SMILE-UP社(旧ジャニーズ事務所)問題-スポンサー企業が評価すべき新会社のガバナンスとは?
本日(11月12日)、テレビ朝日の「SMILE-UP社との取引経緯に関する検証番組」をすべて視聴しました。これで主要テレビ局の検証番組はひととおり公表されました。TBSが指摘したような「圧力があった」との証言までは言及がなく(あくまでも「忖度した」とのこと)、またNHKのように「局内で性加害があった」という事実は(申告した元タレントの方の主張は事実と認めたうえで)「確認できなかった」とのことでした。
さて、これまでのテレビ局の検証をもとに、今後はスポンサー企業が、自社の「ビジネスと人権」方針に基づいて、SMILE-UP社から事業を引き継ぐ新会社との取引を再開すべきかどうか、自主的な判断が求められる段階に移ります。スポンサー企業としては、これまで新会社がどのようなガバナンスを構築すれば取引を再開してよいと考えているのか、明確に開示しているところはなく「これからもガバナンスの再構築を注視してまいります」という「横並び対応」「SMILE-UP社による中間報告待ち対応」に終始しているようにみえます。スポンサー企業として新会社との取引を再開するための条件として、私からしますと、以下の3点に集約できるのではないかと考えております。
まずひとつは被害者救済を事業とするSMILE-UP社と新会社との利益相反状況の徹底的な排除です。スポンサー企業はいずれも「被害者救済の徹底が必要」とされています。そのためには十分なSMILE-UP社の資産が必要です。ところで報道されているところでは、知的資産や人的資産については旧事務所から新会社へ譲渡されるようであり、そうであれば旧事務所つまりSMILE-UP社はできるだけ高く資産を譲渡したいですが、引き継ぐ新会社はできるだけ安く引き継ぎたいはず。そこには利益相反関係がありますので、その一環としてSMILE-UP社の社長は新会社の社長を兼ねないことが先日報じられました。ただ、これは社長人事に限ったことではなく、両社の役員人事全般や引き継ぎ資産の評価プロセス(譲渡価格は純粋第三者取引と同等か)にわたって検討されるべきです。
ふたつめに、この利益相反状況の監視、および非上場会社の情報開示の信頼性担保のために、SMILE-UP社と新会社いずれにおいても社外取締役を複数選任しているかどうか、という点です。株主や債権者、取引先から独立した純粋な第三者による経営監視と対外的な情報開示の透明性をきちんと担保しうる人選が求められます。
そして三つめが2019年の公正取引委員会による旧ジャニーズ事務所への「注意」事項への対応です。このたび、明確にはならなかったものの、TBS検証によって「ジャニーズ事務所側からの番組制作への圧力(関与)があった」との証言が得られたわけですから、やはり2019年当時に公正取引委員会が問題視した「タレント事務所による圧力問題」は違法性(優越的地位の濫用)の疑いが濃いものであったことがわかりました。したがって、今後も性加害問題だけでなく、エンターテインメント事業者による不当な圧力を排除するための仕組みをいかに構築すべきか、という点がガバナンスの重要な課題となります。こちらの毎日新聞ニュースで有識者の方が語っておられるように、新会社のエージェント部門、タレント育成部門、コンテンツ制作部門の独立性を仕組みの上でも明確にしたうえで、それぞれの部門の権限と責任の所在を明示すべきでしょう。分権と牽制によって優越的地位の濫用を防止しうることが明らかになる必要があります。
今後、タレントがエージェント契約を締結する新会社とスポンサー契約を再開する、ということであれば、すくなくとも上記3点を貴社としてどう考えるのか、そこを対外的に説明できるようにしておく必要があると考えます。もちろん、これはグローバルに事業を展開する必要がある企業の「ビジネスと人権」の視点です。また、東証プリンシプルに基づく「サプライチェーンコンプライアンスの原則」に沿った考え方ともいえます。海外諸国からどうみられてもかまわない、ともかく短期的に国内で収益を上げることができればよい、という非上場の企業については別の考えがあってもかまわないと思います。
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