ダイハツ品質不正問題-第三者委員会報告書への素朴な疑問
まだ報告書すべてに目を通したわけではありませんが、品質不正問題発生の原因分析について、少しだけ(頭に浮かんだ)疑問点を述べておきたいと思います。なお「素朴な疑問点」といいましても、調査委員会の報告内容を批判するものではなく「自分としてさらに知りたい点」という意味でございます。
今回の品質不正は製造・開発現場で発生していたもので、管理職が指示したり黙認していた事案ではない、とのこと。これが「経営陣と現場との乖離」という発生原因の基礎となります。ただ、神戸製鋼事案のときにも同様の疑問を抱いたのですが、2010年あたりから継続的に不正が繰り返されていたのであれば、2010年頃の現場社員はすでに「管理職」になっているのでは?そうだとすると、過去に不正に手を染めていた管理職の方々は、現場の不正を知っているわけで、この方々は黙認していたことにはならないのでしょうか?不正に関与していた方がまったく管理職になっていない、というのもおかしな話だと思うのですが。
つぎに、トヨタがダイハツを完全子会社化したのが2016年ですが、2014年ころから不正が急増したということは、やはりトヨタとの支配関係が品質不正に影響を及ぼしているのでは?報告書によると、いったん2015年、2016年あたりで(一時的に)不正件数が減っていますが、これもトヨタの完全子会社化とは関係あるのでしょうか?かつて「日経クロステック」でも報じられていましたが、「できない」と言えばトヨタの管理下に置かれてしまうので、できなくても「できます」と言い続けてダイハツの自主独立性を確保していた、という仮説は成り立たないでしょうか?もちろん、これは現場の問題ではなく、ダイハツの経営サイドの事情ではありますが。短絡的に「親会社の責任」とは申しませんが、親子会社における「深い闇の問題」が不正の温床になっていたのではないかとも考えられそうです。「短期開発」には光と影の部分があり、影の部分にあえて目を背けていたということであれば、親会社はこれに気づいていたのかどうか。そのあたりはさらに知りたいところです。
つぎに、2016年といえば世間で三菱自動車の燃費偽装事件で揺れた時期です。「他人事ではない」ということで、自動車メーカーではどこも自社の点検に余念がなかったと思います。ダイハツでも品質不正に関する社内点検が行われたと思うのですが、ではそこで今回の不正は発見できなかったのでしょうか。また、親会社であるトヨタとしてもグループ会社に対して厳格な不正チェックを要求し、その結果の報告を求めたりしなかったのでしょうか(これは経営陣のガバナンスの問題と思います)。
また、調査報告書(全文)の1頁目に、第一次公表事案の発覚端緒が示されており、ダイハツが不正の疑いを知ったのは、社員による内部通報制度の活用に基づくものではなく、外部機関に情報提供がなされ「外部からの指摘」によって知ったとあります。おそらく「内部告発」によるものと思われます。通常、社員がいきなり内部告発に及ぶことは少なくて、内部通報窓口を活用するとか、上司や同僚に相談して是正を促していたというプロセスを踏んでいることが多いと思います。調査委員会がこの告発した社員にヒアリングできたのかどうかは不明ですが、このあたりの経緯については知りたいところです。ちなみに現場社員が「内部通報」がされたことを知りつつも不正行為に及んでいたことが報告されていますが、これはかなり根が深い。
さらに、これだけ長期にわたる多くの不正事案が認定されたわけですから、いったん不正に手を染めたものの(生産終了といった事情もないのに)ここ数年の間に「やっぱりこれはマズイ。やめておこう」と不正と手を切った部署もあったのではないでしょうか。そのような「過去の品質不正事案」もカウントされているのか、されていないのか。なぜ現場は自主的に止めることができたのか。そのあたりは組織風土を知る上でも重要ではないかと考えます。
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コメント
トヨタがダイハツを完全子会社化したのが2016年で、それ以前からダイハツはトヨタの50%超株式保有子会社であった。
トヨタは、自社の内部のみならず、50%超子会社、完全子会社の製品製造・検査に関する体制が万全であることを常に心がけておく必要があった。
完全子会社する前は、ダイハツが上場会社であったことから、自主性を尊重する必要性はあったであろうが、完全子会社とした場合は、自社と同じ管理基準を子会社に適用すべきであったと思います。
親子上場から完全親子関係に移行する場合の、教訓であると思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2023年12月22日 (金) 13時16分