« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »

2023年12月31日 (日)

日経新聞12月31日特集「転換2023」において、インタビュー記事を掲載していただきました。

Img_20231231_1158534251 12月31日の日経朝刊「転換2023」にて、当職のインタビュー記事が掲載されました。今年1年の組織不祥事・企業不祥事を振り返って、ということで「私の思い」が前面に出た内容になっています。特集記事もさることながら、内部通報に関するデータなども盛り込まれていて(私が記事を作成したわけではありませんが)よくまとまってますね。おそらく来年は消費者庁の動きが活発化しますので、そちらの動きなどにも配慮しながら仕事を進めたいと思います。

来年のコンプライアンスネタというと、おそらく統合的リスクマネジメントを中心としたものになるでしょう。AI規制、経済安保、ESG開示、サプライチェーン・グループ会社における人権保障あたりです。またガバナンスネタとなると、今年に続いて企業価値向上にむけたハイリスクアプローチの進展ということになろうかと。東証や金融庁、経産省の施策が今年は「大当たり」でしたね。ニデックによるtakisawaの買収事案が大きな転機でした。来年はコーポレートガバナンスにおける「攻め」と「守り」のバランスがおそらく議論されるはずです。

今年も当ブログをお読みいただき、ありがとうございました。来年も、可能な限り話題の事案を取り上げて、いろいろな角度から検証してみたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。みなさま、よいお年をお迎えください。

| | コメント (0)

2023年12月30日 (土)

有事対応が話題となった企業不祥事2023一覧

(12月30日10:25 更新)

ようやく本日(30日)で仕事納めとなります。本年は前半が忙しく、後半は(就任を予定していた社外取締役になりそこねたこともあり(^^;))比較的時間に余裕ができましたので、結構熱心にブログを更新しました。個人的には世間で話題のいくつかの事件に(当事者として)関与でき、とても有意義な一年でした。まぁ、東洋建設の社外取締役にあと(議決権過半数に)0.4%届かず落選したのはとても残念でしたが。。。💦東洋建設さんについては最近までいろんな動きがありましたが、さすがに(落選したとはいえ)当事者であるがゆえにコメントは控えさせていただきました。でも、多くの教訓を含んだ一連のTOBでしたね。

Fushoji004 今年1年を振り返り、私自身が興味を持ちました企業不祥事ほか企業の有事対応事例を表にまとめてみました(もちろん「代表例」ということであります。図をクリックしていただくと、拡大版でご覧になれます)。日大、タカラヅカ、BM、旧ジャニーズ事務所問題等が今年の4大不祥事かと思いきや、最後になってダイハツ品質不正事件が加わったので、5大不祥事と言えそうです。世間を騒がせる不祥事が多かったことの影響で当ブログが何度も「ココログ人気ブログランキング」で5位以内となり、ご愛読者層も広がりました(本日は10位です。ありがとうございます!)。(追記)30日10:25→図表に示した企業の方より一部修正要請がございましたので図表およびタイトルを修正いたしました。

2024年1月4日9:45→一部事件内容に誤りがございましたので、関係事件の記載を訂正いたしました。

ちなみに5月に発覚したダイハツ品質不正事件ですが、なぜ12月になって火がついてしまったのかと申しますと、①「内部通報」ではなく「内部告発」で社内発覚したことが判明(つまり自浄能力が欠けていた)、②最初の(海外販売中心の)6車種だけでなく、ほぼ(国内販売を含む)全車種において認証不正が判明(予想以上の規模感)、③現場の社員よりも経営陣に責任がある(つまりガバナンス、内部統制、組織風土の問題)と指摘された、④以上の結果、外部第三者による安全性認証が必要となった、ということによるものですね。地域経済に及ぼす影響も無視できません。なお、①から③は第三者委員会報告書によって明らかになりました。報告書には様々な批判もありますが、やはり第三者委員会の存在意義を改めて感じるところです。

上記図表は(今年の当ブログエントリーを参考にして)私が作成したものであり、下書きを含めてChatGPT等の生成AIは一切使用しておりません。よって著作権フリーとさせていただきますので、よろしければご自由にご活用ください。また、漏れている重要案件、記載の誤り等ございましたらご指摘いただけますと幸いです。上図は企業不祥事を切り口とした有事対応を取り上げていますが、M&Aを切り口とした有事対応を取り上げてもおもしろいと思いますよ(ご自身で作成してみると、いろいろと面白いことに気づくはずです)。

| | コメント (0)

2023年12月29日 (金)

企業法務と経済安全保障-「経済安全保障の法的制御」

Img_20231228_211107765_512

今年は年末まで内部通報に基づく事実調査が続いておりまして、30日まで仕事納めとはなりません。皆様はもうお休みに入ったのではないでしょうか。

さて、昨日(12月27日)、大川原化工機国賠訴訟地裁判決が出ました。同社社長さんらが、生物兵器の製造に転用可能な精密機械を不正に輸出したとして逮捕された後、起訴が取り消された事件(勾留11カ月)について、約5億6000万円の国家賠償を求めた訴訟の判決です。東京地裁は東京都と国に計約1億6000万円の賠償を命じました。裁判所は、警視庁公安部の逮捕と東京地検の起訴をいずれも違法と認定しています(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。「経済安全保障」を正義の御旗として刑事立件することの危うさが朝日新聞の社説でも問われています。

企業法務との関係で考えますと、経済安全保障という国策に対して、どこまでハードローによる規制への対応が必要とされ、どの領域ならソフトローへの自主規制対応が妥当するのか、といった問題がとても重要なトピックになりつつあります。上記大川原化工事件をみておりましても、国賠請求は一審で認められたものの、刑事立件自体が経済活動に対する委縮効果をもたらしたことは間違いありません。法律時報2024年1月号(日本評論社)では「特集 経済安全保障の法的制御」として、著名な学者の方々のご論文が掲載されており、「経済安全保障への企業の向き合い方」の現在地を知るうえでは参考となる一冊です。

とりわけ個人的な趣味で申し上げると高山佳奈子先生(京大教授)のご論稿「経済刑法と経済安全保障」は、営業秘密侵害罪(不正競争防止法)創設からこれまでの「実務への適用」に至る経緯などを参考に、企業活動に対する経済安全保障政策のもたらす「危うさ」(たとえば営業秘密保護に関しては、外国法を参照して罰則が創設されたものの、その後の運用においては「処罰範囲の拡大」や「重罰化」によって当初の考え方が放棄されたに等しい状況にある等)に警鐘を鳴らすものです。経済刑法による威嚇からどのように経済活動の自由を守るか、様々なヒントを得られるものと思います(上記大川原化工機事件についても触れておられます)。

また、上記大川原化工事件や日本企業のガバナンス(東芝の株主総会「調査者報告書」で問題になりましたね)にも関係する外為法の解釈ですが、こちらは渡井理佳子先生(慶大教授)の「経済安全保障と行政庁の裁量処分」も「経済安全保障の今」を知るにはとても参考になりました(こちらは理解のために「行政法」の知見が少し必要かな・・)。いずれのご論文も「法的制御の視点」によって書かれておりますので、そもそも経済安全保障と立憲主義との関係をきちんと押さえる必要があります。法武装がとても得意な監督官庁との交渉では、このあたりの理屈付けはまず交渉の第一歩ではないかと。

大企業を中心に「経済安全保障対策室」を設置しているところが増えています。基本的には政府と企業との連携協調が必要と考えますが、ときには企業側で規制に対する毅然とした対応が求められる場面もあります。ハードローによる罰則リスク、ソフトローを無視することによるレピュテーションリスクを認識しつつ、自社のビジネスの自由度を最大限引き出すためには、経営企画部あたりが「法的制御」の感覚を学ぶことが大切かと思います。

| | コメント (0)

2023年12月28日 (木)

高島屋Xmas不具合ケーキ騒動と改正消費者裁判手続特例法の適用問題

一昨日のエントリー「高島屋Xmasケーキ騒動と『コンプライアンス費用』の負担問題」の続編です。Xmasケーキ騒動について、本日高島屋さんは記者会見を開き、「製造や配送委託先の調査を進めた結果、原因を特定できなかった。ただ、消費者に対する責任は全て高島屋にある」として、返金や商品交換に応じることを表明しました。お客様本位での高島屋さんの対応については、将来的に取引先との良好な関係を維持することにも配慮したものとして概ね想定されたところです(以下は、私の個人的な見解なので、そのつもりでお読みください)。

上記会見で述べられた「徹底した調査の結果、原因を特定することは不可能だと判断した」としている点には若干の疑問を感じています。といいますのも、私は「今回の騒動は、今年10月に施行された改正消費者裁判特例法による共通義務確認訴訟の第1号案件になるのではないか」との淡い期待?を抱いていたからです。今回の件は高島屋と売買契約を締結した消費者に、ほぼ同じ事実関係のもとで商品不具合が発生していますので、(クレーム件数が500件を超えたあたりから)これって改正法による消費者共通義務確認訴訟になるのでは?と思いました。「支配性」に関する要件についても、いろいろと考え方はありますが、高島屋さんが800件以上の商品不具合を認めているので、クリアできるのではないかと。

ただ、「高島屋に責任があります」と述べているとしても、これはコンプライアンス上の責任という意味であるならば、法的責任を認めたものではないと抗弁できそうです。2020年4月に施行された改正民法では、契約不適合責任の場合でも損害賠償請求には過失が要件となるので「原因は特定できなかった」と言われると、消費者側で高島屋さんに過失があることを立証しなければなりません(ただ、これはかなり困難です)。

それでも、仮に高島屋さんに契約不適合責任が認められた場合に、改正消費者裁判手続特例法では消費者の精神的損害(慰謝料)についても請求できることになりましたので「Xmasケーキが期日に提供されなかった場合に、消費者にはどのような精神的損害が発生し、その金額はどの程度だろう」といった法律家的な興味を抱きました。

しかし、高島屋さんとしては「原因特定は困難」として取引先にも損害賠償義務が発生しないように配慮したうえで、購入者全員に購入代金の返金もしくは商品交換を申し出ています。消費者裁判手続特例法による「共通義務確認の訴え」は、代金支払請求と同時に行う場合のみ慰謝料請求も可能とされていますので(同法3条2項6号)、先に代金の返金もしくは商品交換に応じてしまえば、当該消費者は(慰謝料のみを請求するために)消費者裁判手続特例法上の簡易確定手続の申立てができなくなります。

なるほど、契約不適合責任追及には過失の立証が必要ですが、「これ以上原因究明はしない」と宣言して過失立証を困難にする、かりに「法的責任あり」とされても、その責任範囲については返金手続きや商品交換を進めることで消費者から慰謝料請求をされるリスクをできるだけ低減させる、という手法で、高島屋さんは対処したのではないか、と思いました(もちろん、勝手な推測です)。そうであるならば、高島屋さんの対応は(たとえ支払義務のない消費者に対しても返金を行うという事実があったとしても)かなり合理的な判断によるものではないかと。

 

| | コメント (0)

2023年12月26日 (火)

高島屋Xmasケーキ騒動と「コンプライアンス費用」の負担問題

Publicdomainq0028447tqk 業績絶好調の百貨店・高島屋ですが、すでにご承知のとおり、【通販Xmasケーキの崩壊問題】が大々的に報じられています(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。広告ではたいへん美味しそうなXmasケーキが5400円!著名パティスリー監修!ということで、楽しみにされていた方にとっては苦情を申し立てたくなるのも当然かと。現時点では苦情が900件超(販売数2900個中)ということですが、まだまだクレームは増えそうな気配です(なお、著作権フリーのイラストを使用)。

高島屋によると「原因は調査中」とのことですが、果たしてどこに原因があったのか。ケーキの製造元か、冷凍保管受託者か、あるいは配送業者か。いずれにしても最終消費者との関係では高島屋が対応する立場にありますので、注文者の希望があれば電車で2時間かけてでも注文者のもとへケーキを届けて謝罪をされたケースもあるようです(毎日新聞ニュース)。そして、今後想定される法律問題といえば、コンプライアンス対応費用の分担問題ですね。高島屋としてはブランドイメージを守るため、レピュテーションリスクを回避するために、おそらく法律的な損害賠償義務の範囲を超えた対処を余儀なくされ、注文者に対して最大限の誠意を尽くすことになるでしょう。

一方で(原因判明後に、調査に要した費用を含めて)高島屋から求償権、もしくは損害賠償請求を行使された事業者としては「原因を作ってしまった事業者としてはどこまで過失による不法行為の補償が必要か?」と悩むわけでして、法律的には(注文者に対して)損害賠償義務を負う範囲内、ということになります。ひょっとしたら「共同不法行為」や「過失相殺」といった主張を出したい気持ちになるかもしれませんし、そもそも高島屋のコンプライアンス方針によって対処した費用を求償権の行使としてそのまま請求されても支払うべき法律上の責任はないかもしれません(もちろん、今後の取引継続のために高島屋の意向に従わざるを得ない、と考える事業者もいらっしゃるかもしれませんが、それは経営判断の問題)。このあたりは難問です。

そういえば7年以上前の話になりますが、2016年4月5日のエントリー「横浜マンション傾斜事件-難問山積の三井不動産求償権問題」でも、同様の問題に触れましたね。(風のうわさでは)この求償権問題はまだ地裁レベルで裁判が続いているようで、三井不動産レジデンシャルが対処に要した費用を、取引先(三井住友建設、日立ハイテクノロジーズ、旭化成建材等)がどのように分担すべきなのか、(争点は他にもありそうですが)今後示される裁判所の判断はとても興味深いものであります。BtoCの企業は「安心思想」で対応しますが、BtoBの企業は「安全思想」で物事を解決するのが当然かと(合理的な理由もなく過度に分担金の責任を認めると、かえって経営陣の善管注意義務違反となるので)。

ちなみに、もうひとつの象徴的なコンプライアンス問題は、この騒動の発端です。誰かがSNSに「こんなに崩れてた~!」と写真付きで上げたところ、他にも同じケーキについて「私も崩れてた(泣)」というコメントが次々とアップされたそうです。もしSNSによる横の連携がなかったとすれば「昨年は一件も苦情がなかった」そうなので(朝日新聞ニュース)、「配送者のずさんな管理が問題!」として済ませられてしまった可能性が高い。おそらく全国的に数十件ほど同様の崩壊ケーキが存在するという事実が判明した頃から「これは輸送時だけの問題ではない」という印象が世間に広まり、ニュースでも取り上げられるようになった(その結果、900件という苦情数が判明した)という経過だと思います。これは日大アメフト不適切タックル事件が世間で騒がれるようになった経緯と似ています。SNSの浸透は、コンプライアンス問題を浮上させますね。

今回の高島屋のケースでも、(もちろん金額は比較になりませんが)誰がどの程度の解決費用を負担するのか、今後サプライチェーン・コンプライアンスの発想が当たり前になってきますと、当事者にとって合理的といえる理屈での解決策が求められます。どの業界でも「人手不足」が悩みの種ですが、どこに原因があろうとも、今度は「おせち料理」でも(SNSの力を借りて?)同様の事態が起きそうな予感がいたします。

| | コメント (3)

2023年12月23日 (土)

日本もそろそろ「内部告発者奨励金制度」を導入する時期では?

SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)事件、ビッグモーター事件、日大アメフト薬物事件、そしてダイハツの品質不正事件と、今年世間で話題となった企業不祥事(組織不祥事)はいずれも内部者による外部への情報提供が発覚の端緒でした。古いところでは、今年「非公開化」で揺れた東芝の会計不正事件も内部告発が端緒でしたね。つまり、内部告発がなければ世間に公表されず、また行政処分もなかった、さらには取引先への飛び火(損保ジャパン、各放送局の検証等、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」)もありませんでした。

本日(12月23日)のブルームバーグニュースでは、米SEC、内部告発者7人に計40億円余り支給-重要情報提供で報奨金との見出しで、金融不正事件の内部告発者に多額の報奨金が支払われた事実が報じられています。また、11月28日の日経ニュース「米企業の不正摘発、内部告発増加 報奨金最高」では、今年9月に報奨金制度の改訂が行われ、一人の内部告発者に171億円もの報奨金が支払われた事実(過去最高)も報じられています(MLBの契約金並みですね)。日本の不正発覚の実情をみるに、記事の中で西村あさひ法律事務所の弁護士の方が「世界的には社外への通報環境を整備する流れになっている」と解説されていますが、私も同じ流れを想定しています。

今年大きな話題となった電力カルテル事件、裁判係属中の東京五輪カルテル事件をはじめ、公正取引委員会が動く事案においてもリニエンシー(自主申告制度)が有効に機能していますが、リニエンシー導入が検討されていた時期には「日本ではおそらく自主申告などする企業はないだろう」と言われていましたから、企業を取り巻く環境は大きく変わっているのでしょうね。告発にはやはり明確なインセンティブ(告発によって生じるリスクと得られるリターンとの比較考量)が必要であり、「会社を良くしたい」という精神論だけではなかなか有力な情報が当局に集まらないのかもしれません。裏を返せば「社員によって内部告発をされないために、内部通報制度を充実させるべき」(制度間競争的発想)となるわけで、改正公益通報者保護法に準拠した通報制度への運用見直しは経営問題と認識すべきでしょう。

ということで、日本も内部告発奨励金制度の導入に向かって真剣に検討すべき時期に来ているものと思われます。

#######

余談ですが(手前みそになりますが)、今週はダイハツの品質不正事件のエントリーで連日1万を超えるアクセスをいただいたこともあり、本日も「ココログ人気ブログランキング」で昨日同様4位ということになりました。10月以降で6回目のベスト5位入りです(こんなことはブログを18年間書き続けてきて初めてであり、とても信じられません)。新規でご愛読いただくようになった方もとても増えており「ビジネス法務」「企業法務」の認知度が多くの方に高まっていることを実感いたします。本当にどうもありがとうございました。

| | コメント (0)

2023年12月22日 (金)

ダイハツ品質不正問題-第三者委員会報告書への素朴な疑問

Daihatsu002 まだ報告書すべてに目を通したわけではありませんが、品質不正問題発生の原因分析について、少しだけ(頭に浮かんだ)疑問点を述べておきたいと思います。なお「素朴な疑問点」といいましても、調査委員会の報告内容を批判するものではなく「自分としてさらに知りたい点」という意味でございます。

今回の品質不正は製造・開発現場で発生していたもので、管理職が指示したり黙認していた事案ではない、とのこと。これが「経営陣と現場との乖離」という発生原因の基礎となります。ただ、神戸製鋼事案のときにも同様の疑問を抱いたのですが、2010年あたりから継続的に不正が繰り返されていたのであれば、2010年頃の現場社員はすでに「管理職」になっているのでは?そうだとすると、過去に不正に手を染めていた管理職の方々は、現場の不正を知っているわけで、この方々は黙認していたことにはならないのでしょうか?不正に関与していた方がまったく管理職になっていない、というのもおかしな話だと思うのですが。

つぎに、トヨタがダイハツを完全子会社化したのが2016年ですが、2014年ころから不正が急増したということは、やはりトヨタとの支配関係が品質不正に影響を及ぼしているのでは?報告書によると、いったん2015年、2016年あたりで(一時的に)不正件数が減っていますが、これもトヨタの完全子会社化とは関係あるのでしょうか?かつて「日経クロステック」でも報じられていましたが、「できない」と言えばトヨタの管理下に置かれてしまうので、できなくても「できます」と言い続けてダイハツの自主独立性を確保していた、という仮説は成り立たないでしょうか?もちろん、これは現場の問題ではなく、ダイハツの経営サイドの事情ではありますが。短絡的に「親会社の責任」とは申しませんが、親子会社における「深い闇の問題」が不正の温床になっていたのではないかとも考えられそうです。「短期開発」には光と影の部分があり、影の部分にあえて目を背けていたということであれば、親会社はこれに気づいていたのかどうか。そのあたりはさらに知りたいところです。

つぎに、2016年といえば世間で三菱自動車の燃費偽装事件で揺れた時期です。「他人事ではない」ということで、自動車メーカーではどこも自社の点検に余念がなかったと思います。ダイハツでも品質不正に関する社内点検が行われたと思うのですが、ではそこで今回の不正は発見できなかったのでしょうか。また、親会社であるトヨタとしてもグループ会社に対して厳格な不正チェックを要求し、その結果の報告を求めたりしなかったのでしょうか(これは経営陣のガバナンスの問題と思います)。

また、調査報告書(全文)の1頁目に、第一次公表事案の発覚端緒が示されており、ダイハツが不正の疑いを知ったのは、社員による内部通報制度の活用に基づくものではなく、外部機関に情報提供がなされ「外部からの指摘」によって知ったとあります。おそらく「内部告発」によるものと思われます。通常、社員がいきなり内部告発に及ぶことは少なくて、内部通報窓口を活用するとか、上司や同僚に相談して是正を促していたというプロセスを踏んでいることが多いと思います。調査委員会がこの告発した社員にヒアリングできたのかどうかは不明ですが、このあたりの経緯については知りたいところです。ちなみに現場社員が「内部通報」がされたことを知りつつも不正行為に及んでいたことが報告されていますが、これはかなり根が深い。

さらに、これだけ長期にわたる多くの不正事案が認定されたわけですから、いったん不正に手を染めたものの(生産終了といった事情もないのに)ここ数年の間に「やっぱりこれはマズイ。やめておこう」と不正と手を切った部署もあったのではないでしょうか。そのような「過去の品質不正事案」もカウントされているのか、されていないのか。なぜ現場は自主的に止めることができたのか。そのあたりは組織風土を知る上でも重要ではないかと考えます。

| | コメント (1)

2023年12月21日 (木)

品質不正はなぜ悪いのですか?-現場社員の「正当化理由」を考える

Daohatsu0015月に設置された第三者委員会の報告書公表とともに、ダイハツの品質不正事件が大きく報道されています。トヨタ自動車の100%子会社ということで、トヨタの世界戦略にも大きな影響を及ぼす不正事案だけに、世間の関心が大きいのも当然だと思います。トヨタ自動車側も「自分たちが負担になっていたのではと反省している」と公表していることも印象的です。

まだ第三者委員会の報告書(概要版)しか読んでおりませんが、第三者委員会は、あくまでも類型化された不正行為の有無について(時間をかけて遺漏なく)調査をしたものであり、その不正行為の法規適合性(性能や安全面における評価作業を伴う)に関する判断はダイハツ側に委ねられるとしています。そして、ダイハツはごく一部の製品を除き、性能や安全面における問題は確認済みであると公表しました。

ダイハツのような完成品のメーカーでも、自動車部品の製造メーカーでも「品質不正は起こしたけれども、世間に出回っている製品の性能や安全性には問題ない、また不正行為を長年継続していたとしても、性能不足による回収やクレームの数には影響していない」と力説します。では、なぜ品質不正がこれほどまでに悪いことなのでしょうか?単純に「取り決めたルールに違反しているから」というだけでは、おそらく現場社員はもっと大切なことを守るために「あえてルールを守らない」という選択をする正当化理由に悩むのではないでしょうか。

「納期を守る」というのは「顧客第一主義」であり、現場にとっては大きな「やりがい」につながります。性能や安全に影響を及ぼさないプロセス違反くらいなら、(クレームも出ないのだから)納期を守ることを優先しても当たり前では?「短期開発こそ当社の存在意義」「短期開発こそ親会社からの自主独立性を守るための唯一の道」ということであれば、社員の意欲を高めて生産性を向上させるために多少の試験データ改ざんや偽装試験をやってでも結果を残し、「組織のアイデンティティを守る」ことを優先することが大切なのでは?新しいルールが上から降ってきたのであれば、どこかで「捨てるもの」「省くもの」を見つけなければ「現場の働き方改革」は実現できないわけで、多少のルール違反によって別のルール違反(たとえば労基法違反)を避けることは当然ではないか?

などなど、現場には品質不正を正当化したくなる理由がころがっているのです。だからこそ、長年品質不正を続けていても、現場の社員の方々は(正当化理由のおかげで)毎日元気に仕事ができて生産性が上がるのです。本当に「品質不正が悪い」のであれば、そのような正当化理由に対して経営陣がどのような答えを出すのか。また、その答えをどのような行動で現場に示すのか。そこが明確にならないかぎり、私は日本企業から品質不正事案がなくならないし、今も多くの企業でダイハツと同様の不正が続けられていると思います(たまたまダイハツのような内部告発が出されていないだけ)。

| | コメント (1)

2023年12月20日 (水)

コンプライアンス担当役員の不祥事発生時における結果責任

Kokygpp フジテックが新第三者委員会(⇔旧第三者委員会)の調査報告書を公表しましたね(調査報告書はこちらです)。調査対象が非常に興味深いものであり、私の仕事にも参考となる内容が多いので、またゆっくりと拝読させていただきます。

さて、日経のニュースのほうでもコメントしましたが、12月19日、ENEOSホールディングスは、SA社長を解任(解職)したとことを公表しました。SA社長が懇親の場で酒に酔って女性に抱きつく不適切行為があったということで、昨年8月にも女性への性暴力を理由に当時のSG会長が辞任していますので、ENEOSHDでは経営トップが2年続けて辞任するという異例の事態となりました。

朝日新聞等によりますと(こちらの記事です。なお、こちらの記事も参考にしております)、今年11月末に内部通報があり、通報事実について監査等委員会主導のもとで外部の弁護士らが調査、SA氏は調べに対して「女性に抱きついたことは覚えていない」と答えたそうです。他に目撃証言はいなかったようなので、事実認定はたいへんだったかと思いますが、調査者は「SA氏が酒に酔って女性に抱きついた事実があった」と認定したそうです。

また、SA社長に対しては、重大なコンプライアンス違反等があった際の懲罰として、役員報酬の返還請求・没収が実行できる「クローバック・マルス条項」が適用され、月額報酬・賞与・株式報酬の一部返還・没収が実施されるそうです。クローバック条項を入れた企業はありますが、実際に適用された事例というのは聞いたことがありません。おそらく報酬諮問委員会の意見を聴いたうえで、取締役会で判断したものと推察されます。さらに本件の対応に要した弁護士費用を含む一切の費用については、会社に生じた損害としてSA氏に別途求償する、というのも最近の判例に沿った形ですね。

それにしても今年は大きな上場会社の経営トップによる「イロモノ」不適切行為事案が目立ちますね。TOKAIHDに始まり(コンパニオンと混浴?)、タムロン、そして本日のENEOSホールディングスの案件です。上場会社ではありませんが、リコージャパンの経営トップによる不適切発言辞任劇もありました(朝日新聞記事はこちらです)。エネ社の件も、先日のタムロン社の事例と同様、社内の通報を端緒として調査委員会が調査を行い、経営トップの不適切行為を認定、そのまま解任(辞任勧告)に至る、というもので、自浄作用を発揮したところは評価されるのではないでしょうか。

ほんの数年前までは「社長のハラスメントは厳重注意で済ませましょう」とか「見て見ぬふりで社長に貸しを作っておこう(^^;)」といった社内慣行が優先される空気が蔓延しておりましたが、さすがにダイバーシティの浸透、改正公益通報者保護法の運用(内部通報制度の整備)、そして社外役員の急増を契機に、「どんなに業績に貢献している社長でもイロモノは一発レッドカード」になりました。

なお、不適切行為の張本人である経営トップが解任される、辞任を勧告される、というのは時代の流れだとは思いますが、ENEOSHDの件で少し気になりましたのがコンプライアンス担当の副社長への「辞任勧告」です。酒席に同席していたとはいえ、目撃者はいなかった(朝日新聞記事)、ということですから、おそらく現場で止めに入ることは不可能だったのではないかと推測します(なお、日経記事が一部修正されており、最初は「結果責任」とありましたが、現時点では「責任」ということになっています)。どのような理由で副社長まで辞任勧告を受けるのか、理由を知りたいですね。

タムロンの例では、お金の流れを知っていながら経営トップの不適切な経費支出を諫めなかった常務が辞任しています。2018年には某食品会社の執行役員がJALの女性従業員に不適切発言を行ったことで、これを傍観していた経営トップも辞任するということもありましたね。これらと同様、ENEOSHDの副社長も、単に「コンプライアンス責任者だから」というのではなく「現場で不適切行為を止めようと思えば止めることができた」もしくは「傍観していた」という「責めに帰すべき事由」があったのでしょうか。私個人としては、さすがに「結果責任」として辞任しなければならない、というのはやや違和感がありますが、いかがでしょうか。

| | コメント (2)

2023年12月19日 (火)

非財務情報開示と第三者保証(そのための準備)

Img_20231216_152222640_hdr2 週末、仕事で浜松に行ってまいりました。帰りに「おんな城主井伊直虎」ゆかりの龍潭寺に立ち寄り、美しい庭園(写真)を見て回りました。短い滞在時間でしたが、昼は浜松餃子、夜は鰻をごちそうになり、かなり観光色の強い出張でした。以下本題です。

先週、親子上場の意義に関する開示と社外取締役に期待される役割なるエントリーを書きましたが、本日の日経ニュースでも「企業の環境配慮、開示要請へ環境省指針 ESG投資に対応」なる見出し記事が掲載されていて、環境省は企業の事業活動が水や森林、生物多様性といった自然資本にどのような影響を与えているか(2024年春頃に評価指標を例示して)開示するよう求める、とのこと。上場会社とそのグループ会社を中心に、様々な非財務情報の開示がとても重要になってきました。

そうなると開示された非財務情報の信用性はどのように担保されるのか。おそらく第三者保証と内部統制報告の見直し、ということになるのでしょうね。J-SOX改訂では、内部統制の基本的な枠組みとして「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」確保、と変わりましたし、監査法人による限定的保証→合理的保証による第三者保証の在り方が本格的に議論されることが今後予想されます。このような状況で懸念されるのが「担当役員に丸投げ」です。私の経験上、関連事業部門の抵抗に負けて「部分最適のつなぎ合わせ」となってしまって、不正リスクの温床になってしまいかねません。

企業側として、今後準備しておくべきは監査法人とのコミュニケーションの促進だと思います。先日、いなげやの会計監査における(会社と会計監査人間での)トラブルが発生しましたが、「どっちが悪い」ではなく、対話目的を明確にしたコミュニケーションの不足ではないかと考えます。同様に、非財務情報の開示プロセスや開示内容の過不足、その真実性確保についても、これまで以上に会社側と会計監査人側とで意見のすり合わせが必要になると思います。

EUでは、2024年からサステナビリティに関する情報開示基準の適用が予定されています。また、米国では気候関連開示に関する限定的保証が2024年から導入され、さらに2026年からは合理的保証による第三者保証の導入が予定されています。日本でも、すでに2023年3月期の有価証券報告書から非財務情報の開示項目が拡充されていますが、2025年3月期以降から非財務情報の開示基準の適用が検討されています。

ということで、海外に平仄を併せる形で第三者保証制度が導入されることも想定されますが、監査法人任せにすることなく、内容面・プロセス面いずれにおいても企業の経営陣が「どうすれば第三者保証を速やかに得られるのか」先頭に立ってガバナンスや内部統制の整備(とりわけ現場における抵抗の強い既存の業務執行の改廃)を今から検討すべきではないでしょうか。また、非財務情報の報告と財務報告との整合性や関連性についての考え方も経営陣として議論しておくべきと考えます。

 

| | コメント (0)

2023年12月15日 (金)

金融機関目線で挙げるべき今年の2大企業不祥事

今週発売の週刊金融財政事情(12月12日号)も「金融機関の信用リスク」が特集記事とされていますが、金融機関の「信用リスク」の視点で今年の大きな不祥事を挙げるとすれば(言わずと知れた)ビッグモーター事案と多くの金融機関を巧妙にだまし続けて倒産した堀正工業事案(会計不祥事)ですね(なお、これは私の主観的な意見でして、私が社外取締役を務めている銀行の意見ではございません)。

堀正工業の件は、経済誌では取り上げられていましたが、世間的にはあまり大きく報じられてはいないようです。事案の詳細はこちらの東京商工リサーチ社のニュース記事が参考になりますが、上記「金融財政事情」を読めば読むほど「世紀の大粉飾事件」ですね。

金融機関としては、まずビッグモーター事案については、非上場の大会社(会社法上)におけるガバナンスへの関心を高める必要性が高いことが(おそらく)どこの金融機関でも教訓となったようです。林原事件を契機に「会計監査人設置状況」については管理する銀行も増えていたようですが、今後は取締役会の開催状況、業務執行の報告状況、監査役(会)の開催状況、会計監査人の計算書類への監査状況くらいは関心を持ち、大会社に対する信用リスク管理を高度化するというもの。

そして堀正工業事案については50社程度の金融機関が10年以上粉飾決算で騙され続けたわけですが、実は「堀正工業はちょっと・・・」ということで融資を敬遠していた銀行もあり、判断が分かれていたのですね。粉飾された計算書類をみて「怪しい」と判断した銀行もあり、また五反田の本社を訪問して「嗅覚的に怪しい」と判断した銀行もあるとか。さらに「日本を代表する●●銀行が融資実行しているのだから間違いないかも」といった安易な考えで融資を続行していた金融機関もあったような。←たとえばこちらのダイヤモンド誌の9月1日付け(有料)記事参考。

ただ、積水ハウスが騙された五反田地面師案件(こちらも「五反田」?)と同様、後から冷静に考えれば「なんでこんな奴らに騙されたの?」「資料を確認したら『あれ?へんだぞ』と違和感を覚えるでしょう」とも思われがちですが、イケイケどんどんで営業を進めているときには、どうしてもバイアスが働きます。どんなに悪い評判が耳に入ってきたとしても営業を進めるために都合よく解釈するのが「優秀な営業社員」だと思うのです。ましてや「社長案件」だったり「支店のノルマ達成」だったりが目の前にチラつけば、よほど管理部門の止める力がなければ後の祭りになってしまうでしょう。

2019年の「リクナビDMPフォロー」導入事案の際、日本を代表する37社が購入して、うち34社が個人情報保護委員会から行政指導を受けましたが、氏名非公表となった3社のうち1社が三井住友銀行だったそうです(当時のこちらの日経ビジネス記事)。なぜ三井住友銀行は使用を中止することができたのか。これと同様、なぜ堀正工業への融資実行をしないと判断できたのか、むしろその経緯が知りたいです。そして三井住友銀行ではDMPフォローを使わないことを進言した役職員は高く評価されたのか、堀正工業への融資を止めた行員は止めたことで高く評価されたのか。そのあたりも知りたいですね。

| | コメント (0)

2023年12月12日 (火)

親子上場の意義に関する開示と社外取締役に期待される役割

ひさりぶりのガバナンス関連のお話です。12月11日の日経ニュース「親子上場の意義、東証が開示要請 1000社超が対象」では、この12月にも、東京証券取引所が親子関係や持ち分法適用関係にある上場会社1000社超に対して企業統治に関する情報開示の拡充を求める、と報じられています。親会社(支配会社)側は上場子会社を持つ意義や、子会社の独立性確保のための取り組みなどの説明が必要になり、少数株主の利益を脅かしかねない親子上場などには相応の説明責任を求めるとのこと。また、情報開示の拡充は、上場子会社や上場関連会社を持つ親会社・大株主側と、株式を持たれている子会社・関連会社側の双方が対象となるそうです。

アスクル・ヤフーの事例が紹介されていますが、とてもなつかしいですね。(アスクル・ヤフーの件ではありませんが)私、親会社側の社外取締役として、機関投資家から「上場子会社との関係を今後どうするのか、その理由と結論を述べよ」と質問を受けたこともありますし、また上場子会社側の社外取締役として、完全子会社化時点の統合比率の正当性を判断する特別委員会の委員を務めた経験もあります。とくに(親会社側では)子会社の上場をなぜ維持するのか・・・という点は取締役会で何度も議論をした記憶がありますし、当該子会社の経営陣や社外役員の意見をお聞きしたこともありました。

以前も申し上げた通り、上場子会社(従属会社)側の社外取締役は(有事となれば)少数株主から株式取得価格決定申立(非訟事件)を受ける可能性がある、と考えておいたほうがよいと思います(私の場合、さすがに最高裁で決着がつくまで4年ほどソワソワしておりました)。とりわけ今年の伊藤忠・ファミマ決定の影響もあり、(会社から独立した)社外取締役の法務アドバイザーを「費用」としてつけることを検討しても良いでしょうね。SBIとSBI新生銀行の件も社外取締役の方々がご苦労されていましたね。

むずかしいのは親会社側(支配会社側)の社外取締役として、被支配会社の株式をどうすべきか、機関投資家から質問を受けた場合です。現状維持、完全子会社化、株の売却(保有比率の縮減)のいずれかの判断を、(インサイダー情報リスクに配慮しながら)理由とともに説明しなければなりません。資源配分における全体最適を重視するのか、当該従属会社の意向を尊重するのか、なぜ過半数の株を保有している状況で「できないこと」が完全子会社化によって「できること」になるのか、さまざまな考慮事由があります。また、先日のセブンアンドアイの百貨店売却の状況などをみておりますと、ソフトランディングの難しさも感じます。

親子上場の意義等を開示するようになったとしても、おそらく開示情報は抽象的な内容になるような気がします。実際に株主に説明しなければならないのは個々の上場会社のグループ経営方針に基づく将来見込みくらいになりますでしょうか。

| | コメント (0)

2023年12月 9日 (土)

関西テレビ「逆転裁判官の真意」(全編)Toutubeにて公開されました。

先日、こちらのエントリーでご紹介いたしました関西ローカル番組「逆転裁判官の真意」が本日、YouTubeで公開されました。すでに前回のエントリーにもコメントをいただいておりますが、法曹だけでなく、企業実務に関わっておられる方々にも興味深い内容(いろいろと考えさせられる内容)かと思います。そして、関西テレビの「組織内弁護士」である上田さんの渾身の取材(私だったら、とうていマネできないです)姿勢にも注目をしていただければと思います。

すでにYouTubeのほうにもたくさんのコメントが付されていますね。私の感想についても、後日お話したく。

| | コメント (0)

2023年12月 8日 (金)

適時開示アワード2023ノミネート事例公表(これは勉強になります!)

先に申し上げておきますが、本エントリーはノミネートされた適時開示の内容を揶揄するものでは決してございませんので、ご了承ください。

たしか過去にも同様のアワードがあったようにも記憶しておりますが、適時開示アワード2023が12月6日公表されました。ノミネートされた今年の10事例はいずれもスゴイ内容です。いずれも個人的にフォローしていたものばかりですが(中には半分ほど足を突っ込んでいた事件もありますが)、今年もなかなか蜜の味がする適時開示が多いですね。皆様も投票してみてはいかがでしょうか。

私個人としては(仕事がら?)4642と7740の案件にとても関心を抱いておりました。あと8182案件は、似たような経験がありまして、あまり笑えない事案でした。7740案件など、世間で結構騒がれたにもかかわらず、業績株価とも好調なんですよね。たとえ有能と評判だった社長さんが解任されたとしても、ガバナンスの健全性が示されれば業績には影響がないということが示された例ではないかと。

ちなみに8864案件はご著書「第三者委員会の欺瞞」でも有名な会計学者の方が第三者委員会の委員長をされましたね。わずか3週間で報告書を仕上げて公表し、さらに委員会報酬まで開示されたもので、もし格付け委員会がこの報告書を格付けするのであれば・・・と期待しておりました。3228案件は、朝日新聞の特集記事において、当事者の方が報告書指摘事実について真っ向から反論しておられましたね。

| | コメント (0)

2023年12月 7日 (木)

企業会計2024年1月号(創刊75周年記念号)に論稿を掲載していただきました。

Img_20231206_213412278_5127日の朝ドラ「ブギウギ」は(たぶん)号泣必至の回ですが、笠置シヅ子さんが歌った数少ない軍歌「大空の弟」は歌詞も録音もまったく残っていないそうで、ようやく2019年に服部良一氏の遺品の中から「それらしき曲譜と歌詞」が発見されたそうです。明日はどのように趣里さん(福来スズ子=笠置シヅ子)が歌うのか注目です。

さて、中央経済社「企業会計」2024年1月号(創刊75周年記念号)の特集「会計の未来を語る-45人からのメッセージ」におきまして、当職執筆にかかる「会計監査人のアイデンティティ(存在意義)」なる論稿を掲載していただきました。

会計監査へのリスペクトをこめて、会計監査人の将来の「あるべき姿」と、それに近づくための提言を記したものでございます。弁護士の執筆者は私ともうひとり竹内朗弁護士ですが、竹内さんも(テーマは違いますが)やはり監査人へのリスペクトをこめてお書きになっています(不正調査の場面で、いつも会計士の方々と同じ目線で仕事をしているからかもしれませんね)。大杉謙一先生は「分配可能額規制」に触れておられ、興味深い。

特集は「会計の未来」とありますが、他の執筆者の方々の論稿を拝読していると、「会計のいま」を理解するのにもってこいの内容で勉強になります。なお、私なぞは「末席を汚させていただく」立場での登場でして、この「45人」の執筆者一覧はこちらの特集号目次をご覧ください。おそらく本日あたりは大きな書店に並んでおりますので、ご興味・ご関心がございましたらご一読いただけますと幸いです。

今年8月2日、国際監査・保証基準審議会(IAASB)から、公開草案「国際サステナビリティ保証基準 5000」が公表されました(パブコメ期限は12月1日だそうです)。監査法人は、いよいよ法定監査がサステナビリティ情報にまで及ぶ時代となり、ビッグビジネス到来かもしれませんが、忘れてはいけないのが会計監査人のアイデンティティです。先日、ある監査法人さんと監査対象企業(上場会社)との間で、繰延税金資産の取り崩しを巡る意見の相違が公表されていましたが、そういった紛争の根本原因はどこにあったのか、ぜひ議論できればと思います。

| | コメント (0)

2023年12月 6日 (水)

日経「企業が選ぶ弁護士ランキング2023」にて、危機管理部門5位に選出していただきました。

忘年会シーズンが本格化してまいりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。昨日来、クボリンこと久保利弁護士が全国レベルのメディアでたくさん取り上げられていて「黒い弁護士」とか「ど派手弁護士」などと囁かれているのをみて驚きました。法曹界では「かの有名な」久保利弁護士でも、世間で話題の事件で表舞台に出ると「異様感」に注目されるとは。。。ホント、企業法務の世界というのは世間から見るととてもニッチな職域であることを痛感しております。

さて、今年も年末恒例の日本経済新聞「企業が選ぶ弁護士ランキング2023」の季節となりましたが、危機管理弁護士部門において5位に選出していただきました(有料版WEBのみご覧になれます)。ちなみに企業+弁護士によるランキングでは(組織票がないもので)危機管理部門9位でした。投票いただいた企業、同業者の皆様に厚く御礼申し上げます(本当にありがとうございました!)。3位までに入っていると3週間ほど前に日経さんの取材要請が来ますが、今年は取材要請がなかったので、あまり期待しておりませんでした。

1位の木目田さん、2位の深水さん、3位の平尾さんは「三菱電機」つながりですね。ということで私も3位・・・といきたかったのですが、「あと1票及ばず」というところで逃しました。惜しい!・・ん?「惜しい」といえば今年6月のT建設の株主総会でもあと0.4%賛成票が足りずに社外取締役になりそこねましたよね( ´艸`)。外部調査人による調査やTOB対応で揺れるT建設の現状をみるに・・・・うーーん、経営に参画したかったなぁ(ホントに残念)。今年1年は「惜しい」ことが多かったような。いやでも、いろいろ失敗から学んだことは多かったですし、新たに金融実務に関わる機会をいただきましたし、ともかく元気に1年仕事ができましたので、また来年がんばります。

ところで12月6日に「ビジネスと人権部門ランキング(詳細)」が公表されますが、実は企業の皆様から「どなたか●●に強い弁護士さん紹介してよ」と、この1年一番相談を受けたのが「ビジネスと人権に精通した弁護士」でした。私も正直申しまして、在阪のエキスパートを存じ上げませんので、大阪の会社にも東京の弁護士の方をご紹介しているのが現実です。他の部門については、「またこの人か!」とあまり新鮮味もないかもしれませんが(笑)、この「ビジネスと人権部門ランキング」については企業の皆様にとって「お値打ち感」(?)があるように思います(私の独善的な考えかもしれませんが・・・💦)。

| | コメント (0)

2023年12月 5日 (火)

消費者庁-公益通報者保護法対応の内部通報導入支援キットを公表

本日(12月4日)、日大理事長の記者会見がありました。記者の皆様も現行私立学校法と日大の寄付行為の内容に対する理解がないと、なかなか学校側の説明は腹落ちしなかったのではないでしょうか。日経の記事コメントにも載せましたが、私は昨年10月以降、数多くの通報(告発)があったにもかかわらず、これに真摯に対処してこなかったことが今回の「ガバナンス不全」につながったと思います。古いところでは2014年12月、東芝に内部告発(社員2名によって金融庁に対する情報提供が行われた)がなければ、今日のような姿はなかったと思いますし、ホント内部告発の威力はすさまじい(もちろん、東芝は復活すると信じておりますが)。

そういえば、宝塚歌劇団の事件が世に出たのも週刊文春に内部者が情報提供したことが発端のようですし(調査報告書3頁の記載からの推測です)、熊本県の助成金不適切受給事件を扱うこちらの記事をみても、(真相を究明するための)内部告発代理人の要望・主張はきわめて妥当なものと思います。内部告発の代理人業務を請け負う弁護士が増え、内部告発が大きく報じられる時代だからこそ、内部通報制度の重要性は広く認識されるべきと考えます。

ただ、内部通報制度の整備こそ内部告発を防いで自浄作用を発揮するために不可欠の施策でありますが、なかなか痛い目に逢わないと資源配分に至らないのが企業社会の現実です。ということで(?)、平時から中小の事業者の皆様にも通報制度に親しみを覚えていただくため、本日(12月4日)消費者庁のHPに内部通報導入支援キットが公表されました。これまで導入経験のない中小企業の皆様にお勧めであることはもちろんですが、すでに整備していると自負されておられる大企業の皆様にも、改正公益通報者保護法に対応する内部通報規程のモデルや公益通報対応業務従事者の指定に関するモデル案が公表されていますので、ご参考にされることをお勧めいたします。

また、消費者庁として、今後公益通報者保護法の実効性向上に向けた施策を打つことを消費者庁長官が述べておられますので、ぜひこちらもご一読いただければと。以下、インタビュー記事からの抜粋ですが、

公益通報者保護法の周知・広報については、今年度の総合経済対策の施策に盛り込まれています。これを受け、消費者庁では、公益通報者保護法に関する企業経営者向けの解説動画(5分)、従業員向けの啓発動画(5分)、窓口担当者向けの研修動画(1時間)、制度を運用するための内部規程や通報受付票、内部通報対応の責任者・担当者の指定書のサンプルなどを一式そろえ、「内部通報制度導入支援キット」と名付けて、12月4日の正午に消費者庁ホームページに掲載します

とのこと。このような施策の一環として周知・広報がなされたわけですね。先ごろ、フィナンシャルタイムズ(FT)でも「日本の改正公益通報者保護法だけでは内部通報者保護は不十分」と指摘されています。運用面ではまだまだ課題が多いのですが、まずは多くの事業者の方々に通報制度や現行法を理解いただき、競争力強化につなげていただければと。(なお、全然関係ない話ですが、産経新聞ニュースやスポーツ紙で「(日大会見に登壇した)久保利(第三者委員会答申検討会議)議長のド派手なスーツ」が話題になっていますが、あのスーツはふだんの久保利さんと比べれば驚くほど地味です。おそらく場所をわきまえて地味目のスーツにされたのかと推測いたします。)

| | コメント (0)

2023年12月 4日 (月)

日大アメフト薬物事件-「廃部決定」の審議は時期尚早と考える

自民党派閥のパーティーに関する政治資金規正法問題について、不透明な処理を批判するのは正当だが、検察が立件するのはかなり厳しいのではないかと思っていたところ、12月3日のサンデーステーションに生出演されていた郷原弁護士が明快に同様のご意見を示しておられたので、やはり刑事立件はハードルが高いなあと感じております。ただ、民主主義の前提となる「お金の話」なので、ぜひ検察は積極的に動いていただきたい(以下本題)。

日大アメフト薬物事件について、第三者委員会報告書が公表されてからの報道をみておりまして、展開が混迷を極めているように感じているのは私だけでしょうか。とりわけアメリカンフットボール部の存廃をめぐって、いろいろなご意見が示されておりますが、私はまだ今回の薬物事件の全貌が明らかになっていないので、決めるのは時期尚早かと思っております。ガバナンスの再生と事件の手じまいは別ではないかと。以下は私の個人的な意見です。

このたび、最初に逮捕された元アメフト部員に対する正式裁判の様子が報じられていますが(産経ニュースはこちらです)、この裁判が(大麻ではなく)覚せい剤を保持していたことが重要な要素であることを報じるメディアはあまりありません。なぜ覚せい剤を保持していたにもかかわらず、大麻を保持していた罪に問われているのか、という理屈はなかなかむずかしいのです。昭和61年のこちらの最高裁判決でも、麻薬と思っていたものが実は覚せい剤だった事件について、麻薬取締法違反の成立を最高裁が認めていますが、一部の裁判官から補足意見が出ており「なぜ覚せい剤を保持しているのに麻薬取締法違反罪が成立するのか、おかしいではないか」との合理的な意見が出てくることにも言及しています。

元アメフト部員が公判で「長い間大麻を使用していた」といった供述をしていることが報じられていますが、これは覚せい剤を保持していたにもかかわらず大麻取締法違反で立件するために必要不可欠な供述であるがゆえの証言です。覚せい剤はどのような目的で保持していたのか、という点に裁判官が補充質問をしているのも同様です。ちなみに後から逮捕された別の元アメフト部員については略式裁判で罰金が確定していますが、これは覚せい剤の使用や所持とは関係なく、純粋に大麻取締法違反だけの事実が問題だったからだと思われます。

警察・検察が日大アメフト薬物事件を立件する最大の目的は(何度も当ブログで申し上げているとおり)日大の学生を通じて教育機関と反社会的勢力との癒着のおそれが生じており、これを絶対に防止して教育機関を守ることにあります。8月の報道では、元アメフト部員は「小さな塊は密売人から『おまけ』として渡された」と説明していると報じられていました。この点において、こちらの高橋弁護士の解説が的を得ていて、この「おまけ」こそ、反社会的勢力の常とう手段だということです。大麻ではさほどの収益につながりませんが、大麻使用を通じて覚せい剤の常習者に仕立て上げて高額の収益を反社会的勢力が稼ぐという構図です。おそらく大学に反社会的勢力が接触するためのストーリーの一つかと思います。オーバードーズの10代に近づいて「おまけ」を渡すとかホストクラブに通う若い女性を最終的には借金漬けにして収益を上げるというストーリーにも似たところがあります。

ところが元アメフト部員は公判で「おまけとして密売人からもらった」とは証言しておらず、報道によれば「友人から預かってほしいと依頼を受けて所持していた」と証言したそうです。「おまけとして・・・」という証言であれば、そこで話は完結していたかと思いますが「友人が密売人からもらったものを今年3月に預かった」ということになりますと、「覚せい剤を所持していた友人が別にいる」ということになり、おそらく警察・検察の捜査はそちらにも及ぶことになるでしょう。もはや大麻ではなく覚せい剤の話となり、反社会的勢力に資金を支援していた、という意味では違法性の程度が大きく変わります。そのあたりの全貌が明らかになってはじめて「アメリカンフットボール部を存続させるべきか、廃止とすべきか」という議論の前提がようやく確定するのではないでしょうか。

| | コメント (1)

2023年12月 1日 (金)

続・公益通報者保護法の2025年運用改善を目指して-消費者庁始動?

今年も早いものでもう師走ですね。今年はずいぶんとリアルな忘年会が増えていますので、少しブログの更新も減ると思いますがご容赦ください。

もう5年以上前ですが、私が内部通報者の支援をしていた組織で(ここ1年以内に)大きな不正が発覚し「ああ、ついに出たのか。あのとき自浄作用を働かせておけばこんなことにならなかったろうに」と思わず嘆いてしまう事件がございました(どんな事件かは到底申し上げられませんが)。当時、(私の能力不足で)通報者の方の力になってあげられなかった後悔とともに、不正を「これは不正ではない」とこじつけていたトップ、監査役員(および会社側アドバイザーの方々)は今ごろどう思っておられるのだろうと、少し興味深く眺めております(以下、本題です)。

さて、11月14日のこちらのエントリー「公益通報者保護法の2025年運用改善を目指して-消費者庁始動?」の続編でございます。本日(11月30日)の日経ニュース「内部通報制度[未対応]66%、民間調査、実効性に課題」を読みましたが、帝国データバンクの調べで、改正公益通報者保護法への対応済の企業はわずか20%であり、ほぼ未対応(分からないを含め)が80%とのこと(全国11,500社回答のアンケート集計結果より)。

また、この記事では今年4月のパーソル総合研究所の調査結果として、不正を目撃しながら対応しなかった理由がいくつか具体例として挙げられており、「何も変わらない」「不利益処分がこわい」といったところが紹介されていました。消費者庁としては、上場会社を含む1万社を対象に、内部通報制度の実態を紹介し、しくみを解説した動画も作るそうです。なお、昨日のロイターニュースでは、消費者庁が昨今の企業不祥事報告書を本年度中に分析するとのこと(「公表」とまでは報じられていません)。まさに消費者庁が本格始動されるようですね。ビッグモーター社事案(裏返しとしての損保ジャパン事案)、日大アメフト薬物事案、タムロン事案(経費不適切支出で解任要求)、タカラヅカ歌劇事案など、昨今世間を賑わせている不祥事案件は内部通報もしくは内部告発(外部通報)が発覚の端緒です。まさにタイムリーです。

ただ、公益通報者保護法への対応(通報対応業務の整備)を社長に説得するのはなかなかむずかしい。メリットへの実感がわきにくいですね。さえき事件判決によって「見て見ぬふりは不法行為」ですよ、とかリニエンシー制度、司法取引、確約手続の不作為は社長自身の善管注意義務違反ですよ、とか申し上げても社長さんは(コンプライアンス担当役員には響いても)あまりピンときません。つまり人的物的資源が投入されないのです。

それよりも、公益通報者保護法が施行された平成18年当時と令和5年とでは、通報制度を取り巻く外部環境の変化をご理解いただくのが最も近道かと思います。①労働者の流動性の高まり、②ハラスメント防止への社会的合意、③社内証拠の持ち出しが簡単(SNS、スマホ、録画録音データ)、④通報者支援アドバイザーの急増、⑤職場環境への労働者のこだわり(第三者通報の急増)、⑥明確な法令違反はなくても倫理上問題のある行為は世間から叩かれる、あたりでしょうか。少子高齢化が進み、人材確保がむずかしくなっている中で、労働者の人権保護のための制度は業績にモロに影響します。少なくとも外からは「通報制度を整備していること」はそのような目で見られる時代になったということを認識していただきたい。

| | コメント (2)

« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »