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2024年5月29日 (水)

人的資本開示は「非財務情報」ではなく「財務情報」(に近いと思う)

議決権行使助言会社であるISSとグラスルイスがともに豊田章男会長の取締役選任議案に反対推奨を表明したり、国連人権委員会作業部会が報告書(最終報告書案)でスマイルアップ(旧ジャニーズ事務所)の対応に「依然として深い憂慮がある」と表明するのをみるに、企業不祥事に対する国内と海外との評価にギャップがあることを痛感します。このあたりはまた別の機会にコメントさせてください。

さて本日(5月28日)は、読売新聞経済面「同意なき買収 拡大」の記事もおもしろかったのですが、日経ニュース「人的資本、決算揺るがす 本格的な『財務情報』に」について、共感するところが多かったのでひとこと。同記事によると、日本の上場企業における2024年3月期決算では、人的資本が直接的・間接的に影響する例が目立った、人的資本などのようなサステナビリティ情報は利益などの財務情報と区別されているが、今や財務の領域に本格的に足を踏み入れているそうです。

いくつかの上場企業の社外取締役として何度か国内外の機関投資家と対話をしましたが、この「人的資本」についても社外取締役から聞いてみたい話題としてかならず質問を受けます。私は得意げに「当社ではハラスメント対策についてはしっかり・・・」とか「内部通報制度については社外役員も窓口になっていますので・・・」と回答するのですが、機関投資家の皆様はあまり興味を示さないご様子。要は「こうありたい」といった話よりも「それでリスクとリターンはどうなのよ」といった話を聞きたい。

たとえばコスト面でいえば総労働力コスト、つまり「人件費」「地域別、拠点別、職種別の総コスト」「次年度の労働力投資額」であり、生産性の面では「従業員一人当たりEBIT」とか「人的資本ROI」といったところでしょうか。そこから社外取締役としてどのような課題を抱き、将来的にどこに、どのような種類の人的資本コストをかけるべきと考えるか、といった問題意識を聞きたがっておられました。ダイバーシティについても、このようなリスク・リターンの分析の中で多様性がもたらす要因を考えるべきです。

私個人としては「人的資本は簿外の無形資産、たとえば定着率や組織風土や教育制度と深い関係がある」と思うので定性的な回答にも十分な意義があるように思うのですが、現実のエンゲージメントを経験すると「人的資本開示は財務報告とほぼ同じような感覚ではないか」「インサイダー情報にも留意しながら語る必要があるのではないか」との感想を抱きました。投資家は比較可能性や計画進捗の評価可能性のほうに関心があるのでやむを得ないかもしれませんね。

このあたりはサステナビリティ情報開示全般においても注意をしておいたほうが良いと思います。投資家と企業との間に「情報開示の意義」に関するズレがあり、投資家は「実績値や影響に関する説明」に期待をしますが、企業側は「企業価値向上にどうつながるか」「どのように中長期的に取組むか」といった未実現の可能性を示すことに期待します。社外取締役が会社と投資家との「通訳」の役割を果たすとすれば、対話に必要な開示情報については「財務情報」と「非財務情報」の二項対立と捉えるのではなく、開示される項目ごとに、この中間のどこに位置する情報なのかを自分の頭で考えることが大切だと認識しています。

 

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