キヤノンの次年度取締役会構成に「ガバナンス改革の成功事例」をみる
キヤノンさんと言えば、7年前のこちらのエントリーで関係者の方からご批判を受けたことを思い出しますが(しかしこのエントリーはとても多くのアクセスがありました)、ひさしぶりのご紹介でございます。キヤノンの2月2日リリース「取締役の異動に関するお知らせ」を読みました。昨年、キヤノンCEOの取締役選任議案が薄氷の可決(50.59%)となり、女性取締役が一人もいないキヤノンのボードガバナンスに投資家からの異議が出されたことはご承知のとおりです。2024年3月開催の定時株主総会ではどのようなボード構成となるか注目が集まっていましたが、元消費者庁長官(女性)の方を取締役候補者として選任議案を上程することとなり、最近のガバナンス改革の流れがキヤノンを動かしたことは間違いないと思います。
ただ、女性取締役を選任したことだけであれば「最低限のガバナンス・コードへの対応にすぎない」と機関投資家から評価されるだけかもしれませんが、私が注目すべきと思うのは、目に見える形で取締役会改革への積極的な姿勢を示した点です。医療機器、半導体(先端領域)、ファイナンスの(比較的?)若手トップを思い切って3名も取締役会構成員として追加し、さらに社外取締役も倍増してモニタリングを厚くするのですね。これまでキヤノンの取締役数は5名(社外取締役2名)でしたが、2024年3月以降は倍の10名、うち独立社外取締役は4名(40%)とのこと。上記リリースの選任理由を読みましたが、これはスゴイ。女性取締役の初選任よりも、こっちのほうが話題性が高いように思います。
私はカリスマCEOが君臨し、しかも業績がとても良い会社となれば、政府が推奨するガバナンス改革への対応は必要最小限度でも問題ない(女性取締役さえ選任すればCEOへの反対票も激減するだろう)、と考えていました。しかし、この取締役会の新しい陣容は、次世代のキャノンを担う候補者をモニタリング機能を十分に備えた取締役会で評価をする、まさにサクセッションプランをきちんと示した格好になっています。これは誰がみても87歳のCEO、82歳のCFOが(そろそろ)交代して、新生キャノンが生まれることが予想できますし、また増員された社外取締役を中心に、透明性を高めた指名・報酬決定がなされることが期待されます。正直、私はここまでキヤノンがガバナンス改革に熱心だったとは知りませんでした(そもそも「ガバナンス改革」など言われなくてもやってるわい!との声も聞こえてきそうですが)。これも10年にわたるガバナンス改革の成功例のひとつとして評価できるのではないでしょうか。
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