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2024年2月13日 (火)

会社役員の免責根拠となる「信頼の原則」の前提について

(本日も少し短めのエントリーとなりますがご了承ください)週刊経営財務2月5日号(3640号)から「東証上場会社の不正・不祥事に対する措置の最新実例とその傾向について」(日本取引所自主規制法人)の連載記事が始まりまして、2月12日号(第2回)まで拝読いたしました。主に会計不正事件を発生させた上場会社の事例分析が中心ですが、さすが措置のお膝元である東証の分析だけあって企業の有事対応を支援する弁護士にとってはとても有益な内容です。ご購読されてる方にはお勧めの記事です。

第1回の分析結果は「まあ、そんな感じだろうな・・・」といった内容だったのですが(それでも独立社外取締役が多い企業は会計不正事件を起こしにくいという相関関係が有意であることは初めて知りました)、第2回の分析結果はなかなか興味深い。不正・不祥事が発覚した上場会社では、圧倒的に5年以上前から継続的に不正が続いていた、というもの。なるほどこうなりますと、発生した不正は「一次不祥事」ですが、これを長期間放置(黙認?)していた役員の「二次不祥事」もガバナンスや内部統制の不備として厳しく問われるのも当然かと。

とくに発生原因のほぼトップとされている「取締役会の形骸化・役員間の牽制不足」では、具体的な実例として「知らなかったではすまない」ケースが挙げられています。自身の担当する業務執行に関連する不祥事ではなくても、たとえば新規ビジネス情報、不祥事の疑義に関する社内外の情報、同業他社の不正事例等に接した会社役員の方々は、業務担当取締役に具体的な質問をして、合理的な理由が示された回答に納得しないかぎりは監視・監督を尽くしたとは言えないのでは?と思われます。いわば信頼の原則によって会社役員が監督責任を免除される条件として、個別具体的なイベントに関するリスク管理の妥当性が議論されていることが必要ではないでしょうか。抽象的に「〇〇CFOの日ごろの仕事ぶりが誠実なので信頼していました」では免責されない、ということかと。

ちなみに上記記事第2回では、東証が措置の対象とした上場会社の不正発覚は、圧倒的に「社外からの問い合わせ(筆者注-おそらく内部告発)」によるものが多いという結果となっていまして、内部通報制度は立派なものを作っていても形骸化していて役にたっていないとの評価となっています。ただ、有事対応を支援している実務家としましては、そもそも内部通報制度が機能したことによって東証の措置に至らない時点で不正・不祥事を防止した(早期発見した)ケースもたくさんありそうです。不幸にして「措置」に至ったケースだけをみれば、たしかに内部通報が契機となったケースは少ないのですが、近時は(社内通報のハードルが下がった組織風土や「働き方改革」の浸透によって)通報制度が機能して速やかに不正・不祥事を止めることができた事案も増えているように思います。

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