「重要な契約」開示規制違反に対するエンフォースメント
ちょっと本業が忙しいので、短めのエントリーとなります。昨年12月22日に開示府令が改正され、企業・株主間のガバナンスに関する合意、コベナンツ(財務上の特約)等を有価証券報告書で開示しなければならない、とされました(2025年3月31日以降に終了する有価証券報告書等から適用。なお財務上の特約に関する臨時報告書への開示は原則2025年4月1日以降に提出されるものから適用)。なにか新しい開示ルールを新設した、というものではなく、むしろ「投資者の判断にとって重要な情報を開示する」といった既存の開示ルールを明確化することで、これまで不十分だった開示しかされてこなかった事項について適切な開示を促すという趣旨のようです。
ただ、いつも非財務情報の開示ルールが追加されるたびに思うのですが、規則に違反した上場会社に対してはどんなエンフォースメント(制裁)が待ち受けているのでしょうか?もちろん有価証券報告書の虚偽記載罪とか、金商法上の虚偽記載責任が思い浮かぶのですが、そもそも適用される可能性はあるのか。たとえば「合意はしたけど『重要』とは思っていませんでした(重要性がない場合は適用除外)」とか「話し合いはしたけど、まだ『合意』とまでは至っていませんでした」といった抗弁が出されても国家権力は動くのでしょうかね?
なんとなくの「思いつき」にすぎませんが、こういった開示違反についてもプライベート・エンフォースメント、つまり同意なき買収案件などにおいて「モノ言う株主」の主張と会社側の反論という形で(総会における賛否を通じて)規制の実効性が確保される、というところが狙いではないかと(たしか今までの大量保有報告制度違反なども、事実上は同様の使われ方がされていますね)。そうなると、また社外取締役の活動場面、さらには「第三者委員会の活動場面」が増えることになるような気がいたします。←「行政活動の効率性重視」というタテマエが幅を利かせる風潮のなかで、今後様々な場面でプライベート・エンフォースメントが重用されるとなれば、社外取締役にとっては近時の開示府令の改正内容は理解しておいたほうが良いです。
手続法も含めた「経済刑法」の適用は、企業による自由な経済活動を委縮させてはならない、できるだけ謙抑的に行使されるべき、というのが通常の考え方なので、行政処分も含めてパブリック・エンフォースメントの適用場面は限られてくると思うのです。では「グレーゾーン」に規制の趣旨をどのように浸透させていくべきか(放置しておけば「正直者が馬鹿を見る」資本市場となるけど、それでよいか?)、非財務情報の開示規制やM&A規制の改正の場面でかならず考えておかねばならない課題だと思います。同じ金商法上のJ-SOXの世界でも「正直者が馬鹿を見る(モラルハザード)」を改正するまで15年もかかりましたね。
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