第三者委員会-根本原因の解明と「企業の深い闇」(その2)
(本文「前社長」を「S社長」に訂正いたしました。ご指摘ありがとうございました)
昨年5月9日、こちらのエントリー「第三者委員会-根本原因の解明と企業の深い闇」において、不祥事の(再発防止に向けた)原因究明を本格的に進めると「世間で言ってはいけない企業の闇の問題」に突き当たることがある、ということをご説明しました(このエントリーは、現在も多くのアクセスがあります)。本日はその続編ということで。
週刊東洋経済の最新号(1月27日号)掲載の記事「闇落ち損保ジャパン「保険金詐欺」隠蔽の真相-ビッグモーターの不正請求に目をつぶった」(リンクは東洋経済WEB有料記事です)を読みました。2022年以来ビッグモーター不適切保険金請求事件を追い続けてきた中村記者による記事ですね。中村記者による2022年8月の記事が公表されたことを契機に、損保ジャパンもSOMPOホールディングスに報告せざるを得なくなりました。
なぜ損保ジャパンが(それまで他の大手損保と同様に停止していた)ビッグモーターへのDRS(入庫紹介)を(組織的不正と知りつつ)再開するに至ったのか。私は損保ジャパンS社長の動機として「このままだとビッグモーターとの美味しい取引を同業他社にとられてしまうという焦り」によるものと理解をしていました。記者会見でもS社長はそのような趣旨の説明をされていたと思います。
しかし、中村記者が記事で指摘しているように「ビッグモーターのやっていることはワン・オブ・ゼムではないか」とS社長が認識していたことの動機のほうが大きいように思います。つまり「車にキズをつけたり、ありもしない虚偽の修理箇所を作出して多額の保険金請求の見積もりを上げることは、昔から他の修理工場でもやっている。BMはそのうちの一社にすぎない」という認識です。さらに、そのような認識を抱いていたところに悪魔のささやき(DRS停止の間に、同業他社が顧客争奪に暗躍している)が聞こえてきたために、S社長は「焦ってしまった」のではなく「なんだ、ビッグモーター不正とはその程度の問題だと他社も認識しているのか」といった安堵感を抱いてしまった。これが事件の核心に近いと、私も思いました。
ひとつの有力な仮説にすぎないかもしれませんが、このストーリー(私から見れば「深い闇」)を調査報告書には書きづらいですね。「他の整備工場を持つ正規ディーラーでも昔から同じことをやっている」とか「保険会社も調査費用のほうが高くつくから黙認している」といったことを「商慣行」として記載することは国民の利害に大きく関わることだけに(仮説だとしても)書きにくいです(なお、実際には他社でも不正請求が起きていたことは報道されているとおりです)。ただ、一般ユーザーの利益保護のために同様の不正を根絶するためには、やはり(サプライチェーン一体となって)本当の根本原因の究明が求められるはずです。上記週刊東洋経済では「もうひとつの損保問題」として企業保険カルテルについても語られていますが、こちらも「保険代理人」を含めて深い闇がありそうです。
そういえば「くい打ち検査不正」で大きな話題となった「横浜マンション傾斜事件(2015年)」では、岩盤に到達していないにもかかわらず到達していたかのように虚偽の検査記録を作っていた(データ流用していた)旭化成建材のみが大きく批判され、親会社社長の辞任にまで至りました。ただ、後日(半年後)国交省の行政処分を眺めてみたところ、同業社8社が同時に処分を受けていました(処分対象社の信用のためにリンクは貼りませんが、平成28年1月13日付け国交省告知参照)。つまり「どこでもやってるんだから、納期を守るためにはしかたない。」という不正です。たまたま旭化成建材が関与していた工事が大きな問題に発展したことは「運が悪かった」ということで済ませられるのでしょうか。ではなぜ、その不正は「どこでもやっている」のか。権力を持たない者が解明しようとすると、社内外から魑魅魍魎(ちみもうりょう)が飛び出してきますが、そこに光をあてるかあてないかで再発防止の本気度が変わります。
A社の不祥事防止のために、お金にもならない仕事(A社への協力作業)を抱え込まねばならないB社。そのB社の「A社の不祥事予防のための協力作業」を、A社担当者は(場合によってはA社社長が)B社にお願いしなければならない。これが「不祥事防止のリアル」であります(自己完結型の不祥事予防策では「突然企業風土が変わる!」といった奇跡でも起きないかぎり限界があるのが現実です)。
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