女性監査役等50名の想い-進化するガバナンスの担い手として
「虎に翼」(NHK朝ドラ)を毎日視聴しておりますと、昭和初期の女性の生き方、とくに職業婦人としていかに厳しいバイアスの中で生きてきたかということがよくわかります。たとえば経済的に豊かな男性は妾をもって当たり前だし、それを女性の前でも自慢するという風潮は、かなりリアルな描き方がされていると思います(ちなみに私が育った南大阪では、私が10代だった繊維業界全盛の時代までそのような風潮は残っていました。たぶん信じてもらえないかもしれませんが・・・)。
さて、昭和49年商法改正を契機に設立された日本監査役協会も50周年を迎えました(おめでとうございます!)。その50周年記念出版として「女性監査役等50名の想い-進化するコーポレート・ガバナンスの担い手として」と題する書籍が上梓されました。長年、同協会の講師を担当していたことから、私もご献本いただき、さっそく読ませていただきました。ちなみに「監査役等」は監査役や取締役監査等委員、取締役監査委員をすべて含むものです。監査を担当する女性役員(監査役、取締役)というイメージですね。本書は50名の女性監査役等の皆様の手記(ご論稿)を一冊にまとめたものです。おひとりおひとり、装丁の素敵な写真も掲載されています。
私が興味深く拝読したのは、やはり長くその会社にお勤めになり、執行役員等を経て常勤監査役に就任された方々の論稿です。みなさん、ちょうど男女雇用機会均等法の施行前後(昭和58年から同62年ころ)に新入社員として入社された方々ですね。新しい法律のもとで、「女性も男性社員と同じように仕事をすれば昇格できる!」という理想と現実の狭間で悪戦苦闘、言葉にならないほどご苦労をされて、想定していなかったキャリアとして(?)監査役等に就任をする、そこで「監査役等として、自分が何をすれば会社の役に立てるのか」を真剣に考え、これを自分なりに実践し、ときに失敗をする。ご自分の同期やよく知っている後輩が社長になる姿をみて「社長は孤独だ」と感じ、社長が足りないところを、監査役等の特性を活かしながら一生懸命フォローしてあげようとする。←だから忖度せずに意見を述べることができるのでしょうね。
私がもっとも感銘を受けたのはSUBARUの常勤監査役の方のご論稿でした。ご自身が執行役員のときは目の前の利益向上に役立って「よっしゃー!」というのが達成感だったが、常勤監査役となった現在の達成感は一生懸命手入れをしていた花が枯れてしまった鉢植えに新芽を見つけたときのような感覚だそうです。女性の常勤監査役等の皆様の手記を拝見して、このような「信託の発想」こそ多様性だと痛感します。30年以上勤務されてきた末に監査役となり、社長や自分たちが退任した後に、この会社がもっとよくなるためにはどうすれば良いか、子供や孫の代まで見据えて経営に参画する人たちがいるからこそ「多様性」が求められるのだと認識しました。そういえば海外機関投資家がよく使う「取締役会の多様性」の意味には、日本人にはなじみの薄い信託の発想が含まれているので意味が通じにくいなぁと感じることがありますね。
本書は非売品ではありますが、おそらく日本監査役協会のHPにて、近い将来にPDHを閲覧できるのではないかと(本日現在、まだアップされていないようでした)。
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コメント
SUBARUの方の論稿を含め、とても興味深い本だと思い、ぜひ拝読したいと思いました。「一生懸命手入れをしていた花が枯れてしまった鉢植えに新芽を見つけた思い」というのは素敵な(そして良く理解できる)表現ですね。感心しました。
投稿: いちいんはうす | 2024年5月29日 (水) 12時48分