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2024年1月19日 (金)

社内リニエンシー制度はかなり運用がむずかしい(と思う)

本日(1月18日)の読売新聞朝刊(関西経済面)に「不正『自己申告』で処分に差、パナ楠見社長 子会社問題を受け」との見出しで、パナソニックグループが不正の自己申告をした社員と、しなかった社員とで社内処分に差を設ける方針を明らかにした、との記事がありました(読売新聞ニュースでもご覧いただけるようです)。パナソニックグループ会社の不正事案を契機に社内リニエンシー制度を採用する、とのこと。

自社の不祥事をできるだけ早く察知したい、との経営陣の意向を受けて、最近は社内ルールでリニエンシー制度を導入する会社も増えています。ちなみに、電力会社やゼネコン、広告代理店など、過去にカルテルで痛い目にあった会社は独禁法違反事実に特化した不正事実のみに限定して社内リニエンシー制度を導入する、というところもありますね(パナソニックはどうなんでしょうか)。 ただ、内部通報制度をお手伝いしているなかで、社内リニエンシー制度の運用はなかなかむずかしいと感じています(私だけかもしれませんが💦)。運用にあたって「これが正解」という回答をなかなか見い出せていません。

まず、社内リニエンシー制度を採用する場合、どの範囲の不正関与者を処罰対象とするのか、ということを決めないといけません(たぶん、個別事象ごとに処罰対象者の範囲を検討することになると思います)。実際に不正行為に手を染めた者に限定するのか、それとも「見て見ぬふり」をしていた黙認者も共謀者として処罰対象にするのか。「自己申告」というイメージからみて前者のみに限る、というのが一般的かもしれませんが、後者も「不作為で不正に加担していた者」として処罰の可能性がある以上、リニエンシーを活用できるようにしたほうが良いとの意見もあります。

あまり運用を複雑にするのも適切ではありませんが、自己申告は社内調査前の申告者に限られるのか、調査後であっても、有力な証拠を持っている社員にはリニエンシーを認めるのか、という問題もあります。このあたりは会社によって異なるとは思いますが、社員の予見可能性を確保するためにも、あらかじめ明確にルールで決めておく必要があります。

つぎに社内リニエンシー適用の有無を社内で公表すべきかどうか。基本的には社内処分の内容だけが公表されますが、リニエンシー適用が判明するような公表の仕方はちょっと問題かな、と思います。ただ、リニエンシーが本当に機能しているということを周知徹底しなければ実効性がないので、個別の案件とは離れてリニエンシー制度の適用状況については(実績として)社内周知をしたほうが良いのではないでしょうか。

そしてなんといってもリニエンシー利用者の特定の問題です。独禁法や金商法に定めのあるリニエンシーは法人が特定されることが多いわけですが、社内で個別の社員が特定される場合には、かなり居心地が悪くなるのが現実です(けっこう特定されてしまうケースが多いような)。この問題があるからこそ、社内リニエンシー制度はあまり活用されないとの話を聞きます。申告者の秘匿には十分に配慮しますが、それでも自己申告者はバレることが多い。あらかじめ「自己申告」するのが当社では当たり前なのだ、といった会社としての理念を徹底させておく必要があります。

ちなみに、当ブログでもご紹介したことがありますが、不正に関与しながら内部通報をした職員に対して、大阪市は他の不正関与職員と同様懲戒免職処分としましたが、裁判では「告発した事実も懲戒理由として考慮すべき」との理由で処分が取り消された例がありました(後日、大阪市は当該職員に対して懲戒免職処分を取り消して停職6か月としました)。

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