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2024年4月18日 (木)

ウエルシアHDトップの私生活上の不適切行為による辞任-「たかが不倫?」⇔「されど不倫」

ドラッグストア最大手ウエルシアHDのトップが「私生活上の不適正行為」により辞任に追い込まれました(たとえばロイターニュースはこちら)。日経で午前中に初報が出た時、Think!のコーナーで「ひょっとすると週刊誌による取材申込があったのかも」とコメントしましたが、そのとおりでした(デイリー新潮の記事はこちらです)。ウエルシアHDも、親会社のイオンも、メディアからの問い合わせではなく社内調査(たとえば内部通報)でHD社長の不倫行為が判明していた場合は対応は変わっていたでしょうか?ここ2年間で上場会社やグループ会社トップの不倫で当該トップが辞任に追い込まれたとメディアで報じられるのは3例目であり(過去、男性トップと女性トップおひとりずつ)、「不倫で辞任」はかなり定番になってきた感があります。

私が過去に関わった調査案件において、経営幹部の不倫が問題となった例は数件ありました。内部通報や取材申込が端緒となることが多いのですが、実際に調査によって経営者の不貞行為が認定できるケースもありました。「たかが不倫くらいで『中興の祖』である社長を辞めさせるわけにはいかないよね」という意見ももちろんありますし、「とりあえずメディアの取材申込がないので、そのまま『預かり』にしておこう」といった危機管理に乏しい経営判断に至るケースもあります。

ただちょっと待ってください。日大アメフト薬物事件のエントリーで何度も申し上げましたが、本丸は「大麻」ではなく「覚せい剤」なのです。社内での高校野球賭博の本丸は「風紀の乱れ」ではなく「反社会的勢力との接触」なのです。同様に「不倫」の本丸は「道徳倫理上の問題」ではなく「経営幹部による利益相反取引」(←新潮の記事はこの疑惑を報じています)、「セクハラ(性加害)」「ストーカー行為(犯罪行為)」にあります。「不倫」が不倫のままで終わることは滅多になくて、強大な権限を有する者の不倫は、そのほとんどが「二次不祥事」に発展します(私が対応した案件も、ほぼすべてが二次不祥事のおそれが認められました)。

ここからは私の勝手な意見ですが、そもそも「不倫」を不倫のままで終わらせる才能のある経営トップは、今回のように発覚などさせないのでありまして、自己管理が緩いケースだからこそ不倫が不倫で終わらず「二次不祥事」を招来すると思っています。いまウエルシアはツルハとの統合を控えて重要な時期にあります。「不倫」で止めておけばなんとかなりますが、不倫の延長にある「二次不祥事」を招来させてしまうと統合にも影響が出てしまうのでは、と危惧します。

もちろん解任や辞任勧告を行う会社側としては「役員行動規範に反する行為」「当社の企業理念に反する行動」との理由で厳格な処分に至るわけですが、部長・支店長クラスの不倫であればいざ知らず、社内で強力な権限を有する経営幹部の不倫となると緩めの処分で済ますことができないのは、その不倫の背後に控える「本当のコンプライアンス違反」を誘発するおそれが高いからであります。杏里の「夏の月」のような終わらせ方ができない経営者の不倫は(あまく・とろけるような蜜の味であることはわかりますが)代償が大きすぎるのでは。

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