« 吉本興業大御所タレント不適切行為疑惑と「ビジネスと人権」(1/10 追記あり) | トップページ | 私が考える「取締役会の実効性評価」の勘所(かんどころ) »

2024年1月10日 (水)

議決権行使助言会社の脅威はホンモノか?(1/10 コメント回答あり)

毎回興味深く拝読しております朝日新聞「(連載)資本主義NEXT」(紙面およびWEB有料記事)ですが、第4回は「『市場を支配』『社長をクビに』 企業がおそれる助言会社、脅威論は本当か?」と題して、いわゆる「議決権行使助言会社」を解説したものでして、これまたとても面白い内容です。議決権行使助言会社とは、ひとことで言うと「上場会社の株主総会における役員選任などの議案が、同社の企業価値を高めるのかを判断し、賛成か反対かを「委託を受けた株主」にアドバイスする(推奨する)アドバイザー会社です。なお、賛否の理由は開示されません。

「世界的にISSとグラスルイスが有名」というよりも、ほぼ2社で独占している業界と言ってもよろしいかと。ガバナンス改革が進み、モノ言う株主の抬頭だけでなく、年金基金や金融機関、さらには取引先企業による議決権行使の責任(スチュワードシップ)が問われる時代となったため、この議決権行使助言会社の(賛成・反対)推奨の結果を企業がとても脅威に感じているというのは事実です。総会決議の結果が左右される、というだけでなく「会社提案に反対が多く集まった」とか「株主提案に想定以上の賛成票が集まった」ということも企業にとってはかなりショックなので、これも「脅威」に感じる要素です。

昨年(2023年)、この「脅威」を最も肌感覚で身近に感じたのは「私」です(笑)🐱。当ブログをご愛読いただいている方ならご存知のとおり、昨年6月の東洋建設の定時株主総会におきまして、私はYFO(東洋建設の大株主)側から株主提案として取締役候補者となりましたが、ISSの反対推奨を受けて(見事?)0.4%ほど足りずに否決(落選)されてしまいました。取締役候補者9名中、私を含めた2名がISSの反対推奨を受けましたが、その2名が僅差で否決されたので、あの反対推奨がなければ確実に取締役に就任していたでしょう(ほとんど「負け惜しみ」ですが、トホホ・・・( ;∀;))。いや、絶対に脅威はホンモノです。

ただ、だからといって「議決権行使助言会社不要論」には賛成しません。なぜなら、東洋建設の場合にも(昨年6月のエントリー「敗戦の弁」でもおおよそ述べておりますが)ISSもグラスルイスも「ガバナンスかくあるべし」といった持論をもって推奨意見を表明していることがわかるからです。その「持論」も、毎年それぞれの助言会社が「日本企業と向き合う場合の指針」を事前に発表して、その指針と個別会社のガバナンスの状況を突き合わせたうえでの「持論」だからです。記事ではISS日本代表の方が「基準に機械的にあてはめているにすぎない」と述べておられましたが、たしかに基準はあるものの個別の候補者や企業のガバナンスはよくみていると思います。

反対推奨された者なので偉そうには言えませんが、「ISSはこういった考え方だから、(意見に耳を傾けそうな)機関投資家とのヒアリングではこういった姿勢で臨むべき」といったIRアドバイザーの意見を事前によく聴いて、さらにはこの程度の規模のこの業界の上場会社であれば「攻め」と「守り」のバランスの最適解はどうあるべきか、自分なりによく考えていれば、助言会社の意見がブラックボックスとまでは思えません。経営者は毎年5月ころになると監査法人(会計監査人)の動向を気にしますが、私からすれば「動向を気にすべきは一年中でしょう」と言いたい。それと同じく、議決権行使助言会社の意見を気にするのであれば、(ガバナンスの在り方を通じて)一年中気にすべきなのです。総会直前になって気にするから「脅威」なのです。

ポピュレーションアプローチによるガバナンス改革1.0の時代から、昨年はハイリスクアプローチによるガバナンス改革2.0の時代へと移行する分岐点となりましたので、今後、議決権行使助言会社の意見は上場会社にとってさらに脅威となることは間違いないでしょう。大きな力を持つがゆえに政府による規制の対象にもなるかもしれませんが、記事中で梅本教授が「透明性」について語っておられるように、たとえば利益相反問題等も含めた「議決権行使助言会社研究」が日本でも注目されるべきではないか、と考えています。

 

|

« 吉本興業大御所タレント不適切行為疑惑と「ビジネスと人権」(1/10 追記あり) | トップページ | 私が考える「取締役会の実効性評価」の勘所(かんどころ) »

コメント

業務として機関投資家としてISSを使っていた時はセミナーがあり、毎年訪問がありました。また、6月の最終公式基準改定前に意見募集があり、また、機関投資家から自社の基準を改定があると送り、ISS基準と各社基準が送付されていました。
外部セミナーでISSの人と遭遇したことがあり世界各国の動向をフォローされていました。こちらもやっていたので切磋琢磨していましたね。
信託銀行他のサービスもあり、事業会社もいろいろなサービス利用が可能で透明ではないとは思わないです。朝日新聞に掲載されている石田さんのコメントはこんなものかなと。
エンゲージメント強化が言われ久しいが事業会社やマスコミで情報収集が不足のところがあるかもしれません。

投稿: 星の王子様 | 2024年1月10日 (水) 08時53分

コメントありがとうございます。
私が議決権行使助言会社に若干シンパシーを感じるのは「お金は企業からいただくけど、実質的にはステークホルダーのために仕事をする」といった、会計監査人や弁護士による第三者委員会委員の仕事に近いものを感じるからですね。ただ、様々な仕事を引き受けている、ということは私もよく知らないところなので、「研究」という形で認知するきっかけを作れたら良いのでは・・と思っています。

投稿: toshi | 2024年1月10日 (水) 22時18分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 吉本興業大御所タレント不適切行為疑惑と「ビジネスと人権」(1/10 追記あり) | トップページ | 私が考える「取締役会の実効性評価」の勘所(かんどころ) »