日大アメフト薬物問題-理事長と副学長との確執について
さて、ひさりぶりの日大アメフト薬物事件に関するエントリーです。本日(11月27日)警視庁は新たに日大3年生の男子部員を逮捕した、とのことで、当該事件では3人目の逮捕者が出ました。ただ、逮捕者が出たことよりも、副学長がパワハラ(不法行為に基づく損害賠償請求)で林理事長を提訴したことの方が大きく報じられております。まだまだ日大の混迷が続きそうです。
理事長が副学長にパワハラをした・・・というのは、①副学長に「労働者性」は認められるか、②理事長と副学長との間には指揮命令関係(優越的地位の存在)が認められるか、といった疑問があるため、厚労省のパワハラ定義からは外れているようにも思えます。ただ、昨年3月の福岡地裁判決(かなり有名)は、株式会社の取締役会で(つまり他の役員の目の前で)、代表取締役会長が代表取締役社長に対してさんざん罵倒するような発言をしたことをパワハラと認定して、会長側に高額の損害賠償責任を認めています。したがって、裁判上は理事長の言動が、客観的にみて副学長の人格を否定するような言動と認められた場合にはパワハラと認定される可能性はあるのでしょうね。
なお、私立大学におけるガバナンスの問題としても、この裁判はとても興味深い。理事長の学長、副学長への指揮監督権限とはどういったものなのか、これまであまり議論されてこなかったので、経営上のガバナンスと教学上のガバナンスの関係が明確ではありません。おそらく開示されている日大の「寄附行為」を読むと、一定の手がかりは把握できるとは思うのですが、学校法人内の力学でいえば「理事会」と「理事長」と「学長(副学長)」と「教授会」ですね(現行法上「評議員会」は除きます)。そのあたりの力関係のねじれが、このたびの提訴に至る要因ではないかと勝手に想像しております。
私事ですが、昔から作家・林真理子氏のファンでして、今年「成熟スイッチ」を読んでいたころは、まさかこんな出来事が起きるとは想像もしておりませんでした(「昨日とは少し違う自分」がこんな形で登場するとは洒落にもならないです)。でもなんとなく「紫綬褒章をとって、日本文藝家協会の理事長になって、つぎに日大の理事長?ちょっと違うのでは?」と思っておりました。たしかエッセイで「(不祥事が続いていた日大を嘆きながら)こんな母校、私が変えてやる」とか述べて、そのノリで就任要請が来たように記憶しています。
日大の第三者委員会も、林理事長が「見て見ぬふりをしていた」と認定したわけではないので、もう少し有事の振る舞いを誰かに相談できなかったのか。学生が平穏に勉強・研究に打ち込める環境、教育の質の確保のための最善策は何か、その答えとしての幕引きを急いだのでしょうか。「芸の肥やし」とするにはあまりにも代償が大きすぎたような気がします。