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2023年10月31日 (火)

日大アメフト薬物事件-第三者委員会報告書への期待

本日報道されているところによりますと、10月30日に日大アメフト薬物疑惑事件に関する第三者委員会の報告書が文科省に提出され、これを受けて日大は報告書の概要説明を行う臨時理事会を開催し、31日には午後4時から同委員会の弁護士3名による記者会見が行われるとのこと(たとえば産経新聞ニュースはこちらです)。いよいよ事件が動き出しましたね。

残念ながら、私は朝から夜まで諸々の仕事が入っていて会見はフォローできませんが、とても報告書の内容には関心を抱いております。文科省に提出とありますが、報告書は(世間に向けて)開示版かなにか公表されるのでしょうか?会見を開くということなので、少なくともメディア向けの概要版は公表されると思いますが、ぜひとも報告書全文の公開を期待したいところです(おそらく全文が公開されないと、昨年10月あたりからの保護者会、アメフト関係者、学生連盟、大学当局、そして警察の時系列的な動きがわからないと思うからです)。

あと、少しマニアックな興味ですが、第三者委員会の事務局って、機能したのでしょうか?今回の日大アメフト薬物事案をみていて、内部文書がマスコミにリークされる等、日大のガバナンスには相当に問題がありそうで、そもそも第三者委員会の事務局がしっかり組成できたのかどうか、とても不安です。とりわけ理事長と副学長とが一枚岩ではないので、「理事長派」「副学長派」とかで内部がガタガタしておりますと、しっかりした委員会事務局の設置は期待できず、おおよそ第三者委員会の中立公正な活動が困難になってしまうような気がします。

また、薬物事件について、警察の捜査も現在進行形ですよね。警察が押収している証拠物には、委員会がなかなかアクセスできないのではないかと思いますが、そのあたりが事実認定にどれほどの影響があるのか。

ともかく、ガバナンスに精通しておられる方々が委員なので、関係者の責任認定を含め、事件ができるだけ解明されることを期待しております。

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2023年10月26日 (木)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSの調査対応を高く評価する

25日の深夜に「性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件」に関する最高裁大法廷決定の全文を読みました。私個人としては、三浦、草野、宇賀裁判官の反対意見に賛同するものです(本ブログはビジネス法務に関するものなので、これ以上のコメントは控えます)。

さて、10月25日のTBS社長の定例会見にて、TBSはSMILE-UP事案(旧ジャニーズ事務所性加害問題)について、TBSと旧ジャニーズ事務所との関係について外部弁護士による調査を開始したことが報告されました(朝日新聞ニュースはこちら)。すでに社内では検証が行われて検証番組も放送されましたが、

(佐々木社長)会社としても、今後は弁護士の力もお借りして、中立的な立場からの社内調査も実施する。幅広く調査し、まとまった提言にする。事務所との付き合い方も含めて、調査を受けて考えていく

とのことで、中立公正な立場から性加害行為への助長行為の有無について調査を進めるそうです。当ブログでも、かねてより民放各社が第三者委員会を設置すべきと主張してきましたが(たとえば「ジャニーズ事務所問題-若年女性の「ジャニーズ離れ」加速(元NHK解説委員寄稿)」、他局に先駆けてTBSが複数の外部弁護士による調査・検証を始めたことは高く評価したいと思います。TBSも、今後は「通信と放送の融合」を目指し、海外の通信事業者との番組共同制作をビジネスの目玉に挙げているので、後ろ向きではなく、前向きな戦略として「ビジネスと人権」に対応するものと理解いたしました。

ただ、外部の弁護士による調査・検証は「調査委員会」として行うのか、何をどの範囲で調査対象とするのか、調査・検証の結果については報告書として公表されるのか、わからないところもあります。最近の社外調査委員会報告書はビッグモーター、損保ジャパン、SMILE-UP社いずれも企業への風向きを一気に変えるだけのインパクトがありました。TBSも、ある程度は覚悟の上で外部弁護士の調査に委ねたものと思います。できれば報告書は公表していただき、TBS自身やスポンサー企業がSMILE-UP社(および事業を引き継ぐ新会社)との取引を再開すべきかどうか、判断するための資料として(公共財として)活用できればいいですね。さあ、これにNHK、その他民放キー局が追随して外部委員による調査を開始するのかどうか、さらに注目しておきたいと思います。

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2023年10月24日 (火)

監査役の矜持(きょうじ)-「監査役のヒーローはいらない」

これまで10社ほど第三者委員会(社外調査委員会等を含む)の委員長をしてきましたが、公表された委員会報告書には、かならず監査役(取締役監査等委員)の行動をかなり詳細に描くようにしてきました。もちろん、委員長である私が監査役周りの責任執筆者として起案をしました。厳しい書き方をしたことで辞任された監査役さん、取締役(監査等委員)さんもいらっしゃいますが、逆に「これは素晴らしい。この監査役さんの行動こそモデルだ」と思って詳細に監査役さんの行動を記したものもあります。本日ご紹介する新刊書も、監査役・監査等委員・監査委員の職務を担う人たちに光を当てたものでありまして、監査役員に就任しておられる方々にぜひともお読みいただきたい一冊です。

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監査役の矜持 曲突徙薪に恩沢なく(岡田譲治 加藤裕則著 同文館出版 2400円税別)

本書は日本の大手総合商社(三井物産)でCFO(最高財務責任者)を経て常勤監査役を務め、その後日本監査役協会の会長を務められた岡田譲治氏と、日本企業のガバナンスに造詣が深く、とりわけ監査役員の行動に関心を抱き続けておられる朝日新聞記者の加藤裕則氏の力作(青山学院大学名誉教授の八田進二先生と岡田氏との対談含む)です。帯書き「監査役のヒーローはいらないんです」は、まさに本書全体を流れる筆者らのテーマです。

岡田氏の三井物産監査役時代の具体的なエピソードから始まり、光のあたらない監査役員の現実、光はあたらないけれども企業のために頑張っている監査役員の姿、輝ける監査役員への道程等、具体的な事例をもとに監査役員さんたちが読んで元気になりそうなお話がたくさん詰まっています。私が務めた三菱電機のガバナンスレビュー委員会の記者会見や報告内容にも光をあててもらい、ガバナンスや内部統制への提案を詳細に取り上げてくださっており、本当に感謝です。そうなんです。マスコミは「役員の責任判定」ばかりに注目して、我々の(再発防止のための)提言についてはほとんどスルーされていたので、こうやって分析していただけるとうれしいです。

副題に「曲突徙薪(きょくとつししん)に恩沢(おんたく)なく」とありますが、これは本書「はじめに」の最後に「漢書」からの引用文として説明があります。「曲突徙薪」とは災難を未然に防ぐ、という意味だそうです。災難を未然に防ごうと忠告をしたところ、その忠告は受け入れられず結果的に火事になってしまった、その折、火事が起きた際に火消しに取組んだ人たちは感謝され、事前に忠告をしていた人は何の恩恵も受けられなかったというもので、それはまさに「監査役」の役割を彷彿とさせるものと(筆者らは)指摘しています。これは「あるある」です。少し例は違いますが「何も不祥事が起きていない」というのは、有能な監査役さんによる平時の監査の結果かもしれません。しかし「何も起きていない」からこそ、監査役さんの評価が上がるということにはならないですね。それでも筆者らは「曲突徙薪に恩沢なし」でいいんです、と語る。

個人的に本書で「いいなあ」と感じたのはまず第一カッター興業(東証プライム)の元社外監査役さんの事例を取り上げていること。頑張っている監査役さんの事例なのですが、ブログ界隈でこの監査役さんに光を当てているのは甲南大学の梅本教授のブログくらいですよね(WEB開示までチェックしておられるとはさすがです!)。つぎにグローバル企業であるがゆえに「指名委員会等設置会社」ではなく「監査役会設置会社」を選択していると述べておられるオムロンの専務執行役員の方のお話ですね。社内で喧々諤々の議論をされたうえでの判断であることがよくわかります。そして最後に政策保有株式の縮減傾向に対する話題です。いろいろと意見はあるかもしれませんが、こちらもホンネの議論が必要だと感じました。ちなみに日本監査役協会では、上記第一カッター興業の元監査役の方を実務研究会にお招きしたそうですし、最近は任意の指名報酬委員会を設置している会社における監査等委員会の在り方を報告書でまとめる等、なかなか「尖った企画」にも前向きですね。とても良い傾向かと(すいません、偉そうな物言いで・・・)。

監査役員や内部監査担当者、法務・経理に関わっておられる社員の方なら、どこから読み始めても「他人事ではなく自分事」と感じることができる話題ばかりです。ぜひ、書店で一度お手に取って中身を斜め読みしてみてはいかがでしょうか(10月26日発売とのこと)。じっくり読んでみたくなると思いますよ。

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2023年10月23日 (月)

御礼/ ココログ・人気ブログランキング4位となりました。

20231022 いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。おかげ様で10月22日(日曜日)のココログ・人気ブログランキングにて、全国4位という信じられない結果となりました。もちろん最大瞬間風速的順位ではありますが、苦節18年(?)ココログのトップページに掲載されるのは初めてですので(また、たぶんこれで最後だと思いますので)、記念に画像をアップしておきました。

世間からみれば「企業法務」というジャンルに興味を持っておられる方はほんの一握りです。そのようなニッチな話題を提供する場末のブログが全体の4位にランクインする、ということはブログというSNS媒体の持つ特徴にあるのだろうな・・・と思います。スマホ世代では圧倒的にX(旧Twitter)、Youtube、Instagram、TikTok等の影響力が強いわけですが、まだまだnoteのように「読むことに知的刺激を受けたい」と思う方々の需要を満たす媒体としては、ブログにも価値がありそうです。名前でアクセス数を稼げる著名人が別のSNSに移ることでブログ全体の閲覧者数は毎年減少しているのかもしれませんが、その分、マニアックな領域を扱うブログの相対的な順位(存在意義?)は上がり、このような結果になっているのかもしれません。

しかしなんといっても10月17日にアップしました日大アメフト薬物問題-二人目の逮捕者(相当にヤバいと思う)へのアクセス数がとんでもなく多かったことが(おそらくリツイートしていただいた皆様のおかげです)「全国4位」としていただいた要因です。常々「今年の最大の企業不祥事は日大アメフト部員薬物問題」と申し上げておりましたが、やはり世間の反応も全く同様であることが示されました。ビッグモーター事件よりも、またSMILE-UP問題よりも、やはり日大事件の社会的影響は大きいのですよね。なんだか「お家騒動」的なストーリーが前面に出てきましたので、第三者委員会の先生方もちょっと仕事がやりにくくなっているのでは、と危惧いたします。

最近、エントリーを書く時点でミスリードしてしまう事実を書いてしまって、あとで訂正することが多いのですが、これも読者の皆様からのタイムリーなご指摘が増えたことの裏返しです。本当にありがとうございます。これからも自身の興味深いネタをご批判・ご異論を承知の上で書かせていただきますので、どうかご指導・ご教示のほどよろしくお願いいたします。

 

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2023年10月18日 (水)

メディファーマ薬機法違反-内部告発で組織ぐるみの不正を暴く?

(記載内容に誤りがありましたので、記事の一部を削除させていただきました。たいへん失礼いたしました。 10月18日 11:50更新)

10月17日、厚労省は立ち入り検査によってメディファーマ社に薬機法違反(データ改ざん等による臨床試験基準違反ほか)が認められたと公表しました。読売新聞ニュースによると「前例のない非常に悪質な行為(厚労省担当者)」とのことで、創業以来10年ほど続いていたと報じられています。読売、日経とも「外部からの情報提供に基づき厚労省が立ち入り検査」と報じていますので、おそらく社員による監督官庁への内部告発によるものと思われます。

昨年6月から施行されている改正公益通報者保護法では、行政機関への通報事実に「真実相当性」が認められなくても適法に通報ができるようになりましたし、通報を受理した行政機関は通報への対応義務が明記されました(さらに、通報者を支援する弁護士数もかなり増えています)。法改正で今後もこのような監督官庁への内部告発は増えることは間違いありません。働き方改革で若年労働力の流動性が高まる中、企業としては通報が社内に届くような工夫がますます求められます。

なお、厚労省の告示を読みましたが、治験データの改ざんもさることながら、「医師・施設スタッフ・CRCのIDパスワード共有、トレーニング代理受講、治験薬保管不備の隠蔽」なども判明しており、かなり組織風土に問題がありそうです。直近の資料によると社員数は70名弱なので、公益通報対応体制の整備義務は「努力義務」ではありますが、内部通報制度から整備していただきたい。

あと、気になりましたのが読売新聞ニュースで「医療機関側も違反に関わっていた可能性があり、(厚労省は)調査を進める。」とのこと。たしかに10年も不正が続いていたとすれば、取引先医療機関も知っていた可能性はありそうです。

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2023年10月17日 (火)

日大アメフト薬物問題-二人目の逮捕者(相当にヤバいと思う)

(記載内容に誤りがありましたので、エントリーの一部を訂正させていただきました 10月18日11:45更新)

また偉大なシンガーソングライターがお亡くなりになりました。世間の方々は「アリス」とか「昴-すばる-」「いい日旅立ち」など、故人の偉大な功績を偲んでおられますが、私はなんといってもチンペイ(谷村さん)とバンバン(ばんばひろふみさん)のラジオ番組です。お二人の掛け合いトークは間違いなく、今の時代では放送できない内容でした(笑)。高校、大学の受験はこの深夜トークに救われました。ご冥福をお祈りいたします。

すでに報じられているとおり、日大アメフト部の部員が麻薬取締法違反罪で起訴された事件において、警視庁は別の4年生の男子部員(21)を、密売人から大麻を譲り受けたとして逮捕した、とのこと(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。

学校法人なので「企業」とは言えませんが、(何度も申し上げているとおり)私的にはこの日大アメフト薬物事件が、「うっかり違法配当事案」と並んで今年最大の企業不祥事と考えています。超大物弁護士の方々が第三者委員会の委員に就任されていますが、果たして委員会報告書は公表されるのか否か(警視庁の捜査がまだまだ継続しているので、簡単には第三者委員会も事実を開示できないかもしれません)。

こちらのエントリーでも述べましたが、そもそも最初の記者会見ではいろいろと世の中に不信感を抱かせる説明が多すぎました。そして会見の2日後、日大は事件について「部員1名による薬物単純所持という個人犯罪」とする見解を示していました。私は部員の不祥事よりも、この会見と、その後の一連の経緯であらわになった日大のガバナンス不全にこそ「今年最大の不祥事」と評価しうる点があるように思います。文科省への報告期限が延長されましたが、本当に真実が明らかになるのでしょうか。とりわけ8月8日の会見当日までに何があったのか、ぜひ真相をお聞かせ願いたい。

以前も申し上げましたが、大学内における学生の薬物使用と闇バイトは「反社会的勢力との癒着」を疑わせる事案です。現時点では大学としては、重大な不正リスクなので、最優先で対処する必要があります。

それにしても、今年は不祥事そのものよりも、不祥事発覚時における組織の有事対応自体が「二次不祥事」として騒がれるケースが多いですね。この「二次不祥事」にこそ、当該企業の社会に対する誠実性が如実に出てくるのでありまして、そこは有能なPR会社をつけてもつけなくてもお化粧には限界がある思います(以前は「その場しのぎ」で対応できた時代もありましたが、世間がガバナンスや内部統制に関心を示す時代となりましたので、時間軸でたどればだいたいわかります)。

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2023年10月13日 (金)

専門家としての企業の危機管理対応の極意とは?

SMILE-UP社(旧ジャニーズ事務所)問題によってエンターテインメント業界におけるタレントの労働者性が話題になっていますが、10月から始まったNHK朝の連ドラ「ブギウギ」では、いよいよ第3週、第4週で少女歌劇団の労働争議(ストライキ)が描かれるようです。主人公のモデルとなった笠置シヅ子さんも委員長(水ノ江瀧子さん、「ターキーさん」ですね、なつかしい♪)とともに高野山に籠城してストライキに参加、そのため処分を受けたそうです。ドラマでは史実どおりかどうかはわかりませんが、今後の展開をとても楽しみにしております。

さて、昨年、三菱電機の品質不正事案のお仕事をご一緒した木目田裕弁護士のインタビュー記事を読みました(中央公論2023年11月号「不祥事対応のエキスパート弁護士が語る-危機管理の要諦」)。さすがにSMILE-UP社関連のお話については「守秘義務がありますので」ということでお話はされていませんが、木目田弁護士の語る危機管理の要諦は「なるほどなぁ」と思わず納得する内容です(最後のほうは、すこし西村あさひの広報のような内容ですが)。

私も場末ではありますが「企業の危機管理対応」を仕事にしている専門家として、そのとおり!と感じたのが「個別対応よりも総合的判断」でコトにあたる、という点です。企業の危機対応は被害者対応、監督官庁対応、司法対応、銀行対応、取引所対応、顧客・取引先対応、海外対応、メディア対応、株主対応等への総合力で「いかに顧客の信用を維持するか、ダメージを最小化するか」というところが「極意」だと考えます。

ところが上記対応は「あちらを立てればこちらが立たず」となりまして、何を最優先で守るべきかという点は、有事に置かれた個別企業の状況から判断せざるを得ないわけです(たとえばSMILE-UP社の件では、エンターテインメント業界であるがゆえに被害者対応、メディア対応、海外対応あたりが最優先かと)。本当にマニュアルが存在しない世界であり、バランス感覚が求められる。結果の善し悪しの責任はすべてかぶる覚悟が必要です。ただ、そこに「プロでないとできない仕事」の醍醐味があると感じております。様々な分野の専門家の方のご意見なども拝聴しながら、また会社の経営陣とコミュニケーションを図りながら進めるのが常道ですね。

ちょっと気になりましたのが「(危機管理対応では)メディア対応も重要になってきました(ね)」との質問者のフリに対して

(木目田弁護士)「当たり前のことですが、嘘はつかないことです。もちろん言えること、言えないことはありますが、問題があれば隠さないで公表し、対応する。これが重要だと思います」

(;^_^A・・・・・頑張ってください!!m(__)m。

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2023年10月12日 (木)

BM・損保ジャパン癒着問題-内部通報よりも内部告発が決め手となる

昨日(10月11日)、SONPOホールディングスのHPに「ビッグモーター社による不正事案に関する社外調査委員会の中間報告書受領について」として、外部有識者による調査委員会報告書(中間報告書)が公表されましたね。一読して感想を日経エキスパートのほうへコメントしましたが、たくさん「いいね」をいただきました(ありがとうございます)。

「エキスパート」では、わずか300字でコメントしなければならず、また影響度が半端ないので、本当に書きたいことが書けなかったりするわけですが、実は「おお!」と思ったことがありまして、こちらのブログで短めに書いておきます(身の回りの本業でいろいろございまして、ブログを書いている場合ではないかもしれませんが・・・)。

以下は私の主観的な推測も含まれますのでご注意ください。今でこそ日本を代表する保険会社が大ピンチに陥っている状況ですが、ビッグモーター社の保険金不適切請求案件を契機として「損保会社の一大事」になるまでにはかなり長い道のりがあったはずです。この道のりを振り返ってみますと、やはり内部通報、内部告発(社員による外部第三者への情報提供)の存在が大きかったと思われます。

まず2022年1月ころのBM社員による内部告発(損保協会への通報)。大手損保がBM社とのDRS取引を停止するきっかけとなりました。その後、2022年8月下旬に某経済誌が損保ジャパンとBM社との癒着問題(不可解なDRS取引の再開)を初めて取り上げることになりますが、昨日の報告書を読むと、どうも損保ジャパンの社内から情報がタイムリーに某経済誌記者に提供されていたような気配がありますね(報告書28頁あたりを読むと、損保ジャパンが金融庁に提出した文書すら適時に記者の手元にあったそうです)。ここは推測ですが、損保ジャパンの社員によるマスコミへの情報提供、つまり内部告発の存在が(本癒着問題を世に出すにあたり)大きかったのではないでしょうか。

そして最後に今年2月のフライデー記事ですね。BM社員がフライデー記者に「過剰な修理やっておきました!」と上司に報告するLINEメールの画像とともに、過剰修理の様子を写した画像を提供しています。7年ほど前の「日大アメフト事件」と同様、世間で騒ぎが大きくなるのは、誰でもひとめで「こりゃあかんやろ!」と憤慨するための画像、動画、録音データの存在に左右されます。このフライデーのWEB記事がここに至るまでのポイントになったような気がいたします。

BM社内では、以前から内部通報が届いていたらしいですし、また、某経済誌のニュースは昨年から報じられていましたが、なかなか火がつくことはありませんでした。改正公益通報者保護法は、社員(退職者を含む)による外部への情報提供行為の保護を厚くしましたが、ぜひ職場環境を変えるためにも、内部通報だけでなく内部告発についても労働者の正当な行動として理解をしていただきたいなぁと考える次第です。内部告発の動機は「正義感」ではなく「自分の職場を働きやすくしたい」という私利私欲だけで十分なのです。

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2023年10月10日 (火)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)問題-今後の取引企業の対応について考える(その1)

月刊「世界」2023年11月号の記事「座談会-【芸能と人権】 ジャニーズ問題のゆくえ」を読みました。SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)問題に長く関わってこられた方々によるお話は、やはり深みがあります。日本で放映されたBBCの喜多川氏性加害に関する番組は、5年も前から取材が開始されていたのですね。おそらくBBCの元人気司会者やアメリカの元映画プロデューサーの性加害事件を契機に「日本でも同様の問題があるのではないか、日本はこの問題にどう対処しているのか」という疑問からジャニーズ事務所関係者への取材が開始されたものと推測します(思うに、このBBCの取材は番組がNHKに取り上げられるまで、関係者は知らなかったのでしょうか)。

まず上記「世界」の記事を読んで思ったことは、私が想像していたよりも「被害者への法を超えた救済」には時間を要するのではないか、ということです。そもそも被害者とされる方々の確定作業に時間を要することはすでに報じられているところですが、「法を超えた救済」とは①法的に消滅時効の要件に該当する賠償請求権についてもSMILE-UPは時効を援用しないこと、②不法行為請求権の要件事実に関する主張・立証責任を転換すること(要件該当性がないことはSMILE-UP側が立証しなければならないこと)、③金銭賠償以外の救済措置、たとえば(被害者からの希望があれば)ハラスメント被害回復のためのカウンセリングを行うことと理解しております。そうなると、おそらく5年から10年くらいは被害救済のための時間が必要となるはずであり、SMILE-UP社はステークホルダーに対して継続的に「法を超えた救済」の進捗状況について開示しなければならない、ということになります。まず、メディアをはじめステークホルダー企業については、このSMILE-UP社の被害救済の状況を長きにわたりモニタリングしなければなりません。

つぎに(まだ名称は不明ですが)旧ジャニーズ事務所の事業運営を引き継ぐ新会社については、もし各ステークホルダーが取引を再開するのであれば「性加害を容認してきた企業の利益に貢献している」と評価される事態は避けなければならないので、その取引再開にあたっては「タレント本人の収益にのみ寄与している」と説明できるだけの合理的な理由が必要となります。その合理的な理由を判断するために新会社へのモニタリングが必要となります。

たとえば広告に出演しているタレントは新会社とマネジメント契約ではなくエージェント契約を締結しているから、というだけでは合理的な理由にはなりえません。形のうえでは「エージェント契約」であったとしても、実際に雇用契約なのか、請負契約なのか、本当にエージェント契約なのかは、そのタレントと事務所との実体から判断されるからです(少なくとも司法判断ではそのような実務です)。税務上の取扱い、専属性の有無、諸経費の負担、業務における裁量権の幅、社会保険の有無等をきちんと確認したうえで、「事務所はタレントから手数料を受領しているだけであり、あくまでも代理人に過ぎない」と評価することが求められるでしょう。

なお、タレントによっては新会社とマネジメント契約(雇用契約、請負契約)を締結している場合もあるかもしれませんが、今後発表される新会社のガバナンスや株主構成が大きく変わらない限りは「喜多川氏が亡くなるまで、性加害を容認してきた企業への収益貢献企業」と評価される可能性はあると考えます。つい先日、アメリカにおいて性加害を繰り返していた元映画プロデューサーに資金支援をしていたとして、ドイツ銀行やJPモルガン銀行が100億、300億(いずれも日本円)の損害賠償金を支払った集団訴訟が終結しています。今回の性加害事件の動向は海外からも注目されているので、各企業とも新たなレピュテーションリスクの顕在化だけは回避したいところです。

また、上記「世界」の記事で初めて知りましたが、ジャニーズ事務所は日本音楽事業者協会には所属をしていなかったのですね。つまりエンタメ業界における自主規制の網からはずれていたので、ガバナンスについても監視の目が届いていなかったようです(たとえば取締役会が全く開催されていなかった等)。まずは新会社が設立された場合には、この協会にきちんと所属することを、取引企業としては要請することになると思います。このような協会に苦情処理システムがあるのかどうかは不明ですが、ハラスメントに特化した通報窓口が自主規制組織に存在するのであれば、少しは事務所とタレントとの対等性が高まるのではないでしょうか。

さらに新会社の設立計画が明らかになれば(たとえば知的財産権の帰属、取締役会構成員、株主の属性及びファイナンスの手法)、新会社とタレントもしくはタレントが経営する会社との関係でさらに検討すべき問題が出てきます。今後、新会社となんらかの関係を有するタレントを起用するにあたり、取引企業がリスクマネジメントとして対応を検討するのであれば「横並び」「様子見」の精神で対応することも考えられますが、「ビジネスと人権」に基づく企業方針に従った対応を検討するのであれば、これまで述べてきたような厳しい姿勢が今後も求められるものと考えます。

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2023年10月 6日 (金)

松田教授の日経「経済教室」-能力を伴う多様性確保について

SMILE-UP事案については「NGリスト」などが世間を騒がせており、少々ステークホルダーである企業の対応を論じるタイミングからは逸脱している様子なので、すこし傍観しております。しかしスポンサー企業としても対応に困るような状況になってきましたね。そもそもSMILE-UP社の開示情報をどこまで信用してよいのでしょうか。

さて、今朝(10月6日)の日経朝刊「経済教室-企業統治の課題(下)」では、東京都立大学の松田千恵子教授の論稿が掲載されており、サステナビリティへの企業の取組み(企業の視点と投資家の視点のズレ)や、ガバナンス改革の実質化に向けた多様性の考え方についてきわめて示唆に富む解説がされています。なかでも注目すべきは女性役員比率と業績(ROA)との関係です(これまで、学者の方がここまで明確に意見を述べられた方はいらっしゃらなかったのではないかと)。

私の講演等をお聴きいただいた方ならご存知かと思いますが、私はダイバーシティへの取組みについて「いくら女性の社外取締役を増やしても株価は上がるかもしれないが、業績との関係で有意性は認められない。しかし女性の部長や執行役員の比率が高まれば、間違いなく業績に影響を及ぼす。そのような意味でダイバーシティは重要」と(ここ3年ほど)いろんなところで述べてきました。

本日の松田先生のご論稿(後半部分)では、昨年の学会発表資料に基づいて、「同条件の比較では、女性社外取締役の存在は業績とは無関係だったが、実力で勝ち上がってきた女性執行役員の存在は業績にプラスの影響を与えた」と述べておられます。私は単純に日頃の仕事(ガバナンス構築や内部統制システム構築のお手伝いや有事対応、通報に基づく調査活動等)の中で自身が経験したことに基づいて述べているだけですが、松田先生は調査結果に基づいたご意見。上記ご論稿の中で示された図表をみると、女性執行役員比率と女性社外取締役比率との差は歴然としています。

なぜこのような差が生じるのか・・・という理由については、もちろん私なりの(数々の失敗に基づく)持論がありますが、ブログでは差しさわりがあるので述べません。また、「攻めの経営」との関係では女性社外取締役の果たす役割があまり目立たないとしても、ROAとは関係のない「守りの経営」ではかなり力を発揮する傾向があることから、もちろん女性社外取締役の役割は大きいものと考えています。ただ、企業業績の向上は、なんといっても社員を動かす力が必要であり、そこに女性管理職がどのように関与するか・・・というところで本気のダイバーシティの発想が求められるはずです。

なお、「デモクラフィー型多様性」と「タスク型多様性」の分類についても、「タスク型多様性」は業績にプラスの有意性が認められた、という点には同感です。ただ世間はタスク型多様性を「ダイバーシティ」とは認めない傾向にあるようにも感じています。このあたり、もっと掘り下げてお話をお聴きしてみたいと思いました。

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2023年10月 4日 (水)

四谷大塚元講師ら個人情報保護法違反事件-法人起訴とグループ会社の内部統制構築義務

今年の代表的な企業不祥事といえばBM(損保大手)、SMILE-UP、日大、電力カルテル、近ツリといったあたりが思い浮かびますが、法律家の視点からすると上場会社の違法配当事案が一番ではないかと思います。先日の日経新聞でも特集記事が出ていましたが、いやいや本当にたくさんの上場会社で「うっかり違法配当事件」が勃発しています(現時点でも次から次へと発覚していますよね)。本当に取締役には過失がなかった、で大丈夫ですかね?私には(こちらのエントリーを書いたときと同様、未だに)モヤモヤ感が残っています(以下、本題)

さて、複数の女児に対する盗撮行為(性的姿態撮影等処罰法違反容疑)で進学塾・四谷大塚の元講師(複数名)が逮捕されましたが、勤務していた四谷大塚についても法人として個人情報保護法違反の容疑で書類送検された、と報じられています(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。最近は営業秘密侵害行為に対して、営業秘密への要件該当性が乏しい案件に個人情報保護法違反を代替適用するなど、情報保護法違反の適用範囲が広がっているような気がします。

ところでまだ起訴されるかどうかは不明ですが、法人としての四谷大塚が刑事立件されるとなれば、個人情報保護法上の両罰規定に基づくわけですから、法人の過失が否定されれば無罪という可能性もあると思われます(通説的見解)。過失がなかったことを立証するのはかなりむずかしいかもしれませんが、四谷大塚は(不起訴or無罪を)争わないのでしょうかね。

ベネッセ民事訴訟では、ベネッセの保有していた個人情報を(従業員が)窃取した受託事業者と契約していたベネッセ子会社だけでなく、その親会社の民事責任も認められていたので(民法719条に基づく共同不法行為責任)、上場会社である四谷大塚の完全親会社も(株主代表訴訟リスク等の)不正リスク管理が必要な状況にあるように思われます(たしか令和2年の個人情報保護法改正によって法人の罰金が「1億円以下」と格段に上がりましたよね?これは子会社に科される罰金といえども親会社役員にとっても無関心ではいられないはず)。

四谷大塚の個人情報管理体制に問題があったかどうか、という(法人としての)過失を根拠付ける事実の存否だけでなく、親会社の被害拡大防止措置の有無、子会社の不正予見可能性を根拠付ける事実、その他積極的な被害弁償の状況が(コンプライアンス・プログラムとして)賠償額に斟酌されうる、というのがベネッセ判決(東京高裁令和元年6月27日)の要旨だったので、四谷大塚としては親会社と協議のうえ第三者委員会を設置したほうが良いのでは、と思う次第です(最近は「性加害」とか「女児盗撮」といった、あまり当ブログでは取り上げない事件ばかりで恐縮です)。

 

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2023年10月 3日 (火)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)問題-P&Gジャパンの素早い対応(タレント個人とすでに契約済)

(10月3日14:50更新)

昨日のSMILE-UP社(10月17日商号変更予定の現ジャニーズ事務所、今後は性被害を受けられた方々の心情に配慮して極力「ジャニーズ」の名称は使わないようにいたします)における記者会見を前提とした企業対応については別途ブログで書かせていただくとして、まずはP&G社ジャパンの素早い対応について。朝日新聞ニュース「P&G、ジャニーズ事務所とのCM契約終了 タレントと直接方式に」を読みましたが、すでに過去のSMILE-UPとの契約はすべて解消し、CM出演の4人のタレントとそれぞれ個人契約を締結した、とのこと。これまでのSMILE-UPの対応では不十分と判断したうえでの対応だそうです。

※・・・すいません、諸事情ございまして個別の取材はお断りしております。

ちなみにP&Gジャパンは他の企業のように広告へのタレント使用を中止することなく、これまで粘り強くSMILE-UPの問題への対応について要望を出していたそうです。たとえば朝日新聞ニュース「P&G社長-責任ある広告主でありたい-ジャニーズ起用続ける意図」によると、BBCによる番組がアップされた直後からのようです。

これがグローバル企業の典型的な対応かと。世間では「個人契約など、エンターテインメント業界の掟がありすぎて困難」と指摘されていましたが(私も実はそう思っておりました・・・)、実際には個人契約もできてしまうのですね。たしかV6の岡田准一氏も自身の設立した会社とスポンサー契約等を締結するようですし、こういった流れが企業側、タレント側からも進んでいくものと思います。ただ「ファンクラブ運営」や「諸々の著作権」をSMILE-UP側とどう調整するのか、かなり難しそうですが、各個人、グループが前を向きながら考える、というスタンスになるのでしょう。

(10月3日14:50 追記)

現時点で、私がもっとも共感できる記事はこちらです(ITメディア 窪田氏-「SMILE-UP.」社名を変えても“再生”は難しい なぜ日本企業は素人を「社長」にさせるのか- たしか昨日の記者会見でも実話ナックルズとしてご質問されていたのではないかと)。SMILE-UP問題にかぎらず、日本の企業はこのような閉塞感があるなぁと感じます。

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