旧東洋ゴム工業免震偽装・株主代表訴訟判決における経営陣の責任とは?
1月26日、大阪地裁において、旧東洋ゴム工業(現TOYOTIRE)元経営陣に対する株主代表訴訟の判決が出ました(たとえばこちらのニュース参照)。2015年に発覚したグループ会社の免震ゴム性能偽装問題に関連した訴訟です。被告4名のうち2名については1億3800万円、4名全員について連帯して2000万円の賠償責任が認められた、と報じられています。株主による旧東洋ゴム監査役への提訴請求が2016年5月ですから、一審だけでも7年8か月を要しました。ちなみに当ブログで過去に本件を取り扱ったのは、こちらのエントリーやこちらのエントリーが最初です。
まだ判決文を手に入れておりませんので報道ベースでしかわかりませんが、ダスキン事件に関する平成18年の大阪高裁判決(ダスキンの旧経営陣11名に連帯して5億8000万円の損害賠償義務が認められ、その後平成20年に最高裁で確定)に類似した内容のような気がします。最初は内部統制構築義務違反で訴えたところ、原告株主側は裁判所から「もっと構築すべき内部統制を具体的に主張せよ」と言われ、ダスキン事件は「理由なし」とされ、本件では被告12名を取り下げることで(内部統制構築義務違反という)争点を絞って「いったん販売停止を決めたのに、その後出荷を再開した」「不正を認めて、いったんは公表する決断に至ったにもかかわらず公表しなかった」と主張し、この点が元取締役らの善管注意義務違反を基礎づける事実として認められているようです(あくまでも報道ベースからの推論です)。
ダスキン事件のときも弁護団団長が「日本の企業に不祥事公表義務を認めた画期的な判決だ」と会見で述べておられましたが、今回も株主代理人の方が「経営陣に公表義務があったと認める画期的な判決」と会見で述べておられました。ただ、2015年6月22日に公表された旧東洋ゴム工業の調査委員会報告書を読むと、元取締役らが腹を括ろうとしていたときに「悪魔のささやき」があったのですよね(これ、私も何度か品質不正事案の第三者委員会委員長を務めたことがありますので、有事にこそ「悪魔のささやき」にすがりたくなる経営陣の気持ちがよくわかります。だからこそ、「悪魔のささやき」に「社会の常識」で対抗する社外役員の存在が大きいのです)。
しかし長期間に及ぶ株主代表訴訟の審理、原告株主の方や支援する代理人には頭が下がります(まだ高裁、最高裁と続きますよね?)。果たして本当に「経営陣に不祥事公表義務を認めた判決」なのかどうか、高裁で逆の結論となる可能性はどの程度なのか、そのあたりはまた判決文を拝見してからコメントさせていただきます(金融商事判例の「特報」あたりで読めるかもしれませんが、関係者の皆様、どなたか判決文を見せていただければ幸いです。かなり厚かましいですが (笑))。最後になりますが、2016年の調査委員会報告書を今でも閲覧可能な状況で開示しているTOYOTIRE社の姿勢については高く評価したいと思います。