私が考える「取締役会の実効性評価」の勘所(かんどころ)
旬刊商事法務2346号(12月25日号)に「取締役会評価の近時の状況と分析」なるご論稿(ジェイ・ユーラス・アイアールの皆様が執筆)が掲載されておりまして、「評価」だけでなく「ガバナンス改革に向き合う取締役会の今」を知るうえでもたいへん参考になりました。上場会社における取締役会の実効性をどのように評価すべきか、上記ジェイ社による質問の立て方についても個々の企業の実情、前年度評価との対比などを意識されており、とても工夫されているのがわかります。
ところで、もし私が「取締役会の実効性評価」をするのであれば、取締役会と社内会議(執行役員会、経営会議等)との関係性について重点的に観察したいですね。①重要な経営判断の議論にあたり執行役員間、社内取締役間でどのような意見の対立があったのか、取締役会で報告はされているか、②重要な経営会議等への社外取締役のオブザーバー参加は認めらているか、③取締役会における社外取締役の意見・提言は(業務執行者が集まる)社内会議にフィードバックされているか、④審議事項は経営会議や執行役員会議と取締役会で重複しているか、それとも振り分けられているか、⑤任意の指名・報酬委員会はその審議対象の決定や審議プロセスを社外取締役主導で進めているか、といったあたりです。要は「取締役会は、すでに社内会議で(事実上)意思決定がなされている重要な経営判断に関して、『社外取締役の意見を聴く会』になっていないか」ということです。
ガバナンス改革が進む中で、社外取締役の数が急増して「それなりの圧力」は感じている、しかしながら会社のビジネス推進のために社外取締役の意見が有用とは思えない(かえって業務執行の迅速性を阻害している、と感じている)。そのような心境の経営者にとっては、とりあえず「専務会」や執行役員会議、経営会議でおおよその経営判断の合意を得ておいて、取締役会では社外取締役の意見を出してもらって正式な決議をとる、といったことになりがちです。いや、実際そのような取締役会の運営が多くの企業で行われているのではないでしょうか。
加えて、最近の実効性評価の際に話題となるのがスキルマトリクスです。多くの企業で社内・社外を問わず、取締役のスキルマトリクスを開示しています。しかし、経営者は社外取締役のスキルを必要とすれば、取締役会以外の場で「相談」という形で意見を聴けばよい、わざわざ取締役会でスキルに基づく意見を開陳してもらわなくても良いと考えているようにもうかがわれます。
ということで、評価を委ねられた外部第三者機関からすれば「中長期的な企業価値向上のための施策に関して、とても意見が活発に出されていて、実効性には申し分ない」と見えるかもしれませんが、実のところは「なんちゃって取締役会」だったりすることもありそうです。社内取締役のメンバーから意見や異論が出てこない取締役会は、社長に他の役員がモノを言えない雰囲気なのか、たとえモノが言えるとしても、すでに喧々諤々の議論は社内会議や「専務会」でやってしまって、社外取締役の意見が重要な経営判断に取り入れられる余地がないのか、よくわかりません。
このように取締役会が「社外役員の意見を聴く会」になってしまうと、誠実な社外役員ほど「審議事項(議題)に関しては、なにか意見を言わなければならない」という思いから、業務執行部門に余計な負担をかけてしまうような意見を述べて意思決定を遅らせてしまうような弊害が出てしまいます(これは取締役会事務局担当者からよく聞く悩みです)。とりわけ経営者OBの社外取締役の方が、かつて自分が社長だったときのスタイルをそのまま提案する場合などは(もちろん歓迎されることもあるかもしれませんが)要注意かと。
社外取締役はエージェンシー理論にしたがって、社内取締役との情報の非対称性解消に向けた「株主代理人」の意識をもつべきか、株主に開示したスキルマトリクスを重視して、(リスク管理を含めた)経営判断に積極的に関与していく意識をもつべきか、そのあたりは各会社によって望ましい形は違うかもしれません。ただ、社外取締役を「数だけ増えた『ご意見番』」として取り扱うことは、ちょっともったいないように思います。私だったら「取締役会と社内会議との運用面での関係性」に着目して、実効性を評価したいですね。
最後になりますが、取締役会の実効性評価はガバナンスの課題なので「実効性評価の結果がよい=業績指標が向上する」とは限らないはずです。業績指標が向上するのは「良い種」を持っているからであり、ガバナンスはあくまでも種をまく「土壌」の問題だと考えています。
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