ジャニーズ事務所問題-さすが欧米企業の対応だと思います(P&G、アフラックの人権リスクへの対応)
花王の元法務担当執行役員(現 KADOKAWA社外取締役)の杉山さんからコメントを頂戴しました(ご無沙汰しております)。
今日の朝日新聞Webの記事です(記事はこちらです)。このPG社長は、欧米の倫理対応の一つの見識、すなわち逃げるのではなくステークホルダーとして監視していく、を代表していると思いますが、山口さんの意見を是非お聞きしたく。
私はこの記事で示されているP&G社長さんの見解、およびさきほど報じられていましたアフラック生命保険の見解については前向きに捉えています。前のエントリーで述べたことを再掲しますが、
私は企業によって判断が分かれることはサステナビリティ開示にとっては良いことだと思っていますが、単純に横並びで他社の様子をうかがって、世間の空気に従うようではもはやどんなに立派なESG開示情報を並べていても、投資家やステークホルダーからは「自社の利益のためには噓八百並べても平気な企業」と冷静に評価されるだけに終わってしまうと思います。
日本企業の場合、自社の対応を検討するにあたっては、①自社の人権方針、②ビジネスと人権の指導原則(Ⅱ第3項)、③(上場、非上場にかかわらず)東証・不祥事予防のプリンシプル(原則6 サプライチェーンを展望した責任感)を尊重すべきと考えています。そのうえでジャニーズ事務所との契約を解消すべきか、継続すべきであればどのような行動をとるべきかを自身で考えて開示すべきです。私自身は逃げるのも、逃げずに取引先ガバナンスに積極的に関与するのも、これらの人権ルールへの遵守を真摯に検討したうえでの決断であれば説明責任は果たせると思います。ここ数日で、「新たな契約は締結しない」という方向で「契約解消ドミノ」になっていますが、私からしますと(本当に人権ルールへの対応を検討したのだろうか・・・と懐疑的になっておりまして)やや残念な気持ちです。もちろん、ジャニーズ事務所の性加害問題自体、本当にこれで事実関係は明らかになったのかどうか、まだまだ新事実が出てくるのではないか・・・という懸念もあり、そのあたりで対応を決めかねている企業もあるかもしれませんが。
P&Gの場合、契約を継続したうえで自社の行動指針に沿った対応を積極的にジャニーズ事務所に要望し、その変革に関与するわけですから、真剣に検討したうえでの判断ではないでしょうか。ただ、変革に関与するとしても、ジャニーズ事務所のビジネスモデルはきわめて複雑ですし、ガバナンス再構築にはプロ級のスキルが求められると思いますので投入できるリソースが必要かと。また、アフラックについても、事務所との契約は解消しつつもタレント個人との契約を締結する(ことを検討中)ということも、(個人的にはエンターテインメント業界の慣行からすれば、事務所に所属しつつ個人契約を結ぶというのはきわめて困難な部分があるとは思いますが)ひとつの判断と考えます。いずれも世間から批判を浴びるリスクはあるのですが、風向きもなかった最初に「契約更新は見送る」と開示した東京海上日動、JALと同様、人権リスクから逃げない姿勢は尊敬すべき態度と考えます。宝飾のカルティエは、広告タレントに直接辞退勧告を行ったと報じられており、これもなかなか日本企業ではできないかなぁと感じています。
ただ、ステークホルダーの逃げない姿勢を当のジャニーズ事務所が歓迎するかどうかは別の問題ですね。ステークホルダーの意見を尊重する姿勢があるならば、もっと根本的な改革姿勢をジャニーズ事務所が示しているようにも思います。番組出演料を1年間中抜きしないという見解が事務所から出されましたが、それでは出演に要する経費はどうするのか、そもそも出演料は誰が決めるのか、出演の可否もタレントが決めるのか等、検討すべき課題は多いわけで、その課題解決の方法次第では「それは将来の事務所収益へのコストにすぎないのでは」と言われてもしかたないように思われます。まだまだジャニーズ事務所問題は今後も急展開があるかもしれませんので、「ビジネスと人権」の視点から注目をしたいところです。
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コメント
山口さん ご見解ありがとうございました。自分の頭の整理ができました。
杉山忠昭
投稿: 杉山忠昭 Ted SUGIYAMA (Mr.) | 2023年9月19日 (火) 16時51分