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2024年1月30日 (火)

旧東洋ゴム工業免震偽装・株主代表訴訟判決における経営陣の責任とは?

1月26日、大阪地裁において、旧東洋ゴム工業(現TOYOTIRE)元経営陣に対する株主代表訴訟の判決が出ました(たとえばこちらのニュース参照)。2015年に発覚したグループ会社の免震ゴム性能偽装問題に関連した訴訟です。被告4名のうち2名については1億3800万円、4名全員について連帯して2000万円の賠償責任が認められた、と報じられています。株主による旧東洋ゴム監査役への提訴請求が2016年5月ですから、一審だけでも7年8か月を要しました。ちなみに当ブログで過去に本件を取り扱ったのは、こちらのエントリーこちらのエントリーが最初です。

まだ判決文を手に入れておりませんので報道ベースでしかわかりませんが、ダスキン事件に関する平成18年の大阪高裁判決(ダスキンの旧経営陣11名に連帯して5億8000万円の損害賠償義務が認められ、その後平成20年に最高裁で確定)に類似した内容のような気がします。最初は内部統制構築義務違反で訴えたところ、原告株主側は裁判所から「もっと構築すべき内部統制を具体的に主張せよ」と言われ、ダスキン事件は「理由なし」とされ、本件では被告12名を取り下げることで(内部統制構築義務違反という)争点を絞って「いったん販売停止を決めたのに、その後出荷を再開した」「不正を認めて、いったんは公表する決断に至ったにもかかわらず公表しなかった」と主張し、この点が元取締役らの善管注意義務違反を基礎づける事実として認められているようです(あくまでも報道ベースからの推論です)。

ダスキン事件のときも弁護団団長が「日本の企業に不祥事公表義務を認めた画期的な判決だ」と会見で述べておられましたが、今回も株主代理人の方が「経営陣に公表義務があったと認める画期的な判決」と会見で述べておられました。ただ、2015年6月22日に公表された旧東洋ゴム工業の調査委員会報告書を読むと、元取締役らが腹を括ろうとしていたときに「悪魔のささやき」があったのですよね(これ、私も何度か品質不正事案の第三者委員会委員長を務めたことがありますので、有事にこそ「悪魔のささやき」にすがりたくなる経営陣の気持ちがよくわかります。だからこそ、「悪魔のささやき」に「社会の常識」で対抗する社外役員の存在が大きいのです)。

しかし長期間に及ぶ株主代表訴訟の審理、原告株主の方や支援する代理人には頭が下がります(まだ高裁、最高裁と続きますよね?)。果たして本当に「経営陣に不祥事公表義務を認めた判決」なのかどうか、高裁で逆の結論となる可能性はどの程度なのか、そのあたりはまた判決文を拝見してからコメントさせていただきます(金融商事判例の「特報」あたりで読めるかもしれませんが、関係者の皆様、どなたか判決文を見せていただければ幸いです。かなり厚かましいですが (笑))。最後になりますが、2016年の調査委員会報告書を今でも閲覧可能な状況で開示しているTOYOTIRE社の姿勢については高く評価したいと思います。

 

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2024年1月29日 (月)

SOMPOホールディングスの(お墨付きの)「優良コーポレートガバナンス」について

1月25日、ご承知のとおり損保ジャパンおよび親会社であるSOMPOホールディングスは、ビッグモーターによる不適切保険請求への対応に関して金融庁から業務改善命令を受けました。その処分理由だけでなく、直前に公表された最終調査報告書においてもSOMPOホールディングスのガバナンス不全が監督責任の根拠とされています。

ただ、これまでSOMPOホールディングスのガバナンスは優等生とされていました。SOMPOホールディングスは保険法上の保険持株会社なので、子会社の経営管理のみを事業目的とする上場会社です。その子会社経営管理の実施状況から、2019年、経産省および東証は他社が模範とべき「健康経営銘柄」に指定しました(指定銘柄は35社)。また、SOMPOホールディングスの情報開示の姿勢が評価され、2022年、金融庁は「事業上のリスク開示」「サステナビリティ情報」に関する好事例として、SOMPOホールディングスの有報開示を紹介しました。さらには2022年、経産省は「人材版伊藤レポート2.0好事例集」においてSOMPOホールディングスのパーパス経営の実践例を紹介しています。

すばらしい!!私がSOMPOホールディングスの社外取締役であれば、取締役会の実効性評価においてもESG経営への真摯な取組姿勢をみて、他社に自慢したくなる評価点をつけると思います。誰が見てもガバナンス優良企業であり、いわば「指名委員会等設置会社」の成功例と胸を張って言いたいです。おそらく機関投資家や運用会社の取締役会実効性評価においても最高点が付されるのではないでしょうか。

では、なぜ「ガバナンス不全」と言われるのか?単に「不祥事を起こしたから」という「後出しジャンケン」による結果責任でしょうか?そうであれば、これからも「ガバナンスの実効性評価」などと(私も含めて)やってみたところで少なくとも社会に多大な迷惑をかけてしまうような不祥事は防げないということになります。平時から競争力を高めるための「攻めのガバナンス」に資源を投下しても、有事における「守りのガバナンス」で失敗すれば一日にしてその信用は毀損されるということはきわめておそろしい。

ちなみにSOMPOホールディングスの2022年度「リスクマップ」をみると、さすが優秀なガバナンスを構築される集団、ちゃんと「ガバナンス不全は1000億円規模の損害が発生するリスクであり、発生可能性も低いわけではない」と公表しています。頭の良い人がたくさん集まる組織で、このようにリスクを的確に認識していたにもかかわらず、ではなぜ今回の事案が発生したのか。リスクマネジメントにおいて何が足りなかったのか。

金融庁は、処分理由の中で、このたびの事案の真因を以下のように述べています。

SOMPOホールディングスによる適切な企業文化の醸成に向けた取組みが不十分である中、損保ジャパンにおいては、次のような企業文化が、歴代社長を含む経営陣の下で醸成されてきたこと①顧客の利益より、自社の営業成績・利益に価値を置く企業文化② 社長等の上司の決定には異議を唱えない上意下達の企業文化③不芳情報が、経営陣や親会社といった経営管理の責務を担う者に対して適時・適切に報告されない企業文化

しかしこの度の自民党の政治資金規正法違反の結末(およびこれに対する国民の反応)をみれば、多くの組織でも同じ文化を有しているように思います。「不祥事」という面からみれば欠点にみえても、「持続的に業績を上げる」という面からみれば長所にもみえます(だからこそ、不祥事を発生させた企業のなかで「本気で50年来の企業文化を変えよう!」と、実行に移す人は出てきません)。

なぜもっと深く真因に突っ込んだ記述とはならなかったのか。もっと指摘すべき「不都合な真実」がほかにもあるのではないか。むしろ昨年12月26日の(企業保険に関する大手4社に対する)金融庁の処分理由のほうが真因に迫ることができているように思えました。これまで優秀とされていたSOMPOホールディングスのガバナンスがあるからこそ、本来は業務停止命令が妥当なところ、若干宥恕して業務改善命令にした・・・という理由ならそれなりにわかりますが。。。かように「ガバナンスの評価」というものはむずかしいと痛感いたします。

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2024年1月25日 (木)

【告知】少し更新頻度が下がります(どうかご容赦のほど 😹)

昨年10月以降、自分なりに精力的にブログの更新を続けておりまして、おかげ様で「人気ブログランキング」でも上位に食い込んでおりましたが、2月から某社の「建て直し」支援で本業がかなり忙しくなりそうです😅 😅 。おそらく役職員の方からすれば「あまり近づきたくない人」になるかもしれませんが、完全アウェーの中での仕事は何度か経験済みですから、たぶん今回も慣れると思います 😹 😹。

いろいろと資料も読まねばならず「ブログ書いている暇があったら・・・」と言われそうなので、約2か月ほどブログの更新頻度が下がりますが、ご理解よろしくお願いいたします。🙇🙇。決して深刻な病気とか不祥事(?)ではございません。また、第三者委員会委員就任時のように「まったく更新しない」というわけではございませんので、ときどきチェックしてみてください。

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2024年1月24日 (水)

第三者委員会-根本原因の解明と「企業の深い闇」(その2)

(本文「前社長」を「S社長」に訂正いたしました。ご指摘ありがとうございました)

昨年5月9日、こちらのエントリー「第三者委員会-根本原因の解明と企業の深い闇」において、不祥事の(再発防止に向けた)原因究明を本格的に進めると「世間で言ってはいけない企業の闇の問題」に突き当たることがある、ということをご説明しました(このエントリーは、現在も多くのアクセスがあります)。本日はその続編ということで。

週刊東洋経済の最新号(1月27日号)掲載の記事「闇落ち損保ジャパン「保険金詐欺」隠蔽の真相-ビッグモーターの不正請求に目をつぶった」(リンクは東洋経済WEB有料記事です)を読みました。2022年以来ビッグモーター不適切保険金請求事件を追い続けてきた中村記者による記事ですね。中村記者による2022年8月の記事が公表されたことを契機に、損保ジャパンもSOMPOホールディングスに報告せざるを得なくなりました。

なぜ損保ジャパンが(それまで他の大手損保と同様に停止していた)ビッグモーターへのDRS(入庫紹介)を(組織的不正と知りつつ)再開するに至ったのか。私は損保ジャパンS社長の動機として「このままだとビッグモーターとの美味しい取引を同業他社にとられてしまうという焦り」によるものと理解をしていました。記者会見でもS社長はそのような趣旨の説明をされていたと思います。

しかし、中村記者が記事で指摘しているように「ビッグモーターのやっていることはワン・オブ・ゼムではないか」とS社長が認識していたことの動機のほうが大きいように思います。つまり「車にキズをつけたり、ありもしない虚偽の修理箇所を作出して多額の保険金請求の見積もりを上げることは、昔から他の修理工場でもやっている。BMはそのうちの一社にすぎない」という認識です。さらに、そのような認識を抱いていたところに悪魔のささやき(DRS停止の間に、同業他社が顧客争奪に暗躍している)が聞こえてきたために、S社長は「焦ってしまった」のではなく「なんだ、ビッグモーター不正とはその程度の問題だと他社も認識しているのか」といった安堵感を抱いてしまった。これが事件の核心に近いと、私も思いました。

ひとつの有力な仮説にすぎないかもしれませんが、このストーリー(私から見れば「深い闇」)を調査報告書には書きづらいですね。「他の整備工場を持つ正規ディーラーでも昔から同じことをやっている」とか「保険会社も調査費用のほうが高くつくから黙認している」といったことを「商慣行」として記載することは国民の利害に大きく関わることだけに(仮説だとしても)書きにくいです(なお、実際には他社でも不正請求が起きていたことは報道されているとおりです)。ただ、一般ユーザーの利益保護のために同様の不正を根絶するためには、やはり(サプライチェーン一体となって)本当の根本原因の究明が求められるはずです。上記週刊東洋経済では「もうひとつの損保問題」として企業保険カルテルについても語られていますが、こちらも「保険代理人」を含めて深い闇がありそうです。

そういえば「くい打ち検査不正」で大きな話題となった「横浜マンション傾斜事件(2015年)」では、岩盤に到達していないにもかかわらず到達していたかのように虚偽の検査記録を作っていた(データ流用していた)旭化成建材のみが大きく批判され、親会社社長の辞任にまで至りました。ただ、後日(半年後)国交省の行政処分を眺めてみたところ、同業社8社が同時に処分を受けていました(処分対象社の信用のためにリンクは貼りませんが、平成28年1月13日付け国交省告知参照)。つまり「どこでもやってるんだから、納期を守るためにはしかたない。」という不正です。たまたま旭化成建材が関与していた工事が大きな問題に発展したことは「運が悪かった」ということで済ませられるのでしょうか。ではなぜ、その不正は「どこでもやっている」のか。権力を持たない者が解明しようとすると、社内外から魑魅魍魎(ちみもうりょう)が飛び出してきますが、そこに光をあてるかあてないかで再発防止の本気度が変わります。

A社の不祥事防止のために、お金にもならない仕事(A社への協力作業)を抱え込まねばならないB社。そのB社の「A社の不祥事予防のための協力作業」を、A社担当者は(場合によってはA社社長が)B社にお願いしなければならない。これが「不祥事防止のリアル」であります(自己完結型の不祥事予防策では「突然企業風土が変わる!」といった奇跡でも起きないかぎり限界があるのが現実です)。

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2024年1月23日 (火)

「ビジネス法務」2024年3月号に論稿を掲載していただきました。

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週刊東洋経済の最新号(1月27日号)は「不祥事モノ特集」ということで早速読もうと思いましたが、特集記事の前に「東洋経済とトヨタ自動車との微妙な関係」に関するコラムが目に飛び込んできました。現在、週刊東洋経済はトヨタ自動車に「出禁(出入り禁止)」なのですね( ´∀` )←いや笑ってはいけないのかも。出禁のきっかけとなった元記事(2022年の記事)も読みましたが、いろんな感想を抱きました(東洋経済編集長も、この記事を書いた記者を応援していることを述べています)。そうこうしているうちに中村記者の損保ジャパン関連の記事も読む時間がなくなりました。また別エントリーでそのあたりの感想については述べたいと思います。

さて、本日は拙稿のご紹介です。中央経済社「ビジネス法務」2024年3月号(1月21日発売)に「特別企画-2023年に起きた企業不祥事とコンプライアンス強化へ向けた示唆」と題する論稿(8頁)を掲載していただきました。昨年は世間を騒がせる企業不祥事がとても多かったのですが、それらの不祥事(および不祥事を取り巻く経営環境)に共通した特色を指摘し、さまざまな観点から他社でも対応しておくべき課題解決の手法を取り上げたものでございます。

原稿執筆時点でタカラヅカ事案、ダイハツ事案までは総括することができなかったのですが、昨年話題となった不祥事例をかなり多めに紹介しております。サステナビリティ経営、非上場会社・非営利組織のコンプライアンス、経済安保施策との向き合い方などの視点からの分析が中心です。なお「付言」しておりますが、本論稿は下書きを含めて生成AIは一切使用しておりません。構成や資料の収集・分析を含めて筆者が検討したものです(最近の論稿にはよく申し添えられていますが、こんなことを書かないといけない時代になったのですね)。

2024年の株主総会を展望する企画や「社内規程見落としポイント総点検」などがメイン企画となっておりますので、そちらはとても実務に参考になると思います。私の論稿は「ちょっとおやすみ」の時間にでも読んでいただけますと幸いです。すでに全国書店にて発売しておりますので、どうかご興味がございましたらお買い求めください(またご意見等いただけますと嬉しいです)。

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2024年1月22日 (月)

損保ジャパンの最終報告書からホールディングスの経営責任を考える

1月16日、ビッグモーターによる不適切保険金請求に対する損保ジャパンの対応について、最終報告書(SOMPO ホールディングス株式会社自動車保険金不正請求に関する社外調査委員会・最終報告書)が公表されましたので、この週末、「全文版」に目を通しました。昨年11月に公表された中間報告書の内容とも併せて、完全親会社であるSOMPOホールディングスに経営責任が認められるかどうか、という視点で考察してみます。これまで私は(こちらのエントリーでも述べておりましたように)親会社の経営責任については消極的な意見でしたが、最終報告書を読む限りでは考えを改めざるを得ないように思えてきました。

まず背景事情ですが、最終報告書を読むと、これまで何度も申し上げていたとおり、SOMPOグループはグループ会社に広範な経営上の裁量権を委ねていて「重要課題についての子会社による自己完結的な処理方針」が良くも悪くも徹底されていたようです。よって、BMによる不適切請求問題についてもホールディングスに(東洋経済の記事が掲載されるまで)報告をしていなかったというのも事実かもしれません。ただ一方でホールディングスは2022年6月、損保ジャパンの社外取締役制度を廃止していたのですね(このあたりは日経ニュースでも取り上げられています)。その理由は「今後はホールディングスが損保ジャパンの管理・モニタリングを強化する方針転換」だそうで、そうであるならば監督機能の不全(コミュニケーション不足)と言われてもしかたない背景事情があったと言えそうです。

つぎに、2022年8月29日に損保ジャパンからホールディングスに報告が上がったときの対応です。(あの東洋経済の記事を読んで)普通であればBMとの取引再開に問題がないのかどうか、ホールディングスの役員から「損保ジャパンのコンプライアンス担当、リスク管理担当者、監査役会の意見は?」と尋ねるはずです。「(BMの組織ぐるみの問題というわけではなく)たいしたことはありません」との報告が損保ジャパン側からなされたとしても、せめて法務コンプライアンス部門や監査役会(とくに社外監査役)も同意見なのかどうか「(グループ会社に対する)管理を強化する方針転換」があったのであれば親会社としては確認するはずでしょう。しかし管理側の役員が一切出席していない会議で取引再開を決定していたわけですから、損保ジャパン側は回答できなかったのかもしれません。もし確認したうえで不問に付していれば、そのこと自体ホールディングスの大問題ですし、確認をホールディングス側が怠っていたのであれば、これもやはり監督責任を尽くしていなかった根拠となり得ます。

さらに個人的に残念と思うのは損保ジャパン及びホールディングスの社外役員の行動が不明な点です。損保ジャパンは社外取締役制度は廃止した一方で、社外監査役の数は増やしており、6名中3名が社外監査役(4名が非常勤監査役)という構成です。ホールディングスは指名委員会等設置会社なので多くの社外取締役がいらっしゃいます。これらの社外役員の皆様は、2022年8月29日の東洋経済記事、9月15日の同記事、そして9月26日のダイヤモンド誌の記事はお読みになっていなかったのでしょうか、それとも読んだけど重大問題とは思わなかったのでしょうか。ホールディングスの社外取締役の皆様に報告されたのは2022年10月7日(正式に監査委員会が報告を受けたのは2023年1月20日とのこと)、損保ジャパンの社外監査役の皆様に説明がなされたのが2022年10月5日(法務コンプライアンス担当役員より)とのことで、それまで逆に社外役員のほうから説明を求めていた事情は認められません。BMとの取引再開を決定するにあたり、東京海上、三井住友との対比が明確な状況だっただけに、ここで社外役員が動いていれば「自浄能力」という意味では相当な違いがあったのではないでしょうか(ここはもっと詳細にご説明したいところですが、また別の機会に)。

最後に、Qちゃんさん、MAXさん、ヤマノボリさんらがコメントされていたように、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」におけるグループ管理規程違反に関する問題です。金融庁はとりわけ金融機関の内部監査態勢については注目しており、ホールディングスとグループ会社の内部監査部門との連携を要請しています。しかしながら最終報告書を読む中で、ホールディングスおよび損保ジャパンの内部監査態勢および内部監査部門がどのように動いたのか、どのように連携したのか、という点についてはほとんど記述がありません。損保ジャパン自体で25000名の社員が存在するわけですから、相当程度の内部監査部門は当然存在するはずですが、法務コンプライアンス部門と同様「BMとの不適切関係問題は、我々の職務範囲外である」ということで一切タッチしていなかったのでしょうか。このあたりは重要な論点であり、内部監査部門が機能していなかったとすれば、おそらく金融庁からもホールディングスに対して何らかの改善要望が出るのでは、と予想します。

ということで最終報告書を拝読したうえで、やはり法人としてのSOMPOホールディングスには経営責任を認めるべきと思い直しつつあるところですが(かなり「負け惜しみ」っぽい表現ですが🐱)、それでも経営陣の個人的な責任についてはSOMPOホールディングス側で明確にしなさい、ということになりそうな気がいたします。いずれにしてもSOMPOホールディングスのガバナンスは「体制」という意味では日本の上場会社の中でも超一流といっても過言ではありません。ただ「体制」が「運用」を伴っていたのかどうか・・・、ここが投資家の皆様にとって、日本企業のガバナンス評価のうえでもっとも難易度が高いところかと思います。

 

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2024年1月19日 (金)

社内リニエンシー制度はかなり運用がむずかしい(と思う)

本日(1月18日)の読売新聞朝刊(関西経済面)に「不正『自己申告』で処分に差、パナ楠見社長 子会社問題を受け」との見出しで、パナソニックグループが不正の自己申告をした社員と、しなかった社員とで社内処分に差を設ける方針を明らかにした、との記事がありました(読売新聞ニュースでもご覧いただけるようです)。パナソニックグループ会社の不正事案を契機に社内リニエンシー制度を採用する、とのこと。

自社の不祥事をできるだけ早く察知したい、との経営陣の意向を受けて、最近は社内ルールでリニエンシー制度を導入する会社も増えています。ちなみに、電力会社やゼネコン、広告代理店など、過去にカルテルで痛い目にあった会社は独禁法違反事実に特化した不正事実のみに限定して社内リニエンシー制度を導入する、というところもありますね(パナソニックはどうなんでしょうか)。 ただ、内部通報制度をお手伝いしているなかで、社内リニエンシー制度の運用はなかなかむずかしいと感じています(私だけかもしれませんが💦)。運用にあたって「これが正解」という回答をなかなか見い出せていません。

まず、社内リニエンシー制度を採用する場合、どの範囲の不正関与者を処罰対象とするのか、ということを決めないといけません(たぶん、個別事象ごとに処罰対象者の範囲を検討することになると思います)。実際に不正行為に手を染めた者に限定するのか、それとも「見て見ぬふり」をしていた黙認者も共謀者として処罰対象にするのか。「自己申告」というイメージからみて前者のみに限る、というのが一般的かもしれませんが、後者も「不作為で不正に加担していた者」として処罰の可能性がある以上、リニエンシーを活用できるようにしたほうが良いとの意見もあります。

あまり運用を複雑にするのも適切ではありませんが、自己申告は社内調査前の申告者に限られるのか、調査後であっても、有力な証拠を持っている社員にはリニエンシーを認めるのか、という問題もあります。このあたりは会社によって異なるとは思いますが、社員の予見可能性を確保するためにも、あらかじめ明確にルールで決めておく必要があります。

つぎに社内リニエンシー適用の有無を社内で公表すべきかどうか。基本的には社内処分の内容だけが公表されますが、リニエンシー適用が判明するような公表の仕方はちょっと問題かな、と思います。ただ、リニエンシーが本当に機能しているということを周知徹底しなければ実効性がないので、個別の案件とは離れてリニエンシー制度の適用状況については(実績として)社内周知をしたほうが良いのではないでしょうか。

そしてなんといってもリニエンシー利用者の特定の問題です。独禁法や金商法に定めのあるリニエンシーは法人が特定されることが多いわけですが、社内で個別の社員が特定される場合には、かなり居心地が悪くなるのが現実です(けっこう特定されてしまうケースが多いような)。この問題があるからこそ、社内リニエンシー制度はあまり活用されないとの話を聞きます。申告者の秘匿には十分に配慮しますが、それでも自己申告者はバレることが多い。あらかじめ「自己申告」するのが当社では当たり前なのだ、といった会社としての理念を徹底させておく必要があります。

ちなみに、当ブログでもご紹介したことがありますが、不正に関与しながら内部通報をした職員に対して、大阪市は他の不正関与職員と同様懲戒免職処分としましたが、裁判では「告発した事実も懲戒理由として考慮すべき」との理由で処分が取り消された例がありました(後日、大阪市は当該職員に対して懲戒免職処分を取り消して停職6か月としました)。

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2024年1月18日 (木)

スギホールディングスはなぜ内部通報(件数)が多いのか?

ダイハツ品質不正事件が世間の関心事となっていますが、同じ品質不正事案といってもダイハツ事件と日野自動車事件や豊田自動織機事件ではやや様相が異なります。日野自動車事案と豊田自動織機事案は社内調査で自ら「発覚」にまでこぎ着けた(いずれも社内調査が端緒ということですが、おそらく内部通報)ものですが、ダイハツ事案の発覚は内部告発(外部への情報提供)ですね。文春オンライン記事に登場するダイハツの現役管理職の方の証言では「通報しても実効性がなかった」とのことで、やむを得ず告発に至ったものと思料します。不祥事を起こしても「自浄能力」を示すためには、やはり通報制度の充実が欠かせません。

さて、年末(2023年12月29日)の東洋経済オンラインの記事「内部通報件数が多い企業ランキング」上位100社-ビッグモーターの不正請求で注目の内部通報制度」では、3年連続の1位の日産自動車を筆頭に、日立やファーストリテイリング、パナソニック等、日本を代表する企業が(通報件数の多い企業として)ベスト10に並んでいます。ただ、その中でスギホールディングスが2位にランクインしていることが(たいへん失礼ながら)とても奇異に感じました。

最初は2021年5月13日のエントリー「やはり内部告発の威力はスゴイ(がんこ寿司、スギHD)」でも紹介しましたが、スギホールディングスは内部告発で痛い目にあったことから内部通報制度に注力するようになったのかな、と思いました。しかしスギホールディングス統合報告書を読むと、2018年ころから通報制度の整備に力を入れていることがわかります(2018年度には年間269件だった通報件数が、2022年度には1585件にまで急増しています)。つまり2021年の問題が騒がれる前から通報制度の拡充に力を入れていたのですね。

同社の統合報告書では「人材戦略」の一環として通報制度の整備・運用が紹介されており、従業員エンゲージメントの強化策と捉えられています。通報の内訳をみると(統合報告書71頁)、全体の5%ほどが「不正」「ハラスメント」であり、その他は社内における悩み事が中心のようです。「たった5%しか有用な通報がなされていないのか」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、全体の5%でも不正が通報されるというのは、かなり良いほうです。統合報告書で通報制度が前向きに紹介されていることから、おそらく社員の方々の通報に至る心理的安全性は高いものと思います。

これまで何社か内部通報制度の整備・運用のお手伝いをしましたが、いったんは通報件数が増えても、また2,3年後には元の件数に戻ってしまうということを経験しました。振り返ってみると、そのような会社は通報制度の整備・運用への特定社員の熱心さ(属人的な要素)に依存していたようです。やはり社内慣行として、もしくは組織風土として定着しなければスギホールディングスのように件数が増えることはないと思うのです。そのような意味で、一度スギホールディングスの統合報告書2023(とくに71頁と85頁)を参考にしてみてはいかがでしょうか。いろいろな「気づき」があるかもしれません。

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2024年1月17日 (水)

裁判例に学ぶ-不祥事発生時における調査委員会報告書の「光と影」

本日(1月16日)もSOMPOホールディングスの最終調査報告書が公表されましたが(まだ読めておりません)、ダイハツ工業事案、旧ジャニーズ事務所事案、日大事案、ビッグモーター事案など、第三者委員会(特別調査委員会)の報告書が、対象組織のレピュテーションに大きな影響を及ぼすことが増えているように感じます。以前から第三者委員会制度には様々な批判が向けられているのですが、現実の企業社会においてはこの制度に代わるものがみつからないのが現実であり、当分第三者委員会制度は社会的に価値あるものとして活動領域を広げていくはずです。

ただ、この制度には「光と影」があり、とりわけ求められる「独立性」「真実性」「迅速性」のいずれにおいてもトレードオフの関係が存在します。したがって日弁連ガイドラインによって「厳格な事実認定のルール」が要請されてはおりますが、どうしても「事実認定の甘さ」に問題を内包していることは否めません。最新の判例時報2574号(2024年1月11日号)では、外部有識者(弁護士2名、学者1名)によって構成された第三者委員会が認定したハラスメント事実をもとに、社員(パワハラ加害者)を懲戒処分とした法人に対して、厳しい判断を下した高裁判決が掲載されています(高松高裁令和4年5月25日 同誌50頁、なお原審もほぼ同様の判決)。判決理由では、第三者委員会がパワハラと評価する根拠事実についてはいずれも証拠の証明力は限定的であり、どの事実をとってもパワハラを基礎づける事実とは認められない、よって懲戒処分は無効、と示されています。

上記判決文を詳細に読むと、個々の事実認定に必要な証拠レベルが示唆されていますが、おそらく上記トレードオフの両立を図るなかで、調査委員はより慎重な判断をしなければならないとあらためて感じました(そういった意味でタカラヅカ事案において調査委員会がパワハラの事実を認定するのであれば、やはりかなり客観的な証拠をそろえることが必要ではないかと)。スルガ銀行のシェアハウス向け不正融資案件では、調査委員会の報告書をもとに懲戒解雇された元営業トップの役員が、地裁で「懲戒事由に当たる事実が存在したと認定できるだけの証拠はない」との理由で懲戒無効となりましたが(東京地裁令和4年6月23日 労経速2503号3頁)、調査委員会報告にも限界がある、という点はもっと世間にも認知されてよいと考えています。

なお、委員の人選に問題があったために報告書そのものの信用性が乏しいのではないか?といった争点が審議された裁判例もありますが(神戸地裁令和3年6月29日判例秘書登載)、人選を含めた第三者委員会の設置については法人側に広い裁量権があるため、裁判所としても法律判断はむずかしいと思われます。中立公正な立場で調査委員会が活動しなければならない以上、求められるのは証拠ルールに基づく事実認定であり、灰色認定がやむを得ないのであれば、「灰色であること」をきちんと明示すべきです。

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2024年1月16日 (火)

ビッグモーター事件-SOMPOホールディングスの「親会社監督責任」とは?

1月15日の夜、日経ニュース「SOMPO・損保ジャパン改善命令へ ビッグモーター問題」が特報としてアップされましたが、ビッグモーターによる保険金不正請求問題に関連して、金融庁は近く損害保険ジャパンと、親会社のSOMPOホールディングス(HD)に保険業法に基づく業務改善命令を出す方針を固めた、経営管理体制に大きな不備があったと判断した、と報じています。

これは驚きました。私は損保ジャパンについては行政処分が出るのは当然と考えますが、昨年9月のこちらのエントリー「ビッグモーター事案-損保ジャパンの親会社責任を認めるのは難しいのでは?」でも述べたとおり、親会社であるSOMPOホールディングスについては不正を認識していながら黙認していたようなことがないかぎりはグループ経営管理に違法性は認められないと考えておりました。あくまでも記事レベルですが、「(金融庁は)SOMPOホールディングスについては子会社の損保ジャパンの監督責任を十分に果たしていなかった点を問題視した。グループ全体に適切なガバナンス(企業統治)を構築する責任を負う立場でありながら、損保ジャパンとビッグモーターとの関係を正確に把握できず、契約者の被害を防ぐ監督なども不十分だった」とあります。

ちょうど2年前の1月、ビッグモーターの社員が損保協会に内部告発をしたことでビッグモーターの不適切請求問題が浮上してきたと思いますが、その時点でSONPOホールディングスとしても対応が必要だったのでしょうか。そういえばSONPOホールディングスが設置した第三者委員会が年明けにも最終報告書を提出する予定とのニュースもありましたが、たしかSONPOホールディングスの管理責任についても調査範囲とされていたので、委員会の調査結果なども踏まえて金融庁としての判断を決めたのかもしれません(あくまでも推測です)。いずれにしてもSONPOホールディングスの社外取締役の方々も落ち着かないでしょうね。

東京海上グループ、MS&ADとは異なり、SOMPOホールディングスは経営判断の迅速性を重視してグループ会社の裁量権限を広めてきたように思います。では、どのように監督していれば損保ジャパンとビッグモーター社との不適切な関係を把握できたのでしょうか。他の大手中古車販売のネクステージやグッドスピードとの関係でも同じ監督が求められていたのでしょうか。さらには他の損保大手については同様の監督責任は生じないのでしょうか。金融庁が監督責任を認めるにあたっては、後出しジャンケンではない合理的な理由が示されるかどうか、とても興味深いところです。

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2024年1月15日 (月)

企業不正の「発生」と「判明」は大きく異なる(調査結果より)

土曜日(1月13日)の日経ニュース(法務ガバナンス)の記事「4社に1社で過去5年に不正、労務や横領など 民間調査」を読みました。デジタルフォレンジックス調査やeディスカバリー業務で有名なFRONTEOさんの最新調査によると、日本企業の25%において過去5年以内に、横領などの不正が発生しており、売上高の大きい大手ほど発生率が高く、不祥事の兆候を察知するための対応策の導入が急務になっている、とのことです。

規模別では、売上高が100億円未満の会社の不正発生率が10%強だったのに対し、1000億円以上の会社では30%超に膨らんだとされています。講演や論文等で、私がよく「〇〇社の事件は他人事ではない。明日は我が身と考えて不正リスク管理に臨んでいただきたい」と語りますと、大手の企業のリスク管理責任者の方からは「〇〇社では、このような特徴があって不正が発生したのであり、当社とは異なる。『どんな企業でも起きる』はずいぶんと失礼な言い方では?」と批判を受けることがあります。しかし、上記のような調査結果からしますと、大きな不祥事に発展するかどうかは別として、やはり不正発生の可能性はどこの企業にもあるといえます。

ところで、ひとつ気を付けないといけないのは「不正の発生」と「不正の判明」は大きく異なる、ということです。上記調査結果では、企業規模が大きいほど不正発生率が高いような結果が出ていますが、私からすると企業規模が小さいほど(内部統制の不備が多いので)不正は発生率は高い、さらには発生件数も多いという印象を持っています。ただ、規模の小さい企業は不正発見力も乏しいので不正が判明しにくいだけです。また、上記調査結果は「外部調査を必要とするような不正」とありますので、外部に調査を委託できるのは比較的大規模な企業だからではないかとも思います。大規模会社はリスク管理に相当な人的・物的資源を配分できますし、不正発見力も高いので不正判明率も高くなる、したがって結果として「不正の発生率、発生件数」も高いようにみえるということです。

最近の不祥事の特徴は「サプライチェーン・コンプライアンスの急増」、つまりグループ会社や取引先の不祥事に対する自社の対応自体が社会から批判を浴びる事例がかなり目立ちます。不正を見つけることも大切ですが、見つけることにも限界があります。自社グループもしくはステイクホルダーの不正が判明した時に、どのような対処によって自社の社会的信用を守るか・・・ということにも留意しなければなりません。マニュアルのない世界なので、ビジネス戦略の実施と同様、不正リスク管理も失敗を繰り返すなかでスキルを磨くことが一番の近道ということになります。「リスク管理に失敗は許されない」という思想がはびこる組織では、不正を見つける能力はいつまでも属人的なものにとどまるため、何度も同じような不祥事を繰り返すことになります。

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2024年1月12日 (金)

読売新聞グループ本社、計算書類の開示(決算公告)へ

本年1月5日、「読売新聞グループ本社の決算公告についての素朴な疑問」と題するエントリーにて、読売新聞グループ本社の決算公告が見当たらないのはなぜなのだろうか、と疑問を呈しておりましたところ、マスコミ業界に詳しい伊藤歩記者、そして金融ファクシミリ新聞にて最初に疑問を呈しておられた門多氏(実践コーポレートガバナンス研究会・創設理事)より貴重なコメントをいただいておりました(詳細は上記エントリーをご覧ください)。

そして、同エントリーのコメント欄にもあるように、門多氏が読売新聞グループ本社に質問状を送付しておられたところ、1月10日付けで同社広報部より回答があったそうです。読売さんもきちんと回答されたのですね。概ね伊藤記者のおっしゃっていたとおりですが、今後は「読売新聞紙上」に決算公告を掲載する方針であるとの回答が得られた、とのこと。なぜ今まで開示されていなかったのかは不明ですが、これでやっと素朴な疑問が解消されてスッキリしました(^^;)。門多さんの素早い行動と読売新聞グループ本社のレスポンスの速さに敬服します。

もちろん、日本の多くの中小株式会社は会社法違反の状況(決算公告義務違反)を放置しているわけですが、さすが「天下の読売新聞」、コンプライアンス重視の姿勢で対応されたものと推察いたします(ちなみに読売新聞グループ本社は会社法上の「大会社=資本金5億円以上」なので貸借対照表と損益計算書の開示義務があり、中小の株式会社は貸借対照表のみ開示義務があります)。たしかに「過料100万円以下」の軽微な会社法違反など、大手新聞社にとっては痛くも痒くもないかもしれませんし、日本テレビHD等、グループの上場会社を通じて「親会社決算の状況」として間接的に開示しているからいいではないか、とも言えそうです。しかし「たかが会社法違反、されど会社法違反」です。

なぜ私が「軽微な会社法違反」にこだわるかと言いますと、もうずいぶん前の話になりますが、某社(上場会社)の社外役員を務めていたときのコンプライアンス上の失敗経験があるからです。コンプライアンス経営の重要性が語られる時代、皆様方にも参考になる話だと思いますので、また時間のあるときに守秘義務に反しない範囲で少し脚色をして「軽微な法令違反を放置してはいけない理由」についてお話いたします。

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2024年1月11日 (木)

私が考える「取締役会の実効性評価」の勘所(かんどころ)

旬刊商事法務2346号(12月25日号)に「取締役会評価の近時の状況と分析」なるご論稿(ジェイ・ユーラス・アイアールの皆様が執筆)が掲載されておりまして、「評価」だけでなく「ガバナンス改革に向き合う取締役会の今」を知るうえでもたいへん参考になりました。上場会社における取締役会の実効性をどのように評価すべきか、上記ジェイ社による質問の立て方についても個々の企業の実情、前年度評価との対比などを意識されており、とても工夫されているのがわかります。

ところで、もし私が「取締役会の実効性評価」をするのであれば、取締役会と社内会議(執行役員会、経営会議等)との関係性について重点的に観察したいですね。①重要な経営判断の議論にあたり執行役員間、社内取締役間でどのような意見の対立があったのか、取締役会で報告はされているか、②重要な経営会議等への社外取締役のオブザーバー参加は認めらているか、③取締役会における社外取締役の意見・提言は(業務執行者が集まる)社内会議にフィードバックされているか、④審議事項は経営会議や執行役員会議と取締役会で重複しているか、それとも振り分けられているか、⑤任意の指名・報酬委員会はその審議対象の決定や審議プロセスを社外取締役主導で進めているか、といったあたりです。要は「取締役会は、すでに社内会議で(事実上)意思決定がなされている重要な経営判断に関して、『社外取締役の意見を聴く会』になっていないか」ということです。

ガバナンス改革が進む中で、社外取締役の数が急増して「それなりの圧力」は感じている、しかしながら会社のビジネス推進のために社外取締役の意見が有用とは思えない(かえって業務執行の迅速性を阻害している、と感じている)。そのような心境の経営者にとっては、とりあえず「専務会」や執行役員会議、経営会議でおおよその経営判断の合意を得ておいて、取締役会では社外取締役の意見を出してもらって正式な決議をとる、といったことになりがちです。いや、実際そのような取締役会の運営が多くの企業で行われているのではないでしょうか。

加えて、最近の実効性評価の際に話題となるのがスキルマトリクスです。多くの企業で社内・社外を問わず、取締役のスキルマトリクスを開示しています。しかし、経営者は社外取締役のスキルを必要とすれば、取締役会以外の場で「相談」という形で意見を聴けばよい、わざわざ取締役会でスキルに基づく意見を開陳してもらわなくても良いと考えているようにもうかがわれます。

ということで、評価を委ねられた外部第三者機関からすれば「中長期的な企業価値向上のための施策に関して、とても意見が活発に出されていて、実効性には申し分ない」と見えるかもしれませんが、実のところは「なんちゃって取締役会」だったりすることもありそうです。社内取締役のメンバーから意見や異論が出てこない取締役会は、社長に他の役員がモノを言えない雰囲気なのか、たとえモノが言えるとしても、すでに喧々諤々の議論は社内会議や「専務会」でやってしまって、社外取締役の意見が重要な経営判断に取り入れられる余地がないのか、よくわかりません。

このように取締役会が「社外役員の意見を聴く会」になってしまうと、誠実な社外役員ほど「審議事項(議題)に関しては、なにか意見を言わなければならない」という思いから、業務執行部門に余計な負担をかけてしまうような意見を述べて意思決定を遅らせてしまうような弊害が出てしまいます(これは取締役会事務局担当者からよく聞く悩みです)。とりわけ経営者OBの社外取締役の方が、かつて自分が社長だったときのスタイルをそのまま提案する場合などは(もちろん歓迎されることもあるかもしれませんが)要注意かと。

社外取締役はエージェンシー理論にしたがって、社内取締役との情報の非対称性解消に向けた「株主代理人」の意識をもつべきか、株主に開示したスキルマトリクスを重視して、(リスク管理を含めた)経営判断に積極的に関与していく意識をもつべきか、そのあたりは各会社によって望ましい形は違うかもしれません。ただ、社外取締役を「数だけ増えた『ご意見番』」として取り扱うことは、ちょっともったいないように思います。私だったら「取締役会と社内会議との運用面での関係性」に着目して、実効性を評価したいですね。

最後になりますが、取締役会の実効性評価はガバナンスの課題なので「実効性評価の結果がよい=業績指標が向上する」とは限らないはずです。業績指標が向上するのは「良い種」を持っているからであり、ガバナンスはあくまでも種をまく「土壌」の問題だと考えています。

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2024年1月10日 (水)

議決権行使助言会社の脅威はホンモノか?(1/10 コメント回答あり)

毎回興味深く拝読しております朝日新聞「(連載)資本主義NEXT」(紙面およびWEB有料記事)ですが、第4回は「『市場を支配』『社長をクビに』 企業がおそれる助言会社、脅威論は本当か?」と題して、いわゆる「議決権行使助言会社」を解説したものでして、これまたとても面白い内容です。議決権行使助言会社とは、ひとことで言うと「上場会社の株主総会における役員選任などの議案が、同社の企業価値を高めるのかを判断し、賛成か反対かを「委託を受けた株主」にアドバイスする(推奨する)アドバイザー会社です。なお、賛否の理由は開示されません。

「世界的にISSとグラスルイスが有名」というよりも、ほぼ2社で独占している業界と言ってもよろしいかと。ガバナンス改革が進み、モノ言う株主の抬頭だけでなく、年金基金や金融機関、さらには取引先企業による議決権行使の責任(スチュワードシップ)が問われる時代となったため、この議決権行使助言会社の(賛成・反対)推奨の結果を企業がとても脅威に感じているというのは事実です。総会決議の結果が左右される、というだけでなく「会社提案に反対が多く集まった」とか「株主提案に想定以上の賛成票が集まった」ということも企業にとってはかなりショックなので、これも「脅威」に感じる要素です。

昨年(2023年)、この「脅威」を最も肌感覚で身近に感じたのは「私」です(笑)🐱。当ブログをご愛読いただいている方ならご存知のとおり、昨年6月の東洋建設の定時株主総会におきまして、私はYFO(東洋建設の大株主)側から株主提案として取締役候補者となりましたが、ISSの反対推奨を受けて(見事?)0.4%ほど足りずに否決(落選)されてしまいました。取締役候補者9名中、私を含めた2名がISSの反対推奨を受けましたが、その2名が僅差で否決されたので、あの反対推奨がなければ確実に取締役に就任していたでしょう(ほとんど「負け惜しみ」ですが、トホホ・・・( ;∀;))。いや、絶対に脅威はホンモノです。

ただ、だからといって「議決権行使助言会社不要論」には賛成しません。なぜなら、東洋建設の場合にも(昨年6月のエントリー「敗戦の弁」でもおおよそ述べておりますが)ISSもグラスルイスも「ガバナンスかくあるべし」といった持論をもって推奨意見を表明していることがわかるからです。その「持論」も、毎年それぞれの助言会社が「日本企業と向き合う場合の指針」を事前に発表して、その指針と個別会社のガバナンスの状況を突き合わせたうえでの「持論」だからです。記事ではISS日本代表の方が「基準に機械的にあてはめているにすぎない」と述べておられましたが、たしかに基準はあるものの個別の候補者や企業のガバナンスはよくみていると思います。

反対推奨された者なので偉そうには言えませんが、「ISSはこういった考え方だから、(意見に耳を傾けそうな)機関投資家とのヒアリングではこういった姿勢で臨むべき」といったIRアドバイザーの意見を事前によく聴いて、さらにはこの程度の規模のこの業界の上場会社であれば「攻め」と「守り」のバランスの最適解はどうあるべきか、自分なりによく考えていれば、助言会社の意見がブラックボックスとまでは思えません。経営者は毎年5月ころになると監査法人(会計監査人)の動向を気にしますが、私からすれば「動向を気にすべきは一年中でしょう」と言いたい。それと同じく、議決権行使助言会社の意見を気にするのであれば、(ガバナンスの在り方を通じて)一年中気にすべきなのです。総会直前になって気にするから「脅威」なのです。

ポピュレーションアプローチによるガバナンス改革1.0の時代から、昨年はハイリスクアプローチによるガバナンス改革2.0の時代へと移行する分岐点となりましたので、今後、議決権行使助言会社の意見は上場会社にとってさらに脅威となることは間違いないでしょう。大きな力を持つがゆえに政府による規制の対象にもなるかもしれませんが、記事中で梅本教授が「透明性」について語っておられるように、たとえば利益相反問題等も含めた「議決権行使助言会社研究」が日本でも注目されるべきではないか、と考えています。

 

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2024年1月 9日 (火)

吉本興業大御所タレント不適切行為疑惑と「ビジネスと人権」(1/10 追記あり)

能登半島地震の被害状況に関する連日の報道内容からみて、政府にも全容が未だ把握できていないことがわかります。本当に厳しく悲しいニュースが伝わってきます。被災された方々に謹んでお見舞い申し上げますとともに、地震や津波の犠牲となった方々のご冥福をお祈りいたします。以下、ビジネスと人権の視点から週刊文春1月4日・11日新年特大号に掲載された記事に関する話題を取り上げます。

Img_20240109_000205272_512 先日、ある方の文春報道についてこちらのエントリーでもつぶやきましたが(こちらの疑惑も10年前の出来事です)、本日(1月8日)ダウンタウンの松本人志氏が年末の文春報道(性的行為の強要疑惑)を契機として「記事に対峙し、裁判に注力するためにタレント活動を一時休止する」旨、所属事務所(吉本興業)を通じて公表されました(吉本興業公表文含め、朝日新聞ニュースはこちらです)。成人女性に対する性的行為の強要疑惑、しかも8年前の出来事ということで、ちょっとSMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)の創業者事案とは様相が異なるのでは・・・と思いましたが、それでも放送局やスポンサー企業としては松本氏の起用をどうするのだろうか(とくにSMILE-UP問題が大きな話題となっただけに)と気になっておりました。

文春による複数の女性からの裏どり、第2報、第3報、さらには「#Me Too」があるかもしれませんので「文春第1報を読んだうえでの現時点での印象」ですが、①松本氏や関係者への可能な限りの事前取材、②当日の状況に関する詳細な描写記事、③告発が8年後となった理由(芸能界周辺で仕事するためには逆らえない、しかしジャニーズ問題に勇気をもらった)、④関係者からの具体的な反論が出ていない、といった事情からすると、原告側は「真摯な同意」があったこと、文春側は「強要に関する真実相当性の抗弁」を、それぞれ裁判で主張することになりそうです。そうだとすれば、松本氏・法人としての吉本興業が原告となって名誉毀損裁判を提訴した場合、SMILE-UP事件の裁判(1999年から2004年まで)と同様、判決が確定するまで4年から5年はかかることになりますので、その程度の期間は松本氏はタレント活動を一時休止するということになるのかもしれません(関西万博のアンバサダーも辞退、ということになるのでしょうね)。

児童に対する性加害問題とは異なるものの、やはり女性に対する不適切行為(疑惑)となりますと各企業の「ビジネスと人権指針」に沿った対応が必要となるでしょうから、そのあたりも考慮したうえでの(スポンサー企業やマスコミに迷惑をかけることはできないという)松本氏の対応なのでしょうね。ましてやNHKあたりから先に「出演辞退要請」などが出されてしまうと(裁判以前に)松本氏の名誉や吉本興業の信用に傷がつくかもしれませんので、それは避けたい。なお、各メディアはSMILE-UP事件の経験から、地裁、高裁、最高裁の各判決(決定)が出るたびに公共の利害に関わる事件として大きく報じることになると思われます。「ビジネスと人権」問題が絡むとなると、本件への企業対応はかなり頭を悩ませますね。

さて、法律に詳しい方には「釈迦に説法」のお話ですが、裁判で決着をつけるとなると「民事裁判」で不適切行為の有無(および真実相当性)が争われますので、不適切行為があったのかなかったのか(評価根拠事実も含めて)、そのあたりの裁判官の心証の取り方にご留意いたたいだほうがよろしいかと。日本の民事裁判は当事者主義なので、裁判官が進んで事実認定に必要な証拠を探したり、主張を組み立てたりすることはありませんし、また裁判官が「どっちかわかんない」と思った時の立証責任問題とか、「真実相当性」を基礎づける根拠事実とか、証拠の証明力の問題とか様々な争点があります。ジャニーズ事件の記者会見で、ジェリー氏が「父が敗訴したのは『性加害を行ったからではなく、弁護士が無能だったから』と言われてきました」と述べていましたが、最終的にはそのような弁明が(可能性としては)成り立ってしまう世界でもあります。ただ、私の過去の恥ずかしい失敗談から申し上げると、このあたりを理屈っぽく弁明するとかえって世間から叩かれてしまうこともあり、表現がとてもむずかしい。

スポンサー企業が「ビジネスと人権指針」に沿った対応を検討する場合、とりわけ不適切行為の疑惑が民事訴訟で争われる場合には、世間の風潮だけでなく、上記のような民事裁判の判決に至るプロセスなども慎重に考慮することが必要ではないかと考えるところです。「不適切行為があった」とまでは言えないとしても「不適切行為があったと世間で噂されていること」だけで取引解消という方針であれば、それ以上は何も言えませんが…。今年6月、国連人権委員会の訪日調査の最終報告書が国連に提出されますので、今年も「ビジネスと人権」への企業対応は大いに注目されることになりそうです。

(1月10日 追記)朝日新聞ニュースによりますと、アサヒビールは昨年12月29日放送の松本氏出演番組で、スポンサー企業としての社名表示(提供クレジット)を取りやめていた、とのこと。同社が朝日新聞の取材に明らかにしたそうです。アサヒビールは今回の対応について、「報道を受けて総合的に判断した」(広報)と説明しているようで、すでに「人権指針」に沿った対応を決断したものと思われます。

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2024年1月 5日 (金)

読売新聞グループ本社の決算公告についての素朴な疑問

昨年12月26日の金融ファクシミリ新聞「複眼」で門多氏(実践コーポレートガバナンス研究会創設理事)が「読売新聞は法的な決算公告義務を尽くしていないのでは?」とお書きになっていたので、私も気になって調べたのですが(現業の読売新聞社の持株会社である)読売新聞グループ本社の決算財務情報はどこに開示されているでしょうか。もちろん日本テレビや東京機械製作所の「親会社の決算に関するお知らせ」を読めば、同社の決算状況を把握することはできますが、これは親会社自身が開示したものではありません。

グループの地方新聞社の多くは官報で決算公告がなされているようですが、読売新聞グループ本社については官報での決算公告を見つけることはできませんでした。ひょっとすると読売新聞自身に公告が出されているのかもしれませんが(定款も確認できず)、こちらも見つけることができませんでした。HPでの公告もなさそうです。ちなみに現業のグループ会社(株式会社読売新聞東京本社、株式会社読売新聞大阪本社、株式会社読売新聞西部本社など)の業績数値も対外非開示となっている模様です。

そうなると、門多氏が指摘しておられるとおり、読売新聞グループ本社は会社法上の義務である計算書類の公告をしていないのでしょうか。いや、まさか「天下の大新聞社」が(日本の多くの中小株式会社と同じ理由で)法令違反行為を平然と行っているはずもないので、おそらく日刊新聞法上の例外事由があるとか、自社新聞に(定款で定められたとおりに)小さく(貸借対照表および損益計算書の要旨を)公告しているといったことがなされているはずだと思います。どなたかそのあたりご存知の方がいらっしゃったらお教えいただければ幸いです。

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2024年1月 1日 (月)

令和6年能登半島地震に被災された方々へお見舞い申し上げます。

まだ地震、津波の被害状況が判明しておりませんが、令和6年能登半島地震に被災された皆様に、お見舞い申し上げます。また状況が判明次第、できることについて考えます。

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