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2024年5月13日 (月)

「モノ言う株主」の株式市場原論-丸木強著

Img_20240512_230734728_5125月10日、ストラテジックキャピタル代表の丸木強さんの新書(「モノ言う株主」の株式市場原論)が出版されたので、こちらはすぐに拝読いたしました。「成瀬は天下を取りに行く」と同じくらい楽しく、またあっという間に読了いたしました。野村證券から通産省(現経産省)に出向していたときに考えていたこと、中学・高校の同級生だった村上世彰氏と1999年に通称「村上ファンド」を設立するに至った経緯、同ファンドのデビュー戦となった2000年の昭栄(現ヒューリック)への敵対的TOBを仕掛けた際に「厚い壁」を痛感した失敗談など、これまであまり知られていなかった事実も記されています。

もう25年も世間から「アクティビスト=悪者」扱いをされてきましたが、評論家ではなく、受託者責任を負う当事者として上場会社と対峙してきたわけですから、丸木さんが述べている「ようやく世間が私の意見に追いついてきた」には説得力があります。まず本書が素晴らしいのは(丸木さんの意見に賛同するか反対するかは別として)論旨が明快で、文章もわかりやすいこと。おそらく丸木さんの「アクティビストの存在意義を世間に知ってほしい」という強い希望と、これまで社長説得や株主説得のために自身の考えをわかりやすく表現してきた経験の賜物ではないかと推測いたします。なお、買収防衛が正当化されるための「買収提案の強圧性」に関する説明部分は、やや予備知識もしくは反対意見の解説がないとわかりにくいかも・・・と感じました。

本書では、世間の考えが丸木さんの意見に追いついてきたからこそ、丸木さんの戦術も成熟してきたことが読み取れます。株主総会では過半数はとれずとも2割・3割の株主提案への賛同票がとれれば良しとする、企業買収を目的とせずPBR1倍割れを放置する要因の排除に集中する(たとえば買収防衛策の廃止や政策保有株式解消、ガバナンスの実質化等)、経営判断の自主性を尊重しつつもコングロマリット・ディスカウントの解消を促す提案をする、といったところは多くの投資家にも賛同されるところかと。このあたりは上場会社の経営者の皆様も、丸木さんの意見への賛否はあると思いますが、株主への合理的な説明が求められますので必読でしょう。

本書を読むと、ときどき丸木さんと投資先企業の社外取締役との会話(エンゲージメントの内容)が出てきます。そこには丸木さんが社外取締役にガッカリする思いと期待する思いが混在しており、上場会社の社外取締役には(平時と有事に分けて)何が求められているのか、共感するところが多くとても参考になります。ニデックによるtakisawa買収事案、第一生命HDによるベネフィット・ワン買収事案、そしてMBOへの対抗TOB事案等、大手金融機関が支援する有事型事業再編があたりまえの時代となり、社外取締役としても買収する側、される側の「正当性」がどのように根拠付けられるべきか、日頃から検討しておく必要があることを痛感します。

5月1日の日経記事「(スクランブル)株主提案が株価に持続力 還元・資本効率改善で長く」では、ストラテジックキャピタルによる株主提案への対応が企業価値向上につながり得るという前向きの解説がなされています。丸木さんは(今でこそ)オアシスや3Dインベストメント、バリューアクトのような巨大アクティビストとは一線を画していますが、それでもファンドの拡大を希望しています。つまりこれからは大きな東証プライムの企業も狙われる可能性が出てくるということです。そのような意味でも多くの上場会社の経営陣、社外役員の方々に「寄生虫」(←丸木さんの私のような立場の者への表現(;'∀') )のひとりとして、ご一読をお勧めいたします(なお、2か所ほど文章の表現に「誤りでは?」と思われる箇所が見つかりましたので、2刷で修正されたほうがよいように思いました)。

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コメント

山口先生へ
いつもありがとうございます。丸木強様のご著書の写真にございました「黒字経営だからいい会社」は大間違いです」に食いついてしまいました。
いつもご投稿の内容から離れてしまいまして申し訳ございません。
というのも、本日の毎日放送(MBSNEWS)のインターネットニュースによると、
「大塚食品の工場で『ポカリ粉末』入れた袋に異物混入を指摘の社員…公益通報後に異動命じられ“うつ病”を発症『1人部署』や『軟禁状態』で勤務 会社側に慰謝料など求め提訴 大津地裁」とあります。
労働事件のオリンパス事件を思い起こしました。
5月9日のデイリー新潮の同じくインターネットニュースによると、元従業員が告発! 「山崎製パン」デニッシュ消費期限偽装の手口 「手作業でパンの袋を全部開封して翌日分として再包装」ともありました。

30年前くらいだったでしょうか。事前の行政指導から今後は事後摘発型の社会になると言われたのは?現在は、社会全体が人手が足りないのとノルマに忙殺されてしまっていますよね。
上記2社の真実が明らかとになり二度三度と同じ過ちが起きないことを願います。


投稿: サンダース | 2024年5月14日 (火) 00時01分

山口先生、いつもblog拝読させていただいています。丸木強著「黒字経営だからいい会社」は大間違いです」を最初の数ページ読んでいたにもかかわらず。昨日(5月23日)の某定時株主総会に出席し丸木氏の後ろに着席していたのを帰りの電車の中で気がついた次第です(笑。読み直して見ると丸木氏の発言は本の行間を垣間見るのと同様でした。来年もお会いしたいものです。こんなコメントで申し訳ないです。

投稿: すーちゃん | 2024年5月24日 (金) 13時00分

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