高島屋Xmasケーキ騒動と「コンプライアンス費用」の負担問題
業績絶好調の百貨店・高島屋ですが、すでにご承知のとおり、【通販Xmasケーキの崩壊問題】が大々的に報じられています(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。広告ではたいへん美味しそうなXmasケーキが5400円!著名パティスリー監修!ということで、楽しみにされていた方にとっては苦情を申し立てたくなるのも当然かと。現時点では苦情が900件超(販売数2900個中)ということですが、まだまだクレームは増えそうな気配です(なお、著作権フリーのイラストを使用)。
高島屋によると「原因は調査中」とのことですが、果たしてどこに原因があったのか。ケーキの製造元か、冷凍保管受託者か、あるいは配送業者か。いずれにしても最終消費者との関係では高島屋が対応する立場にありますので、注文者の希望があれば電車で2時間かけてでも注文者のもとへケーキを届けて謝罪をされたケースもあるようです(毎日新聞ニュース)。そして、今後想定される法律問題といえば、コンプライアンス対応費用の分担問題ですね。高島屋としてはブランドイメージを守るため、レピュテーションリスクを回避するために、おそらく法律的な損害賠償義務の範囲を超えた対処を余儀なくされ、注文者に対して最大限の誠意を尽くすことになるでしょう。
一方で(原因判明後に、調査に要した費用を含めて)高島屋から求償権、もしくは損害賠償請求を行使された事業者としては「原因を作ってしまった事業者としてはどこまで過失による不法行為の補償が必要か?」と悩むわけでして、法律的には(注文者に対して)損害賠償義務を負う範囲内、ということになります。ひょっとしたら「共同不法行為」や「過失相殺」といった主張を出したい気持ちになるかもしれませんし、そもそも高島屋のコンプライアンス方針によって対処した費用を求償権の行使としてそのまま請求されても支払うべき法律上の責任はないかもしれません(もちろん、今後の取引継続のために高島屋の意向に従わざるを得ない、と考える事業者もいらっしゃるかもしれませんが、それは経営判断の問題)。このあたりは難問です。
そういえば7年以上前の話になりますが、2016年4月5日のエントリー「横浜マンション傾斜事件-難問山積の三井不動産求償権問題」でも、同様の問題に触れましたね。(風のうわさでは)この求償権問題はまだ地裁レベルで裁判が続いているようで、三井不動産レジデンシャルが対処に要した費用を、取引先(三井住友建設、日立ハイテクノロジーズ、旭化成建材等)がどのように分担すべきなのか、(争点は他にもありそうですが)今後示される裁判所の判断はとても興味深いものであります。BtoCの企業は「安心思想」で対応しますが、BtoBの企業は「安全思想」で物事を解決するのが当然かと(合理的な理由もなく過度に分担金の責任を認めると、かえって経営陣の善管注意義務違反となるので)。
ちなみに、もうひとつの象徴的なコンプライアンス問題は、この騒動の発端です。誰かがSNSに「こんなに崩れてた~!」と写真付きで上げたところ、他にも同じケーキについて「私も崩れてた(泣)」というコメントが次々とアップされたそうです。もしSNSによる横の連携がなかったとすれば「昨年は一件も苦情がなかった」そうなので(朝日新聞ニュース)、「配送者のずさんな管理が問題!」として済ませられてしまった可能性が高い。おそらく全国的に数十件ほど同様の崩壊ケーキが存在するという事実が判明した頃から「これは輸送時だけの問題ではない」という印象が世間に広まり、ニュースでも取り上げられるようになった(その結果、900件という苦情数が判明した)という経過だと思います。これは日大アメフト不適切タックル事件が世間で騒がれるようになった経緯と似ています。SNSの浸透は、コンプライアンス問題を浮上させますね。
今回の高島屋のケースでも、(もちろん金額は比較になりませんが)誰がどの程度の解決費用を負担するのか、今後サプライチェーン・コンプライアンスの発想が当たり前になってきますと、当事者にとって合理的といえる理屈での解決策が求められます。どの業界でも「人手不足」が悩みの種ですが、どこに原因があろうとも、今度は「おせち料理」でも(SNSの力を借りて?)同様の事態が起きそうな予感がいたします。
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コメント
初めてコメントさせていただきます。
いつも拝読しており、大変勉強になります。ありがとうございます。
昨日パブリックコメントが開始されました「商業登記規則」の改正(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080305&Mode=0)について、ブログで取り上げられるご予定はございますか?
投稿: 新米 | 2023年12月27日 (水) 11時43分
コメントありがとうございます。相続登記の義務化については触れる可能性がありますが、商業登記規則の改正については、パブコメ段階で触れる予定はありません(日経Think!でコメントを述べるかもしれませんが・・・)ツッコミを入れるところがたくさんあるように思いますし、今後の動向をまずは見守ります。
投稿: toshi | 2023年12月27日 (水) 12時05分
ご返信をいただきありがとうございます。承知しました。
相続登記の義務化も含めて、今後もブログを楽しみにしております。
投稿: 新米 | 2023年12月27日 (水) 12時35分