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2023年9月13日 (水)

ビッグモーター事案-損保ジャパンの親会社責任を認めるのは難しいのでは?

昨日(9月11日)の朝日新聞有料版記事「調査報告書の書き換え、損保ジャパンの出向者関与 BMの部長指示で」を読みましたが、ここに書かれた記事の内容が真実であるとすれば、損保ジャパンのガバナンス、コンプライアンス意識にはかなり深刻な問題がありますね。先日の記者会見でも損保ジャパンの親会社であるSOMPOホールディングスCEOの方に対して「どう責任を果たすつもりか」との質問が飛んでいましたが、なるほど親会社経営陣の責任問題にも発展しそうな気配も感じられます。

実は先日の会見の前後に、いくつかのメディアから取材の申し込みがありましたが、いずれも「親会社であるSOMPOホールディングスの経営トップの責任はあると思いますか、その根拠は?」というものでした。私は社外調査報告書も出ていない状況では、どのような根拠で親会社経営者の責任が発生するのか不明であり、現状では回答できない、と申し上げました(おそらく記者の皆様は責任が認められる、なぜなら・・・といった回答を期待されていたと思います)。

もちろん金融庁への報告内容や社外調査委員会報告書の内容が判明すれば意見も変わるかもしれませんが、私は親会社であるSOMPOホールディングスの経営陣の経営責任を問うことは(よほどの隠れた事情が認められないかぎり)難しいのではないかと考えています。

Sonpogroup02

上図は2018年6月8日の日経朝刊記事をもとに、私個人で要旨をまとめたものです。記事のテーマは買収した海外子会社への統治については大手損保の間で三者三様である、ということを報じたものです。ただ、この各社方針は海外のみならず、国内事業会社への統治方針にも通じるものではないでしょうか。SOMPOホールディングスは、現経営トップの方がコメントされているのですが、スピード感を重視して、経営判断はグループ会社に極力移譲すべきと述べておられます(逆に東京海上日動は中央集権的な意思決定を重視しておられるようです)。つまり、この図表でもおわかりのとおり、グループガバナンスの構築については、親会社の広範な裁量権が認められる領域であり、損保ジャパンとSONPOホールディングスとの関係でも、経営判断のスピード重視、重要な意思決定権の移譲、ということで対応されていたのではないかと。

たしかにSONPOホールディングスの経営トップの方も、社外取締役として損保ジャパンの役員会(取締役会)には出席されていたと思いますが、このたびビッグモーターとの取引再開を決めた「役員会議」は取締役会ではなく、一部の有力役員が集まった会議体のようなので、損保ジャパンのトップの方は、むしろ親会社に(意図的に)情報が届かない状況を作出したうえで決断をされた可能性が高いように思います。ちなみに記者会見の際、SONPOホールディングスのCEOの方は「ビッグモーターの前社長とは面識がなく、一度も会ったこともない」と断言されていました。

これは、いわゆる「(内部統制の限界としての)内部統制の無視、無効化」の典型例であって、親会社がどんなに企業集団内部統制を立派に構築していたとしても限界があると思います。事の重大性からみれば、親会社の責任を追及したい気持ちもわかるのですが、経営責任を問うにしてもなんらかの親会社経営陣に帰責性が認められる必要があります。帰責性を前提とした親会社トップの経営責任を考えるにあたっては、SONPOグループ全体における経営方針に基づく内部統制の在り方や損保ジャパンによる内部統制の無効化の状況なども精査することが必要と考えております。ただ、ひとつSONPOホールディングスに要望したいことは社外調査委員会報告書については公表版を開示していただきたい、ということです。

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コメント

9/11の記事と合わせて、日本企業でもジェネラル・カウンセルがもっと普及するべきなのかなと改めて思いました。

伝統的なサラリーマン法務部と、弁護士資格を持つ社外取締役/監査役がいるだけでは、リスク顕現前の危険予知→対処には限界がある気がします。
山口先生のような厳しい意見をズバリといえる人が日常的に必要なのかと。
(山口先生のお仕事にも関わる言及で大変恐縮ですが...)

炭鉱のカナリアor番頭さん的に、「これ、まずくないですか?」とタイムリーに耳打ちできるジェネラル・カウンセルと、それに耳を傾けることのできるCEOの組み合わせが理想だと勝手に想像しています。

投稿: てふ | 2023年9月13日 (水) 08時49分

てふさん、コメントありがとうございます。実際にジェネラルカウンセルをされている方にお話を聞くと「ここからが第一歩。経営者にどんなことがジェネラルカウンセルの仕事であるかを理解してもらうことがこれからの課題」とおっしゃっていました。たしかにリスペクトされるような企業文化、もしくは経営者素養が必要なのでしょうね。

投稿: toshi | 2023年9月13日 (水) 14時23分

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