監査役の矜持(きょうじ)-「監査役のヒーローはいらない」
これまで10社ほど第三者委員会(社外調査委員会等を含む)の委員長をしてきましたが、公表された委員会報告書には、かならず監査役(取締役監査等委員)の行動をかなり詳細に描くようにしてきました。もちろん、委員長である私が監査役周りの責任執筆者として起案をしました。厳しい書き方をしたことで辞任された監査役さん、取締役(監査等委員)さんもいらっしゃいますが、逆に「これは素晴らしい。この監査役さんの行動こそモデルだ」と思って詳細に監査役さんの行動を記したものもあります。本日ご紹介する新刊書も、監査役・監査等委員・監査委員の職務を担う人たちに光を当てたものでありまして、監査役員に就任しておられる方々にぜひともお読みいただきたい一冊です。
監査役の矜持 曲突徙薪に恩沢なく(岡田譲治 加藤裕則著 同文館出版 2400円税別)
本書は日本の大手総合商社(三井物産)でCFO(最高財務責任者)を経て常勤監査役を務め、その後日本監査役協会の会長を務められた岡田譲治氏と、日本企業のガバナンスに造詣が深く、とりわけ監査役員の行動に関心を抱き続けておられる朝日新聞記者の加藤裕則氏の力作(青山学院大学名誉教授の八田進二先生と岡田氏との対談含む)です。帯書き「監査役のヒーローはいらないんです」は、まさに本書全体を流れる筆者らのテーマです。
岡田氏の三井物産監査役時代の具体的なエピソードから始まり、光のあたらない監査役員の現実、光はあたらないけれども企業のために頑張っている監査役員の姿、輝ける監査役員への道程等、具体的な事例をもとに監査役員さんたちが読んで元気になりそうなお話がたくさん詰まっています。私が務めた三菱電機のガバナンスレビュー委員会の記者会見や報告内容にも光をあててもらい、ガバナンスや内部統制への提案を詳細に取り上げてくださっており、本当に感謝です。そうなんです。マスコミは「役員の責任判定」ばかりに注目して、我々の(再発防止のための)提言についてはほとんどスルーされていたので、こうやって分析していただけるとうれしいです。
副題に「曲突徙薪(きょくとつししん)に恩沢(おんたく)なく」とありますが、これは本書「はじめに」の最後に「漢書」からの引用文として説明があります。「曲突徙薪」とは災難を未然に防ぐ、という意味だそうです。災難を未然に防ごうと忠告をしたところ、その忠告は受け入れられず結果的に火事になってしまった、その折、火事が起きた際に火消しに取組んだ人たちは感謝され、事前に忠告をしていた人は何の恩恵も受けられなかったというもので、それはまさに「監査役」の役割を彷彿とさせるものと(筆者らは)指摘しています。これは「あるある」です。少し例は違いますが「何も不祥事が起きていない」というのは、有能な監査役さんによる平時の監査の結果かもしれません。しかし「何も起きていない」からこそ、監査役さんの評価が上がるということにはならないですね。それでも筆者らは「曲突徙薪に恩沢なし」でいいんです、と語る。
個人的に本書で「いいなあ」と感じたのはまず第一カッター興業(東証プライム)の元社外監査役さんの事例を取り上げていること。頑張っている監査役さんの事例なのですが、ブログ界隈でこの監査役さんに光を当てているのは甲南大学の梅本教授のブログくらいですよね(WEB開示までチェックしておられるとはさすがです!)。つぎにグローバル企業であるがゆえに「指名委員会等設置会社」ではなく「監査役会設置会社」を選択していると述べておられるオムロンの専務執行役員の方のお話ですね。社内で喧々諤々の議論をされたうえでの判断であることがよくわかります。そして最後に政策保有株式の縮減傾向に対する話題です。いろいろと意見はあるかもしれませんが、こちらもホンネの議論が必要だと感じました。ちなみに日本監査役協会では、上記第一カッター興業の元監査役の方を実務研究会にお招きしたそうですし、最近は任意の指名報酬委員会を設置している会社における監査等委員会の在り方を報告書でまとめる等、なかなか「尖った企画」にも前向きですね。とても良い傾向かと(すいません、偉そうな物言いで・・・)。
監査役員や内部監査担当者、法務・経理に関わっておられる社員の方なら、どこから読み始めても「他人事ではなく自分事」と感じることができる話題ばかりです。ぜひ、書店で一度お手に取って中身を斜め読みしてみてはいかがでしょうか(10月26日発売とのこと)。じっくり読んでみたくなると思いますよ。
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コメント
「監査役の覚悟」の続編!!ご紹介ありがとうございます。すぐに購入しました(アマゾンでは残り2点になってました)
投稿: ty | 2023年10月24日 (火) 07時09分