スギホールディングスはなぜ内部通報(件数)が多いのか?
ダイハツ品質不正事件が世間の関心事となっていますが、同じ品質不正事案といってもダイハツ事件と日野自動車事件や豊田自動織機事件ではやや様相が異なります。日野自動車事案と豊田自動織機事案は社内調査で自ら「発覚」にまでこぎ着けた(いずれも社内調査が端緒ということですが、おそらく内部通報)ものですが、ダイハツ事案の発覚は内部告発(外部への情報提供)ですね。文春オンライン記事に登場するダイハツの現役管理職の方の証言では「通報しても実効性がなかった」とのことで、やむを得ず告発に至ったものと思料します。不祥事を起こしても「自浄能力」を示すためには、やはり通報制度の充実が欠かせません。
さて、年末(2023年12月29日)の東洋経済オンラインの記事「内部通報件数が多い企業ランキング」上位100社-ビッグモーターの不正請求で注目の内部通報制度」では、3年連続の1位の日産自動車を筆頭に、日立やファーストリテイリング、パナソニック等、日本を代表する企業が(通報件数の多い企業として)ベスト10に並んでいます。ただ、その中でスギホールディングスが2位にランクインしていることが(たいへん失礼ながら)とても奇異に感じました。
最初は2021年5月13日のエントリー「やはり内部告発の威力はスゴイ(がんこ寿司、スギHD)」でも紹介しましたが、スギホールディングスは内部告発で痛い目にあったことから内部通報制度に注力するようになったのかな、と思いました。しかしスギホールディングス統合報告書を読むと、2018年ころから通報制度の整備に力を入れていることがわかります(2018年度には年間269件だった通報件数が、2022年度には1585件にまで急増しています)。つまり2021年の問題が騒がれる前から通報制度の拡充に力を入れていたのですね。
同社の統合報告書では「人材戦略」の一環として通報制度の整備・運用が紹介されており、従業員エンゲージメントの強化策と捉えられています。通報の内訳をみると(統合報告書71頁)、全体の5%ほどが「不正」「ハラスメント」であり、その他は社内における悩み事が中心のようです。「たった5%しか有用な通報がなされていないのか」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、全体の5%でも不正が通報されるというのは、かなり良いほうです。統合報告書で通報制度が前向きに紹介されていることから、おそらく社員の方々の通報に至る心理的安全性は高いものと思います。
これまで何社か内部通報制度の整備・運用のお手伝いをしましたが、いったんは通報件数が増えても、また2,3年後には元の件数に戻ってしまうということを経験しました。振り返ってみると、そのような会社は通報制度の整備・運用への特定社員の熱心さ(属人的な要素)に依存していたようです。やはり社内慣行として、もしくは組織風土として定着しなければスギホールディングスのように件数が増えることはないと思うのです。そのような意味で、一度スギホールディングスの統合報告書2023(とくに71頁と85頁)を参考にしてみてはいかがでしょうか。いろいろな「気づき」があるかもしれません。
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コメント
前振りの部分へのコメントになりますが、豊田自動織機事案は内部通報による発覚と言ってよいのでしょうか?
国内出荷停止のときのニュースリリース( https://www.toyota-shokki.co.jp/news/2023/03/17/005488/ )だと
『2021年5月:米国環境当局への対応の中で、申請済のデータに懸念をもち、外部弁護士による調査を自主的に開始しました。』とされていますが、
その2021年5月ごろのニュースリリース( https://www.toyota-shokki.co.jp/news/2021/05/21/004535/index.html )を見ると
4月段階で『認証が取得できておらず出荷停止』ということで、どうも内部通報より当局から認められないことによるものという色が強いように見えるのです。
日野自動車も北米問題は報告書の射程外なので経緯が全然見えない感じがします
投稿: 紡 | 2024年1月25日 (木) 07時32分
紡さん、ご指摘ありがとうございます。本文もややあいまいな表現にしておりましたが、ご指摘の内容でしたら内部通報によるものとの推論はできないものと思います。そこで修正をいたしました。
投稿: toshi | 2024年1月25日 (木) 14時17分