント広告に関する契約を解除、もしくは(条件付きも含めて)将来的に新たな契約は締結しない」と宣言している企業は東京海上、日航、アサヒ、キリンと報じられていましたが、本日、サントリーホールディングス、日本生命も同様の宣言に至っています(たとえばこちらのニュース)。また、ロート製薬、大正製薬、日産※、コーセー、日清オイリオ、サッポロホールディングスのように「(当面は続けるが)検討中」との企業も多数あります。さらにモスフードサービスや大阪市のように「契約解除は検討していない。いかなる性加害も許されない。今後については、被害者救済と再発防止の実施状況を確認しながら適切に対応する」「タレントは誇りを持って活動を続けており、一緒に大阪を盛り上げていきたい」と宣言する企業、自治体もあります。

(追記:9月11日21時の日経ニュースでは、日産が今後のジャニーズ事務所所属タレントとの契約は見送る旨、公表しています。現在出演中の大物タレントとの契約は継続し、満了時にまた検討する、とのこと)

契約解除もしくは新たな契約見送りを宣言している企業については「ビジネスと人権」に関する自社の取組みとの齟齬は生じないので、その本気度について議論する余地はないと思います(アサヒグループホールディングスのトップの方が朝日新聞のインタビューに答えておられますが、まさにこのとおりかと-アサヒ社長「ジャニーズ起用継続すれば人権侵害に寛容ということに」)。

一方「検討中」の企業および「今後も継続する」という企業については、現時点では何も理由を示していないのが残念です。所属タレントには(不利益を甘受すべき)問題はないのであり、ファンのためにも広告として使用したい気持ちはみな同じです。ただ、理由として示さないといけないのは「(契約を継続することで)児童虐待を容認してきた企業の収益にこれからも寄与することが、自社の掲げた企業行動規範となぜ矛盾しないのか。世界的には『児童虐待を容認する企業』と指摘されるリスクに対して、将来的にどう反論するのか」という点です。ESG経営を標榜していることの「本気度」は、このような疑問にどう正当な理由を示すのかということに尽きると思います。

ちなみにジャニーズ事務所のビジネスモデルは単純なタレントプロモーションとは言えないですよね。小学校低学年からjuniorとして育成して、そこから素質ある者を選抜してデビューさせるというビジネスモデルです。これからも児童との接触は切っても切れないわけですから、再発防止策はかなりむずかしい提言になるのでは。そこを取引企業はどう考えるのでしょうか。

前のエントリーでも書きましたが、私は企業によって判断が分かれることはサステナビリティ開示にとっては良いことだと思っていますが、単純に横並びで他社の様子をうかがって、世間の空気に従うようではもはやどんなに立派なESG開示情報を並べていても、投資家やステークホルダーからは「自社の利益のためには噓八百並べても平気な企業」と冷静に評価されるだけに終わってしまうと思います。たとえば検討中、契約継続を選択している企業であれば、①どのようなガバナンス、再発防止策、被害者救済が外から判断できた場合には契約継続(もしくは解消)となるのか(具体的な判断基準の開示)、②判断基準を明確に開示できないのであれば、自社による監査・調査権限の行使を主張して、ジャニーズ事務所にこれを承諾させることができるか(米国ではよく取引相手方への監査のために公認不正検査士が活用される場面)、③ジャニーズ事務所を経由せずに、自社と(事業主としての)タレントとの契約を締結できるか、というあたりを模索して自社の企業行動規範との整合性を検討する必要があるのではないでしょうか。

9月12日13時20分追記:本日もマクドナルド、第一三共が「事務所との新たな契約はしない」という方針を開示しています。検討中とされていた企業が、やはり人権方針の徹底を示したものと思われます。

9月12日16時追記:これまで「検討中」としていた花王も、いよいよ「可及的速やかに広告契約を中止します」とのこと。ただし事務所との契約は継続して、今後の事務所の対応を見守るとのこと。なお資生堂は会見以前に早々に「特定のジャニーズタレント広告起用の予定白紙撤回」を表明していました。カネボウ化粧品、コーセーはどうされるのでしょうか?

※ ちなみに9月7日時点でジャニーズ事務所の所属タレントが広告出演している企業は127社もあるのですね(福島県、大阪観光局含む)。まだまだ方針を表明している企業は少なく、大手企業でも様子見をしているところが多いようです。私の個人的な意見は、「契約解消」「契約継続」いずれについても、きちんと理由を述べて開示している企業はESG経営の本気度が高い、様子見の会社は「なんちゃってESG」の可能性がある、あるいは営業部門とコンプライアンス部門との力関係のバランスが崩壊している、というところです。すでに機関投資家は私以上に敏感にそのあたりを検証している模様です。サステナビリティ開示はこういった場合にたいへん有用、ということでしょうか。

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2023年9月 7日 (木)

東京海上日動、ジャニーズ事務所との広告契約の更新を停止(ビジネスと人権の視点)

8月30日のエントリー「ジャニーズ事務所問題-「ビジネスと人権」に対する日本企業の本気度はいかに?」でも書きましたが、いよいよ事業者の「ビジネスと人権」への対応が明らかになりつつあります。

本日(9月7日)の株式会社ジャニーズ事務所の新体制発表会見(過去における創業者による児童虐待の事実を正式に認める)、そして主要テレビ局の「今後もタレントを使い続ける」との宣言により、今度はジャニーズ所属タレントが出演する番組に広告料を出す側、ジャニーズ事務所のタレントをイメージブランドとして活用する側の事業者の対応が問題となります。いち早く、東京海上日動社がジャニーズ事務所との広告契約については今後更新しないことを決定、事務所タレントを使用している現契約の即時解除を検討と報じられています(朝日新聞ニュースはこちらです)。

東京海上日動社の広告に出演しておられる方は、世間的にはとても好感度の高いタレントさんですが、やはり「児童虐待を容認してきた企業(ジャニーズ事務所)の収益に寄与することは、国内だけでなく海外にも説明がつかない」ということで毅然とした対応を決断した、ということかと。今後は、主要メディアが制作するジャニーズ所属タレント出演番組への広告や、企業が契約するタレントとの契約について、個々の事業者が東京海上日動社と同様、どのような経営判断に至るのか、多くの国民が注目することになりますね。まさに「ビジネスと人権」への企業の姿勢の本気度が試されるところです。私としては、むしろ「使い続ける正当な理由」「広告料を出す正当な理由」のほうを知りたい。それが日本および海外の人たちに受け入れられるものかどうか。

なお、個々の事業者の経営判断なので、主要テレビ局の対応についての個人的な意見は控えますが、今後もジャニーズ事務所の収益獲得に寄与するわけですから、なぜ「児童虐待の被害拡大を助長してきた主要テレビ局として、今後もジャニーズ事務所の収益寄与に貢献することが企業理念に反することにならないのか、人権侵害を絶対容認しないと宣言することとなぜ矛盾しないのか」合理的な説明が求められるはずです(おそらく、その説明がなければ海外メディアからは大きな批判を受け続けるでしょうし、今後、児童虐待を批判する報道は困難となると思います)。

 

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2023年9月 1日 (金)

ジャニーズ事務所問題-各放送局の声明は海外動画配信事業者に通用するだろうか?

金融庁の企業会計審議会(内部統制部会)の委員としては、改訂「Q&A」が公表されましたので、そちらへの意見を書きたいところですが、これはまた別の機会として、8月30日にジャニーズ事務所問題-「ビジネスと人権」に対する日本企業の本気度はいかに?、なるエントリーを書きましたが、本日はその続編です。その後、株式会社ジャニーズ事務所のHPで公表されている調査報告書(公表版)を読みましたが、報告書の52頁以下において、

ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる

と「メディアの沈黙」について指摘があります。そしてこの「マスメディアからの批判を受けることがない」理由として、その前の部分で

テレビ局をはじめとするマスメディア側としても、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道すると、ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧から、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられる

との評価が示されています。つまり「マスコミの報道不作為が性被害少年の数を拡大させてしまった可能性が高い」とあるので、テレビ局を含むマスコミの声明では「性暴力は絶対に許されない」「今後のジャニーズ事務所の動向を見守る」としていますが、なぜ性加害を助長するような不作為に至ったのか、今後はそのような不作為を二度と起こさないためにどのような体制を構築するのか、(声明だけで終わることなく)その検証作業が必要ではないでしょうか。

これは単に素朴なコンプライアンス経営の視点から、というわけではなく、テレビ局等の「ビジネスと人権」に関連するリスクマネジメントの視点からの問題提起です。とりわけ民放テレビ局は各局ともスポンサー収益だけでは事業を継続することは困難になりつつあり、今後はネットフリックスやアマゾン、ディズニー等との共同制作、つまり通信事業におけるコンテンツ収入によって事業を継続させることが不可欠なはず。ということは、今後エンターテインメント番組を海外事業者と共同制作するにあたり、ジャニーズ事務所のタレントを使うことについてどのように説明をするのでしょうか。海外諸国からみれば(言葉は厳しいですが)児童虐待(人権侵害)を容認する団体と捉えられてしまいます。

事業上のリスクマネジメントの一環として、大手メディアは海外の巨大事業者がどのようにジャニーズ事務所問題を取り上げるのか、そこに注視することが求められるように思います。海外動画配信事業者は、おそらく相当厳しい姿勢で当該問題に対処することが予想されます。

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