高島屋Xmas不具合ケーキ騒動と改正消費者裁判手続特例法の適用問題
一昨日のエントリー「高島屋Xmasケーキ騒動と『コンプライアンス費用』の負担問題」の続編です。Xmasケーキ騒動について、本日高島屋さんは記者会見を開き、「製造や配送委託先の調査を進めた結果、原因を特定できなかった。ただ、消費者に対する責任は全て高島屋にある」として、返金や商品交換に応じることを表明しました。お客様本位での高島屋さんの対応については、将来的に取引先との良好な関係を維持することにも配慮したものとして概ね想定されたところです(以下は、私の個人的な見解なので、そのつもりでお読みください)。
上記会見で述べられた「徹底した調査の結果、原因を特定することは不可能だと判断した」としている点には若干の疑問を感じています。といいますのも、私は「今回の騒動は、今年10月に施行された改正消費者裁判特例法による共通義務確認訴訟の第1号案件になるのではないか」との淡い期待?を抱いていたからです。今回の件は高島屋と売買契約を締結した消費者に、ほぼ同じ事実関係のもとで商品不具合が発生していますので、(クレーム件数が500件を超えたあたりから)これって改正法による消費者共通義務確認訴訟になるのでは?と思いました。「支配性」に関する要件についても、いろいろと考え方はありますが、高島屋さんが800件以上の商品不具合を認めているので、クリアできるのではないかと。
ただ、「高島屋に責任があります」と述べているとしても、これはコンプライアンス上の責任という意味であるならば、法的責任を認めたものではないと抗弁できそうです。2020年4月に施行された改正民法では、契約不適合責任の場合でも損害賠償請求には過失が要件となるので「原因は特定できなかった」と言われると、消費者側で高島屋さんに過失があることを立証しなければなりません(ただ、これはかなり困難です)。
それでも、仮に高島屋さんに契約不適合責任が認められた場合に、改正消費者裁判手続特例法では消費者の精神的損害(慰謝料)についても請求できることになりましたので「Xmasケーキが期日に提供されなかった場合に、消費者にはどのような精神的損害が発生し、その金額はどの程度だろう」といった法律家的な興味を抱きました。
しかし、高島屋さんとしては「原因特定は困難」として取引先にも損害賠償義務が発生しないように配慮したうえで、購入者全員に購入代金の返金もしくは商品交換を申し出ています。消費者裁判手続特例法による「共通義務確認の訴え」は、代金支払請求と同時に行う場合のみ慰謝料請求も可能とされていますので(同法3条2項6号)、先に代金の返金もしくは商品交換に応じてしまえば、当該消費者は(慰謝料のみを請求するために)消費者裁判手続特例法上の簡易確定手続の申立てができなくなります。
なるほど、契約不適合責任追及には過失の立証が必要ですが、「これ以上原因究明はしない」と宣言して過失立証を困難にする、かりに「法的責任あり」とされても、その責任範囲については返金手続きや商品交換を進めることで消費者から慰謝料請求をされるリスクをできるだけ低減させる、という手法で、高島屋さんは対処したのではないか、と思いました(もちろん、勝手な推測です)。そうであるならば、高島屋さんの対応は(たとえ支払義務のない消費者に対しても返金を行うという事実があったとしても)かなり合理的な判断によるものではないかと。
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