« 2023年10月 | トップページ | 2023年12月 »

2023年11月28日 (火)

日大アメフト薬物問題-理事長と副学長との確執について

さて、ひさりぶりの日大アメフト薬物事件に関するエントリーです。本日(11月27日)警視庁は新たに日大3年生の男子部員を逮捕した、とのことで、当該事件では3人目の逮捕者が出ました。ただ、逮捕者が出たことよりも、副学長がパワハラ(不法行為に基づく損害賠償請求)で林理事長を提訴したことの方が大きく報じられております。まだまだ日大の混迷が続きそうです。

1701086885530_512 理事長が副学長にパワハラをした・・・というのは、①副学長に「労働者性」は認められるか、②理事長と副学長との間には指揮命令関係(優越的地位の存在)が認められるか、といった疑問があるため、厚労省のパワハラ定義からは外れているようにも思えます。ただ、昨年3月の福岡地裁判決(かなり有名)は、株式会社の取締役会で(つまり他の役員の目の前で)、代表取締役会長が代表取締役社長に対してさんざん罵倒するような発言をしたことをパワハラと認定して、会長側に高額の損害賠償責任を認めています。したがって、裁判上は理事長の言動が、客観的にみて副学長の人格を否定するような言動と認められた場合にはパワハラと認定される可能性はあるのでしょうね。

なお、私立大学におけるガバナンスの問題としても、この裁判はとても興味深い。理事長の学長、副学長への指揮監督権限とはどういったものなのか、これまであまり議論されてこなかったので、経営上のガバナンスと教学上のガバナンスの関係が明確ではありません。おそらく開示されている日大の「寄附行為」を読むと、一定の手がかりは把握できるとは思うのですが、学校法人内の力学でいえば「理事会」と「理事長」と「学長(副学長)」と「教授会」ですね(現行法上「評議員会」は除きます)。そのあたりの力関係のねじれが、このたびの提訴に至る要因ではないかと勝手に想像しております。

私事ですが、昔から作家・林真理子氏のファンでして、今年「成熟スイッチ」を読んでいたころは、まさかこんな出来事が起きるとは想像もしておりませんでした(「昨日とは少し違う自分」がこんな形で登場するとは洒落にもならないです)。でもなんとなく「紫綬褒章をとって、日本文藝家協会の理事長になって、つぎに日大の理事長?ちょっと違うのでは?」と思っておりました。たしかエッセイで「(不祥事が続いていた日大を嘆きながら)こんな母校、私が変えてやる」とか述べて、そのノリで就任要請が来たように記憶しています。

日大の第三者委員会も、林理事長が「見て見ぬふりをしていた」と認定したわけではないので、もう少し有事の振る舞いを誰かに相談できなかったのか。学生が平穏に勉強・研究に打ち込める環境、教育の質の確保のための最善策は何か、その答えとしての幕引きを急いだのでしょうか。「芸の肥やし」とするにはあまりにも代償が大きすぎたような気がします。

| | コメント (1)

2023年11月27日 (月)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSHD特別調査委員会報告書について(その1)

「逆転裁判官の真意」(関西テレビ・ローカル)を早速視聴しました。期待していた以上に面白く、いろいろと考えるところがありました。おそらく近日中には関西テレビのtoutubeでご覧いただけるようになると思いますので、私の感想はまたそのときにchannelのご紹介とともにお話ししたいと思います。

さて、11月26日、TBSHD社はSMILE-UP社創業者による性加害問題へのTBSの対応について特別調査委員会報告書を公表し、併せて検証番組を放送しました。検証番組もTVERで拝見しましたが、今回は特別調査委員会報告書についての第一印象について述べておきます。

TBSHDのコンプライアンス担当役員を委員長として、検察官ご出身の弁護士2名を外部委員とする特別調査委員会は、純粋な第三者委員会とは言えませんが、一般の方々が素朴に疑問に感じている点について事実関係を一定程度明らかにしており、本件に対するTBSとしての姿勢がうかがわれる内容でした。新たに判明した事実についてはショッキングな事実もありますが、すでに各メディアが報じていますので、当ブログでは省略いたします。

まず、過去のタレント事件の報道について、編集局と報道局、またラジオ局とのかなり突っ込んだやりとりが印象的です。やはり報道局の公平・公正な報道が歪められたことは重大な問題です。ただ、もう少しツッコんでほしかったのは「このような編成局・番組制作局と報道局とのむずかしいやりとりは、旧ジャニーズ事務所問題以外にも頻繁に起きるものなのか、それとも旧ジャニーズ事務所問題は特別であり、他ではほどんと起きないレアケースだったのか」という点への説明です。ここは再発防止の実効性を検討するうえでも重要かと思いました。

次に「以前から、TBSにもいわゆる『ジャニ担』がいたのではないか?」と誰もが疑問を抱いていたと思います。癒着問題を語るにおいて非常に重要なポイントです。この点、報告書では編成局に担当者らしき人がいたことが明らかにされました(報告書33頁、34頁あたりの記述)。その背景事情として、旧ジャニーズ事務所内部の派閥争いが示されていました。TBSと第一派閥、第二派閥との関係がとても複雑ということだったので、おそらくTBS側でも調整役は必要だったと思います。

ただ、「ジャニ担」がいたとしても、いなかったとしても、忖度や圧力は旧ジャニーズ事務所と「編成局」、「報道局」とのやりとりでとどまっており、もっと個別の力を持った人の意見とか指示というところに光があたったほうがよかったのではないかと(TBSのほとんどの社員がジャニー喜多川氏と会ったことがないそうなので、なおさらです)。役職員の証言から事実認定するには限界があったのかもしれませんが、そこが少しぼやかしているようにも思えました。←ちなみにTBSラジオが編成局からの圧力に屈することなく旧ジャニーズ問題を取り上げることができた背景説明の箇所では、「俺が腹をくくるから」と部下に覚悟を示した特定の上司やラジオ番組の制作に影響を及ぼした外部第三者の存在を実名で取り上げていますので、余計にギャップを感じました。

TBSとしては、再発防止にあたり、今後の防止策の実施状況をモニタリング機関が監視監督したうえで、その進捗状況は逐次公表されるそうです。この点は外部の人から見るとTBSの自浄能力を示すものとして高い評価を得られると思います。TBSを含め、テレビ各局がこれまで示してきた検証結果と比較すると格段に高い評価を得られるはずです。佐々木社長が検証番組で述べておられたように、これからはサプライチェーン全体の人権侵害を防止する責任を果たしていかれることを宣言されたので、今後もしサプライチェーンにおいて不正・不祥事が起きた場合には、決して見て見ぬふりをせず、公正・公平な立場で報道していただきたいと切に希望します。

このTBSHDの検証結果を踏まえて、SMILE-UP社の事業を引き継ぐ新会社とどのようにスポンサー企業が対処すべきか、そのあたりは「その2」で述べたいと思います。

| | コメント (0)

2023年11月24日 (金)

「逆転裁判官の真意」(関西テレビ)への期待(今夜深夜放送)

テレビ局ネタでもうひとつ。11月24日深夜放送(関西ローカル)の「逆転裁判官の真意」は、関西在住の方にはご視聴をお勧めいたします。メディアが個別の元裁判官の「無罪連発」の真意にどこまで迫れるか?上田ディレクター(組織内弁護士)ひいては関西テレビの頑張りに期待いたします。

上田ディレクターといえば、今年、家族が離れ離れになる、えん罪被害の全貌を描いた「ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群」(2023年7月放送)で今年度上期のギャラクシー賞を受賞しておられます(そういえば「あるある大事典」事件直後に、上田さんから請われて天満駅近くの関西テレビ本社に呼ばれたのを思い出しました・・・)。

こちらの番組は頑張って夜中に視聴します!!しかしTVER等で全国ネットで放映されないのでしょうかね?

 

| | コメント (1)

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSHDが26日に特別調査委員会報告書を公表

(以下、仕事中なので短めに)被害者救済の状況だけでなく、旧ジャニーズ事務所の活動を引き継ぐ新会社の社名も未だ明らかではないSMILE-UP社問題ですが、10月26日付けのエントリー「SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)性加害問題-TBSの調査対応を高く評価する」でご紹介していたTBSの(外部弁護士2名を加えた)特別調査委員会報告書がいよいよ11月26日に公表されるようです(TBSHDのリリースはこちらです)。なお、報告書は「全文公表」のようです(もちろん関係者のプライバシーに配慮した「全文開示版」でしょう)。

報告書もさることながら、今回の中立性・第三者性に配慮した調査をもとに検証番組が放映されるそうなので、そちらもTVER等で確認しておきたいと思います(さすがに日曜日の朝5時半から生放送を視聴するのはツライ(^^;))。何度も申し上げますが、今回の検証はグローバル展開を目指すTBS社にとっては将来の事業戦略の成否にも関わる、いわば「攻めのガバナンス、攻めのコンプライアンス」の一環です。ひょっとすると、他の放送事業者やマスコミとは「目指すべきビジネスモデル」が異なるからこそ、かもしれません。ともかく「横並び」ではないTBSHDの姿勢に敬意を表します。

おそらく26日の公表内容によって、TBS社は視聴者をはじめステークホルダーの多くから賛同を得たり、また逆に批判を受けることになるでしょうし、そのリスクを抱えても、あえて調査活動の実践、活動結果の公表に踏み切ることになります。このような「中長期経営計画に沿ったビジネスモデルを実践する姿勢を開示して、同業他社との差異化を図ること」こそ、いま上場会社(及びそのグループ)に求められている「非財務情報の開示」「無形資産(TBSとの関係でいえば他社とのネットワーク・協働)が企業業績に及ぼす影響の開示」への真摯な姿勢だと思います。今後は旧ジャニーズ事務所の運営を引き継ぐ事業者との取引を再開するスポンサー企業にも、個々の企業ごとの姿勢が示されることを期待します。

| | コメント (0)

詳細が知りたい「オープンAI内紛劇」の対立構図

宝塚歌劇団に労基署の立入調査が入ったことが話題になっていますが、パワハラ問題ではなく長時間労働に関する調査なので、とくに新事実が出てくるものではなくて粛々と阪急電鉄側が応じればよいだけの話ではないかと。ただ、阪急電鉄側の自浄能力が疑われるような事態であれば「別の第三者」(たとえばBBCとか海外NPOとか国連人権委員会とか)が問題視する可能性はあるように思います(以下本題です)。

さて、対話型AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」を運営する米オープンAIの内紛劇ですが、同法人は11月22日、理事会が解任したアルトマン氏(前最高経営責任者CEO)をCEO職に復帰させることで基本合意したと公表しました。アルトマン氏の唐突な解任からわずか4日で収束したようで、アルトマン氏の解任かかわった理事3人は退任するとのこと(朝日新聞ニュースはこちらです)。

23日にロイターが報じたところでは、この理事3人とアルトマン氏との対立は「成長」と「開発の危険性」に関する考え方の相違にあったとされていて、解任事件の直前には同法人の研究者有志から役員会に対して「人類を脅かす可能性のある強力なAIの発見について警告する書簡」を送っていたそうです。もちろん世界最先端の技術開発会社であり、非営利法人が支配権を持つという特殊事情もあったと思いますが、AI開発とそのリスクマネジメントの「不調和」がどのような経緯でトップの解任劇にまで至ったのか、ガバナンスやコンプライアンスに関心がある者としては、詳細について知りたいですね。

ガバナンス論議において「攻めのガバナンス」とか「守りのガバナンス」とか「攻めと守りは一体だ」とかいろいろと抽象的な言葉が飛び出しますが、どんな力学が働いて収束に至ったのか。従業員の9割が理事3人の退任を要求したということはもちろん大きかったと思いますが、外部不経済への対応、AI哲学、コンプライアンスなど、どのような要素がどれくらい解任劇収束に影響を及ぼしたのか・・・。なかなか真実はオモテに出ないかもしれませんが、海外のメディアによって詳細な顛末が報じられることを期待します。

| | コメント (0)

2023年11月22日 (水)

少数株主による合法的な会社乗っ取り(従業員ガバナンス)

FanseatでサッカーW杯2次予選「日本対シリア」をLive視聴しておりましたが、5-0ということで日本の強さばかりが目立った試合でしたね。シリアはほとんどシュートも打てなかったように見えました。

さて、対話型AI(人工知能)「ChatGPT(チャットGPT)」を運営する米オープンAIのサム・アルトマン前最高経営責任者(CEO)の解任をめぐって、同社の混乱が深まっています。同社従業員の約9割がアルトマン氏の復帰を求め、叶わなければ退職する意向を示したと報じられており、従業員らはアルトマン氏の解任に賛成した同社の社外取締役3名に対して解任通告を行ったそうです(たとえばこちらの朝日新聞ニュース 混乱極まるオープンAI アルトマン氏解任の背景にある「いびつさ」)。「従業員ガバナンス」を彷彿とさせる事件です。

もちろんオープンAI社の場合は記事にもあるように非営利法人が営利法人の支配権を握るといった特異なガバナンスが構築されていたり、従業員の数もかなり多いという事情もあって、「従業員資本主義」とまでは言えませんが、日本では少数株主が支配株主を会社から追い出すために「従業員ガバナンス」を活用する(?)ケースは時々あります。乗っ取り屋としては、ターゲットとなる会社のナンバー2とかナンバー3(以下「ナンバー2」といいます)で、しかも経営幹部層(部長クラス)にとても慕われている人に接近して、大株主である経営者を少数株主(主にファンドや同業者大手)が追い出すケースですね。

経営者が大株主の地位で当該ナンバー2を排除しようとすると、多くの支店長や工場長が「ナンバー2のほうについていきます」と宣言して会社の機能をマヒさせてしまう、というもの。もちろんナンバー2が乗っ取り屋の支配下で社長になる、ということです。前回のエントリーでも書きましたが、経営者は「自分にはリーダーシップがある」と考えている人が多いのですが、実はフォロワーシップがない(実は自分のことを客観的に評価できる人はとても少ない)ことに有事になって初めて気が付く、というもの。

ナンバー2の反乱に気づいたときには、もうほとんどの幹部層がナンバー2に賛同しているという始末。乗っ取り屋としては、あとは適正価格で経営者から持分を買取る手続きに移行するというストーリーです(抵抗して株式を紙屑にしたほうがよいか、適正価格で換金したほうがよいか、現経営者は法律家と相談して決断します)。医療法人や社会福祉法人の統合にもよく使われる手ですね。画策に社長が早期に気づけば社長にも対抗手段が考えられますから、乗っ取るほうは秘密裡に動く(そのために社内力学に精通している必要あり)ことが肝要です。

大会社においても、たとえば三越事件やヤマハ事件、セイコーインスツルメンツ事件など、経営者交代に従業員ガバナンスが機能した事例はいくつかあります。前回エントリーで述べた通り、私が指名委員会の委員として気を付けていたのは、当該社長候補者にフォロワーシップが認められるかどうか、という点でした。昨今の人的資本充実の要請とも合致すると思います。

 

| | コメント (0)

2023年11月20日 (月)

サクセッションプラン(後継者計画)に真摯に対応するための前提条件

11月17日の日経ニュース「トップ後継者計画、対応企業は26%どまり 民間調査」という法務ガバナンス関連の記事を読みました。記事によりますと、日本の上場企業において、経営者の後継を選別・育成する「サクセッションプラン」の導入がなかなか進んでいない、とのこと。民間調査では、サクセッションプランを策定して、これに対応している企業が全体の26%であり、「指名委員会」などトップ人事を監督する体制づくりは進んでいますが、企業価値向上を担える経営者選びなど機能面ではまだまだ課題が多いとされています。

1120 私自身が指名委員会委員をやったり、社外取締役アドバイザーとして支援をしている経験からみて、逆に「26%ものプライム上場会社がサクセッションプランを運用している」という回答のほうが驚きで、どうやって適切に運用しているのか教えてほしいです。私はサクセッションプランをうまく運用できない失敗からの反省は以下の2点です。これらが真摯に対応するための前提条件ではないでしょうか。

ひとつは(前も当ブログで少しボヤきましたが)社長候補者リストの作成とアフターケアーです。3人の最終候補者を選定して、育成して、その中から社長を選ぶのは良いとしても、では選ばれなかった2人に対してどう処遇すればよいのか?指名委員会には現経営者も委員として意見を述べるわけですが、社外取締役の委員と「残る2人の処遇をどうすべきか」あらかじめ議論しておいたほうが良いと思います。

もうひとつは「リーダーシップ」よりも「フォロワーシップ」こそ、社長候補者として大事、という点です。ガバナンスコードでは事業戦略のほうばかりに目が向きますが、どんなに立派な将来計画を立てたとしても、現場がこれを実践する力がなければ絵に描いた餅です。オープンAIのCEOの方が取締役会で解任されたそうですが、今後自分で会社を作り、多くの経営幹部もそちらへ移動する可能性が高いとなるや、今度は会社が引き止めにかかっていると報じられています。中間管理層も現場社員も、社長の方針に賛同するのは簡単ですが、これを実行に移すために必要なものはフォロワーシップだと思います。指名委員会が、このフォロワーシップをどのように評価するのか、ここがいつも苦心するところです。

指名委員会の運用は、下手をすると現社長の専横を許すことになり(「指名委員会が決めた」という事実が現社長のわがままにお墨付きを与える結果となって、かえってガバナンスの後退、機能不全を招く)、委員会を任意で作ったのであれば真摯に運用する覚悟が必要です。記事にもあるように、サクセッションプランの運用について、どう開示するか?という課題がありますが、上記のとおりサクセッションプランの運用はそもそも開示には一切なじまないものであり、指名委員会が汗をかいて根回しをして、ときには密室で喧嘩をして初めてうまく運用できる(結果として業績や収益が向上する)ものと(少なくとも失敗を繰り返した私は)考えております。

| | コメント (0)

2023年11月19日 (日)

御礼・祝ココログ人気ブログランキング第3位!

Blog20231118 いつも拙ブログをご愛読いただき、ありがとうございます。10月23日のこちらのブログで「人気ブログランキング第4位になりました!」と書きましたが、先週の異常な盛り上げりでついに(11月18日現在で)ココログランキング第3位となりました(これを書いている19日深夜の時点でまだ3位です)。ニッチな企業法務ブログでは、もう絶対にありえないので、またまたスクショを上げております(いつも15位から30位の間くらいです)。

タカラヅカネタほか、過去の記事を含めていろんな組織不祥事が世間で話題になっているのでしょうね。普通は平日3000アクセスくらいですが、先週は14000アクセス(一日)ほどになり、本当に今年は不祥事ネタが世間一般の方の関心事であることを痛感しました。

ただ、こんなたくさんの方に閲覧していただいているからといって、奇抜さを狙ったような物言いはいたしません。60を超えた初老のオッサンが自分の好きなことを好きな切り口で語るだけですので、また気になりましたらときどきブログをのぞいてみてください。今後ともよろしくお願いいたします。

山口利昭 拝

| | コメント (0)

2023年11月16日 (木)

文春砲-M防衛政務官のセクハラ疑惑について

41vwghhaehl (昨日のタカラヅカ事件と同様、これもブログで書くのを迷ったのですが)三宅伸吾防衛政務官のセクハラ疑惑が文春で報じられました。ホントに驚きで息がつまりそうになりました。当ブログを初期からご愛読いただいている皆様はご存知のとおり、私は「日経(当時の法務報道部)記者である三宅さん」のファンだったので、2005年の「乗っ取り屋と用心棒」2007年の「市場と法」も当ブログに書評を書かせていただきました(いま読み返すとなつかしい)。

当時、書評にも書きましたが、三宅さんは15年以上前から「買収が敵対的というのは表現としてよくない、むしろ競争的買収でしょう」と述べていて、昨今の公正な買収防衛ガイドラインの考え方を先取りしていたような慧眼をお持ちでした。おそらく当時は「乗っ取り屋と用心棒」のほうが売れたものと思いますが、私自身は「市場と法」のほうが好きで、今でも企業に対する事前規制と事後規制の関係などは参考にしております。

私の大阪の事務所にも2度ほど遊びにきてくれて、年齢も近いせいか取材よりも「しょーもない業界ネタ話」をしていたことだけ覚えております。ただ経済や法務の切り口から日本企業の価値を向上させるプロセスについて強い志をもっていたことは間違いなく、その後香川選挙区から参議院議員に当選したときも「三宅さんなら天下国家のために身を粉にして頑張るだろうな」と期待しておりました。活動についてもSNSを駆使して広く公表しておられます。

しかし、文春で書かれているようなことが事実だとすれば、当選直後のことだけにとても残念です。ご本人は完全否定しておられるようですが、文春お得意の第2報、第3報が心配なので、私としてはとりあえず静観しておきます(どうか誤報であってほしい)。それにしても2013年の出来事がなぜ今頃?・・・オソロシイ。

| | コメント (0)

2023年11月15日 (水)

タカラヅカ劇団員事件と阪急阪神ホールディングスの「ビジネスと人権」方針

Takarazuka

先日まで38年ぶりのプロ野球日本一で盛り上がっていた阪急阪神ホールディングスさんですが、グループ会社である阪急電鉄関連事業者において痛ましい事件の調査報告書が公表され、亡くなられたタカラヅカ劇団員の方の長時間労働(長時間活動?)の実態が明らかにされました。

どうしてもSMILE-UP社の事件とダブってしまうのですが、いかなる労働形態であろうと「労働者性」が認められれば労働時間規制を無視して職場環境を形成していた企業の対応に目が向けられ、「現場の人権侵害を助長もしくは黙認していた」と批判されます(ちなみに調査委員会報告書は当該劇団員の方の「労働者性」についての法律意見は回避しています。「労働者性」は契約形態にかかわらず、判例上では労働実態を踏まえて判断されます)。この問題について親会社である阪急阪神HDさんは今後どう対応されるのでしょうか?

なお「ハラスメントは確認できなかったが、現場の長時間活動には問題があった」ということですが、そうであるならば、①調査委員会のヒアリングを拒絶した4名はなぜ拒絶したのか、委員会は代理人同席でのヒアリングや書面による回答についても拒否されたのか、②調査手法として委員会による劇団員アンケートやホットラインの設置はなぜ行わなかったのか、③原因究明や再発防止まで言及するのであれば、なぜ件外調査(宙組以外の4つの組員への調査)をしなかったのか、といったところが知りたいですね。そこが合理的に説明できないと会社として実効性のある再発防止策を実践することもむずかしいでしょうし、ステークホルダーから再調査を要望されるような気がします。

産経新聞ニュースでは「宝塚歌劇団 阪急阪神HDの経営・イメージに打撃 沿線の価値低下も」とされ、上場会社としての企業価値の低下にもつながると報じられています。個人的にはそこまで業績に影響が及ぶとは思えませんが、ただ「ビジネスと人権」指導原則や東証「不祥事予防のプリンシプル」に鑑みるならば、SMILE-UP社の事件とあまり変わらない状況にあるような気はいたします。親会社としてのビジネスと人権対応方針に基づく早急な対応が必要と考えます。

今年のビッグモーター事案、SMILE-UP社事案、日大アメフト薬物事案をみていて、企業不祥事が大きくなる最大の要因は「自浄能力の欠如」です。宝塚歌劇団に自浄作用は期待できるか、阪急阪神HDに自浄作用はあるか・・・。「ない」と評価されると外部からの圧力はいつまでも続き、レピュテーションリスクが顕在化します。もちろん熱烈なファンとの信頼関係はリスクを低減しますが、それはSMILE-UP社でも同じこと。

2016年の電通女子社員事件の際も、労働基準監督署は女子社員のハラスメントには触れずに違法な長時間労働を認めて労災認定、法人である電通は労基法違反で有罪(正式裁判)となりました(両罰規定の適用、上司らは不起訴処分)。タカラヅカという「閉じられた世界の美しさ」が110年の歴史を形成してきた存在意義(原動力)かもしれませんが、それが悪い方向に出て不祥事に至ることがありうるのは、何度も「深い闇」問題として、このブログで述べてきたところです。

最後になりますが、本件に関する取材についてはお受けすることはできませんのであしからずご容赦ください。(使用したイラストは著作権フリー素材集より引用させていただきました)

| | コメント (7)

2023年11月14日 (火)

公益通報者保護法の2025年運用改善を目指して-消費者庁始動?

11月6日、公益通報者保護法を所管する消費者庁に寄せられた内部通報に関する相談件数が、今年8月に例月から急増して343件に上ったことが明らかにされました(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。ビッグモーター社に関する報道が連日なされ、同社が内部通報をもみ消したとされる内容が多く報じられていた時期で、会社の体制整備や制度面に関する相談が多数寄せられたそうです。

ビッグモーター社の件では、私個人としては、内部通報をもみ消したことよりも、その後内部通報者に「通報は間違っていた」との署名押印をさせたことのほうが大問題と思っております。消費者庁幹部の方も「報道が影響した可能性はある」とのことですが(上記産経新聞ニュース)、おかげさまで(?)、当職にも(数社ばかりではありますが)中堅上場会社から内部通報制度の見直しに関するご相談が増えている状況でございます。

また、11月9日の消費者庁長官の定例会見では、消費者庁が上場企業約4千社を含む1万社を対象に、内部通報体制の実態を調査すること(調査結果は2024年4月公表予定)が報じられています(FNNプライムオンラインニュース)。さらに都道府県や市町村などの行政機関の内部通報制度についても調査予定とのこと(京都新聞ニュース)。そういえば2022年6月に施行された改正公益通報者保護法の「法改正」の機運が高まった時期にも、民間事業者、行政機関に対する消費者庁によるアンケート調査がありましたね。消費者庁も、次の法改正に向けて本腰を入れ始めたのではないでしょうか。

いろいろなところで申し上げておりますが、令和2年改正法の成立により、公益通報者保護法の制定時(平成16年当時)から指摘されてきた課題の見直しがかなり進んだことは間違いありません。しかし、昨年施行された改正法の審議において、今後の検討課題として指摘された事項も複数残っています。衆参両院の特別委員会の附帯決議においても、改正法附則第5条に基づく施行後3年を目途とする見直しに当たり、「行政処分等を含む不利益取扱いに対する行政措置・刑事罰の導入」、「立証責任の緩和」、「退職者の期間制限の在り方」、「通報対象事実の範囲」、「取引先等事業者による通報」、「証拠資料の収集・持ち出し行為に対する不利益取扱い」等の検討を求めています。これらの検討項目には、私自身も消費者庁の法改正検討会メンバーとして、このたびの法改正に盛り込むべきと主張しましたが、時期尚早として見送られたものが多く含まれています。ちなみに附則第5条とは、

令和2年6月12日法律第51号)附則第5条

 政府は、この法律の施行後3年を目途として、新法の施行の状況を勘案し、新法第2条第1項に規定する公益通報をしたことを理由とする同条第2項に規定する公益通報者に対する不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方及び裁判手続における請求の取扱いその他新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

なる条文です。つまり2025年を目途に法運用の改善に向けた対応が執られることが予定されています。原始法制定時には「5年を目途に」されていたのが「3年を目途に」とありますので、改正法施行から1年半経過時点ではありますが、更なる法改正に向けた流れが進みそうですね。立法事実の積み重ねが、これからも法改正のカギを握るように思われます。

| | コメント (0)

2023年11月13日 (月)

SMILE-UP社(旧ジャニーズ事務所)問題-スポンサー企業が評価すべき新会社のガバナンスとは?

本日(11月12日)、テレビ朝日の「SMILE-UP社との取引経緯に関する検証番組」をすべて視聴しました。これで主要テレビ局の検証番組はひととおり公表されました。TBSが指摘したような「圧力があった」との証言までは言及がなく(あくまでも「忖度した」とのこと)、またNHKのように「局内で性加害があった」という事実は(申告した元タレントの方の主張は事実と認めたうえで)「確認できなかった」とのことでした。

さて、これまでのテレビ局の検証をもとに、今後はスポンサー企業が、自社の「ビジネスと人権」方針に基づいて、SMILE-UP社から事業を引き継ぐ新会社との取引を再開すべきかどうか、自主的な判断が求められる段階に移ります。スポンサー企業としては、これまで新会社がどのようなガバナンスを構築すれば取引を再開してよいと考えているのか、明確に開示しているところはなく「これからもガバナンスの再構築を注視してまいります」という「横並び対応」「SMILE-UP社による中間報告待ち対応」に終始しているようにみえます。スポンサー企業として新会社との取引を再開するための条件として、私からしますと、以下の3点に集約できるのではないかと考えております。

まずひとつは被害者救済を事業とするSMILE-UP社と新会社との利益相反状況の徹底的な排除です。スポンサー企業はいずれも「被害者救済の徹底が必要」とされています。そのためには十分なSMILE-UP社の資産が必要です。ところで報道されているところでは、知的資産や人的資産については旧事務所から新会社へ譲渡されるようであり、そうであれば旧事務所つまりSMILE-UP社はできるだけ高く資産を譲渡したいですが、引き継ぐ新会社はできるだけ安く引き継ぎたいはず。そこには利益相反関係がありますので、その一環としてSMILE-UP社の社長は新会社の社長を兼ねないことが先日報じられました。ただ、これは社長人事に限ったことではなく、両社の役員人事全般や引き継ぎ資産の評価プロセス(譲渡価格は純粋第三者取引と同等か)にわたって検討されるべきです。

ふたつめに、この利益相反状況の監視、および非上場会社の情報開示の信頼性担保のために、SMILE-UP社と新会社いずれにおいても社外取締役を複数選任しているかどうか、という点です。株主や債権者、取引先から独立した純粋な第三者による経営監視と対外的な情報開示の透明性をきちんと担保しうる人選が求められます。

そして三つめが2019年の公正取引委員会による旧ジャニーズ事務所への「注意」事項への対応です。このたび、明確にはならなかったものの、TBS検証によって「ジャニーズ事務所側からの番組制作への圧力(関与)があった」との証言が得られたわけですから、やはり2019年当時に公正取引委員会が問題視した「タレント事務所による圧力問題」は違法性(優越的地位の濫用)の疑いが濃いものであったことがわかりました。したがって、今後も性加害問題だけでなく、エンターテインメント事業者による不当な圧力を排除するための仕組みをいかに構築すべきか、という点がガバナンスの重要な課題となります。こちらの毎日新聞ニュースで有識者の方が語っておられるように、新会社のエージェント部門、タレント育成部門、コンテンツ制作部門の独立性を仕組みの上でも明確にしたうえで、それぞれの部門の権限と責任の所在を明示すべきでしょう。分権と牽制によって優越的地位の濫用を防止しうることが明らかになる必要があります。

今後、タレントがエージェント契約を締結する新会社とスポンサー契約を再開する、ということであれば、すくなくとも上記3点を貴社としてどう考えるのか、そこを対外的に説明できるようにしておく必要があると考えます。もちろん、これはグローバルに事業を展開する必要がある企業の「ビジネスと人権」の視点です。また、東証プリンシプルに基づく「サプライチェーンコンプライアンスの原則」に沿った考え方ともいえます。海外諸国からどうみられてもかまわない、ともかく短期的に国内で収益を上げることができればよい、という非上場の企業については別の考えがあってもかまわないと思います。

 

| | コメント (0)

2023年11月 8日 (水)

大阪・関西万博建設工事にグリーバンスメカニズム(人権救済機関)は必須と考える

関西以外の方にはあまり興味もないかもしれませんが、大阪・関西万博まであと500日となり、いよいよ用地整備、パビリオン建設が本格化する時期となりました。すでに申し上げておりますように、私は万博推進派ではございますが、「延期もやむなし」「延期ができないのであれば、パビリオンは閉幕までに完成すべし」と考えております。すべては2024年問題、つまり建設工事に従事される国内外の労働者の人権ファーストで工事は進めなければならないと考えるからです。

万博開幕にすべての工事を間に合わせるための「超法規的措置」は当然ありえないのですが、労働者の人権を侵害してでも国家的威信をかけた万博を開幕させるとなれば、来年6月に国連人権委員会作業部会が国連に提出する最終ステートメントでは(たとえ開幕前でも)厳しい意見が記載されるのではないでしょうか。そこにはもはや「命輝く未来社会のデザイン」なるテーマを万博に掲げる資格はありません。

労働者の人権を守りつつ万博を開幕させるのであれば、労働者の人権侵害リスクに真正面から向き合うために、最低限度「グリーバンスメカニズム(人権救済のための苦情処理機関)」を設置すること(もしくは建設業の事業者団体に設置を促すこと)は不可欠でしょうし、国もグリーバンスメカニズムの設置に消極的な姿勢であれば、そのこと自体が「労働者の人権侵害を国として容認する」ということを国内外に表明していることになると考えます。なお「ビジネスと人権」指導原則に合致したグリーバンスメカニズムと言えるためには、正当性だけでなく、運用における公正性や透明性、利用可能性等、具体的な7要件を満たすものでなければならないため、できるだけ早く設置すべきです。

もちろん、建設事業者は各社とも内部通報制度は運用しておられると思います。しかし、自社の従業員だけでなく、取引先や下請先、さらにはフリーランスの方々まで人権侵害を訴えることができる窓口がなければ現場における労働基準法違反行為を抑止できないはずです。「ビジネスと人権」問題といえば、SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)事案、ハマス・イスラエル戦闘における戦争支援企業事案が話題となっていますが、大阪・関西万博における建設工事事案も今後大きな話題になると思います。

| | コメント (0)

2023年11月 7日 (火)

タムロン特別調査委員会報告書にはストーリーがある(と思う)

8月24日のこちらのエントリー冒頭で、タムロン社前社長さんの不適切経費支出問題の発覚について触れましたが、11月2日に特別調査委員会報告書が公表され、すでに東洋経済WEBニュースでも詳しく報じられています。調査報告書の31頁以下の事実認定部分がとても「おもしろい」と話題になっており、私も拝読いたしました。前社長のA氏だけでなく、前々社長のO氏の不適切な交際費支出の事実にも詳しく言及されています。

最初一読したときは、事実認定とはいえ「開いた口が塞がらない」とか「かかるA氏の主張は一般常識から乖離しており、その経営者の見識を甚だしく疑わせるほど無理がある」「呆れ果てて言葉を失う」といった表現が記されており、ずいぶんと調査委員の感情が込められた報告書のように思えました。

ただ31頁以下の表現は、委員会設置の時点でA氏は社長を辞任しており、なかなかフォレンジックス調査にも協力してもらえなかったことや、ヒアリング以外はすべて代理人弁護士を通じてのコミュニケーションを強いられたこと、さらにはA氏が「経費支出はすべて取締役会の承認を得た予算の範囲内でなされたものであって、何ら問題ない」と主張していたことに、調査委員会が呼応したものと言えそうです。

つまり、経営判断原則や会計基準のモノサシからみて、A氏やO氏の経費支出は裁量権を大きく逸脱したものであり(経営判断原則適用の例外たる私利私欲目的による行動もしくは利益相反行動に類するものであり)、それは限られた証拠からでも判断できることを委員会として説明しなければならない、ということからの表現ではないかと。

そう考えますと、前半30頁と後半50頁はひとつのストーリーに基づいて構成されたものとして合点がいきました。調査委員会の苦労がにじみ出ている報告書であり、今後の参考とさせていただきます。

| | コメント (0)

2023年11月 6日 (月)

日大アメフト薬物事件-ガバナンス再構築には改正私立学校法の理解が不可欠

阪神タイガース38年ぶりの日本一おめでとうございます!私は諸事情により(?)、どっちのファンであるかも公言できなかったのですが、関西ダービーは第7戦まで盛り上がりましたので本当に感謝しております。阪神佐藤とオリックス森が期待通りの実力を発揮できなかった点では五分五分でしたね。ともかく第7戦のノイジーの3ランは一年分の年俸の価値があったような気もしますし、第6戦の山本由伸の138球完投は、日本球界への置き土産として最高のパフォーマンスでした。

さて、当ブログでも日大アメフト薬物事件を取り上げていることから、何名かの方から「日大はどうすればガバナンスの再構築が可能か」とのご質問を受けております。しかし、前回のエントリー(11月2日)で申し上げておりますとおり、学校法人のガバナンスは教学のガバナンスと経営体としてのガバナンスが交錯しており、極めて難問でして軽々に申し上げることはできません。

なんといっても、2025年4月施行予定の令和5年改正私立学校法によって、非営利財団法人としての学校法人に初めて「機関」の概念が誕生しますので、再来年施行予定の法律を前提としたガバナンス再構築が求められます。当然のことながら、7,800ほどの学校法人すべてに同じガバナンスが求められるのではなく、日大レベルの収益を上げる大規模財産法人ならではのガバナンスを考える必要があります。したがって現行法から大きく変わる改正法の理解は不可欠です(さらに改正法に関連する政省令や文科省ガイドラインの理解・実践も必要)。仕組み作りについてはマクロの視点から、また運用についてはミクロの視点から非営利組織のガバナンスや内部統制に詳しい方の支援が一番効果的かと。学外理事や評議員に、私立学校法に詳しい方が入る必要がありそうです。

このたびの日大問題を外から眺めてみて、不祥事を防止するための仕組みや運用が必要なことは間違いないのですが、しかし経営体としての学校法人の意思決定の在り方を株式会社のようなイメージで捉えてしまいますと、今度は学外からの支配権介入のおそれが高まりますので、大学の自治つまり教学のガバナンスが毀損してしまうことにつながります(学校法人法の改正がかなり時間を要したのも、この点について私学団体からの厳しい批判・反対があるからですね)。憲法に保障された「学問の自由」を守りつつ、理事長や学長の不祥事を予防するということの「両立のむずかしさ」はここにあります。

そもそも理事長や学長をいかに監視・監督するのか・・・、その仕組みも2025年4月から大きく変わりますので、日大は他の学校法人のガバナンス構築への影響にも配慮しながら、長い目で(学校法人のガバナンスに精通された方々の力を借りて)再構築を図る必要がありそうです。

| | コメント (1)

2023年11月 2日 (木)

日大アメフト薬物事件-教学のガバナンスと経営体のガバナンス

ようやく日大アメフト薬物事件の第三者委員会報告書(全文)を読みました。いろいろと疑問を抱いていた点についても氷解して、たいへん参考になりました。気づいたことはたくさんありますが、それはまた研修や講演で持論を述べるとして、このたびの日大の不適切対応の根本原因は「教学のガバナンス」と「経営体のガバナンス」の隙間で薬物問題が発生したことにあるのではないでしょうか。私も10年以上関西の大きな私立大学の内部通報制度(外部窓口と通報事実の調査)に関わっていますが、学校法人のガバナンスは「難問」であり、深い闇でもあります。そんなことを報告書を読みながら再認識しておりました。

第三者委員会報告書の81頁以下でも「権限と責任の所在が明確でなかったこと」が原因のひとつとされていますが、これはまさに「教学事案」ではあるものの、その規模においては経営体としての法人全体で対処すべき事案だったということを物語っています。教学事案であれば学長の権限と責任において対応すべきですが、問題の重大性からみて法人としての日大が(つまり理事長と理事会・監事による指揮命令・監督のもとで)対応しなければならなかった。その間隙をうまく副学長が利用して「空白の12日間」をはじめ、一部の関係者のみで重要情報を遮断して不適切な対応を意思決定するに至った、というのが真相だと理解しました。

「非営利組織の内部統制と不正事例」(濱本明 編著 2023年 同文館出版)の第4章「学校法人による内部統制」では、私立学校には教学としてのガバナンスと経営体としてのガバナンスの二つが併存する、ということの特殊性と運営上の難しさ(たとえば「寄附行為」と「自主行動基準」、ステークホルダーは誰であり、どのような情報開示が必要か等)が解説されています。今回日大で発生したガバナンス不全の課題をみるに、おそらく他の私立大学でも同様の問題を抱えているのかもしれません。教学のガバナンスは憲法上の「大学の自治」と密接な関係にあるものの、このたびのように不祥事が発生した場合に大学が自浄作用を発揮できないとなると、「反社会的勢力排除」の目的で警察権力が大学に介入することが正当化されてしまいそうで、他大学への影響に懸念が生じます。

日大では本件の2年ほど前に、アメフトではなくラグビー部員が大麻取締法違反で逮捕、無期限活動停止という事件が発生していますが、ラグビー部案件が、このたびのアメフト案件にどう影響を与えたのか、また、このたびの薬物疑惑は部員間における「いじめ問題」がなくても浮上していたのかどうか、そのあたりも企業におけるリスクマネジメントの視点から、詳しく知りたいところです。

| | コメント (1)

« 2023年10月 | トップページ | 2023年12月 »