フジテックが新第三者委員会(⇔旧第三者委員会)の調査報告書を公表しましたね(調査報告書はこちらです)。調査対象が非常に興味深いものであり、私の仕事にも参考となる内容が多いので、またゆっくりと拝読させていただきます。
さて、日経のニュースのほうでもコメントしましたが、12月19日、ENEOSホールディングスは、SA社長を解任(解職)したとことを公表しました。SA社長が懇親の場で酒に酔って女性に抱きつく不適切行為があったということで、昨年8月にも女性への性暴力を理由に当時のSG会長が辞任していますので、ENEOSHDでは経営トップが2年続けて辞任するという異例の事態となりました。
朝日新聞等によりますと(こちらの記事です。なお、こちらの記事も参考にしております)、今年11月末に内部通報があり、通報事実について監査等委員会主導のもとで外部の弁護士らが調査、SA氏は調べに対して「女性に抱きついたことは覚えていない」と答えたそうです。他に目撃証言はいなかったようなので、事実認定はたいへんだったかと思いますが、調査者は「SA氏が酒に酔って女性に抱きついた事実があった」と認定したそうです。
また、SA社長に対しては、重大なコンプライアンス違反等があった際の懲罰として、役員報酬の返還請求・没収が実行できる「クローバック・マルス条項」が適用され、月額報酬・賞与・株式報酬の一部返還・没収が実施されるそうです。クローバック条項を入れた企業はありますが、実際に適用された事例というのは聞いたことがありません。おそらく報酬諮問委員会の意見を聴いたうえで、取締役会で判断したものと推察されます。さらに本件の対応に要した弁護士費用を含む一切の費用については、会社に生じた損害としてSA氏に別途求償する、というのも最近の判例に沿った形ですね。
それにしても今年は大きな上場会社の経営トップによる「イロモノ」不適切行為事案が目立ちますね。TOKAIHDに始まり(コンパニオンと混浴?)、タムロン、そして本日のENEOSホールディングスの案件です。上場会社ではありませんが、リコージャパンの経営トップによる不適切発言辞任劇もありました(朝日新聞記事はこちらです)。エネ社の件も、先日のタムロン社の事例と同様、社内の通報を端緒として調査委員会が調査を行い、経営トップの不適切行為を認定、そのまま解任(辞任勧告)に至る、というもので、自浄作用を発揮したところは評価されるのではないでしょうか。
ほんの数年前までは「社長のハラスメントは厳重注意で済ませましょう」とか「見て見ぬふりで社長に貸しを作っておこう(^^;)」といった社内慣行が優先される空気が蔓延しておりましたが、さすがにダイバーシティの浸透、改正公益通報者保護法の運用(内部通報制度の整備)、そして社外役員の急増を契機に、「どんなに業績に貢献している社長でもイロモノは一発レッドカード」になりました。
なお、不適切行為の張本人である経営トップが解任される、辞任を勧告される、というのは時代の流れだとは思いますが、ENEOSHDの件で少し気になりましたのがコンプライアンス担当の副社長への「辞任勧告」です。酒席に同席していたとはいえ、目撃者はいなかった(朝日新聞記事)、ということですから、おそらく現場で止めに入ることは不可能だったのではないかと推測します(なお、日経記事が一部修正されており、最初は「結果責任」とありましたが、現時点では「責任」ということになっています)。どのような理由で副社長まで辞任勧告を受けるのか、理由を知りたいですね。
タムロンの例では、お金の流れを知っていながら経営トップの不適切な経費支出を諫めなかった常務が辞任しています。2018年には某食品会社の執行役員がJALの女性従業員に不適切発言を行ったことで、これを傍観していた経営トップも辞任するということもありましたね。これらと同様、ENEOSHDの副社長も、単に「コンプライアンス責任者だから」というのではなく「現場で不適切行為を止めようと思えば止めることができた」もしくは「傍観していた」という「責めに帰すべき事由」があったのでしょうか。私個人としては、さすがに「結果責任」として辞任しなければならない、というのはやや違和感がありますが、いかがでしょうか。