損保ジャパンの最終報告書からホールディングスの経営責任を考える
1月16日、ビッグモーターによる不適切保険金請求に対する損保ジャパンの対応について、最終報告書(SOMPO ホールディングス株式会社自動車保険金不正請求に関する社外調査委員会・最終報告書)が公表されましたので、この週末、「全文版」に目を通しました。昨年11月に公表された中間報告書の内容とも併せて、完全親会社であるSOMPOホールディングスに経営責任が認められるかどうか、という視点で考察してみます。これまで私は(こちらのエントリーでも述べておりましたように)親会社の経営責任については消極的な意見でしたが、最終報告書を読む限りでは考えを改めざるを得ないように思えてきました。
まず背景事情ですが、最終報告書を読むと、これまで何度も申し上げていたとおり、SOMPOグループはグループ会社に広範な経営上の裁量権を委ねていて「重要課題についての子会社による自己完結的な処理方針」が良くも悪くも徹底されていたようです。よって、BMによる不適切請求問題についてもホールディングスに(東洋経済の記事が掲載されるまで)報告をしていなかったというのも事実かもしれません。ただ一方でホールディングスは2022年6月、損保ジャパンの社外取締役制度を廃止していたのですね(このあたりは日経ニュースでも取り上げられています)。その理由は「今後はホールディングスが損保ジャパンの管理・モニタリングを強化する方針転換」だそうで、そうであるならば監督機能の不全(コミュニケーション不足)と言われてもしかたない背景事情があったと言えそうです。
つぎに、2022年8月29日に損保ジャパンからホールディングスに報告が上がったときの対応です。(あの東洋経済の記事を読んで)普通であればBMとの取引再開に問題がないのかどうか、ホールディングスの役員から「損保ジャパンのコンプライアンス担当、リスク管理担当者、監査役会の意見は?」と尋ねるはずです。「(BMの組織ぐるみの問題というわけではなく)たいしたことはありません」との報告が損保ジャパン側からなされたとしても、せめて法務コンプライアンス部門や監査役会(とくに社外監査役)も同意見なのかどうか「(グループ会社に対する)管理を強化する方針転換」があったのであれば親会社としては確認するはずでしょう。しかし管理側の役員が一切出席していない会議で取引再開を決定していたわけですから、損保ジャパン側は回答できなかったのかもしれません。もし確認したうえで不問に付していれば、そのこと自体ホールディングスの大問題ですし、確認をホールディングス側が怠っていたのであれば、これもやはり監督責任を尽くしていなかった根拠となり得ます。
さらに個人的に残念と思うのは損保ジャパン及びホールディングスの社外役員の行動が不明な点です。損保ジャパンは社外取締役制度は廃止した一方で、社外監査役の数は増やしており、6名中3名が社外監査役(4名が非常勤監査役)という構成です。ホールディングスは指名委員会等設置会社なので多くの社外取締役がいらっしゃいます。これらの社外役員の皆様は、2022年8月29日の東洋経済記事、9月15日の同記事、そして9月26日のダイヤモンド誌の記事はお読みになっていなかったのでしょうか、それとも読んだけど重大問題とは思わなかったのでしょうか。ホールディングスの社外取締役の皆様に報告されたのは2022年10月7日(正式に監査委員会が報告を受けたのは2023年1月20日とのこと)、損保ジャパンの社外監査役の皆様に説明がなされたのが2022年10月5日(法務コンプライアンス担当役員より)とのことで、それまで逆に社外役員のほうから説明を求めていた事情は認められません。BMとの取引再開を決定するにあたり、東京海上、三井住友との対比が明確な状況だっただけに、ここで社外役員が動いていれば「自浄能力」という意味では相当な違いがあったのではないでしょうか(ここはもっと詳細にご説明したいところですが、また別の機会に)。
最後に、Qちゃんさん、MAXさん、ヤマノボリさんらがコメントされていたように、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」におけるグループ管理規程違反に関する問題です。金融庁はとりわけ金融機関の内部監査態勢については注目しており、ホールディングスとグループ会社の内部監査部門との連携を要請しています。しかしながら最終報告書を読む中で、ホールディングスおよび損保ジャパンの内部監査態勢および内部監査部門がどのように動いたのか、どのように連携したのか、という点についてはほとんど記述がありません。損保ジャパン自体で25000名の社員が存在するわけですから、相当程度の内部監査部門は当然存在するはずですが、法務コンプライアンス部門と同様「BMとの不適切関係問題は、我々の職務範囲外である」ということで一切タッチしていなかったのでしょうか。このあたりは重要な論点であり、内部監査部門が機能していなかったとすれば、おそらく金融庁からもホールディングスに対して何らかの改善要望が出るのでは、と予想します。
ということで最終報告書を拝読したうえで、やはり法人としてのSOMPOホールディングスには経営責任を認めるべきと思い直しつつあるところですが(かなり「負け惜しみ」っぽい表現ですが🐱)、それでも経営陣の個人的な責任についてはSOMPOホールディングス側で明確にしなさい、ということになりそうな気がいたします。いずれにしてもSOMPOホールディングスのガバナンスは「体制」という意味では日本の上場会社の中でも超一流といっても過言ではありません。ただ「体制」が「運用」を伴っていたのかどうか・・・、ここが投資家の皆様にとって、日本企業のガバナンス評価のうえでもっとも難易度が高いところかと思います。
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