日本の上場会社は「社外取締役天国(パラダイス)」だと思う
本業の調査業務が佳境に入っておりまして、日曜日の夜くらいしかブログを更新できず申し訳ございません(もうしばらく、こんな状況が続きそうです💦)。さて、2月29日の朝日新聞ニュースによりますと、企業向け保険料の事前調整行為をめぐり、大手損害保険4社は業務改善計画を金融庁に提出したそうで、その経営責任として4社合計で社長を含む経営陣132人を処分した、とのこと。処分の内容は各役員の報酬減額が中心のようです。
ところで4社のリリースを拝見しましたが、いずれも社外取締役への処分が見当たりません(SOMPOホールディングスは、同社の社外取締役と損保ジャパンの社外監査役が報酬の一部を自主返納することを表明していると報じていますが、これは処分ではありませんね)。ここまで徹底した役員へのけじめを表明しているにもかかわらず、なぜ業務執行の監督責任を果たすべき社外取締役は「処分対象外」なのでしょうか?「いやいや私たちも責任を負うべきだ!」として報酬の自主返納を申し出たSOMPOホールディングスや損保ジャパンの社外役員さん方の心意気はわかりますが、やはり社外取締役は、どこの企業でも「お客様」なのでしょうか。
私が所属するガバナンスネットワーク関西勉強会でも最近申し上げましたが、日本企業は社外取締役にとってまさに「天国」だと思います。自戒をこめて、その理由を以下のとおり3つ指摘しておきたいと思います。
ひとつは「社内外から評価されない」ということです。たとえば第三者委員会などは「格付け委員会」があって、厳しい評価を受けます。しかし社外取締役は株主や社内取締役、従業員、監査役等から再任の可否を前提とする評価を受けたところを見たことがありません。他社の社外取締役との比較で評価を受けることもありません。社長と信頼関係を形成することは大切ですが、それは会社に迎合してモノを言わないのか、それともモノは言っているがきちんと緊張関係のもとで信頼を築いているのかは、わかりません。「専門性」に期待されているのであれば、それが企業価値向上にどのように役立っているのか、評価をしている企業もあまり見当たりません。だからこそ評価(およびその開示)が必要ではないでしょうか。
ふたつめは「責任を負わない」ということです。この責任は法的責任(善管注意義務違反)だけでなく経営責任も含みます(上記、損保大手4社の処分例などは典型例かと)。第三者委員会報告書をみても、社外役員の経営責任まで踏み込んだものはほとんど見当たりません(なお、私が委員長を務めた報告書のうち、2つは社外取締役の経営責任を認めて理由とともに明記しています)。「おかしい」と気づいても、社外役員の方々が声に出さないのは、やはり責任を問われる可能性が乏しいからではないかと。伊藤忠・ファミマの裁判(非訟事件)、ニデックによるtakisawaへのTOBの成立などが報じられても、社外取締役経験者の危機感はあまり高まっていないですよね( ;∀;)。
そして三つめは「マスコミからいじられない」ということです。有事になっても会社は最後まで社外役員を庇いますし(つまり社外役員の行動が世間に明らかにならない)、またマスコミも社外役員の職務の相場観がわからないのでいじりようがない。関西スーパーの社外役員の方々やリクシルの社外役員の方々が、有事にどれだけ一生懸命会社のために奔走していたか・・・というのは、それぞれの事案がドキュメントとして書籍化されたことで初めて世に知られることになりました(しかし書籍化されたころには、すでに世間の注目は別の事案に移ってしまっているわけです)。
3月3日の日経社説では、企業の持続的成長のために「企業統治の実質化」を進めよ、ということで、まだまだ社外取締役の数合わせに終始している企業が散見されることを指摘しています。しかし、企業だけでなく、株主と世間もこれだけ社外取締役に甘いわけですから、「報酬もソコソコもらえて責任も問われない、まさにパラダイス状態」の社外取締役に、期待されるような役割が果たされていないとしても、むしろ当然(行動において経済的合理性がある)のように思えます。期待されている役割を果たすためには、社外取締役自身が常に考え、実践のなかで失敗を繰り返しながら知恵を蓄える以外に方法はないと思います。
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コメント
山口先生へ
おはようございます
先日の報道で、損害保険会社4社への経営陣へ処分とありました。Bloomberg3月1日の報道では、『損保の政策株「ゼロ」宣言、踏み込み評価-成長投資につながるか注目』とあります。本日の読売新聞オンラインでは、「日産が下請けに減額を強要、公取委が勧告へ…部品30社以上で計30億円」ともあります。
国は、損保社が保有している日産株の全てを3月15日までに放出すると公取委と金融庁とで指示すべき内容かと思いました。国民には、BM社に肩入れした反省として正しいことをする企業とだけお付き合いすべきと損保側自らからもメッセージを国内外に表明すべきと思います。
投稿: サンダース | 2024年3月 4日 (月) 07時54分
今朝投稿する際に、正確な名前が思い出せなかったので今回追記をさせていただきたいと思い投稿させていただきます。思い出せなかったのは、下請けGメンでした。経産省の関東経済産業局のHPに、「下請Gメンと呼ばれる取引調査員を配置して、下請中小企業を訪問しています。下請Gメンは秘密保持を前提として、下請中小企業の取引状況やお困りごとをヒアリングさせていただきます。また、伺ったご意見を国や業界が定めるルールづくりに反映し、適正な取引環境の実現に繋げていきます。」とあります。今株価高のこの時こそ、難なく売り抜ける好機ではないでしょうか?まだまだ、自動車産業は色々なことが吹き出るのでしょう。
そんなこと書いている今、一つの疑問がふつふつと湧き出しています。今日話題にさせていただいた4社+1社の顧問弁護士の方は、不正が発覚した際にどのような態度で経営陣に接触されたのか興味が湧きます。机を蹴飛ばして激怒した弁護士の方はいらっしゃったのでしょうか。山口先生にお答え頂きにくいのかも知れませんが差し支えない範囲で空気感などご教示いただけたら幸いです。
投稿: サンダース | 2024年3月 4日 (月) 21時17分