BtoBにおけるカスタマーハラスメントと内部通報担当者の対応
5月9日の毎日新聞ニュースでは、取引先社長から(従業員が)カスハラ(カスタマーハラスメント)被害を受けた会社が、当該取引先企業を提訴した事案が紹介されています(「お前、何様だ」2時間怒鳴る 会社間のカスハラめぐる異例の裁判)。原告会社にとって、被告会社は重要な取引先であり、売上に占める割合も高いようですが「従業員を守ることが一番大切」とのことで訴訟に踏み切ったそうです。法人間でのカスハラ訴訟は全国的にも珍しい、とのことですが、私が相談を受けている事案においても、カスハラに関する内部通報対応問題が少しずつ増えています。
最近よく話題となるカスハラ問題ですが、そのほとんどがBtoCにおけるハラスメントです(たとえば駅員さんが酔客から嫌がらせを受けたとか、ファストフード店員さんが暴言を吐かれたとか)。事業者の従業員に対する職場安全配慮義務の一環として議論されているのでBtoCの場面が想定されるのはそのとおりかとは思います。ただ、実は上記訴訟のようにBtoBの場面でもカスハラ的な状況はありまして、取引先の担当者から「当社との取引担当者としては失格ですね。担当者交代の要望をあなたの上司に伝えておきますね」とか、「こんな迷惑をかけて、よく平気な顔をしてるな。親からどんな教育を受けてきたのか、今日中にメールで書いてよこせよ」といった嫌がらせを繰り返し受けて精神的に疲弊するケースを見かけます。
ところで「カスハラを受けた」という通報は、そもそもどこになされるべきなのでしょうか。被害社員の所属する企業の内部通報窓口は自社の不正に関する通報を受け付けるのであって、取引先の不正事実を受けるところではありません。一方、取引先企業の社員にも門戸を広げている窓口であれば受理できますが、そうでない窓口では受理されません。仮に取引先従業員も通報者として取り扱う場合であっても、通報事実の調査を開始した時点で、どこの取引先従業員からの通報なのかはすぐにわかりますので、窓口の対応次第では会社間における取引自体の継続性にも影響が及ぶ可能性があります。会社の業績にも影響が及ぶ問題に、内部通報担当部署だけの判断で介入してよいものでしょうか。
本格的な調査となりますと、カスハラ加害者とされる自社社員への早急なヒアリングが求められるのですが、当該ヒアリングによって重要な取引に多大な影響が及ぶリスクがある以上、簡単には対象社員へのヒアリングには踏み込めないような気がします。解決がなかなかむずかしい局面ですが、カスハラ被害者に対して、自社の上司なり役員に相談をしてもらって(カスハラは個人対個人の問題ではあるものの)「会社対会社」でカスハラ撲滅に向けた対処を検討してもらうように説得したほうが良いのではないでしょうか。カスハラについては内部通報窓口が動くよりも、(上記訴訟のように)被害企業自身が対処するほうが「当社はカスハラを許さない」といったメッセージを自社に示すことになるので(たとえ取引上の信頼関係に影響があったとしても)適切ではないか、と思うところです。
「BtoCのカスハラであれば断固たる対応がとれるがBtoBとなると腰が引けてしまう」といった企業姿勢が垣間見えることがあります。こういった場合の内部通報窓口担当者の処理として適切な対処がありましたら、ぜひお教えいただきたいものです。
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