SOMPOホールディングスの(お墨付きの)「優良コーポレートガバナンス」について
1月25日、ご承知のとおり損保ジャパンおよび親会社であるSOMPOホールディングスは、ビッグモーターによる不適切保険請求への対応に関して金融庁から業務改善命令を受けました。その処分理由だけでなく、直前に公表された最終調査報告書においてもSOMPOホールディングスのガバナンス不全が監督責任の根拠とされています。
ただ、これまでSOMPOホールディングスのガバナンスは優等生とされていました。SOMPOホールディングスは保険法上の保険持株会社なので、子会社の経営管理のみを事業目的とする上場会社です。その子会社経営管理の実施状況から、2019年、経産省および東証は他社が模範とべき「健康経営銘柄」に指定しました(指定銘柄は35社)。また、SOMPOホールディングスの情報開示の姿勢が評価され、2022年、金融庁は「事業上のリスク開示」「サステナビリティ情報」に関する好事例として、SOMPOホールディングスの有報開示を紹介しました。さらには2022年、経産省は「人材版伊藤レポート2.0好事例集」においてSOMPOホールディングスのパーパス経営の実践例を紹介しています。
すばらしい!!私がSOMPOホールディングスの社外取締役であれば、取締役会の実効性評価においてもESG経営への真摯な取組姿勢をみて、他社に自慢したくなる評価点をつけると思います。誰が見てもガバナンス優良企業であり、いわば「指名委員会等設置会社」の成功例と胸を張って言いたいです。おそらく機関投資家や運用会社の取締役会実効性評価においても最高点が付されるのではないでしょうか。
では、なぜ「ガバナンス不全」と言われるのか?単に「不祥事を起こしたから」という「後出しジャンケン」による結果責任でしょうか?そうであれば、これからも「ガバナンスの実効性評価」などと(私も含めて)やってみたところで少なくとも社会に多大な迷惑をかけてしまうような不祥事は防げないということになります。平時から競争力を高めるための「攻めのガバナンス」に資源を投下しても、有事における「守りのガバナンス」で失敗すれば一日にしてその信用は毀損されるということはきわめておそろしい。
ちなみにSOMPOホールディングスの2022年度「リスクマップ」をみると、さすが優秀なガバナンスを構築される集団、ちゃんと「ガバナンス不全は1000億円規模の損害が発生するリスクであり、発生可能性も低いわけではない」と公表しています。頭の良い人がたくさん集まる組織で、このようにリスクを的確に認識していたにもかかわらず、ではなぜ今回の事案が発生したのか。リスクマネジメントにおいて何が足りなかったのか。
金融庁は、処分理由の中で、このたびの事案の真因を以下のように述べています。
SOMPOホールディングスによる適切な企業文化の醸成に向けた取組みが不十分である中、損保ジャパンにおいては、次のような企業文化が、歴代社長を含む経営陣の下で醸成されてきたこと①顧客の利益より、自社の営業成績・利益に価値を置く企業文化② 社長等の上司の決定には異議を唱えない上意下達の企業文化③不芳情報が、経営陣や親会社といった経営管理の責務を担う者に対して適時・適切に報告されない企業文化
しかしこの度の自民党の政治資金規正法違反の結末(およびこれに対する国民の反応)をみれば、多くの組織でも同じ文化を有しているように思います。「不祥事」という面からみれば欠点にみえても、「持続的に業績を上げる」という面からみれば長所にもみえます(だからこそ、不祥事を発生させた企業のなかで「本気で50年来の企業文化を変えよう!」と、実行に移す人は出てきません)。
なぜもっと深く真因に突っ込んだ記述とはならなかったのか。もっと指摘すべき「不都合な真実」がほかにもあるのではないか。むしろ昨年12月26日の(企業保険に関する大手4社に対する)金融庁の処分理由のほうが真因に迫ることができているように思えました。これまで優秀とされていたSOMPOホールディングスのガバナンスがあるからこそ、本来は業務停止命令が妥当なところ、若干宥恕して業務改善命令にした・・・という理由ならそれなりにわかりますが。。。かように「ガバナンスの評価」というものはむずかしいと痛感いたします。
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コメント
企業保険の談合問題について、正に是正策の一つになりうる保険仲立人(ブローカー)制度に関する議論が高まらないことが不思議です。顧客企業サイドに立った保険契約交渉が可能になることの意義を強調すべきと思うのですが・・・・。
投稿: Qちゃん | 2024年1月29日 (月) 14時03分
金融庁の失敗では、金融庁長官(当時)がスルガ銀行の経営を高く評価していたことを思い出します。積極的な経営を促そうとすると守りのガバナンスの評価を見誤るのでしょうか。難しいです。
投稿: 門外漢 | 2024年1月31日 (水) 12時53分