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2024年5月23日 (木)

日産の下請法違反行為が招いた重い代償

日本監査役協会が5月17日付けにて「第4回適時調査-内部通報制度の整備状況」を公表しています。3000社以上の会員企業が回答されていて、常用雇用者301名以上とそれ以下の事業規模に分けて分析されている点も含めてたいへん有意な内容となっており、今後の参考にさせていただきます(以下本題です)。

今年3月、日産自動車が下請法違反(割戻金不当徴収事案)で公取委から勧告を受けた事件が報じられましたが(たとえばロイターニュースはこちらです)、本日(5月22日)の日経ビジネスオンラインの記事によりますと、当該下請法違反行為により、日産は賃上げ税制優遇の資格を喪失したようです。下請返金分の30億円、そして信用毀損とともに、日産は金銭的にも大きな代償を負うことになりました。最低1年は資格を取得できないため、営業面にも影響が及ぶ可能性があるそうです(こちらの読売新聞ニュースより)。下請法改正に向けて公取委が検討を開始したことが日経で報じられていますが、政府の方針に背を向けるコンプライアンス違反行為は重大なリスクがあります。

3月にこの事件が日経で報じられたとき、私は「Think!」に「自動車業界ではボリュームディスカウントは経済的合理性あるものとして長年の慣行になっているので、違法行為かどうか疑わしい」とコメントをしましたが、上記日経ビジネスの記事で公取委関係者は「ボリュームディスカウントというレベルの話ではなく、日産固有の事後的な不当行為の問題」と回答しておられます。ボリュームディスカウントであるならば、下請企業との間で事前の合意があり、また割戻が適正であることに関する証拠書類を残す必要がありますが、どうもそのような書類もなく、日産側の都合によって現場が勝手に要請していたそうです。

公取委は「下請法違反防止体制を構築せよ」と日産に指導していますが、そもそも会社法上の内部統制(法令遵守体制の整備・運用)は相当きちんと執行されていたはず。ではなぜ体制整備ができていなかったのでしょうか?この点、「長年の慣行でもあり、下請企業のほうも毎回きちんと話し合いの席に臨んでいたから違法性の認識が乏しかった」との日産側の回答が報じられています。もちろん下請企業に「違和感があるなら堂々と声を上げよ」と指摘するのは簡単ですが、そんなことが期待できないことぐらいは日産側でもすぐにわかるはずです。

私は最低でも「グレーゾーン」であったことは日産側でも認識があったのではないかと推測します。ではなぜ(近時の「下請け業者保護」という政府方針があるにもかかわらず)公取委から指摘されるまで違反行為を放置していたのか、適正なボリュームディスカウントだと認識していたのであれば、どのような根拠に基づくのか、そこに焦点をあてて自主調査を進める必要がありそうですが、いかがでしょうか。

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