金融機関目線で挙げるべき今年の2大企業不祥事
今週発売の週刊金融財政事情(12月12日号)も「金融機関の信用リスク」が特集記事とされていますが、金融機関の「信用リスク」の視点で今年の大きな不祥事を挙げるとすれば(言わずと知れた)ビッグモーター事案と多くの金融機関を巧妙にだまし続けて倒産した堀正工業事案(会計不祥事)ですね(なお、これは私の主観的な意見でして、私が社外取締役を務めている銀行の意見ではございません)。
堀正工業の件は、経済誌では取り上げられていましたが、世間的にはあまり大きく報じられてはいないようです。事案の詳細はこちらの東京商工リサーチ社のニュース記事が参考になりますが、上記「金融財政事情」を読めば読むほど「世紀の大粉飾事件」ですね。
金融機関としては、まずビッグモーター事案については、非上場の大会社(会社法上)におけるガバナンスへの関心を高める必要性が高いことが(おそらく)どこの金融機関でも教訓となったようです。林原事件を契機に「会計監査人設置状況」については管理する銀行も増えていたようですが、今後は取締役会の開催状況、業務執行の報告状況、監査役(会)の開催状況、会計監査人の計算書類への監査状況くらいは関心を持ち、大会社に対する信用リスク管理を高度化するというもの。
そして堀正工業事案については50社程度の金融機関が10年以上粉飾決算で騙され続けたわけですが、実は「堀正工業はちょっと・・・」ということで融資を敬遠していた銀行もあり、判断が分かれていたのですね。粉飾された計算書類をみて「怪しい」と判断した銀行もあり、また五反田の本社を訪問して「嗅覚的に怪しい」と判断した銀行もあるとか。さらに「日本を代表する●●銀行が融資実行しているのだから間違いないかも」といった安易な考えで融資を続行していた金融機関もあったような。←たとえばこちらのダイヤモンド誌の9月1日付け(有料)記事参考。
ただ、積水ハウスが騙された五反田地面師案件(こちらも「五反田」?)と同様、後から冷静に考えれば「なんでこんな奴らに騙されたの?」「資料を確認したら『あれ?へんだぞ』と違和感を覚えるでしょう」とも思われがちですが、イケイケどんどんで営業を進めているときには、どうしてもバイアスが働きます。どんなに悪い評判が耳に入ってきたとしても営業を進めるために都合よく解釈するのが「優秀な営業社員」だと思うのです。ましてや「社長案件」だったり「支店のノルマ達成」だったりが目の前にチラつけば、よほど管理部門の止める力がなければ後の祭りになってしまうでしょう。
2019年の「リクナビDMPフォロー」導入事案の際、日本を代表する37社が購入して、うち34社が個人情報保護委員会から行政指導を受けましたが、氏名非公表となった3社のうち1社が三井住友銀行だったそうです(当時のこちらの日経ビジネス記事)。なぜ三井住友銀行は使用を中止することができたのか。これと同様、なぜ堀正工業への融資実行をしないと判断できたのか、むしろその経緯が知りたいです。そして三井住友銀行ではDMPフォローを使わないことを進言した役職員は高く評価されたのか、堀正工業への融資を止めた行員は止めたことで高く評価されたのか。そのあたりも知りたいですね。
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