ジャニーズ事務所問題-若年女性の「ジャニーズ離れ」加速(元NHK解説委員寄稿)
9月28日の夕刊フジWEB版「若年女性の〝ジャニーズ離れ〟加速、視聴率から読み解く 頼みの綱のタレント人気、NHK【ザ少年倶楽部】が大幅減」を読みました。元NHK解説委員でメディアアナリストの鈴木祐司氏が分析したものだそうです。いやいや驚きました。「タレントに罪はない」というフレーズがよく聞こえてくるので、少なくとも現時点のジャニーズ・タレントが出演している番組の視聴率は(応援の意味を込めて)上がっているのかと思っておりましたが、現実には多くの番組で視聴率を下げているのですね。とくに若年女性への影響が大きいようです。ジャニーズのタレントは海外でもファンが多いので、今後は海外ファンの動向についても調査が行われるかもしれません。
こうなるとタレントのイメージ回復のためにはジャニーズ事務所、メディアともに早期の抜本的な改革が必要です。メディアにおいては、昨日のNHK会長会見、本日のテレビ東京の声明にあるように、①現時点での番組出演を継続するものの、今後は新たなジャニーズ事務所タレントは起用しない、②ジャニーズ事務所の調査委員会報告を受けての自社検証はするが、第三者委員会による調査はしない、という方向で「横並び」することが予想されます。一方、ジャニーズ事務所の改革については(中間報告的ではあるが)10月2日の会見待ち、ということでしょうか。スポンサー企業、メディアともに、この10月2日の「ジャニーズ事務所改革」の報告内容を今後検討する、ということになろうかと。
私個人の意見としましては、上記①は妥当な判断ではありますが、②については各テレビ局(とりわけ在京の民放キー局)に「有事意識」が乏しいと思います。つまり、このような視聴率分析が出て「これはたいへんだ」と思っておられるかもしれませんが、いま、抜本的な対応をしなければ将来的にはもっとテレビ局の経営に影響を及ぼす状況が到来すると考えるからです。といいますのも、すでに以前のエントリーで申し上げているとおり、テレビ各局は、今後海外の巨大通信事業者と共同制作が必要になる、つまりテレビ局の持続的成長のためには放送と通信の融合が不可欠だからです。今回のジャニーズ事務所問題で徹底的な検証をしておかなければ「人権侵害を許容する日本の放送局とは共同制作の事業はできない」との世界的な評価を受けるはずです(これはエライことやと思います)。おそらく海外の事業者によるスポンサー契約もとれないでしょう。
コンプライアンス経営はよく「守りの経営」と言われますが、とんでもない。上記のとおり「攻めの経営」に必須のマネジメントであります。だからこそ、コンプライアンス担当役員、CSR担当役員に任せておけばよい、というものではなく、まさに社外役員を含めた経営トップの「攻めの判断」としてコンプライアンス経営重視の姿勢が必要となります(いや、必要とされる時代になった、と言ったほうがいいかもしれません)。
また、各局は「故ジャニー喜多川氏による性加害の事実が最高裁で認定された2004年当時は、男性性被害による人権問題への認識が甘かった」という弁明を繰り返していますが、これではジャニーズ事務所が設置した調査委員会報告への回答にはなっていません。同報告は、故ジャニー喜多川氏が2004年以降も(2019年頃まで)性加害を繰り返していたと報告しています。したがって、問題を取り上げなかっただけでなく、そのような事実を認識しながらタレントを使い続けてきたこと(つまり2004年以降、2019年に至るまでジャニーズ事務所の収益に貢献してきたこと)が、喜多川氏の性加害継続を助長した、その結果、性被害を受けた被害者を拡大させた、と指摘しています。これに真摯にメディアが向き合うとすれば、なぜ性加害を認識しながら使い続けてきたのか、テレビ局と番組制作会社と再委託事業者との具体的なやりとりにジャニーズ事務所による圧力や忖度はなかったのか、という点の第三者による検証が不可欠だと考えます。これはテレビ局も(「加害者」とまでは申しませんが)「加害者と同視しうる存在」と調査委員会から評価された以上、テレビ局の責務ではないでしょうか。
「あまりにもジャニーズ事務所に忖度しなかった調査委員会」と評されるほど、8月の調査委員会報告書の内容は厳しいものでした。あの報告書をみて、テレビ局も「うちも第三者委員会を設置したら、あれほどのことを書かれるのか」と恐怖を感じたのかもしれません。しかし16年前の「あるある大事典」事件の際、関西テレビは純粋な第三者委員会を設置して厳しい事実認定を示され、さらに67分に及ぶ検証番組を制作して世間の批判にさらされました。有事意識があればテレビ局も(番組制作、編成の独立性を超えて)抜本的な対応はとれると思います。しかし本当の「有事」になってからでは遅すぎます。いまこそ、日本のテレビ局が世界の巨大通信事業者との協働に向けた基盤作りのために、さらには日本のエンターテインメントが海外進出する際の足かせを排除するために、毅然とした対応をとるべき時期ではないでしょうか。世界に向けて「人権方針」を掲げているのであれば、その看板に嘘はないことを行動で示さなければならないと考えます。
| 固定リンク
コメント
この件については(一個人としての嫌悪感はおいておき)純粋にビジネスリスクだけとして見た場合でも、欧米で事業を続ける前提なら、日本国内の報道の風向きではなく、Jeffrey Epsteinの件を前提に判断する必要があるのでは?とこの分野のまったくの素人としてぼんやり思っています…
投稿: ty | 2023年10月 4日 (水) 23時10分
tyさん、ご意見ありがとうございます。いやいや、私もtyさんと全く同じ意見でして、マスメディアが検証結果を出した後は次の問題としてビジネスリスクの件が話題になるだろうと思っています。
エプスタイン氏が投資家ゆえに銀行の法的責任が厳しく問われたのであれば、エンターテインメント事業者の加害行為についてはメディアに巨額の賠償責任を認められるかどうか。少なくともその程度に有事意識は持たねばならないのでは。
投稿: toshi | 2023年10月 5日 (木) 10時51分