企業不正の「発生」と「判明」は大きく異なる(調査結果より)
土曜日(1月13日)の日経ニュース(法務ガバナンス)の記事「4社に1社で過去5年に不正、労務や横領など 民間調査」を読みました。デジタルフォレンジックス調査やeディスカバリー業務で有名なFRONTEOさんの最新調査によると、日本企業の25%において過去5年以内に、横領などの不正が発生しており、売上高の大きい大手ほど発生率が高く、不祥事の兆候を察知するための対応策の導入が急務になっている、とのことです。
規模別では、売上高が100億円未満の会社の不正発生率が10%強だったのに対し、1000億円以上の会社では30%超に膨らんだとされています。講演や論文等で、私がよく「〇〇社の事件は他人事ではない。明日は我が身と考えて不正リスク管理に臨んでいただきたい」と語りますと、大手の企業のリスク管理責任者の方からは「〇〇社では、このような特徴があって不正が発生したのであり、当社とは異なる。『どんな企業でも起きる』はずいぶんと失礼な言い方では?」と批判を受けることがあります。しかし、上記のような調査結果からしますと、大きな不祥事に発展するかどうかは別として、やはり不正発生の可能性はどこの企業にもあるといえます。
ところで、ひとつ気を付けないといけないのは「不正の発生」と「不正の判明」は大きく異なる、ということです。上記調査結果では、企業規模が大きいほど不正発生率が高いような結果が出ていますが、私からすると企業規模が小さいほど(内部統制の不備が多いので)不正は発生率は高い、さらには発生件数も多いという印象を持っています。ただ、規模の小さい企業は不正発見力も乏しいので不正が判明しにくいだけです。また、上記調査結果は「外部調査を必要とするような不正」とありますので、外部に調査を委託できるのは比較的大規模な企業だからではないかとも思います。大規模会社はリスク管理に相当な人的・物的資源を配分できますし、不正発見力も高いので不正判明率も高くなる、したがって結果として「不正の発生率、発生件数」も高いようにみえるということです。
最近の不祥事の特徴は「サプライチェーン・コンプライアンスの急増」、つまりグループ会社や取引先の不祥事に対する自社の対応自体が社会から批判を浴びる事例がかなり目立ちます。不正を見つけることも大切ですが、見つけることにも限界があります。自社グループもしくはステイクホルダーの不正が判明した時に、どのような対処によって自社の社会的信用を守るか・・・ということにも留意しなければなりません。マニュアルのない世界なので、ビジネス戦略の実施と同様、不正リスク管理も失敗を繰り返すなかでスキルを磨くことが一番の近道ということになります。「リスク管理に失敗は許されない」という思想がはびこる組織では、不正を見つける能力はいつまでも属人的なものにとどまるため、何度も同じような不祥事を繰り返すことになります。
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