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2023年12月21日 (木)

品質不正はなぜ悪いのですか?-現場社員の「正当化理由」を考える

Daohatsu0015月に設置された第三者委員会の報告書公表とともに、ダイハツの品質不正事件が大きく報道されています。トヨタ自動車の100%子会社ということで、トヨタの世界戦略にも大きな影響を及ぼす不正事案だけに、世間の関心が大きいのも当然だと思います。トヨタ自動車側も「自分たちが負担になっていたのではと反省している」と公表していることも印象的です。

まだ第三者委員会の報告書(概要版)しか読んでおりませんが、第三者委員会は、あくまでも類型化された不正行為の有無について(時間をかけて遺漏なく)調査をしたものであり、その不正行為の法規適合性(性能や安全面における評価作業を伴う)に関する判断はダイハツ側に委ねられるとしています。そして、ダイハツはごく一部の製品を除き、性能や安全面における問題は確認済みであると公表しました。

ダイハツのような完成品のメーカーでも、自動車部品の製造メーカーでも「品質不正は起こしたけれども、世間に出回っている製品の性能や安全性には問題ない、また不正行為を長年継続していたとしても、性能不足による回収やクレームの数には影響していない」と力説します。では、なぜ品質不正がこれほどまでに悪いことなのでしょうか?単純に「取り決めたルールに違反しているから」というだけでは、おそらく現場社員はもっと大切なことを守るために「あえてルールを守らない」という選択をする正当化理由に悩むのではないでしょうか。

「納期を守る」というのは「顧客第一主義」であり、現場にとっては大きな「やりがい」につながります。性能や安全に影響を及ぼさないプロセス違反くらいなら、(クレームも出ないのだから)納期を守ることを優先しても当たり前では?「短期開発こそ当社の存在意義」「短期開発こそ親会社からの自主独立性を守るための唯一の道」ということであれば、社員の意欲を高めて生産性を向上させるために多少の試験データ改ざんや偽装試験をやってでも結果を残し、「組織のアイデンティティを守る」ことを優先することが大切なのでは?新しいルールが上から降ってきたのであれば、どこかで「捨てるもの」「省くもの」を見つけなければ「現場の働き方改革」は実現できないわけで、多少のルール違反によって別のルール違反(たとえば労基法違反)を避けることは当然ではないか?

などなど、現場には品質不正を正当化したくなる理由がころがっているのです。だからこそ、長年品質不正を続けていても、現場の社員の方々は(正当化理由のおかげで)毎日元気に仕事ができて生産性が上がるのです。本当に「品質不正が悪い」のであれば、そのような正当化理由に対して経営陣がどのような答えを出すのか。また、その答えをどのような行動で現場に示すのか。そこが明確にならないかぎり、私は日本企業から品質不正事案がなくならないし、今も多くの企業でダイハツと同様の不正が続けられていると思います(たまたまダイハツのような内部告発が出されていないだけ)。

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コメント

まさに、法規やルールという形式的な正義と顧客第一主義や会社の利益といった実質的な正義との衝突です。役職員が直面する、複数の正義間の衝突を解消して、行動価値の優先順位を示すことが、組織の説明責任を担保するのだ、ということを経営陣に腹落ちさせることは難儀ですね。

投稿: Qちゃん | 2023年12月21日 (木) 14時32分

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