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2024年1月 9日 (火)

吉本興業大御所タレント不適切行為疑惑と「ビジネスと人権」(1/10 追記あり)

能登半島地震の被害状況に関する連日の報道内容からみて、政府にも全容が未だ把握できていないことがわかります。本当に厳しく悲しいニュースが伝わってきます。被災された方々に謹んでお見舞い申し上げますとともに、地震や津波の犠牲となった方々のご冥福をお祈りいたします。以下、ビジネスと人権の視点から週刊文春1月4日・11日新年特大号に掲載された記事に関する話題を取り上げます。

Img_20240109_000205272_512 先日、ある方の文春報道についてこちらのエントリーでもつぶやきましたが(こちらの疑惑も10年前の出来事です)、本日(1月8日)ダウンタウンの松本人志氏が年末の文春報道(性的行為の強要疑惑)を契機として「記事に対峙し、裁判に注力するためにタレント活動を一時休止する」旨、所属事務所(吉本興業)を通じて公表されました(吉本興業公表文含め、朝日新聞ニュースはこちらです)。成人女性に対する性的行為の強要疑惑、しかも8年前の出来事ということで、ちょっとSMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)の創業者事案とは様相が異なるのでは・・・と思いましたが、それでも放送局やスポンサー企業としては松本氏の起用をどうするのだろうか(とくにSMILE-UP問題が大きな話題となっただけに)と気になっておりました。

文春による複数の女性からの裏どり、第2報、第3報、さらには「#Me Too」があるかもしれませんので「文春第1報を読んだうえでの現時点での印象」ですが、①松本氏や関係者への可能な限りの事前取材、②当日の状況に関する詳細な描写記事、③告発が8年後となった理由(芸能界周辺で仕事するためには逆らえない、しかしジャニーズ問題に勇気をもらった)、④関係者からの具体的な反論が出ていない、といった事情からすると、原告側は「真摯な同意」があったこと、文春側は「強要に関する真実相当性の抗弁」を、それぞれ裁判で主張することになりそうです。そうだとすれば、松本氏・法人としての吉本興業が原告となって名誉毀損裁判を提訴した場合、SMILE-UP事件の裁判(1999年から2004年まで)と同様、判決が確定するまで4年から5年はかかることになりますので、その程度の期間は松本氏はタレント活動を一時休止するということになるのかもしれません(関西万博のアンバサダーも辞退、ということになるのでしょうね)。

児童に対する性加害問題とは異なるものの、やはり女性に対する不適切行為(疑惑)となりますと各企業の「ビジネスと人権指針」に沿った対応が必要となるでしょうから、そのあたりも考慮したうえでの(スポンサー企業やマスコミに迷惑をかけることはできないという)松本氏の対応なのでしょうね。ましてやNHKあたりから先に「出演辞退要請」などが出されてしまうと(裁判以前に)松本氏の名誉や吉本興業の信用に傷がつくかもしれませんので、それは避けたい。なお、各メディアはSMILE-UP事件の経験から、地裁、高裁、最高裁の各判決(決定)が出るたびに公共の利害に関わる事件として大きく報じることになると思われます。「ビジネスと人権」問題が絡むとなると、本件への企業対応はかなり頭を悩ませますね。

さて、法律に詳しい方には「釈迦に説法」のお話ですが、裁判で決着をつけるとなると「民事裁判」で不適切行為の有無(および真実相当性)が争われますので、不適切行為があったのかなかったのか(評価根拠事実も含めて)、そのあたりの裁判官の心証の取り方にご留意いたたいだほうがよろしいかと。日本の民事裁判は当事者主義なので、裁判官が進んで事実認定に必要な証拠を探したり、主張を組み立てたりすることはありませんし、また裁判官が「どっちかわかんない」と思った時の立証責任問題とか、「真実相当性」を基礎づける根拠事実とか、証拠の証明力の問題とか様々な争点があります。ジャニーズ事件の記者会見で、ジェリー氏が「父が敗訴したのは『性加害を行ったからではなく、弁護士が無能だったから』と言われてきました」と述べていましたが、最終的にはそのような弁明が(可能性としては)成り立ってしまう世界でもあります。ただ、私の過去の恥ずかしい失敗談から申し上げると、このあたりを理屈っぽく弁明するとかえって世間から叩かれてしまうこともあり、表現がとてもむずかしい。

スポンサー企業が「ビジネスと人権指針」に沿った対応を検討する場合、とりわけ不適切行為の疑惑が民事訴訟で争われる場合には、世間の風潮だけでなく、上記のような民事裁判の判決に至るプロセスなども慎重に考慮することが必要ではないかと考えるところです。「不適切行為があった」とまでは言えないとしても「不適切行為があったと世間で噂されていること」だけで取引解消という方針であれば、それ以上は何も言えませんが…。今年6月、国連人権委員会の訪日調査の最終報告書が国連に提出されますので、今年も「ビジネスと人権」への企業対応は大いに注目されることになりそうです。

(1月10日 追記)朝日新聞ニュースによりますと、アサヒビールは昨年12月29日放送の松本氏出演番組で、スポンサー企業としての社名表示(提供クレジット)を取りやめていた、とのこと。同社が朝日新聞の取材に明らかにしたそうです。アサヒビールは今回の対応について、「報道を受けて総合的に判断した」(広報)と説明しているようで、すでに「人権指針」に沿った対応を決断したものと思われます。

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