企業法務と経済安全保障-「経済安全保障の法的制御」
今年は年末まで内部通報に基づく事実調査が続いておりまして、30日まで仕事納めとはなりません。皆様はもうお休みに入ったのではないでしょうか。
さて、昨日(12月27日)、大川原化工機国賠訴訟地裁判決が出ました。同社社長さんらが、生物兵器の製造に転用可能な精密機械を不正に輸出したとして逮捕された後、起訴が取り消された事件(勾留11カ月)について、約5億6000万円の国家賠償を求めた訴訟の判決です。東京地裁は東京都と国に計約1億6000万円の賠償を命じました。裁判所は、警視庁公安部の逮捕と東京地検の起訴をいずれも違法と認定しています(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。「経済安全保障」を正義の御旗として刑事立件することの危うさが朝日新聞の社説でも問われています。
企業法務との関係で考えますと、経済安全保障という国策に対して、どこまでハードローによる規制への対応が必要とされ、どの領域ならソフトローへの自主規制対応が妥当するのか、といった問題がとても重要なトピックになりつつあります。上記大川原化工事件をみておりましても、国賠請求は一審で認められたものの、刑事立件自体が経済活動に対する委縮効果をもたらしたことは間違いありません。法律時報2024年1月号(日本評論社)では「特集 経済安全保障の法的制御」として、著名な学者の方々のご論文が掲載されており、「経済安全保障への企業の向き合い方」の現在地を知るうえでは参考となる一冊です。
とりわけ個人的な趣味で申し上げると高山佳奈子先生(京大教授)のご論稿「経済刑法と経済安全保障」は、営業秘密侵害罪(不正競争防止法)創設からこれまでの「実務への適用」に至る経緯などを参考に、企業活動に対する経済安全保障政策のもたらす「危うさ」(たとえば営業秘密保護に関しては、外国法を参照して罰則が創設されたものの、その後の運用においては「処罰範囲の拡大」や「重罰化」によって当初の考え方が放棄されたに等しい状況にある等)に警鐘を鳴らすものです。経済刑法による威嚇からどのように経済活動の自由を守るか、様々なヒントを得られるものと思います(上記大川原化工機事件についても触れておられます)。
また、上記大川原化工事件や日本企業のガバナンス(東芝の株主総会「調査者報告書」で問題になりましたね)にも関係する外為法の解釈ですが、こちらは渡井理佳子先生(慶大教授)の「経済安全保障と行政庁の裁量処分」も「経済安全保障の今」を知るにはとても参考になりました(こちらは理解のために「行政法」の知見が少し必要かな・・)。いずれのご論文も「法的制御の視点」によって書かれておりますので、そもそも経済安全保障と立憲主義との関係をきちんと押さえる必要があります。法武装がとても得意な監督官庁との交渉では、このあたりの理屈付けはまず交渉の第一歩ではないかと。
大企業を中心に「経済安全保障対策室」を設置しているところが増えています。基本的には政府と企業との連携協調が必要と考えますが、ときには企業側で規制に対する毅然とした対応が求められる場面もあります。ハードローによる罰則リスク、ソフトローを無視することによるレピュテーションリスクを認識しつつ、自社のビジネスの自由度を最大限引き出すためには、経営企画部あたりが「法的制御」の感覚を学ぶことが大切かと思います。
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