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2024年5月31日 (金)

(追記あり)公益通報者保護法が大きく改正されると予想される理由

まず、本日述べるところは私個人の意見であり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会とは全く関係ないことを申し添えます。ということを前提で勝手な推測ではありますが、いくつかの理由によって次の公益通報者保護法の改正は小手先だけではなく、大きく改正されることが想定されるのではないかと考えております。

その理由の第一は、2019年のG20大阪サミットにおいて「効果的な公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則」がとりまとめられており(2019年G20japan 作成文書-日本仮訳から引用)、議長国である日本でも、そろそろこの原則を実施しなければならない時期にきている、という点です。ご承知の方も多いと思いますが、欧米ではEU指令に基づいて、2021年の時点では27か国中25か国が既にレベルの高い公益通報者保護法を国内法化しております。上記ハイレベル原則をまとめた議長国の威信にかけても、不利益処分への制裁(行為者、法人とも)、(通報者への処分が通報に基づくことに関する)立証責任転換、運用状況の社内周知徹底、公益通報体制整備義務違反への制裁あたりは改正される必要があるかと。

理由の第二は、この6月に国連人権委員会に正式に提出される(国連人権委員会作業部会作成による)「日本におけるビジネスと人権に関するレポート」の中で、日本企業の公益通報対応体制が不十分であり、労働者の人権侵害が憂慮されることが明記される、との情報があるからです。このレポートは、どうしても「旧ジャニーズ事務所問題」ばかりが注目されておりますが、それ以外にもビジネスと人権指導原則が十分に浸透していない原因として、内部通報制度が十分に機能していない点を指摘しているようです(正確には6月の正式版公表を待つ必要がありますが)。通報者に対する不利益処分、といった点は諸外国でも(行為者および法人への)刑事罰の適用がみられるところであり、国を挙げて諸外国との平仄をとる方向性に進むのではないかと推測いたします。すでに対応業務従事者への刑事罰規定が存在することから、日本でもそれほど抵抗感はないのでは・・・と。

そして理由の第三は経済団体の姿勢です。たとえば経団連は「選択的夫婦別姓制度」には積極的に賛成の立場にあり、人権問題にも是々非々で臨む姿勢をみせています。もちろん企業に負担となるような法改正にはなかなか賛同はしていただけないかもしれませんが、国際的に足並みをそろえるべき「ビジネスと人権」に関連する施策については、積極的に反対する、といった方向でもないのでは、と(完全な希望的観測ですが)。

※・・・5月29日の経団連講演に登壇された元最高裁判事の方は「経団連が選択的夫婦別姓の提言をするというのは、昔は想像できなかったこと。別姓を選択できるようになれば、女性の生き方や働き方に深く関わり、個の確立にもつながる。時代的に非常に重要なことだ」とコメントされています(5月31日追記)。

もちろん裁判例の集積や立法事実となる事件の集積なども認められるのですが、そのあたりは前回の改正に向けた検討でも賛否両論の議論がなされたところであり、大きな改正への決め手にはなりえなかったように思います。しかし世界的なESG潮流、とりわけ米国(各州法)も含めた公益通報者保護の観点から、せめて世界における「平均」くらいの通報者保護制度は国内法化する必要があるように感じております。

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2024年5月30日 (木)

(5月31日追記)日経ビジネスに当職インタビュー記事が掲載されました。

私事ではございますが、5月29日の日経ビジネス(オンライン)に、当職インタビュー記事「伊藤忠、ビッグモーターの事業承継 会社分割で訴訟リスクから解放」が掲載されました(有料会員のみ。なお本誌2024年6月3日号にも掲載予定です)。ビッグモーター社(正確にはビッグモーター・グループ)の資産を伊藤忠・JWPファンドに移すにあたり、会社法上の会社分割(吸収分割)による組織再編が行われましたが、そのスキームの紹介とSMIL-UP社の資産移転スキームとの対比などについて極力わかりやすく解説したものです(おかげさまで本日読まれた記事としては3番目にランキングされました)。※5月31日追記 6月3日号には掲載されておりませんでした。失礼しましたm(__)m

もちろん、会社分割には様々な活用目的があり、事業救済目的はそのひとつにすぎませんが、不祥事企業の再生のために活用される例もありますので、とりわけスポンサー企業が存在している場合で、資産劣化を防ぐために迅速な再編が求められるケースでは活用が検討されます。実務的にはパーシャル・スピンオフ(税制適格会社分割)の検討がもっとも興味深いところですが、一読して事業救済型の会社分割の長所や短所、事業譲渡との対比などがおわかりいただければ幸いです。ネットニュースなどでは「ビッグモーターは新設分割によって伊藤忠グループに資産が移された」と報じられていますが、中古車売買に必要な古物商許可は資産移転の対象にはならないので、先に会社を作っておいて(古物商許可を取得しておいて)、その後吸収分割公告→分割契約の効力発生という流れかと思います。

旧ジャニーズ事務所のSMIL-UP社からstarto社への資産移転については、いろいろとリリースを読みましたが不明な点も多く、ある程度推測による解説とならざるをえませんでした。また創業家親族が代表取締役としてSMIL-UP社に残っておられますし、子会社株式や著作権、不動産の移転も未了のようなので旧会社と新会社との支配関係の解消の様子がわかりません。新会社と取引を開始したいスポンサー企業やビジネスパートナーとしても、もう少し本格的に取引ができない状況が続きそうですね。

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2024年5月29日 (水)

人的資本開示は「非財務情報」ではなく「財務情報」(に近いと思う)

議決権行使助言会社であるISSとグラスルイスがともに豊田章男会長の取締役選任議案に反対推奨を表明したり、国連人権委員会作業部会が報告書(最終報告書案)でスマイルアップ(旧ジャニーズ事務所)の対応に「依然として深い憂慮がある」と表明するのをみるに、企業不祥事に対する国内と海外との評価にギャップがあることを痛感します。このあたりはまた別の機会にコメントさせてください。

さて本日(5月28日)は、読売新聞経済面「同意なき買収 拡大」の記事もおもしろかったのですが、日経ニュース「人的資本、決算揺るがす 本格的な『財務情報』に」について、共感するところが多かったのでひとこと。同記事によると、日本の上場企業における2024年3月期決算では、人的資本が直接的・間接的に影響する例が目立った、人的資本などのようなサステナビリティ情報は利益などの財務情報と区別されているが、今や財務の領域に本格的に足を踏み入れているそうです。

いくつかの上場企業の社外取締役として何度か国内外の機関投資家と対話をしましたが、この「人的資本」についても社外取締役から聞いてみたい話題としてかならず質問を受けます。私は得意げに「当社ではハラスメント対策についてはしっかり・・・」とか「内部通報制度については社外役員も窓口になっていますので・・・」と回答するのですが、機関投資家の皆様はあまり興味を示さないご様子。要は「こうありたい」といった話よりも「それでリスクとリターンはどうなのよ」といった話を聞きたい。

たとえばコスト面でいえば総労働力コスト、つまり「人件費」「地域別、拠点別、職種別の総コスト」「次年度の労働力投資額」であり、生産性の面では「従業員一人当たりEBIT」とか「人的資本ROI」といったところでしょうか。そこから社外取締役としてどのような課題を抱き、将来的にどこに、どのような種類の人的資本コストをかけるべきと考えるか、といった問題意識を聞きたがっておられました。ダイバーシティについても、このようなリスク・リターンの分析の中で多様性がもたらす要因を考えるべきです。

私個人としては「人的資本は簿外の無形資産、たとえば定着率や組織風土や教育制度と深い関係がある」と思うので定性的な回答にも十分な意義があるように思うのですが、現実のエンゲージメントを経験すると「人的資本開示は財務報告とほぼ同じような感覚ではないか」「インサイダー情報にも留意しながら語る必要があるのではないか」との感想を抱きました。投資家は比較可能性や計画進捗の評価可能性のほうに関心があるのでやむを得ないかもしれませんね。

このあたりはサステナビリティ情報開示全般においても注意をしておいたほうが良いと思います。投資家と企業との間に「情報開示の意義」に関するズレがあり、投資家は「実績値や影響に関する説明」に期待をしますが、企業側は「企業価値向上にどうつながるか」「どのように中長期的に取組むか」といった未実現の可能性を示すことに期待します。社外取締役が会社と投資家との「通訳」の役割を果たすとすれば、対話に必要な開示情報については「財務情報」と「非財務情報」の二項対立と捉えるのではなく、開示される項目ごとに、この中間のどこに位置する情報なのかを自分の頭で考えることが大切だと認識しています。

 

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2024年5月28日 (火)

金融庁、政策保有株の適正開示調査へ 全上場企業を対象

5月27日の日経WEBニュースでは「金融庁、政策保有株の適正開示調査へ 全上場企業を対象」として、金融庁が全上場企業を対象に、取引先との関係維持などを理由に保有する「政策保有株」を適切に開示しているか調査を始める、と報じられています。2023年改正開示府令により、上場会社の有価証券報告書「株式の保有状況」では、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との「営業目的」「業務上の提携等の目的」の場合には、当該事項の概要を開示することになりました。しかし、本当は政策保有目的であるにもかかわわらず、純投資目的として開示していない企業もあると推測されることから、当局による厳格な調査が行われるようです(こちらの日テレニュースも参考になります)。

ただ、このような当局調査は2022年6月のDWG(ディスクロージャー・ワーキング・グループ)報告書においても要求されていましたね。今後期待される取組みとして「純投資目的の保有株式について、純投資と政策保有の区分の考え方や両者の間の区分変更の動向、両区分における銘柄別の保有期間などの実態を調べ、適切な開示に向けた取組を進めることが期待される」と報告書に示されていました。今回は、その延長線上の実態調査ではないかと思われます。

開示府令で株式保有状況の開示が求められるようになったのは2010年改正からですが、これまではポピュレーションアプローチ、つまり開示規制の全体規律によって全体の底上げを図ることが主体でした。しかし2023年から始まった「ガバナンス改革2.0」の流れの中で、ハイリスクアプローチ、つまり民間の力(たとえば機関投資家)を借りることで個別事象の発生を促し、その結果として(右へ倣えの日本企業の性質を利用して)全体の底上げを図る手法に移行したようです。

したがって、今回の改正も機関投資家と企業との対話とアクション(個別事象の発生)を前提として、投資家が政策保有株式について直接交渉するための情報開示を念頭に置いた規律になるものと思います。つまり、違反行為にペナルティを課すというよりも、違反があれば投資家から見放される、役員解任(不再任)の提案(議決権行使)が出されるといった流れがインセンティブになろうかと思います。政策保有株式の存在をどの程度許容できるか、という点は、一律にルールで定めるのではなく、各企業と機関投資家との対話のなかで、当事者が個別に判断することが資本市場全体の効率的運用にとって適切かもしれません。

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2024年5月27日 (月)

月刊監査役(6月号)に特別寄稿を掲載していただきました。

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4月26日に「改正障害者差別解消法の施行と6月株主総会対策」なるエントリーを書きましたが、宝印刷「Disclosure&IR」2024年5月号「株主総会における株主の権利行使に関する『環境整備』等について-障害者差別解消法の改正を契機として」と題するご論稿(三菱UFJ信託銀行法人コンサルティング部の方による)に、上記エントリーでも触れている問題点への詳細解説が掲載されています。5月初め、同信託銀行の法人コンサルティング部の方とこの点について意見交換をさせていただきましたが、さすが経験値が豊富で「なるほど、そんな状況もあるのか」「そんな解決法もあるのか」と感心いたしました(以下本題です)。

さて連投になりますが、日本監査役協会・月刊監査役6月号「日本監査役協会設立50周年記念号」に「求められる監査役等の活動の『通訳』-AIでは解決できないガバナンス上の課題」と題する特別寄稿を掲載していただきました。常々日本監査役協会は監査役等(監査役、監査等委員、監査委員)の役割の大切さを世に伝える役割が重要と申し上げております。そのためのわかりやすい「通訳」としての役割をぜひ今後も果たしていただきたい、そのような気持ちをこめて書かせていただきました。

内容的には(長年監査役制度の変遷をみつめてこられた)鳥羽至英先生(早稲田大学)の監査役制度改革論がシンプルかつ合理的でとても心に沁みました。その改革を担う監査役協会でなければならない、というご意見を、協会はどう受け止めるのでしょうか。

なお、4月25日にこちらのエントリーでご紹介した「女性監査役等50名の想い」はPDF化されてリリースされております(こちらで閲覧可能です)。監査制度のご関心のある方は、ぜひご一読いただければと。

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「企業不祥事発覚時の第三者委員会による経済刑法の補完機能」なる論稿を掲載していただきました。

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さて私事ではありますが、成文堂最新刊「刑事法の理論と実務⑥」におきまして、拙稿「企業不祥事発覚時の第三者委員会による経済刑法の補完機能」を掲載していただきました。某刑事法学者の方からお誘いをうけて、格式のある書籍に本格的な法律論文を発表いたしました。タイトルには「第三者委員会」とありますが、日弁連ガイドラインに準拠したものだけでなく、特別調査委員会等、これに準ずる委員会も含めて、経済刑法(刑法、刑事訴訟法)の役割や機能をどこまで補完しているか、といった問題提起を中心に書かせていただきました。

「代替機能を果たせるほどの理想的な調査委員会など実際にあるのか」といったツッコミは承知のうえで、それでも社会的な要請を受けて増え続ける第三者委員会の果たすべき機能を詳細に分析したものです。学者の皆様から見れば、任意の調査委員会などに経済刑法の果たす役割は担えないだろう、といったお気持ちがあると思います。ただ、役割が果たし切れていないがゆえに、その間隙をぬって世間で第三者委員会が必要とされているのではないでしょうか。

しかし、書籍全体を冷静に眺めると、ちょっと他の学者の方々のご論稿とは格が違います。そもそも刑事系学術論文を書く際の「お約束ごと」を知らずに書いてしまったところもあるかもしれません。4月16日のブログ「株主エンゲージメントの活性化と金商法上の「重要な事項」の解釈」でも(関連ご論文を)ご紹介した梅本剛正教授の本格論文「非財務情報の重要な事項についての虚偽記載 」などと読み比べても、ちょっと恥ずかしくなってしまいます(梅本先生のご見解は、本当に裁判実務に反映されるのではないかと期待をしております)。そこは「第三者委員会」の実務を経験している実務家の(勢いで書いた?)論稿ということでおおめに見ていただけますと幸いです。

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2024年5月23日 (木)

日産の下請法違反行為が招いた重い代償

日本監査役協会が5月17日付けにて「第4回適時調査-内部通報制度の整備状況」を公表しています。3000社以上の会員企業が回答されていて、常用雇用者301名以上とそれ以下の事業規模に分けて分析されている点も含めてたいへん有意な内容となっており、今後の参考にさせていただきます(以下本題です)。

今年3月、日産自動車が下請法違反(割戻金不当徴収事案)で公取委から勧告を受けた事件が報じられましたが(たとえばロイターニュースはこちらです)、本日(5月22日)の日経ビジネスオンラインの記事によりますと、当該下請法違反行為により、日産は賃上げ税制優遇の資格を喪失したようです。下請返金分の30億円、そして信用毀損とともに、日産は金銭的にも大きな代償を負うことになりました。最低1年は資格を取得できないため、営業面にも影響が及ぶ可能性があるそうです(こちらの読売新聞ニュースより)。下請法改正に向けて公取委が検討を開始したことが日経で報じられていますが、政府の方針に背を向けるコンプライアンス違反行為は重大なリスクがあります。

3月にこの事件が日経で報じられたとき、私は「Think!」に「自動車業界ではボリュームディスカウントは経済的合理性あるものとして長年の慣行になっているので、違法行為かどうか疑わしい」とコメントをしましたが、上記日経ビジネスの記事で公取委関係者は「ボリュームディスカウントというレベルの話ではなく、日産固有の事後的な不当行為の問題」と回答しておられます。ボリュームディスカウントであるならば、下請企業との間で事前の合意があり、また割戻が適正であることに関する証拠書類を残す必要がありますが、どうもそのような書類もなく、日産側の都合によって現場が勝手に要請していたそうです。

公取委は「下請法違反防止体制を構築せよ」と日産に指導していますが、そもそも会社法上の内部統制(法令遵守体制の整備・運用)は相当きちんと執行されていたはず。ではなぜ体制整備ができていなかったのでしょうか?この点、「長年の慣行でもあり、下請企業のほうも毎回きちんと話し合いの席に臨んでいたから違法性の認識が乏しかった」との日産側の回答が報じられています。もちろん下請企業に「違和感があるなら堂々と声を上げよ」と指摘するのは簡単ですが、そんなことが期待できないことぐらいは日産側でもすぐにわかるはずです。

私は最低でも「グレーゾーン」であったことは日産側でも認識があったのではないかと推測します。ではなぜ(近時の「下請け業者保護」という政府方針があるにもかかわらず)公取委から指摘されるまで違反行為を放置していたのか、適正なボリュームディスカウントだと認識していたのであれば、どのような根拠に基づくのか、そこに焦点をあてて自主調査を進める必要がありそうですが、いかがでしょうか。

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2024年5月22日 (水)

NHKクロ現「公益通報者保護制度」-不利益処分への制裁と立証責任の転換

5月21日NHKクローズアップ現代「公益通報-内部からの声どう守る」をNHKプラスで視聴いたしました。NHKの看板番組が公益通報者保護制度を真摯に取り上げたことに深く感謝したうえで、私個人として視聴した感想をいくつか記しておきます。

まず前半は公益通報をしたのに会社から不利益処分を受け「(通報したことによって会社は動いたが、報復を受けたとして)通報したことを後悔している」とつぶやく方々が登場します。現実はそのとおり、といいますかもっと厳しい。なので私は「グループ匿名通報(通補者一同名義)」をお勧めしています。複数名の匿名通報は会社にとってもインパクトがありますし、報復のリスクも減ります。できれば複数名で証拠も収集して「会社が動かなければ、証拠持参で監督官庁に告発予定、その後、マスコミや大株主(近時はアクティビストもあり)へ告発予定」というのが常套手段となります。会社が動いた場合、(匿名通報ゆえ)是正措置は社内周知が必須となります。

内部通報制度をコンプライアンス経営に積極的に活かしている企業があります、とのナレーションで登場したのがなんと(!)三菱電機。おお!ガバナンスレビュー委員会の活動時、一生懸命再発防止策を検討しておられたK常務、Y部長(ビックリ)。このような取組みで登場するのは日本郵政グループかと思っておりましたが、社内コミュニケーション改革(通常のレポートラインの健全性向上にむけた施策)の様子も含めて、本当に頑張っておられるお姿を拝見して少々感動いたしました。

公益通報者保護制度検討会の紹介において、焦点として「公益通報者への不利益処分を行った企業への制裁」と「立証責任の転換」が示されていました。もちろん大きな論点ではありますが、検討会の関心はそれだけではございません。たとえば公益通報対応体制の整備義務違反への制裁(企業に対する)や、内部通報の整備運用に関する社内通知義務の明記も不可欠の論点です。また、個人的には会社が「通報者への不利益処分は、通報をしたからではなく職務評価によるものであった」という立証は、実体判断だけでなく、デュープロセス(社内の公益通報対応体制が適正に運用されていること)の立証も成功してはじめてfairなtrialが成り立つということも、どこかで示されるべきではないか、と考えております。裁判官の自由心証主義による事実認定を拘束する懸念はありますが、事業者側に体制整備に向けたインセンティブが必要ではないかと思う次第です。

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2024年5月21日 (火)

21日放送クローズアップ現代「公益通報-内部からの声どう守る」

昨日のエントリーにサンダースさんからコメントいただいているとおり、5月21日(火)午後7時半から、NHKクローズアップ現代で「公益通報-内部からの声どう守る」が放送されます。公益通報者保護制度に詳しい日野勝吾教授が出演されるようなので、公益通報者保護制度の解説とともに、NHK取材陣による通報制度を取り巻く現状報告をぜひご覧いただければと(私もほんの少しですが、お手伝いさせていただきました)。

私はその時刻は新幹線の中なので、帰阪してからNHKプラスで視聴する予定です。おそらく1週間くらいはNHKプラスで視聴可能だと思いますので、見逃された方はそちらでもご視聴いただければ幸いです。

(ここからは全然関係ない話ですが)視聴率うなぎ登りの朝ドラ「虎に翼」がいよいよシリアスな(ドラマとして非常に残酷な)1か月に突入します。ここまでは伊藤沙莉のキャラクターでドラマを引っ張ってこれましたが、6月末までの1か月が伊藤沙莉の「女優としての値打ち」が評価される時期となります。どんな芝居を見せてくれるのか、今から楽しみにしています。

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2024年5月20日 (月)

IHI子会社のエンジン検査不正-「悪く書き換える」ことのどこに問題があるのか

5月17日の日経ビジネスオンライン記事「燃費を『あえて悪く書き換え』IHIのエンジン不正が映す製造現場の葛藤」を興味深く読みました。エンジン試運転の検査結果の書き換えは、悪い結果をよい結果に改ざんするケースが多いのですが、IHI子会社では、逆に良い結果数値を悪い結果数値に見えるように書き換えたものが過半を占めたそうです(これが「長年の慣行」とのこと)。顧客から要求されている性能は仕様値に幅があるため、たまたま良い仕様値のエンジンを供給していると、次の製品の数値が平均程度でもクレームをつけられるから(説明をするのが面倒)、という理由です。

これは会計不正事案でも時々ありますね。記事では不二サッシ子会社の「逆粉飾」の事例が紹介されていましたが、親会社が「〇〇期連続増収増益」を目指していると、子会社としても(親会社の対外的目標を忖度して)利益を平準化させるために翌期に利益を繰り越すというのはよく聞く話です。「良く見せるのではなく、悪く見せるのだから誰にも迷惑をかけないのでは」という気持ちがあると改ざん、粉飾へのハードルが低くなるのでしょう。

記事の中で有識者の方が指摘しているとおり、偽装のハードルがいったん下がると、今度は悪質な偽装への抵抗がなくなってしまうので「悪く書き換えること」についても厳しく対処すべきは当然であります。ただ、それだけでなく親会社や顧客からのプレッシャーが原因で行われていたわけですから、自社の再発防止策の実践のみではまた再発してしまうタイプの不祥事だと心得ておくべきです。IHI子会社事案では顧客に対して、また不二サッシ子会社事案では親会社に対して、自社の再発防止策実践への協力要請とその応諾が不可欠だと思います。ステークホルダーの理解があって初めて自社の不正を根絶できるものと考えます(つまり経営者の本気度が試されます)。

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2024年5月17日 (金)

会計・監査ジャーナル2024年6月号特集記事の座談会に登壇いたしました。

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5月16日は当ブログに9000を超えるアクセスをいただきました(どうもありがとうございます!)。やはり政策保有株式の解消問題については皆様ご関心が高いのですね。それほど社会の関心を集めるテーマであること自体、認識しておりませんでした。

さて、会計・監査ジャーナル2024年6月号特集「有事における社外役員の対応~最近の事例を踏まえて」におきまして、座談会に登壇させていただきました。日本公認会計士協会前会長の手塚正彦氏、日本公認会計士協会近畿会前会長の北山久恵氏との鼎談です。第一法規さんの特集記事紹介文は以下のとおりです。

企業を取り巻く環境は急速に変化するとともに、複雑で不確実さが増し、リスクも高まっている。この経営環境に迅速に対応するためには、コーポレートガバナンスが非常に重要であり、社外役員の役割も注目されている。TOB、不祥事・会計不正等の有事の際に、専門家である公認会計士や弁護士は社外役員としてどう行動すべきか。今回は、2023年12月に、弁護士の山口利昭氏をお招きし、公認会計士の手塚正彦氏と「有事における社外役員の対応~最近の事例を踏まえて~」をテーマに対談を行った。

事業再編の活発化によって、社外役員を取り巻く環境が変化していることの説明から始まり、とりわけ企業買収時における社外役員の役割、不祥事発生時の役割、特別委員会設置時の役割など、事例を踏まえて各自の経験知に基づく意見が述べられました(なお、意見にわたる部分は登壇者個人の見解です)。あと、取締役会を活性化させるための役割などにも触れています。もし入手できる機会がございましたら、ぜひご一読くださいませ。

今回は公認会計士である社外役員(社外取締役、社外監査役)の皆様向けに意見を述べましたが、いま個人的に一番関心があるのは「社長さんが本気で社外役員を活用する気になるための処方せん」ですね。日本企業の岩盤である「従業員主権主義」「従業員ガバナンス」全盛のなかで、社長さんは経営者の指名や報酬決定など社外役員に(任せたくても)任せることができるはずがない・・・というのがホンネのところかと。「有事でなくても、平時からでも社外役員はこんな活用方法がありますよ」といった各社各様の経営環境を踏まえた説明を工夫することに腐心しております。

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2024年5月16日 (木)

政策保有株式解消(向けた努力)のインパクトは思ったよりスゴイ

キダ・タローさんがお亡くなりになったということで、たいへん寂しい思いです。キダさん作曲の深夜ラジオ「ヤングリクエスト(ヤンリク)」のオープニング曲は(初代)奥村チヨさんの歌唱時代から毎晩聞いておりまして、とくに大学受験のころにはお世話になりました。本当にお疲れ様でした。

さて、りそなホールディングスの連結決算発表において、政策保有株式の加速度的削減に関する発表もありましたが、(おかげさまで?)年初来高値に迫る株価上昇となりました。もちろん金利正常化が銀行の業績に及ぼす影響も大きいですが、証券市場での「政策保有株式解消」への好感度は予想以上でした。メガバンクも政策保有株式解消の目標を立てて開示していますので、金融機関全体でも10兆円以上の政策保有株式が手元から離れることになるのでしょう。企業経営者どうしの「もたれあい」がなくなれば、今後ガバナンスの実質化は進むものと思います。

そういえば「損保の闇 生保の裏-ドキュメント保険業界」(柴田秀並著 朝日新書 2024年)を読みましたが、損保大手4社による保険料価格調整問題の大きな要因が保険会社と取引先との株式持ち合いにあるそうで、その詳しい実態は予想以上に深刻だと受け止めました(今年3月、各大手損保とも、可及的速やかに解消すると宣言しています)。持ち合い解消に動けば取引先から保険契約見直しを迫られるので、なかなか解消ができないとのこと。損保不祥事の背景にも政策保有株式の存在があります。

先日ご紹介した丸木強氏の「モノ言う株主の株式市場原論」では、なぜ株式持ち合いが問題なのか、丸木氏が解説しています。経営者の味方をする複数の政策保有株主は、持ち合い合計が5%以上となる場合でも金融商品取引法上の大量保有報告書(共同保有者)を提出しないのは法令違反ではないかと主張されています。金融庁も「保有株ウォッシュ」検証に乗り出したようなので、持ち合い株式の開示(ただし純投資であれば開示不要)にも要注意ですね。たしかに「ウルフパック」が問題視されているのですから、「政策保有株主パック」も問題視されても不思議ではないような気がします。

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2024年5月15日 (水)

BtoBにおけるカスタマーハラスメントと厚労省対策マニュアル

Kasuhara001 5月10日のエントリー「BtoBにおけるカスタマーハラスメントと内部通報担当者の対応」でも書きましたが、カスタマーハラスメントの深刻さは一過性のBtoCにおけるハラスメントよりも、継続的かつ執拗なBtoBのハラスメントにあると思います。「自民党PTが従業員保護を企業に義務づけるべく法改正に乗り出した」との記事が5月13日に出ていましたが(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)、そこで想定されているのは全てBtoCにおけるカスハラです。

もし今後企業が内部統制としてカスハラ防止対策を講じるとするならば、被害者である従業員が安心して相談できる体制を作るだけでなく、カスハラの加害者にならないように周知することも体制のひとつと心得ておく必要があります。なお、カスハラに対する厚労省対策マニュアルでも、(そこでは「パワハラ」と定義されていますが)BtoBにおけるカスハラへの対策についても示されています(16頁参照)。法人規制が中心である下請法や独禁法上の「優越的地位の濫用」では規制できない問題なのです。

先に述べた通り、カスハラ事案を内部通報制度に乗せることはかなり困難が伴いますが、カスハラ対策は、ビジネスと人権指導原則における「救済措置」として各事業者が対策を講じる必要性が今後高まるはずです。

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2024年5月13日 (月)

「モノ言う株主」の株式市場原論-丸木強著

Img_20240512_230734728_5125月10日、ストラテジックキャピタル代表の丸木強さんの新書(「モノ言う株主」の株式市場原論)が出版されたので、こちらはすぐに拝読いたしました。「成瀬は天下を取りに行く」と同じくらい楽しく、またあっという間に読了いたしました。野村證券から通産省(現経産省)に出向していたときに考えていたこと、中学・高校の同級生だった村上世彰氏と1999年に通称「村上ファンド」を設立するに至った経緯、同ファンドのデビュー戦となった2000年の昭栄(現ヒューリック)への敵対的TOBを仕掛けた際に「厚い壁」を痛感した失敗談など、これまであまり知られていなかった事実も記されています。

もう25年も世間から「アクティビスト=悪者」扱いをされてきましたが、評論家ではなく、受託者責任を負う当事者として上場会社と対峙してきたわけですから、丸木さんが述べている「ようやく世間が私の意見に追いついてきた」には説得力があります。まず本書が素晴らしいのは(丸木さんの意見に賛同するか反対するかは別として)論旨が明快で、文章もわかりやすいこと。おそらく丸木さんの「アクティビストの存在意義を世間に知ってほしい」という強い希望と、これまで社長説得や株主説得のために自身の考えをわかりやすく表現してきた経験の賜物ではないかと推測いたします。なお、買収防衛が正当化されるための「買収提案の強圧性」に関する説明部分は、やや予備知識もしくは反対意見の解説がないとわかりにくいかも・・・と感じました。

本書では、世間の考えが丸木さんの意見に追いついてきたからこそ、丸木さんの戦術も成熟してきたことが読み取れます。株主総会では過半数はとれずとも2割・3割の株主提案への賛同票がとれれば良しとする、企業買収を目的とせずPBR1倍割れを放置する要因の排除に集中する(たとえば買収防衛策の廃止や政策保有株式解消、ガバナンスの実質化等)、経営判断の自主性を尊重しつつもコングロマリット・ディスカウントの解消を促す提案をする、といったところは多くの投資家にも賛同されるところかと。このあたりは上場会社の経営者の皆様も、丸木さんの意見への賛否はあると思いますが、株主への合理的な説明が求められますので必読でしょう。

本書を読むと、ときどき丸木さんと投資先企業の社外取締役との会話(エンゲージメントの内容)が出てきます。そこには丸木さんが社外取締役にガッカリする思いと期待する思いが混在しており、上場会社の社外取締役には(平時と有事に分けて)何が求められているのか、共感するところが多くとても参考になります。ニデックによるtakisawa買収事案、第一生命HDによるベネフィット・ワン買収事案、そしてMBOへの対抗TOB事案等、大手金融機関が支援する有事型事業再編があたりまえの時代となり、社外取締役としても買収する側、される側の「正当性」がどのように根拠付けられるべきか、日頃から検討しておく必要があることを痛感します。

5月1日の日経記事「(スクランブル)株主提案が株価に持続力 還元・資本効率改善で長く」では、ストラテジックキャピタルによる株主提案への対応が企業価値向上につながり得るという前向きの解説がなされています。丸木さんは(今でこそ)オアシスや3Dインベストメント、バリューアクトのような巨大アクティビストとは一線を画していますが、それでもファンドの拡大を希望しています。つまりこれからは大きな東証プライムの企業も狙われる可能性が出てくるということです。そのような意味でも多くの上場会社の経営陣、社外役員の方々に「寄生虫」(←丸木さんの私のような立場の者への表現(;'∀') )のひとりとして、ご一読をお勧めいたします(なお、2か所ほど文章の表現に「誤りでは?」と思われる箇所が見つかりましたので、2刷で修正されたほうがよいように思いました)。

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2024年5月10日 (金)

BtoBにおけるカスタマーハラスメントと内部通報担当者の対応

5月9日の毎日新聞ニュースでは、取引先社長から(従業員が)カスハラ(カスタマーハラスメント)被害を受けた会社が、当該取引先企業を提訴した事案が紹介されています(「お前、何様だ」2時間怒鳴る 会社間のカスハラめぐる異例の裁判)。原告会社にとって、被告会社は重要な取引先であり、売上に占める割合も高いようですが「従業員を守ることが一番大切」とのことで訴訟に踏み切ったそうです。法人間でのカスハラ訴訟は全国的にも珍しい、とのことですが、私が相談を受けている事案においても、カスハラに関する内部通報対応問題が少しずつ増えています。

最近よく話題となるカスハラ問題ですが、そのほとんどがBtoCにおけるハラスメントです(たとえば駅員さんが酔客から嫌がらせを受けたとか、ファストフード店員さんが暴言を吐かれたとか)。事業者の従業員に対する職場安全配慮義務の一環として議論されているのでBtoCの場面が想定されるのはそのとおりかとは思います。ただ、実は上記訴訟のようにBtoBの場面でもカスハラ的な状況はありまして、取引先の担当者から「当社との取引担当者としては失格ですね。担当者交代の要望をあなたの上司に伝えておきますね」とか、「こんな迷惑をかけて、よく平気な顔をしてるな。親からどんな教育を受けてきたのか、今日中にメールで書いてよこせよ」といった嫌がらせを繰り返し受けて精神的に疲弊するケースを見かけます。

ところで「カスハラを受けた」という通報は、そもそもどこになされるべきなのでしょうか。被害社員の所属する企業の内部通報窓口は自社の不正に関する通報を受け付けるのであって、取引先の不正事実を受けるところではありません。一方、取引先企業の社員にも門戸を広げている窓口であれば受理できますが、そうでない窓口では受理されません。仮に取引先従業員も通報者として取り扱う場合であっても、通報事実の調査を開始した時点で、どこの取引先従業員からの通報なのかはすぐにわかりますので、窓口の対応次第では会社間における取引自体の継続性にも影響が及ぶ可能性があります。会社の業績にも影響が及ぶ問題に、内部通報担当部署だけの判断で介入してよいものでしょうか。

本格的な調査となりますと、カスハラ加害者とされる自社社員への早急なヒアリングが求められるのですが、当該ヒアリングによって重要な取引に多大な影響が及ぶリスクがある以上、簡単には対象社員へのヒアリングには踏み込めないような気がします。解決がなかなかむずかしい局面ですが、カスハラ被害者に対して、自社の上司なり役員に相談をしてもらって(カスハラは個人対個人の問題ではあるものの)「会社対会社」でカスハラ撲滅に向けた対処を検討してもらうように説得したほうが良いのではないでしょうか。カスハラについては内部通報窓口が動くよりも、(上記訴訟のように)被害企業自身が対処するほうが「当社はカスハラを許さない」といったメッセージを自社に示すことになるので(たとえ取引上の信頼関係に影響があったとしても)適切ではないか、と思うところです。

「BtoCのカスハラであれば断固たる対応がとれるがBtoBとなると腰が引けてしまう」といった企業姿勢が垣間見えることがあります。こういった場合の内部通報窓口担当者の処理として適切な対処がありましたら、ぜひお教えいただきたいものです。

 

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2024年5月 8日 (水)

(5月10日追記あり)第1回公益通報者保護制度検討会(2024年5月7日)

本日(5月7日)より始まった公益通報者保護制度検討会に委員として出席してまいりました(たとえばTBSニュースはこちらです。当日配布資料はこちらで閲覧可能です)。自見大臣による冒頭挨拶のあと、第1回ということで各委員から検討課題(とくに事業者の対応体制整備・運用上の課題)についての意見が述べられました。やはり委員の立場がよくわかる意見陳述でした。

すでに自見大臣の会見でも明らかになっていますが、令和6年中に検討会意見をとりまとめて、(改正の必要があれば)来年の国会には改正法案提出の予定とのことで、急ピッチで議論が進むものと思われるますので、私自身の意見も積極的に述べるつもりです。本日の議論から(これは私の勝手な観測ですが)通報者に対する不利益処分禁止に関するペナルティの要否、事業者の公益通報対応体制整備義務違反に関するペナルティの要否、通報者への不利益処分に関する立証責任の転換あたりが議論のポイントになりそうです。著名な行政法、会社法、労働法、刑法、民訴法の学者の方々が委員として加わっておられるので、しっかりとした理屈が立つことが前提での法改正となりそうですね。

最後に座長(山本隆司・東大教授)が「前回の検討会でも議論されていた論点が多いかもしれないが、ただ前回と違って①『ビジネスと人権指導原則』のもとで、対外的に説明可能な「救済措置」の必要性が高まっていること、②ペナルティの議論については、前回はほとんど議論していなかった(いや、むしろ否定的な意見が強かった)「指定従事者に対する刑事罰」が現行法規にすでに存在していること、③海外動向としては、もはや「EU指令案」ではなく、すでにEU指令のもと、これまで公益通報者保護法が存在しなかった海外諸国でも国内法化されていること等を前提に(背景事情として)論点を検討しなければならない、とお話されていたのはかなり重い意味があると感じました。

このような検討会は非公開で行われることもありますが、検討会自体がyoutubeで公開されているため、今後も議事内容については当ブログでも逐次発信する予定です。なお、公益通報者保護法は3年に1回は世間の様子をみながら改正する類の法律です。今回は時期尚早であったとしても将来的に世間の状況次第では改正すべき事項についても議論の対象に含める必要があると思いました。

(5月10日追記)

5月8日付けNHK「時論公論」では「内部通報者への保護徹底へ 検討始まる」との特集が組まれております。期限限定ですがNHKプラスでご覧になれますのでお時間がございましたらご視聴くださいませ。

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2024年5月 2日 (木)

大隅=今井=小林「新会社法概説」は秀逸な会社法基本書(だと思う)

Img_20240502_140353771_512 商事法務「社外取締役ガイドラインの解説」の第4版出版に向けて、鋭意執筆作業中でありますが、私が担当する項目にも「前掲注● 江頭〇〇ページ参照」という脚注がいくつかありますので、さっそく江頭・株式会社法第9版を購入しました。

本日(5月2日)も上記改訂版の執筆作業をしていたところ、大阪弁護士会からお知らせFAXが届いており、「新会社法概説」のご著者でいらっしゃる今井宏先生の訃報に接しました。享年101歳(大正生まれ)。謹んで今井先生のご冥福をお祈り申し上げます。

法曹ならだれもが知る「有斐閣の大隅・今井」といえば昔の「会社法論」、現在の「新会社法概説」ではないでしょうか(現時点では「新会社法概説第2版」2010年3月)。企業法務にマニアックな方なら同意していただけると思うのですが、会社法上の様々な実務上の論点について、他の基本書では言及されていないようなものも、この「新会社法概説」の脚注では丁寧に解説されています。平成26年、令和元年の会社法改正には対応しておりませんが、いまでも論稿を執筆する際にはかならず参照させていただいております。しかし「新会社法概説」の初版は2009年ですから、今井先生が85歳のころに大隅理論を継承する「会社法論」を(新しい会社法のもとで)全面改訂されたのですね。そのエネルギーには敬服いたします。

そういえば2010年2月のこちらのエントリー「社外取締役には株主総会への出席義務があるのか?」でも、「大隅・今井」の新会社法概説を引用しておりました(コメントしていただいている著名企業の法務担当者の方々は、いまごろどうしているのだろう)。持論が江頭先生や神田先生のご意見と異なっていたとしても、「大隅・今井」には「通説には異論の余地がある」と書かれていると「ほらほら、結構いいところ突いた発想だよね」と安心したりしておりました(ただ、後日自分が実務に関わる経験を積むにつれ、「通説」のもつ法的安定性の重要さに気づくこともあります)。

龍田先生ご逝去の時機に前田雅弘先生のご尽力で「会社法大要(第3版)」が出版されましたが、こちらの「新会社法概説」も第3版が出版されればとてもうれしいです。会社法には多くの基本書(良書)がひしめく時代とはなりましたが、有斐閣さんの力で(?)将来的には「第3版」が出版されることに期待をしております。

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2024年5月 1日 (水)

社長が愛人と出張ー「経営者の女性問題、防ぐのは困難」

日経ビジネスオンラインの記事「社長が愛人と出張-『経営者の女性問題、防ぐのは困難』と進化心理学者」をとても興味深く読みました。最後のほうの「さらに愛人問題で経営者が失脚する確率は小さいのが現実です。『女性スキャンダルに発展する恐れがあるから不倫するな』と主張することは、『墜落事故のリスクがあるから、飛行機には乗るな』と言っているのと同じです。ほとんどの人は飛行機に乗っても、無事でいられるように、愛人がいる経営者のほとんどが、無事に過ごせています。リスクを取ってでも愛人をつくることは合理的な判断だとも言えるのです。」とのご意見は、私もある程度は共感いたします。

しかし「一般的に男性は経営者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ねることをその目的としています。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事こそが本来の無意識的な目的だと私は考えます。」とか「より多くの女性との情事を重ねることが、経営者になった本来の目的なので、防ぐのは非常に難しいでしょう。」といった表現はどうも共感できません。

おそらく私が進化心理学という学問の在り方を知らないからだと思います。たとえば東大の教員でいらっしゃるこちらの方の自著紹介ブログを読むと、なるほど進化心理学とはこのような学問なのか、と少し納得をしました。「ある行動傾向がなぜ進化したのかという「~である」の説明は、私たちがどのように行動「すべき」かという道徳の問題とは切り離して考えなければならない。」うーーん、無意識に道徳の問題と切り離せずに理屈で考えようとしているのかもしれません・・・。ただ「愛人がいる経営者のほとんどが無事に過ごせている」ことが真実だとすれば、それはやはり道徳の問題と関係していることの証左ではないかと思うところもあります。

海外での学問的な歴史はどのようなものでしょうか?とても興味を持ちました。

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