日大アメフト薬物事件-教学のガバナンスと経営体のガバナンス
ようやく日大アメフト薬物事件の第三者委員会報告書(全文)を読みました。いろいろと疑問を抱いていた点についても氷解して、たいへん参考になりました。気づいたことはたくさんありますが、それはまた研修や講演で持論を述べるとして、このたびの日大の不適切対応の根本原因は「教学のガバナンス」と「経営体のガバナンス」の隙間で薬物問題が発生したことにあるのではないでしょうか。私も10年以上関西の大きな私立大学の内部通報制度(外部窓口と通報事実の調査)に関わっていますが、学校法人のガバナンスは「難問」であり、深い闇でもあります。そんなことを報告書を読みながら再認識しておりました。
第三者委員会報告書の81頁以下でも「権限と責任の所在が明確でなかったこと」が原因のひとつとされていますが、これはまさに「教学事案」ではあるものの、その規模においては経営体としての法人全体で対処すべき事案だったということを物語っています。教学事案であれば学長の権限と責任において対応すべきですが、問題の重大性からみて法人としての日大が(つまり理事長と理事会・監事による指揮命令・監督のもとで)対応しなければならなかった。その間隙をうまく副学長が利用して「空白の12日間」をはじめ、一部の関係者のみで重要情報を遮断して不適切な対応を意思決定するに至った、というのが真相だと理解しました。
「非営利組織の内部統制と不正事例」(濱本明 編著 2023年 同文館出版)の第4章「学校法人による内部統制」では、私立学校には教学としてのガバナンスと経営体としてのガバナンスの二つが併存する、ということの特殊性と運営上の難しさ(たとえば「寄附行為」と「自主行動基準」、ステークホルダーは誰であり、どのような情報開示が必要か等)が解説されています。今回日大で発生したガバナンス不全の課題をみるに、おそらく他の私立大学でも同様の問題を抱えているのかもしれません。教学のガバナンスは憲法上の「大学の自治」と密接な関係にあるものの、このたびのように不祥事が発生した場合に大学が自浄作用を発揮できないとなると、「反社会的勢力排除」の目的で警察権力が大学に介入することが正当化されてしまいそうで、他大学への影響に懸念が生じます。
日大では本件の2年ほど前に、アメフトではなくラグビー部員が大麻取締法違反で逮捕、無期限活動停止という事件が発生していますが、ラグビー部案件が、このたびのアメフト案件にどう影響を与えたのか、また、このたびの薬物疑惑は部員間における「いじめ問題」がなくても浮上していたのかどうか、そのあたりも企業におけるリスクマネジメントの視点から、詳しく知りたいところです。
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コメント
いつも拝読し勉強させていただいております。上場企業等で内部統制システムの確立やコーポレートガバナンスコード等を浸透させる実務に携わったことのない"有名人"やクライアントの利益優先の弁護士業の人々は、社外取締役には不適切ではないのでしょうか。
投稿: 元監査等委員 | 2023年11月 4日 (土) 14時24分